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4章.Tractus
乾杯、乾杯
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翌日、例の町を避け、ミカエルたちは旅を続けた。町の人への対応は、ザプキエルがどうにかしてくれたと信じるしかない。
考えても答えの出ないことを頭から追いやり、足を進ませる。途中でゾフィエルがやって来て、新たなデビル退治の任務を与えられた。
瞬間移動した先は、小さな町だった。
緑の蔦に覆われた家が多く、淡いピンクの薔薇がそこここに咲いている。それでか、町は明るい雰囲気に包まれていた。
「目撃情報があったのはあの森だ。では、頼む」
「おう」
ちょうど昼時だ。
「ここで何か食ってこうぜ」
「そうしよう」
こうして二人は目についた食事処に入った。アットホームな雰囲気で、そこそこ賑わっている。
「いらっしゃい」
二人は空いているテーブルを見つけ、オススメのメニューを頼んだ。店のオススメを頼んで外したことはない。
隣のテーブルの男たちは昼間から酒を飲んでおり、何やら盛り上がっている。
「だけんさ、お姫さんが逃げちまったんだろ」
「姫さん一人に何ができる。勝ちは勝ちだ」
姫という単語が引っかかり、ミカエルは隣のテーブルに声をかけた。
「どこの姫の話だ?」
「あ? ……あんたぁ、軍人か。知らんのかいね」
「俺らがやってんのはデビル退治だ」
ミカエルは肩をすくめる。
「へぇ…。こんな辺鄙な所までご苦労な」
「ブランデレン公国だよ」
そういえば、バラキエルとラムエルが、戦が始まったと話していた。そしてどうやら、近くの森でデビルが出没したことを彼らは知らないらしい。
「戦、終わったのか」
「おう。ブランリスの勝利だ!」
「だけん、祝い酒」
「俺らは何もしてねえけどな」
「商売がやりやすくなる。こりゃ、祝わんとだろ」
「ほれ、乾杯乾杯」
促され、ミカエルも水の入ったグラスで乾杯をした。この町の人々は、実際、浮かれていたわけである。
「その、姫さんってのは?」
「ああ、ロゼローズが出張って来たらしくてよ」
「逃がしちまったらしい」
「ブランデレンはロゼローズ寄りだったからな」
「関係ねぇ関係ねぇ。城は陥落したんだ。俺らの勝ち」
ミカエルは運ばれてきた料理を食らう。なんの肉かわからないが、柔らかくて上手い。ルシエルも、ミカエルの反応を見てフォークを動かした。
「そういや、デビル退治してるってよ、あんたぁ、ミカエルかい」
「そうだけど」
「へぇ! あんたが!」
「まっこと見事な金髪だ」
「ミカエルに会えるなんて、こりゃ目出度ぇ! 乾杯だ乾杯!」
酔っぱらった男たちは陽気で、ミカエルは食事を終えるまでに何度も水で乾杯することになった。
「なんか、もうやり終えた気分だな」
店を出たミカエルは小さく息を吐く。ルシエルは肩をすくめて、ゆったりと足を踏み出した。
小さな町を出て、森のほうへ向かう。
馬車も通れないような細い道だ。行き交う人の姿も見えない。あの町の人々も、こちら側にはあまり来ないのかもしれない。
少しして、森に入った。まだ日が高い。木々の合間から差し込む光。緑の中を歩いていると、心が安らぐ。
穏やかな上りの途中、道が二手に分かれていた。そのまま上る道と、横から合流するような道だ。その道の方を向いたとき、ちょうど歩いてくる人たちが目についた。
フードを目深に被った人を囲むように三人が歩いている。どことなく妙な気がして、ミカエルは足を止めた。先頭を歩いていた二十歳前後の人物が帽子の下から視線を寄越す。
目が合って、睨まれた。目尻が垂れているが、タレ目ではない。それに、この髪や目の色――。
「ブランリスの軍人か…!」
「そうだけど俺らは、」
「フッ、ここは何が何でも通してもらう!」
相手はシャラと剣を抜き、走り込んできた。
俊敏な動きだ。
ミカエルも剣を抜き、相手の剣を受け流す。
「貴様、ミカエルか⁉」
相手の顔が一瞬、驚きに染まった。
次に驚いたのはミカエルだ。
「女…!?」
恰好から男と思いこんでいたが、近づいて見ると女に違いない。
繰り出される剣劇。
一つ一つに重みがある。これは実践を知っている剣だと思った。
――なかなかやるじゃねえか。
彼女は、ミカエルのなかの女性像を見事に打ち砕いた。
「今のミカエルはデビル退治が専門だと聞いたが?」
「だからっ、デビル退治に来たんだよ!」
「この森にデビルが出たとでも!?」
「ああ、そうだ」
相手の剣をさっと避け、その流れで薙ぎ払う。
「おまえはロゼローズの王族か」
