God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

日灯

文字の大きさ
上 下
103 / 174
4章.Tractus

ヨハネスの行方

しおりを挟む
 ミカエルはさっそく、ヨハネスらが連絡先をマヤばぁに教えていたことを伝えた。

「その方のところへ、ご案内願います」

 イレーネルの付き人の男が歩み出る。ミカエルはルシエルに目をやり、男の手を取って瞬間移動した。続いてルシエルがやって来る。
 一晩泊めてもらった小さな家の扉を叩くと、マヤばぁが姿を現した。ミカエルとルシエルを交互に見上げ、首を傾げる。

「なんだい、まだいたのかい」
「いや。聞きたいことがあって」

 ミカエルはさっそく話し出す。

「俺らの前に訪ねてきた二人組がいただろ。そいつらの連絡先、知ってるか?」
「どうしてそんな事聞くのさ」

 事情を知っているらしいマヤばぁは腰に手を当て、怪訝な顔をした。
 ミカエルが口を開こうとしたとき、連れてきた男がお辞儀し、自身の身分を明かした。そうして、丁寧に話す。

「その方は、陛下の弟君であらせられます。私どもは、彼を保護したいのです」
「……言われてみれば、そうなるかねぇ。いまの女王は、カレンデウラから嫁いで来たんだったね」
「はい。陛下は彼の味方です」
「本当に味方なのかい?」
「味方です」

 マヤばぁは男の顔をじーっと見た。男は後ろに下がりたいのを必死に我慢するような顔で、その場に留まり耐えている。

「……わかったよ。ちょっと待ってな」

 しばらくして、マヤばぁはそう言うと、一度引っ込んで紙切れを持って来た。そこに書かれていた住所を男が手帳に写し取る。

「ご協力、ありがとうございます」
「あの子はもう、この国にはいないと思うがね」
「……はい?」
「詳しいことは知らないよ。そこ行って聞いてみな」

 男は頷くと、ミカエルに手を差し伸べた。

「この町には行ったことがあります」

 ミカエルは頷いて男の手を取った。ルシエルが続く。
 出現した先は、海沿いの町だった。男によると、ミカエルたちが入国した港町に近いらしい。

「こちらです」

 小道の多い、入り組んだ町だった。
 男は表札を頼りにスタスタ歩く。彼がいなければ、目的の場所に行き着くのは一苦労だっただろう。

「ああ、ここですね」

 似たような曲がり角を何度か曲がり、男が足を止めた。二階建ての建物だ。どうやらそこは、宿屋のようである。受付の女性に要件を話し、中へ入れてもらった。
 階段を上がって、二階の一番奥の部屋。
 男がノックすると、少しだけドアが開いた。

「……なにか?」

 さすがに警戒している。男が声を落として身分を話すと、ようやくドアが開かれた。
 中にいたのは、男二人だった。ヨハネスも付き人っぽい青年もいない。

「彼は?」
「その前に。あなた方は味方なのですな」

 イレーネルの意志を知った男たちは、ようやくヨハネスについて話してくれた。

「ヨハネス様はイレーネル様の迷惑にならぬよう、早々にこの地を立ちました」

 男たちはどうやら、ヨハネスの忠臣らしい。同行すると言ったそうだが、目立つのを避けるため、ヨハネスは二人旅を選択した。男たちはヨハネスと少し距離を取り、付かず離れずで来たようだ。

「ヨハネス様を慕う者は多いのですが、事を荒立てたくないとおっしゃりましてな。こうして逃亡しておられるわけです」
「それで、すでに国外へ?」
「はい。連絡手段はあります。今からお戻りいただいたら…、明日の昼ごろになるかと。とりあえず、ヨハネス様にお繋ぎしますな」

 男は胸元に手を当てる。少しして、ミカエルたちの方を向き、頷いた。どうやら通信中らしい。声を出しているわけでもないので、どのように通信が行われているのか、ミカエルにはさっぱりだった。
 ヨハネスを交えて話し合いが続く。

「ーーヨハネス様が、お戻りになると」

 イレーネルの使者はホッと息を吐くように頷いた。

「それでは、城へ戻りましょう」

 差し伸べられた手に手を乗せると、「お願いします」と言われ、肩をすくめて瞬間移動したミカエルだった。
 
 城へ戻ったミカエルたちは、さっそくイレーネルを訪ねた。報告を聞いたイレーネルが胸を撫で下ろす。窓の外はすっかり橙色になっていた。
 そのとき、女官がすすす…っとやって来て、イレーネルにお辞儀した。

「陛下、ブランリスの者が一名、港に到着したとのことです。じきに書簡が届くかと」
「……早かったな」

 その者は、一足先にイマリゴへ来たのだろう。これからやって来る部隊が、スムーズに入国できるようにするために。イレーネルが許可すれば、その部隊はこの城にやって来る。

「ヨハネスが先か、ブランリスの部隊が先か…」

 イレーネルは鮮やかに色づいた空をじっと見ていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

処理中です...