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4章.Tractus
ヤグニエの部屋*
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腕を引っ張られる感覚がして、ミカエルはゆるりと目蓋を上げた。ヤグニエの顔が目の前にあり、驚いて頭が回転し始める。
寝かされている。
頭上でまとめて拘束された腕。
四角い天蓋付きのベッドの上だ。深く沈みこむような、複雑な香りが漂っている。
燭台の明かりに、ぼんやりと部屋の様相が浮かんで見えた。
香りの元を辿ってみると、金色の小さな香炉がある。手のこんだ飾りの隙間から白い煙が漂っていた。その向こうに目をやると、壁が様々な模様の描かれたタイルに覆われており、いつかメアリエルが言っていた「異国に来たって感じ」を、ミカエルは初めて味わった。
「お目覚めのようだな、ミカエル」
「……どういうことだ」
身体がうまく動かせない。その上、力も使えないようだ。
手渡された飲み物に何か入っていたのだろう。しかしあのジュースは、いつか飲んだ毒のように違和感のある味はしなかった。
そもそも、ヤグニエから敵意を感じなかったのだ。旅先で異国の商人を見かけることもあり、彼の肌色を見ても警戒心は湧かなかった。
「言っただろう。父上から処罰を任されたと」
ヤグニエは近くのテーブルに置いてあった小刀を手に取り、ミカエルの元へ戻った。
「父上に命じられた処罰は、そなたを不能にすることだ。つまり、これで性器を切り取れってことさ」
「……は、」
ミカエルは固まった。
ヤグニエの顔が近づく。彼は目を細め、ミカエルの頬を小刀の背でそっと撫でた。
「俺が命じられたとき、ムニーラもその場にいた。命を取ることを免れたとはいえ、酷い処罰だ。ムニーラは絶句していたぜ」
ミカエルもまさに今、絶句している。
「俺は妹思いでな。妹が悲しむことはしたくないんだ。眠るそなたを見て考えた。他に方法はないものか」
何にせよ、良からぬことに違いない。
ミカエルは必死に腕の拘束から逃れようとしたが、腕を少し揺らすくらいしかできなかった。
「要は、そなたが男として使い物にならなくなればいい。それなら、方法はある」
ヤグニエは同意を求めるようにかすかに首を傾げ、ミカエルのシャツに手をかけた。そういえば、上着はすでに脱がされている。
「何を、……」
「何? そうだな、ミカエル。俺の子を産め」
直後、シャツを破り捨てられ、ミカエルは唖然とした。幻聴だろうか。なんだか、妙な言葉が聞こえたのだが。
「ほぅ。これは想像以上にそそる身体だ。そなたを見たときから思っていたが、力の融合をする相手がいるのか?」
「……いるけど」
「そそられるわけだ」
「っ、おい、」
するりと腰を撫でられ、身体が揺れた。
「俺は男だッ」
「見ればわかる」
「じゃあ…」
ヤグニエはミカエルの首筋に顔を埋め、舌を這わせる。首をすくめても、舌の動きを止めることはできなかった。
「やめろっ」
「俺にも良心というものがある。唇は奪わないでいてやるよ」
「っああ?」
「疎いな。口付けをするのは好いた相手のみだろう。そのくらいの気遣いは、してやると言っている」
背中に手を添えられ、胸を突き出す格好になっている。ヤグニエはツンと勃った乳首に目を細め、口に含んだ。
「おいっ、やめろってッ」
すっかり頭の片隅に追いやっていた聖学校での体験を思い出す。いつの間にか下に履いていた物も脱がされ、いやらしい手つきで内腿を撫でられていた。
「力の融合をする相手がいると言ったな。経験があるのか」
「……どうでもいいだろ」
「重要なことだ。初体験なら優しくしてやる」
耳を食まれていやいやと首を振る。少しずつ、身体が動くようになっていた。
