God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

日灯

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4章.Tractus

からのツィヴィーネ

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 ゾフィエルとルシエルはフェルナンデルに続いて門を通過し、瞬間移動した。皇子の手を借りて瞬間移動したゾフィエルは、恐縮して頭を下げる。続いてルシエルもやって来た。
 そこはまだイファノエ帝国の領土内で、目の前にそびえ立つ門を抜ければ、ツィヴィーネ共和国との間にある緩衝地帯だ。

大事おおごとにしたくないのでな。私が同行できるのはここまでだ」
「はい、殿下。ありがとうございました」

 ミカエルが異教の国に連れ去られたと人々が知ったら、大変な騒ぎになるだろう。もしかしたら、教会や国が動かざるを得ない事態となるかもしれない。
 アクレプン帝国は勢いのある国だ。
 もしかしたらあちらは、国同士のいさかいに発展しても構わないという心づもりでいるかもしれない。

「行こう」

 目の前に見える森を越えたら、ツィヴィーネの都市が見えてくるはずだ。
 ゾフィエルはルシエルに目をやり、その向こうに広がる空に飛んでくるエイダーの姿を発見した。

「いや、待ってくれ」

 腕を上げようとしたルシエルが動きを止める。ゾフィエルはエイダーに向け手を上げた。
 エイダーは黒白の鳥で、それほど大きくない。翼を畳んだ姿は丸っこく、速く飛べるようには見えないが、これでどうして平時の飛行速度が速い上に長距離を飛べるのだ。
 ゾフィエルは腕に留まったエイダーの頭を指の背で撫でる。

「エイダー、すまんがもう一つ頼まれてくれ」

 エイダーの足に手紙を括りつけるのを、ルシエルは黙って見ていた。

「任せたぞ」

 高々と飛び去ったエイダーを見送り、ゾフィエルも歩き始めようとした、のだが。不意に腕を掴まれ、身体が浮いた。

「っな、」
「早いほうがいいだろう」
「っそうだな、すまないっ」

 そういえば、ルシエルは飛べるのだった。
 そのスピードは凄まじく、エイダーの背中を捉えたと思ったら、すぐに追いついてしまった。

「その鳥、持って行ったほうが早い」
「……そうしよう」

 エイダーもビックリの飛びっぷりだ。
 ルシエルがエイダーに合わせて減速してくれたので、ゾフィエルは彼を腕に留まらせ、胸元に抱きかかえるようにした。

 ――ツィヴィーネはこんなに近かっただろうか。

 眼下に現れた壁に囲まれた都市に、ゾフィエルは瞠目どうもくした。
 上空でエイダーを放し、先にアダルベルのもとへ行ってもらう。都市壁の外側――目立たぬ場所に着地したゾフィエルたちは、歩いて門に向かった。
 二人はただの旅人にしか見えない格好をしている。それなのに、何故か門番に止められた。

「そこの二人、こちらへ」

 ゾフィエルはルシエルにチラと目をやり、大人しく従った。
 門の脇にある小部屋へ招かれ中に入ると、ドアを閉められた。

「そちらへお座りください」

 側にあった簡素な木の椅子に揃って座る。

「あなたはブランリス王国の親衛隊隊長、ゾフィエル殿ですね」
「……いかにも」

 制服を着ていないのにサラリと当てられ、驚いた。
 門番は二人の向かいに椅子を持ってきて座る。

「私用ですか」
「はい」
「神に誓って?」
「はい」

 門番は何やら帳面にしるしながら続けた。

「差し支えなければ、用事の内容をお伺いしても?」
「……観光です」
「……」

 門番は不自然なほどニコリと笑む。

「ブランリス王国は戦を終えたばかりと聞きます。その上、次なる戦も画策かくさくしているとか。そのような時期にわざわざイファノエ帝国を経由してこちらへ来られるとは、親衛隊の隊長閣下はずいぶんお暇なことですな」

 上手い言い訳を考えていなかったゾフィエルの頬がヒクリと痙攣した。ミカエルが連れ去られ、思った以上に動揺しているのかもしれない。

「それから、そちらの方はミカエル殿の相棒、ルシフェル殿ですね」

 ルシエルが片眉を上げる。

「聞くところによれば常にミカエル殿と行動を共にされているあなたが、なぜ、ゾフィエル殿とおられるのでしょう」

 ゾフィエルは額に手をやった。ツィヴィーネの情報網、恐るべしである。

「ミカエル殿に何かありましたか」
「……まさか。何があると言うのです」
「さて。彼の存在は重要であるがため、求める者も敵視する者も多くありましょう。どちらも度を過ぎれば、害を及ぼしかねません」

 後から知られて印象を悪くするより、話してしまった方がいいかもしれない。
 ゾフィエルは腹を決めた。

「ツィヴィーネ共和国は、ミカエルという存在をどのようにお考えですか」
「戦に参加しないと宣言したようですが、彼はブランリス王国の軍服を着ています。故に、国に属する存在であると」
「もし、彼の身に何か起こったら、」
「我が国に関わることでなければ、関わりを避けるでしょう」

 きっと今回もそうだろう。ツィヴィーネ共和国は商人の国なのだ。商売の妨げになることに、首を突っ込むとは思えない。
 ゾフィエルは小さく息を吐き、ミカエルの身に起こっている事を簡潔に話した。

「――力をお貸しいただきたいとは言いません。救出に際して、こちらの領地にお邪魔する許可をいただきたい」

 すると門番は帳面を閉じ、ゾフィエルに真摯な眼差しを向けた。

「良い旅を」
「……どうも」

 ゾフィエルは門番にお辞儀し、ルシエルと共に部屋を出た。
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