God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

日灯

文字の大きさ
上 下
89 / 174
4章.Tractus

相乗り

しおりを挟む
 振り返ろうとしたとき、一瞬でヤグニエの部屋に移動した。
 彼の顔を見上げようとしたミカエルは目を丸くする。

 ――女。

 ルシエルの氣質に違いないと思っていた相手は、凛と研ぎ澄まされた美貌の女性だった。豊満な胸があるのだから、これは女性に違いない。それに、ミカエルより少し背が低い。彼女は踊り子のように全身着飾っていた。上半身の露出度が高く、胸当てをつけているだけという感じだ。――上半身裸のミカエルが言えたことではないが。

「……おまえ、」
「とりあえずこれを着て」

 お馴染みの巾着袋からシャツを取り出し、渡してくれる。

「ゾフィエルを回収して逃げる。話はあとで」
「……ルシ…なのか…?」

 頭飾りを外してシャツを着ると、すぐに瞬間移動された。
 二人の女性が目の前にいる。気の強そうな凛とした女性と、泣きそうな顔の女性だ。泣きそうな方がこちらを向いて顔を輝かせた。それから、ホッとしたように息を吐く。まさか彼女――彼はゾフィエルなのか。その女性の腕も掴み、ルシエルらしき女性は瞬間移動した。
 出没した先は、たぶんこの敷地の入り口なのだろう。文様だらけの立派な門と、逞しい守衛らしき男が立っている。

「なんだ貴様ら、逃げてきたのか!?」

 途中で拾われた女性が水の塊で彼らの顔にパンチを食らわせる。守衛たちは後ろにひっくり返って伸びてしまった。

「頼む」

 再び瞬間移動し、港に出た。

「乗せてくれる船を探さないと…」

 彼女が走り、ミカエルも走ろうとしたが、よたりと倒れそうになり風の力で浮かされた。ルシエルらしき女性も浮いている。

「宮殿から逃げてきたのか…?」
「可哀想になぁ。売られてきたんだろうな」
「にしても、なんて美貌だ」

 宮殿にいる女性は、このような恰好をしているのかもしれない。などとミカエルがぼんやり思っていると、一隻の船が近づいてきた。乗っている人が手を上げて、こちらに来いと言っているようだ。
 ふわりと浮き上がり、三人そろって船に乗る。

「あんたぁ、スゴいな。飛べるのか」
「すみません、急いでいて…」
「ああ、その積荷の向こうに隠れてろ。イマリゴに行くんだが、大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます」

 ゾフィエルらしき女性が受け答えをしてくれた。
 港が騒がしくなっていく。宮殿から連絡があったのかもしれない。
 積荷の向こう側へ回ると、先客が二人いた。少年と、付き人と思われる青年だ。
 少年は白橡しろつるばみ色の髪で、後ろ髪を低い位置で一つに纏めている。凛とした瞳の色は黄橙。髪を結んでいるリボンがちょうどそのような色合いだ。青年のほうは焦げ茶の短い髪に凛々しい眼差しである。

「どうした?」
「宮殿から逃げてきた女性たちと少年です」
「……そうか」

 黄橙の瞳はミカエルたちの方を向いているが、少年は目が見えないらしい。彼は小さく頷き、ミカエルたちに言う。

「何かほしい物はあるか? 水や少しの食糧ならある」
「坊ちゃま、」
「明日にはイマリゴに着くのだろう。問題ない」

 ルシエルらしき女性から視線を受け、ミカエルは緩く首を振った。何も喉を通りそうにない。気怠さが抜けず、床に座る。

「水を」
「わかった。ムー、」
「……承知しました」

 水筒をもらってやって来たルシエルに、ミカエルは首を傾げる。

「そのままでは気持ち悪いだろう」

 ルシエルにはあれを目撃されたのだ。ミカエルは震える睫毛を伏せた。

「我々も着替えよう。これを使ってくれ」

 ゾフィエルであろう女性が腰布を解いて渡してくれる。彼女も茶髪で、茶色い目だ。けれどその氣質は、よく知るものだった。ミカエルは眉尻を下げて首を傾げる。

「ゾフィか?」
「……ああ」
「なんで…。どう見ても、」
「先に着替えよう」

 三人は人目につかない奥まった所へ移動した。
 ルシエルがふと口を開く。

「君、力が使えないようにされている?」
「……おう」

 ミカエルは手の平に目を落とした。忘れていた自分に驚く。今もまだ使えないとは、どういうことだろう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...