「それとも、コッチの趣味があるのか」
「っねえよ!」
腋を舐められ、カッとした。
ヤグニエは半信半疑といったふうで、ミカエルの股を開かせる。足を閉じようにも力が入らず、されるがままになっている。
「たしかに、そうらしい」
普段、人に見られないような所をじっくり見られ、ミカエルは眉根を寄せた。
「そなたは、ムニーラを責めるようなことを言わないな」
「……俺をこんな目に遭わせるために近づいたんじゃねえだろ」
「だろうな」
ヤグニエは引き出しから瓶を取り出し、中身を手の平に取って馴染ませた。ミカエルの元へ戻ると、足を持ち上げてよく股を開かせ、お尻の谷間に塗りたくる。
「っ、やめろっ」
「ムニーラが婚姻を控えていることを知らなかったのか」
「……知るわけねえ…っ」
ヤグニエは右手で解すように撫で擦りつつ、左手で素肌の感触を堪能していた。胸の突起を舌で愛撫することも忘れない。
胸元からミカエルを見上げる黄赤の目は熱っぽく、絡みつくような視線だ。ヤグニエはいま、ミカエルを性的対象として見ていた。
――それがイヤなんだ。
身体を好き勝手に触られて、相手の欲望を満たすために使われて。イヤだと思う心とは裏腹に、身体は感じてしまうから。
「っ……っっ…やめろってっ…」
ろくに抵抗できないミカエルは目を瞑って視覚を遮断し、与えられる感覚に耐える。お尻の穴の周りをささやかに撫でていた指先が少しだけ押し入る感覚。入口を拡げるようにゆっくりグルグル動く。じわじわと下腹部に熱が集まっていた。
「感度も良いようだな」
指が出ていったと思ったら、小さな何かがそこを押し拡げて腹の中に入れられた。おもむろに膝の裏を掴んで抱え上げられ腰が浮く。
「ぅあっ?」
「今のはナカを綺麗にしつつ、ここを柔らかくしてくれる優れものだ。こうして奥まで行き届かせる」
ミカエルは上げられている足をなんとか動かし、今度こそヤグニエを追いやろうとする。しかし簡単に捕まえられて、ますます身体を折り曲げられた。
寝かされている。
頭上でまとめて拘束された腕。
四角い天蓋付きのベッドの上だ。深く沈みこむような、複雑な香りが漂っている。
燭台の明かりに、ぼんやりと部屋の様相が浮かんで見えた。
香りの元を辿ってみると、金色の小さな香炉がある。手のこんだ飾りの隙間から白い煙が漂っていた。その向こうに目をやると、壁が様々な模様の描かれたタイルに覆われており、いつかメアリエルが言っていた「異国に来たって感じ」を、ミカエルは初めて味わった。
「お目覚めのようだな、ミカエル」
「……どういうことだ」
身体がうまく動かせない。その上、力も使えないようだ。
手渡された飲み物に何か入っていたのだろう。しかしあのジュースは、いつか飲んだ毒のように違和感のある味はしなかった。
そもそも、ヤグニエから敵意を感じなかったのだ。旅先で異国の商人を見かけることもあり、彼の肌色を見ても警戒心は湧かなかった。
「言っただろう。父上から処罰を任されたと」
ヤグニエは近くのテーブルに置いてあった小刀を手に取り、ミカエルの元へ戻った。
「父上に命じられた処罰は、そなたを不能にすることだ。つまり、これで性器を切り取れってことさ」
「……は、」
ミカエルは固まった。
ヤグニエの顔が近づく。彼は目を細め、ミカエルの頬を小刀の背でそっと撫でた。
「俺が命じられたとき、ムニーラもその場にいた。命を取ることを免れたとはいえ、酷い処罰だ。ムニーラは絶句していたぜ」
ミカエルもまさに今、絶句している。
「俺は妹思いでな。妹が悲しむことはしたくないんだ。眠るそなたを見て考えた。他に方法はないものか」
何にせよ、良からぬことに違いない。
ミカエルは必死に腕の拘束から逃れようとしたが、腕を少し揺らすくらいしかできなかった。
