God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

日灯

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4章.Tractus

種明かし

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 ゾフィエルが顎に手をやる。

「聞いたことがあるぞ。そのようにできるツボがあるのだとか。東方は、そういうのが得意らしい」
「壺?」

 首を傾げるミカエルの周りを、ルシエルがゆっくり回る。
 ゾフィエルが腕を広げて話してくれた。

「体内を流れるエネルギァには経路があり、その要所をツボというのだそうだ。そこを刺激することにより、様々な効果を得られると」

 ルシエルはミカエルのエネルギァを感じて、おかしな点を探りだそうとしているのかもしれない。後ろに立った彼はおもむろに腕を上げ、ミカエルのうなじに手の平をかざした。

「お、」

 力の感覚が戻った。ミカエルは目を瞬く。

「ここに他人のエネルギァを感じた」

 ルシエルがそれを消滅させてくれたらしい。ミカエルは項を触ってみたが、異変はなかった。

「見ないようにするから、これで身体を拭くんだ。着替えも持ってきた」

 ルシエルはそう言って、ミカエルに普段着を渡してくれた。それから、背を向けて曲がり角に立ち塞がるようにする。ゾフィエルもそれに倣った。
 見慣れない二人の後ろ姿に細く息を吐き、ミカエルはもらった布を水で濡らして身体を拭きにかかった。乳首に嵌められている物も外しておく。少し戸惑ったが、なんとか外せた。辺りに放っておくこともできず、ポケットに入れる。自身に治癒をかけ、身体の不調はなくなった。

「……ありがと。終わったぜ」
「次は俺が着替える」

 すれ違うときも、ミカエルはルシエルの目を見ることができなかった。
 着替えたルシエルとゾフィエルは男装の麗人といった風だ。ゼベルが頭に浮かび、かすかに口の端が上がる。彼女はミカエルの想像する女性とまったく異なり、男勝りで酒好きなのだ。イファノエで出席したパーティーが遠い昔のようだった。

「ミカ、力の融合をするか?」

 つり目の茶色い瞳が心配そうにミカエルを見上げる。たくさんの男を相手にしたことをまざまざと思い出し、ミカエルは首を振った。

「そうか」

 ゾフィエルはなんでもない風に微笑み、向こうへ行こうと誘った。
 少年らから離れた場所で三人固まって座ると、さっそくゾフィエルが口を開く。

「無事に…、と言えるかわからんが、救出できてよかった」
「……助かった。なんで女になってんだ? そんなことできんのな」
「ああ、君がハーレムにいるかもしれないというのでな。……私も驚いた」
「はーれむ?」

 ゾフィエルは頷いて片手を広げ、アズラエルに協力を頼んだこと、ツィヴィーネではアダルベルにも世話になったことを話してくれた。

「……アズラエルが、」
「ああ。アクレプンの宮殿に入れたのは彼のおかげだ。積荷を置く前に偽の板底を作ってな、本当の床面との間に、隠れされてもらった」

 宮殿の敷地内に入ればこちらのものだ。板の隙間から外を見て、人目を逃れた瞬間、ルシエルの瞬間移動で外へ出た。そうして二人はハーレムへ向かい、ヤグニエの部屋を探したのである。

宦官かんがんに見つかって、見ない顔だと言われてな。新人と間違われた。世話役の女性のもとへ連れていかれたよ」

 女性姿のゾフィエルは苦笑してルシエルに目をやる。ルシエルは、素知らぬ顔でミカエルを見ていた。

「二人で歩いていたはずなのに、振り返ると私一人なんだ。ひとまず彼に捜索を任せ、怪しまれないよう新人として振る舞うことにした。教えられる作法を覚えるのに必死だった。女性は大変だな。こんなに怒られたのは、少年隊にいた頃以来だ」

 ゾフィエルは肩を落として首を振る。かなりこたえたようだ。ゾフィエルのもとへ瞬間移動で現れたとき、泣きそうな顔をしていた理由はそれだろう。

「そういえば、聖剣はどうした?」
「俺が見つけた」

 ルシエルが例の巾着袋を撫でる。ヤグニエの部屋で発見したらしい。

「軍服もあったから、回収しておいた」
「助かった…」

 ようやくゾフィエルは肩の荷が下りたようだった。
 ミカエルはチラと二人に目をやる。

「……いつまで女の姿なんだ?」
「一日くらいで戻るらしい」
「明日の朝だな」

 明日、船に乗せてくれた男は驚くだろうなとミカエルは思った。
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