God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

日灯

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4章.Tractus

乾杯、乾杯

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 翌日、例の町を避け、ミカエルたちは旅を続けた。町の人への対応は、ザプキエルがどうにかしてくれたと信じるしかない。
 考えても答えの出ないことを頭から追いやり、足を進ませる。途中でゾフィエルがやって来て、新たなデビル退治の任務を与えられた。
 瞬間移動した先は、小さな町だった。
 緑のつたに覆われた家が多く、淡いピンクの薔薇がそこここに咲いている。それでか、町は明るい雰囲気に包まれていた。

「目撃情報があったのはあの森だ。では、頼む」
「おう」

 ちょうど昼時だ。

「ここで何か食ってこうぜ」
「そうしよう」

 こうして二人は目についた食事処に入った。アットホームな雰囲気で、そこそこ賑わっている。

「いらっしゃい」

 二人は空いているテーブルを見つけ、オススメのメニューを頼んだ。店のオススメを頼んで外したことはない。
 隣のテーブルの男たちは昼間から酒を飲んでおり、何やら盛り上がっている。

「だけんさ、お姫さんが逃げちまったんだろ」
「姫さん一人に何ができる。勝ちは勝ちだ」

 姫という単語が引っかかり、ミカエルは隣のテーブルに声をかけた。

「どこの姫の話だ?」
「あ? ……あんたぁ、軍人か。知らんのかいね」
「俺らがやってんのはデビル退治だ」

 ミカエルは肩をすくめる。

「へぇ…。こんな辺鄙へんぴな所までご苦労な」
「ブランデレン公国だよ」

 そういえば、バラキエルとラムエルが、戦が始まったと話していた。そしてどうやら、近くの森でデビルが出没したことを彼らは知らないらしい。

「戦、終わったのか」
「おう。ブランリスの勝利だ!」
「だけん、祝い酒」
「俺らは何もしてねえけどな」
「商売がやりやすくなる。こりゃ、祝わんとだろ」
「ほれ、乾杯乾杯」

 促され、ミカエルも水の入ったグラスで乾杯をした。この町の人々は、実際、浮かれていたわけである。

「その、姫さんってのは?」
「ああ、ロゼローズが出張でばって来たらしくてよ」
「逃がしちまったらしい」
「ブランデレンはロゼローズ寄りだったからな」
「関係ねぇ関係ねぇ。城は陥落かんらくしたんだ。俺らの勝ち」

 ミカエルは運ばれてきた料理を食らう。なんの肉かわからないが、柔らかくて上手い。ルシエルも、ミカエルの反応を見てフォークを動かした。

「そういや、デビル退治してるってよ、あんたぁ、ミカエルかい」
「そうだけど」
「へぇ! あんたが!」
「まっこと見事な金髪だ」
「ミカエルに会えるなんて、こりゃ目出度ぇ! 乾杯だ乾杯!」

 酔っぱらった男たちは陽気で、ミカエルは食事を終えるまでに何度も水で乾杯することになった。

「なんか、もうやり終えた気分だな」

 店を出たミカエルは小さく息を吐く。ルシエルは肩をすくめて、ゆったりと足を踏み出した。
 小さな町を出て、森のほうへ向かう。
 馬車も通れないような細い道だ。行き交う人の姿も見えない。あの町の人々も、こちら側にはあまり来ないのかもしれない。
 少しして、森に入った。まだ日が高い。木々の合間から差し込む光。緑の中を歩いていると、心が安らぐ。
 穏やかな上りの途中、道が二手に分かれていた。そのまま上る道と、横から合流するような道だ。その道の方を向いたとき、ちょうど歩いてくる人たちが目についた。
 フードを目深に被った人を囲むように三人が歩いている。どことなく妙な気がして、ミカエルは足を止めた。先頭を歩いていた二十歳前後の人物が帽子の下から視線を寄越す。
 目が合って、睨まれた。目尻が垂れているが、タレ目ではない。それに、この髪や目の色――。
 
「ブランリスの軍人か…!」
「そうだけど俺らは、」
「フッ、ここは何が何でも通してもらう!」

 相手はシャラと剣を抜き、走り込んできた。
 俊敏な動きだ。
 ミカエルも剣を抜き、相手の剣を受け流す。

「貴様、ミカエルか⁉」
 
 相手の顔が一瞬、驚きに染まった。
 次に驚いたのはミカエルだ。

「女…!?」

 恰好から男と思いこんでいたが、近づいて見ると女に違いない。
 繰り出される剣劇。
 一つ一つに重みがある。これは実践を知っている剣だと思った。

 ――なかなかやるじゃねえか。

 彼女は、ミカエルのなかの女性像を見事に打ち砕いた。

「今のミカエルはデビル退治が専門だと聞いたが?」
「だからっ、デビル退治に来たんだよ!」
「この森にデビルが出たとでも!?」
「ああ、そうだ」

 相手の剣をさっと避け、その流れで薙ぎ払う。

「おまえはロゼローズの王族か」

 剣を吹っ飛ばされてなお、毅然きぜんとミカエルを捉えている。彼女には、いつかのパーティーで会ったロゼローズ王国の王という人物の面影があった。
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