「要は、そなたが男として使い物にならなくなればいい。それなら、方法はある」
ヤグニエは同意を求めるようにかすかに首を傾げ、ミカエルのシャツに手をかけた。そういえば、上着はすでに脱がされている。
「何を、……」
「何? そうだな、ミカエル。俺の子を産め」
直後、シャツを破り捨てられ、ミカエルは唖然とした。幻聴だろうか。なんだか、妙な言葉が聞こえたのだが。
「ほぅ。これは想像以上にそそる身体だ。そなたを見たときから思っていたが、力の融合をする相手がいるのか?」
「……いるけど」
「そそられるわけだ」
「っ、おい、」
するりと腰を撫でられ、身体が揺れた。
「俺は男だッ」
「見ればわかる」
「じゃあ…」
ヤグニエはミカエルの首筋に顔を埋め、舌を這わせる。首をすくめても、舌の動きを止めることはできなかった。
「やめろっ」
「俺にも良心というものがある。唇は奪わないでいてやるよ」
「っああ?」
「疎いな。口付けをするのは好いた相手のみだろう。そのくらいの気遣いは、してやると言っている」
背中に手を添えられ、胸を突き出す格好になっている。ヤグニエはツンと勃った乳首に目を細め、口に含んだ。
「おいっ、やめろってッ」
すっかり頭の片隅に追いやっていた聖学校での体験を思い出す。いつの間にか下に履いていた物も脱がされ、いやらしい手つきで内腿を撫でられていた。
「力の融合をする相手がいると言ったな。経験があるのか」
「……どうでもいいだろ」
「重要なことだ。初体験なら優しくしてやる」
耳を食まれていやいやと首を振る。少しずつ、身体が動くようになっていた。
「それとも、コッチの趣味があるのか」
「っねえよ!」
腋を舐められ、カッとした。
ヤグニエは半信半疑といったふうで、ミカエルの股を開かせる。足を閉じようにも力が入らず、されるがままになっている。
「たしかに、そうらしい」
普段、人に見られないような所をじっくり見られ、ミカエルは眉根を寄せた。
「そなたは、ムニーラを責めるようなことを言わないな」
「……俺をこんな目に遭わせるために近づいたんじゃねえだろ」
「だろうな」
ヤグニエは引き出しから瓶を取り出し、中身を手の平に取って馴染ませた。ミカエルの元へ戻ると、足を持ち上げてよく股を開かせ、お尻の谷間に塗りたくる。
「っ、やめろっ」
「ムニーラが婚姻を控えていることを知らなかったのか」
「……知るわけねえ…っ」
ヤグニエは右手で解すように撫で擦りつつ、左手で素肌の感触を堪能していた。胸の突起を舌で愛撫することも忘れない。
胸元からミカエルを見上げる黄赤の目は熱っぽく、絡みつくような視線だ。ヤグニエはいま、ミカエルを性的対象として見ていた。
――それがイヤなんだ。
身体を好き勝手に触られて、相手の欲望を満たすために使われて。イヤだと思う心とは裏腹に、身体は感じてしまうから。
「っ……っっ…やめろってっ…」
ろくに抵抗できないミカエルは目を瞑って視覚を遮断し、与えられる感覚に耐える。お尻の穴の周りをささやかに撫でていた指先が少しだけ押し入る感覚。入口を拡げるようにゆっくりグルグル動く。じわじわと下腹部に熱が集まっていた。
「感度も良いようだな」
指が出ていったと思ったら、小さな何かがそこを押し拡げて腹の中に入れられた。おもむろに膝の裏を掴んで抱え上げられ腰が浮く。
「ぅあっ?」
「今のはナカを綺麗にしつつ、ここを柔らかくしてくれる優れものだ。こうして奥まで行き届かせる」
ミカエルは上げられている足をなんとか動かし、今度こそヤグニエを追いやろうとする。しかし簡単に捕まえられて、ますます身体を折り曲げられた。
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