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4章.Tractus
踊る少年
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身体を動かすのが好きだからか。それとも、楽しみながらやっているからだろうか。このように身体を動かしたことがなかったので新鮮で、とても面白い。
「上体を後ろに倒すのも、特徴の一つかもしれない」
「こう?」
「柔らかいな。ああ、いいだろう。ステップを踏むときも流れを意識しろ。こうやって足を運ぶと美しく見える」
真似して歩くと、なるほど、それっぽくなった。
「ズボンの布を持って回ったりするのもいい」
「……おお」
「パフォーマンスとして映えるだろ。あと、腕を上下に動かすのも目を引くな」
トゥグリルの洗練された動きは優美でときに勇ましく、見ていて飽きない。
目を輝かせるミカエルに、トゥグリルが不思議そうに言った。
「……おまえはこんな事をやらされて、嫌じゃないのか」
「イヤだと思ってたけど、なんかスゲェし、身体動かすのは楽しい」
トゥグリルは目を瞬いて、フッと笑った。
「教師が俺でよかったな」
「どういう意味?」
「ダンスにも、様々な雰囲気のものがあるんだ。おまえが覚えさせられるとしたら、もっと官能的なはずじゃないか?」
ミカエルが顔をしかめると、トゥグリルは眉を上げる。
「どうやらヤグニエ様は、お父上に一矢報いたいらしい」
それでトゥグリルは、ヤグニエに俺でいいのかと問うたのか。
腑に落ちたミカエルは、ちょっとだけヤグニエに感謝した。トゥグリルのダンスを見ることができたのは素直に嬉しい。それに、官能的なダンスを教えられていたら、このダンスに偏見を抱いていただろう。
「よしっ、一度踊ってみろ」
トゥグリルが脇に避け、音楽が始まる。
ミカエルは音に合わせて、動かしたいように身体を動かした。ダンスは自由だ。開放感に押され、置かれている状況も忘れて音楽に身を任せる。
エキゾチックな楽器の音色が盛り上がってくると、ミカエルのステップも早まり、動きも激しくなった。
柔らかく身体を使いながらもダイナミックに。
トゥグリルのやっていた不思議な動きも取り入れる。楽しくて、いつまでも踊れそうである。
少し様子を見ようと部屋に戻ったヤグニエは、のびのびと踊るミカエルの姿を見つけて目を丸くした。自然で柔らかな動きは踊り子として遜色ない。この僅かな時間で、これほどまでに踊りこなしてしまうとは。それに何より、
――美しい。
流れるようなステップ。
しなやかな身体が躍動する。
穿いているズボンの清廉で高貴な雰囲気も相まって、気品すら感じられる。くるくる回る姿は楽しげで、見たこともない溌剌とした表情をしていた。彼は無邪気に、踊ることを心底楽しんでいるようだ。
彼を己のものにしたい。
ふっと湧き上がった感情が強く胸を焦がす。そうして見ると、薄い身体をくねらせて誘うように細腰を振る姿は、ひどく蠱惑的に映った。
どこぞの兵士に付けられた乳首を繋ぐ細い鎖がキラキラ揺れる。あの両側が半円切り取られたズボン。彼の動きによって、お尻のほうまで見えてしまいそうである。前から見ても両側の腿の上部、素肌が見える。するとどうしてか、裸を見ているように錯覚した。
気高く純粋なものに邪な思いを抱く自分を嫌悪する。しかし、一度湧き上がった感情がなくなることはなかった。
彼の身体に釘付けになっているうちに音楽が終わり、ダンスが終わる。
清々しい顔で目を向けたミカエルに、トゥグリルが大きく頷いた。
「もう完成しているようなものだな。なかなかよかったぞ。お前には天賦の才があるようだ」
「もう一度トゥグリルのが見てえ」
「技を盗むもうというわけか。いいだろう。さっきと違う踊りを見せよう」
トゥグリルのダンスを熱心に見詰める緑の目は輝いている。ウキウキと、まるで子どものようだ。
あのような目を自分にも向けてほしい。
自然に込み上げた感情に、ヤグニエは戸惑った。最初から魅力的な少年だと思っていたが、心を奪われていたわけではない。それがどうだ。楽しげにしている姿を見ると胸が温かくなり、彼をこの腕に閉じ込めたくなる。
