God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

日灯

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4章.Tractus

相乗り

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 振り返ろうとしたとき、一瞬でヤグニエの部屋に移動した。
 彼の顔を見上げようとしたミカエルは目を丸くする。

 ――女。

 ルシエルの氣質に違いないと思っていた相手は、凛と研ぎ澄まされた美貌の女性だった。豊満な胸があるのだから、これは女性に違いない。それに、ミカエルより少し背が低い。彼女は踊り子のように全身着飾っていた。上半身の露出度が高く、胸当てをつけているだけという感じだ。――上半身裸のミカエルが言えたことではないが。

「……おまえ、」
「とりあえずこれを着て」

 お馴染みの巾着袋からシャツを取り出し、渡してくれる。

「ゾフィエルを回収して逃げる。話はあとで」
「……ルシ…なのか…?」

 頭飾りを外してシャツを着ると、すぐに瞬間移動された。
 二人の女性が目の前にいる。気の強そうな凛とした女性と、泣きそうな顔の女性だ。泣きそうな方がこちらを向いて顔を輝かせた。それから、ホッとしたように息を吐く。まさか彼女――彼はゾフィエルなのか。その女性の腕も掴み、ルシエルらしき女性は瞬間移動した。
 出没した先は、たぶんこの敷地の入り口なのだろう。文様だらけの立派な門と、逞しい守衛らしき男が立っている。

「なんだ貴様ら、逃げてきたのか!?」

 途中で拾われた女性が水の塊で彼らの顔にパンチを食らわせる。守衛たちは後ろにひっくり返って伸びてしまった。

「頼む」

 再び瞬間移動し、港に出た。

「乗せてくれる船を探さないと…」

 彼女が走り、ミカエルも走ろうとしたが、よたりと倒れそうになり風の力で浮かされた。ルシエルらしき女性も浮いている。

「宮殿から逃げてきたのか…?」
「可哀想になぁ。売られてきたんだろうな」
「にしても、なんて美貌だ」

 宮殿にいる女性は、このような恰好をしているのかもしれない。などとミカエルがぼんやり思っていると、一隻の船が近づいてきた。乗っている人が手を上げて、こちらに来いと言っているようだ。
 ふわりと浮き上がり、三人そろって船に乗る。

「あんたぁ、スゴいな。飛べるのか」
「すみません、急いでいて…」
「ああ、その積荷の向こうに隠れてろ。イマリゴに行くんだが、大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます」

 ゾフィエルらしき女性が受け答えをしてくれた。
 港が騒がしくなっていく。宮殿から連絡があったのかもしれない。
 積荷の向こう側へ回ると、先客が二人いた。少年と、付き人と思われる青年だ。
 少年は白橡しろつるばみ色の髪で、後ろ髪を低い位置で一つに纏めている。凛とした瞳の色は黄橙。髪を結んでいるリボンがちょうどそのような色合いだ。青年のほうは焦げ茶の短い髪に凛々しい眼差しである。

「どうした?」
「宮殿から逃げてきた女性たちと少年です」
「……そうか」

 黄橙の瞳はミカエルたちの方を向いているが、少年は目が見えないらしい。彼は小さく頷き、ミカエルたちに言う。

「何かほしい物はあるか? 水や少しの食糧ならある」
「坊ちゃま、」
「明日にはイマリゴに着くのだろう。問題ない」

 ルシエルらしき女性から視線を受け、ミカエルは緩く首を振った。何も喉を通りそうにない。気怠さが抜けず、床に座る。

「水を」
「わかった。ムー、」
「……承知しました」

 水筒をもらってやって来たルシエルに、ミカエルは首を傾げる。

「そのままでは気持ち悪いだろう」

 ルシエルにはあれを目撃されたのだ。ミカエルは震える睫毛を伏せた。

「我々も着替えよう。これを使ってくれ」

 ゾフィエルであろう女性が腰布を解いて渡してくれる。彼女も茶髪で、茶色い目だ。けれどその氣質は、よく知るものだった。ミカエルは眉尻を下げて首を傾げる。

「ゾフィか?」
「……ああ」
「なんで…。どう見ても、」
「先に着替えよう」

 三人は人目につかない奥まった所へ移動した。
 ルシエルがふと口を開く。

「君、力が使えないようにされている?」
「……おう」

 ミカエルは手の平に目を落とした。忘れていた自分に驚く。今もまだ使えないとは、どういうことだろう。

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