God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

日灯

文字の大きさ
上 下
75 / 174
4章.Tractus

救出作戦

しおりを挟む
 ゾフィエルは息を吐き、首を振る。

「連れ去られた理由は、任命式のパーティーにてムニーラ殿下の肌に触れた件しか考えられん」

 ルシエルは小さく頷いた。

「待遇が良いとは思えない」
「ああ。バディの感覚的に、生きていることは確かだが…。彼に出席を勧めるのではなかった」

 ゾフィエルはクッと唇を引き結ぶ。バラキエルが家を出てミカエルが消沈していたので、気分転換になればと思ったのだ。

「不測の事態だ」

 懐かしく焦がれる声が淡々と言う。
 ゾフィエルは息を吐いて頭を切り替え、懐からネックレスのようなものを取りだした。それは丸薬の開発に際して、アズラエルから渡されたものだった。

『何かあれば、お呼びください』

 もしかしたら、以前、塔にいる彼を勝手に見つけて訪ねたからかもしれない。いきなり来られるより、呼ばれた方が良いのだろう。
 ゾフィエルは紐につけられたチャーム――小さな透明の鉱物に触れながらアズラエルを思う。
 少しして、アズラエルが現れた。現在地とそこにいる人物を確認し、ゾフィエルの方へ顔を向ける。

「お呼びですかな」
「ええ。協力していただきたいことがありまして」
「ほぉ。協力ですか」

 ゾフィエルはミカエルの身に起こっているかもしれないことを話した。アズラエルは商人だ。アクレプン帝国にも入国しやすい。

「たしかに私は、アクレプンでも商売をしております。宮殿を訪ねることもある」
「では、」
の国でも、まだ商売をしていたいのですがね。お得意様の頼みとあれば」
「っありがとうございます」

 ゾフィエルはアズラエルの手を取り、心をこめて握った。アズラエルはされるに任せ、薄い唇を開く。

「ちょうど四日後、彼の国の皇帝が住まう宮殿に伺う予定があります」
「四日後、ですか」
「彼の地まで、ツィビーネから海路で三日。宮殿は、そこから陸路で半日といったところです」

 そろそろブランリスをつ予定だったとアズラエルは言う。

「まだいてくださってよかった」
「幸運でしたな。貴方きほうらは、積荷に隠れて入国することが可能かと。問題は、どこにミカエル殿が囚われているかです」
「移動先は宮殿のはずです。そこにいれば良いのですが…」

 アズラエルによると、宮殿はとても大きく、主たる宮殿の他に、皇子たちが住まう場所があるという。

「そちらはハーレムといいまして、男子禁制です」
「……そこにいるのは全員女性なのですか」
宦官かんがんと女性です。そちらへ潜入するのであれば、女性のほうがいい」

 ゾフィエルはルシエルに目をやる。美麗な顔をしているが、性別をいつわれるだろうか。まず、ゾフィエルもルシエルも背が高い。
 そこでアズラエルがおもむろに言った。

「ツィビーネで耳にしたことがあります。一定時間、性別を換えられる術を行える者がいると」
「、はい?」

 ゾフィエルは耳を疑った。女装ではなく、女になる? そんな事ができてしまうのか。おそろしい。

「それを使えば、貴方らでも潜入できる」

 ゾフィエルは硬い表情でルシエルの方を向く。ルシエルは息を吐き、前髪を掻き上げた。

「本当に、そこにいるのであれば」
「……そうだな。背に腹は代えられん」

 ゾフィエルは動揺も見せないルシエルに感心し、己を恥じた。

「ミカエル殿はまだ生きている。それは間違いありませんな」
「……はい」
「国宝である聖剣も一緒に?」
「……はい、たぶん」

 ブランリスには、二重に痛手であるということだ。

の国は容赦がありません。殺すなら、とうに殺しているでしょう。まだ生きているのなら、殺すつもりはないのかもしれません」

 無事に解放されれば良いのだが。捕らえられ、今頃どのような目に遭っているのか。ゾフィエルは目を瞑り、考えるのを止めた。

「出発までに、性別を換える術を持つ者を探さなくては」
「それから、ゾフィエル殿もお色を変えた方が良いでしょう。彼の国に多いのは茶髪です」
「……例の丸薬をお願いします」

 まさか自分も飲むことになるとは思っていなかった。妙な気分である。

「今日中に、イファノエから現状を伝える書簡が届くかと」
「私はとりあえず、ゾフィエル殿用の丸薬と、貴方らが潜入する際のお召し物を手配しておきましょう」
「お願い致します」

 アズラエルは頷いて消えた。
 彼とはツィビーネ共和国で落ち合う。ブランリス王国からツィビーネ共和国への一番の近道は、イファノエ帝国を経由することだ。今回は事情が事情なので、すんなり通してくれるだろう。

「ツィビーネにいる知人……ブルーノ卿というのだが、彼に協力を願おう」
「彼には会ったことがある」
「そうか。ああ、メアリエル殿下の結婚式で?」

 ルシエルは小さく頷く。

「面識があってよかった」

 彼に手紙を書くため、ゾフィエルは家の中に入れてもらった。
 リビングのテーブルで、さっそく書きだそうとしたところ、ソファに腰掛けたルシエルが口を開いた。

「俺の名はルシフェルということになっている」
「それは、ミカエルが?」
他人ひとに紹介しにくいと」
「……私も外ではそう呼んだほうがいいな」

 ルシエルが頷いたのを見て、手紙を書きだした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...