God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

日灯

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4章.Tractus

真相は胸のなか*

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 †††

 馬で帰りゆく親衛隊の一行を眺め、ミカエルは肩をすくめる。

「ゾフィのやつ、たぶん気付いたな」
「彼は口外しないだろう」
「おう」

 ミカエルとルシエルがエントランスの広間に戻ったとき、ヨハネスがイレーネルの腕の中で苦笑していた。

「姉上、そろそろ起き上がってもよろしいですか」
「もう少し堪能させよ。大きくなったのぅ。だがかわゆい。さすが我が弟よ…」

 さっさと立ち上がったムゼールは、穴の開いた上着を脱いでいる。
 イレーネルの側近が新しい服を手にやって来た。

「陛下、上手くいきましたね」
「うむ。見たか? あの者たちの顔。わたくしの演技も大したものであろう」
「私もゾッとしましたよ。血に染まった真っ赤な手でヨハネス様のお顔を撫でるのですから」
「ほっほっほ。ヨーネの目を閉じた顔があまりに愛いのでな、つい」

 めでたしめでたし。上手くいってよかった。
 ミカエルはそっと踵を返す。

「感謝する」
「ありがとうございました」

 背に掛けられた姉弟の声に足を止め、振り返った。

「そなたはデビル退治をやらせておくには惜しい。参謀として、我が国に仕えぬか?」
「……俺は国のことには関わりません」

 イレーネルは赤い手の甲で口許を隠してころころ笑った。

『いっそ、死んだことにすれば良いのでは』

 ミカエルは、鶏の血を使うことを提案した。
 血から真相を見抜かれる可能性があると指摘したのはルシエルだ。そこで、ヨハネスの血を健康を損なわない程度に予め採取し、イレーネルの手を真っ赤に染めることになった。
 姉弟の仲が良いことを知っているのは側近だけだとイレーネルは言った。あんまり弟を可愛がるので、人前で話すことを父親から禁じられていたらしい。王族の風格を保てと、よく叱られたのだとか。よって、イレーネルが弟と示し合わせて策を巡らせることなど、新王は考えもしないに違いない。

『妙案だ』

 イレーネルは喜んでミカエルの案を採用した。昼ごろ到着したヨハネスも最終的に賛同した。本物の血を使うことに関してムゼールが渋い顔をしていたが、ヨハネスの意志を尊重したらしい。
 いきなり予想外な展開を目にすれば、驚いて思考が止まる。ゾフィエルも上手く騙されてくれると思ったが、そこは親衛隊の隊長。一筋縄ではいかないようだ。本当に、彼が策略に乗ってくれてよかった。

「今夜はどうする?」
「マヤばぁの所に行こうぜ。まだいるかわかんねえけど」

 今宵も城に泊まれば良いと言われたが、ミカエルは辞退した。イレーネルは何年かぶりに大好きな弟と再会できたのだ。話したいこともたくさんあるだろう。
 ミカエルとルシエルは、瞬間移動でマヤばぁの小さな家に出没した。

「あれ、今日も使うのかい」

 ちょうど帰るところだったらしいマヤばぁとばったり鉢合わせ。
 ミカエルはくっと口角を上げる。

「いい?」
「いいよ」
「そうだ。ヨハネス、見つかったぜ。ちゃんと保護されてる」
「そうかい。そりゃよかったよ」

 マヤばぁはにっこり笑って夕暮れの道を歩いていった。
 二人は目を見合わせて小さな家に入る。

「なぁ、今日は一緒に寝てくれねえ?」

 いつも行為のあと、同じベッドにルシエルはいない。そうしてミカエルは悪夢を見るのだ。

「今日もヤる気?」
「おう。ベッド汚したくねえし、やっぱシャワールームだな」

 さっそく服を脱ぎ始めたミカエルに肩をすくませ、ルシエルもシャワールームにやって来た。

「今日は立ったまま、後ろから」
「……りょーかい」

 もはや作業に付き合うような感覚でいるような相手を、ミカエルはヤる気にさせなくてはならない。素っ裸になると、しゃがんで彼のを取り出し、見せつけるように口に含んで高め始める。

「……日に日に、上手くなってる、気がする」
「ん…ゆめんなかでも、やらされてるしな」
「精がでるね」
「好きで、やってんじゃ、ねえ」

 不意に顎を掴んで上向かされる。

「そんなふうに見えないけど?」
「……おまえはいいんだよ」

 見下ろす鳶色の瞳にかすかにチラつく欲情。ミカエルは目を細めて舌なめずりをした。
 ルシエルのを舐めるのは嫌じゃない。
 それそのものの見た目も綺麗だし、彼のだと思うと興奮する。

「君はなんで勃ってんの」
「おまえの、顔が、エッチだから」
「……エッチ」
「……ちげえ?」

 金持ち貴族らに散々そう言われたミカエルは首を傾げた。ルシエルはなんとも言えない表情をしている。

「……違わないけど。まぁいいや…」
「あ…?」

 腕を引っ張り立たされて、ミカエルは自ら壁に手を付き足を広げた。

「挿れるよ」
「ん、」

 今日のルシエルはデビル味があまりない。加減しながらやっているようで、奥の奥まで容赦なく突かれるようなこともなかった。

「おまえはっ…それでっアッ…きもちいぃっのかよっ」
「っ、イイ。君のナカ、すごく、締まるから」
「ふぅ…ぅんっ…」

 お決まりの言葉を言っているうちにミカエルはノってきて、積極的に欲してたくさん喘いだ。「もっと」と言えば、ルシエルはもっと強くシてくれる。最中、項を舐められたとき、ゾワゾワして彼のを締めつけてしまった。

「アッ…ルシッ、るしっ」
「ッ――」

 満たされた気分で、彼がナカから出ていくのを名残惜しく感じた。
 膝に力が入らずしゃがみこむ。
 上着を脱いだルシエルが、温かなシャワーをかけてくれた。

「自分で洗える?」
「……ん」
 
 シャワーを受け取り、立ち上がる。まだ少しぼぅっとするが、いつもに比べれば、どうってことはない。
 さっとシャワーを済ませ、交代でシャワールームに向かった背中を見送り、リビングへ。少し食材があったので、手軽な炒め料理を作った。そういえば晩飯を食べていないと思い出したのだ。自分はともかく、ルシエルは何か食べたほうがいい。

「……いい匂い」

 髪を拭きながら戻ったルシエルは、目を瞬いた。

「だろ。ちゃんと食えよ」
「君も食べるだろう?」
「俺はちょっとでいい。食わなくてもいいけど、一緒に食ったほうが、おまえもいいだろ」

 ミカエルは後ろから頭を拭かれながら料理を皿に盛った。
 テーブルに運んで、二人でいただく。こうしていると、森の家に帰ったようだ。
 ミカエルはポツリと溢す。

「……明日、瞬間移動でツィヴィーネ戻るか」
「君がそうしたいなら」

 森の家に戻れば安心して、悪夢も見なくなるかもしれない。それに、いつまでも異国でウダウダしてはいられないだろう。
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