God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

日灯

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4章.Tractus

無情な二択*

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 近づいた顔に剣呑けんのんな笑みが浮かぶ。

「小刀を使われたくないなら、大人しくしていた方がいい」

 それはすぐ近くのテーブルに置かれている。長い指がこれ見よがしにミカエルの勃起したそれを撫で上げた。

「っ、」
「与えられるのは、痛みより快楽のほうがいいだろう」

 ゆっくりと押し開いて中に入りくる指。腰回りを撫でる手に身体が痙攣する。乳首を甘噛みされ、腰が跳ねた。
 ヤグニエがヒヤリと笑う。

「ここもイイようだな」
「っ驚いただけだ」

 ――少しずつ身体は動くようになっている。ちゃんと動くようになるまで耐えて、そしたらなんとかここから逃げる…。
 押されるとじんわりとした感覚を覚えるナカの場所を集中的に責められ思考が止まる。

「どうした? ここがイイんだろ」
「っ……」

 何故わかるのだ。

「触ればわかる」
「っ…、やめッ、」
「いい声だ」

 やんわり押されているうちにビリリとした感覚があり、身体が揺れた。――いつかルシエルに触られたところかもしれない。そこばかり執拗しつように触ってくるので腰が引ける。
 拘束を解こうと腕を引っ張っても取れなくて、見下ろす黄赤の瞳に滲む欲情が増したようだった。 

「も、ぁっやめッ、あっ……っ、」

 あのときの感覚が蘇り、フラッシュバックのように感じ始める。
 入れられている指が増えた。
 入口を縦に拡げるように動いている。

「そういえば、ちゃんと聞いてなかったな」

 ヤグニエがおもむろに指を引き抜いた。
 ミカエルは少しホッとして、荒い息でヤグニエを見上げた。

「そなたはどちらがいい。性器を切り落とすのか、俺の子を産むのか」
「……だから、俺は男だ」
「問題ない。どちらを選ぶ?」
 
 問いながらも、ヤグニエは指で小さな胸の突起をふにふにしている。

「手、やめろっ。……本気、なのか…」
「父上の命令だからな。切ると言うなら、一瞬で終わらせてやる」

 獰猛な光がチラつく黄赤の瞳は、それでも冷静だ。そこにはミカエルを責める色などない。

「……なんでそんな事。ムニーラ殿下も、望んでないんだろ」
「ああ。だが仕方がない。父上の決定は絶対だ。命を取られないだけマシと思うんだな」

 ヤグニエはただ、与えられた命令をこなすことを考えているのだろう。発端となった出来事の真相などもはや関係ない。処罰が下されることは決定し、遂行されるのみなのだ。
 ミカエルは唇を引き結ぶ。――性器を切るなんて、考えただけでゾッとする。

「決まったか?」
「……切られんのはイヤだ」
「それなら俺を受け入れろ。できるな」

 どちらも嫌だ。やりたくない。それでもミカエルは、ヤグニエの手が小刀に伸びる前にかすかに頷いた。

「いい子だ」

 よくわかっていなかったのだ。男の自分が子を孕むなんてあるわけがない。だからミカエルは現実味がなく、何か種のようなものを入れられるときも、身を固くしてただ見ていた。
 下腹部が仄かなピンクの光に包まれる。
 少しして、それは収まった。
 なんの変化もない。そう思った一瞬後、腹の中が疼いてミカエルは眉根を寄せた。

「ほしいか?」

 ヤグニエが自身を取り出す。
 胸が高鳴った。けれど心はゾッとして、唇が震える。グロテスクなそれはすでに勃起し、血管が浮き出ていた。
 いやだ。ほしい。にげたい。ほしい。
 正反対の思考がぶつかり、わけがわからない。

「すぐにくれてやる」

 ヤグニエが覆いかぶさり、素肌に唇を寄せる。
 淡く色づいた肌を熱い舌が舐め上げた。彼の指が与える刺激に腰が揺れる。中に入れられた物のせいか、肌が敏感になったようだ。

「アァ…ぁっ…っ…」
「そう急くな。もう少しアヌスをほぐしたほうがいい」

 ヤグニエの指を咥えたソコが勝手に締めつける。離したくない、もっとほしいと言うように。
 嫌だ、やめろと叫びたい。しかし、それでもう一つの選択肢が実行されたら――。

「ミカエル」
「っは、あ…」
「快楽に身を任せていればいい」

 指がするりと抜け出て、熱い猛りを押し当てられた。
 身体が震える。
 こんなに嫌だと思うのに、ヒクヒク動く身体は喜んでいるようだ。

「そんな顔をするな。苛めてやりたくなるだろう」

 熱い肉棒がじわりじわりと押し開いてナカに入りこんでくる。

「ッ、」

 圧迫感に息が詰まった。
 いつか暴力的にやられたときのような痛みはなく、満たされていく感覚にゆっくりと息を吐く。

「いいぞ、力を抜け」

 褒めるように髪を撫でられた。

『他の人に、簡単に触らせないでね』

 どうして今――。

『俺の対価が安くなるでしょ。そこは特別感を感じさせてくれないと』

 ――ルシ…。

「……泣くほど嫌か。安心しろ。すぐに違う涙に変えてやる」
「っ……ぁ……」
 
 温かな紅の瞳が頭に浮かんで視界が滲む。
 いつもミカエルが辛いとき、彼が見つけてくれた。しかしここはアクレプン。ブランリスからどれだけ離れているかもわからない異教の地だ。
 まさか自分に、誰かに助けてほしいと思うことがあるなんて…。

 ――ああ、そんな相手に出会えたからというのもあるのか。ルシなら助けてくれると思うから――。
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