――参ったな。
ヤグニエは首を振って踵を返し、執務に戻った。
「上体を後ろに倒すのも、特徴の一つかもしれない」
「こう?」
「柔らかいな。ああ、いいだろう。ステップを踏むときも流れを意識しろ。こうやって足を運ぶと美しく見える」
真似して歩くと、なるほど、それっぽくなった。
「ズボンの布を持って回ったりするのもいい」
「……おお」
「パフォーマンスとして映えるだろ。あと、腕を上下に動かすのも目を引くな」
トゥグリルの洗練された動きは優美でときに勇ましく、見ていて飽きない。
目を輝かせるミカエルに、トゥグリルが不思議そうに言った。
「……おまえはこんな事をやらされて、嫌じゃないのか」
「イヤだと思ってたけど、なんかスゲェし、身体動かすのは楽しい」
トゥグリルは目を瞬いて、フッと笑った。
「教師が俺でよかったな」
「どういう意味?」
「ダンスにも、様々な雰囲気のものがあるんだ。おまえが覚えさせられるとしたら、もっと官能的なはずじゃないか?」
ミカエルが顔をしかめると、トゥグリルは眉を上げる。
「どうやらヤグニエ様は、お父上に一矢報いたいらしい」
それでトゥグリルは、ヤグニエに俺でいいのかと問うたのか。
腑に落ちたミカエルは、ちょっとだけヤグニエに感謝した。トゥグリルのダンスを見ることができたのは素直に嬉しい。それに、官能的なダンスを教えられていたら、このダンスに偏見を抱いていただろう。
「よしっ、一度踊ってみろ」
トゥグリルが脇に避け、音楽が始まる。
ミカエルは音に合わせて、動かしたいように身体を動かした。ダンスは自由だ。開放感に押され、置かれている状況も忘れて音楽に身を任せる。
エキゾチックな楽器の音色が盛り上がってくると、ミカエルのステップも早まり、動きも激しくなった。
柔らかく身体を使いながらもダイナミックに。
トゥグリルのやっていた不思議な動きも取り入れる。楽しくて、いつまでも踊れそうである。
少し様子を見ようと部屋に戻ったヤグニエは、のびのびと踊るミカエルの姿を見つけて目を丸くした。自然で柔らかな動きは踊り子として遜色ない。この僅かな時間で、これほどまでに踊りこなしてしまうとは。それに何より、
――美しい。
流れるようなステップ。
しなやかな身体が躍動する。
穿いているズボンの清廉で高貴な雰囲気も相まって、気品すら感じられる。くるくる回る姿は楽しげで、見たこともない溌剌とした表情をしていた。彼は無邪気に、踊ることを心底楽しんでいるようだ。
彼を己のものにしたい。
ふっと湧き上がった感情が強く胸を焦がす。そうして見ると、薄い身体をくねらせて誘うように細腰を振る姿は、ひどく蠱惑的に映った。
どこぞの兵士に付けられた乳首を繋ぐ細い鎖がキラキラ揺れる。あの両側が半円切り取られたズボン。彼の動きによって、お尻のほうまで見えてしまいそうである。前から見ても両側の腿の上部、素肌が見える。するとどうしてか、裸を見ているように錯覚した。
気高く純粋なものに邪な思いを抱く自分を嫌悪する。しかし、一度湧き上がった感情がなくなることはなかった。
彼の身体に釘付けになっているうちに音楽が終わり、ダンスが終わる。
清々しい顔で目を向けたミカエルに、トゥグリルが大きく頷いた。
「もう完成しているようなものだな。なかなかよかったぞ。お前には天賦の才があるようだ」
「もう一度トゥグリルのが見てえ」
「技を盗むもうというわけか。いいだろう。さっきと違う踊りを見せよう」
トゥグリルのダンスを熱心に見詰める緑の目は輝いている。ウキウキと、まるで子どものようだ。
あのような目を自分にも向けてほしい。
自然に込み上げた感情に、ヤグニエは戸惑った。最初から魅力的な少年だと思っていたが、心を奪われていたわけではない。それがどうだ。楽しげにしている姿を見ると胸が温かくなり、彼をこの腕に閉じ込めたくなる。
――参ったな。
ヤグニエは首を振って踵を返し、執務に戻った。
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