剣を吹っ飛ばされてなお、毅然とミカエルを捉えている。彼女には、いつかのパーティーで会ったロゼローズ王国の王という人物の面影があった。
考えても答えの出ないことを頭から追いやり、足を進ませる。途中でゾフィエルがやって来て、新たなデビル退治の任務を与えられた。
瞬間移動した先は、小さな町だった。
緑の蔦に覆われた家が多く、淡いピンクの薔薇がそこここに咲いている。それでか、町は明るい雰囲気に包まれていた。
「目撃情報があったのはあの森だ。では、頼む」
「おう」
ちょうど昼時だ。
「ここで何か食ってこうぜ」
「そうしよう」
こうして二人は目についた食事処に入った。アットホームな雰囲気で、そこそこ賑わっている。
「いらっしゃい」
二人は空いているテーブルを見つけ、オススメのメニューを頼んだ。店のオススメを頼んで外したことはない。
隣のテーブルの男たちは昼間から酒を飲んでおり、何やら盛り上がっている。
「だけんさ、お姫さんが逃げちまったんだろ」
「姫さん一人に何ができる。勝ちは勝ちだ」
姫という単語が引っかかり、ミカエルは隣のテーブルに声をかけた。
「どこの姫の話だ?」
「あ? ……あんたぁ、軍人か。知らんのかいね」
「俺らがやってんのはデビル退治だ」
ミカエルは肩をすくめる。
「へぇ…。こんな辺鄙な所までご苦労な」
「ブランデレン公国だよ」
そういえば、バラキエルとラムエルが、戦が始まったと話していた。そしてどうやら、近くの森でデビルが出没したことを彼らは知らないらしい。
「戦、終わったのか」
「おう。ブランリスの勝利だ!」
「だけん、祝い酒」
「俺らは何もしてねえけどな」
「商売がやりやすくなる。こりゃ、祝わんとだろ」
「ほれ、乾杯乾杯」
促され、ミカエルも水の入ったグラスで乾杯をした。この町の人々は、実際、浮かれていたわけである。
「その、姫さんってのは?」
「ああ、ロゼローズが出張って来たらしくてよ」
「逃がしちまったらしい」
「ブランデレンはロゼローズ寄りだったからな」
「関係ねぇ関係ねぇ。城は陥落したんだ。俺らの勝ち」
ミカエルは運ばれてきた料理を食らう。なんの肉かわからないが、柔らかくて上手い。ルシエルも、ミカエルの反応を見てフォークを動かした。
「そういや、デビル退治してるってよ、あんたぁ、ミカエルかい」
「そうだけど」
「へぇ! あんたが!」
「まっこと見事な金髪だ」
「ミカエルに会えるなんて、こりゃ目出度ぇ! 乾杯だ乾杯!」
酔っぱらった男たちは陽気で、ミカエルは食事を終えるまでに何度も水で乾杯することになった。
「なんか、もうやり終えた気分だな」
店を出たミカエルは小さく息を吐く。ルシエルは肩をすくめて、ゆったりと足を踏み出した。
小さな町を出て、森のほうへ向かう。
馬車も通れないような細い道だ。行き交う人の姿も見えない。あの町の人々も、こちら側にはあまり来ないのかもしれない。
少しして、森に入った。まだ日が高い。木々の合間から差し込む光。緑の中を歩いていると、心が安らぐ。
穏やかな上りの途中、道が二手に分かれていた。そのまま上る道と、横から合流するような道だ。その道の方を向いたとき、ちょうど歩いてくる人たちが目についた。
フードを目深に被った人を囲むように三人が歩いている。どことなく妙な気がして、ミカエルは足を止めた。先頭を歩いていた二十歳前後の人物が帽子の下から視線を寄越す。
目が合って、睨まれた。目尻が垂れているが、タレ目ではない。それに、この髪や目の色――。
「ブランリスの軍人か…!」
「そうだけど俺らは、」
「フッ、ここは何が何でも通してもらう!」
相手はシャラと剣を抜き、走り込んできた。
俊敏な動きだ。
ミカエルも剣を抜き、相手の剣を受け流す。
「貴様、ミカエルか⁉」
相手の顔が一瞬、驚きに染まった。
次に驚いたのはミカエルだ。
「女…!?」
恰好から男と思いこんでいたが、近づいて見ると女に違いない。
繰り出される剣劇。
一つ一つに重みがある。これは実践を知っている剣だと思った。
――なかなかやるじゃねえか。
彼女は、ミカエルのなかの女性像を見事に打ち砕いた。
「今のミカエルはデビル退治が専門だと聞いたが?」
「だからっ、デビル退治に来たんだよ!」
「この森にデビルが出たとでも!?」
「ああ、そうだ」
相手の剣をさっと避け、その流れで薙ぎ払う。
「おまえはロゼローズの王族か」
剣を吹っ飛ばされてなお、毅然とミカエルを捉えている。彼女には、いつかのパーティーで会ったロゼローズ王国の王という人物の面影があった。
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