God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

日灯

文字の大きさ
上 下
35 / 174
3章.Graduale

悪魔に願いを、君にベッドを

しおりを挟む
 ミカエルは首を傾げる。

「それでデビルができんのか?」
「いや。石に蓄えられた憎しみなどの思念は、本人が望んだ相手の元へいく。それにまとわりつかれると、体調を崩したり、精神が不安定になるんだ」

 小さな石にそのような感情を籠めたところで、それくらいしかできないとゾフィエルは語った。

「じゃあ、デビルはどうしたら産まれんだ?」
「もっと大きな石をもちいて、多くの負の感情を取り込ませる必要があると聞く」
「簡単にはできねえってことか」
「ああ。悪魔崇拝の団体が儀式を行うなどして、造りだすようだ」

 そのような団体は、デビルを出現させることに意味を見出しているという。

「ぜんっぜんわかんねぇ」
「デビルが増えれば、悪魔が喜ぶとでも思っているのだろう」
「悪魔喜ばしてどうすんだよ」
「自分たちの願いを、叶えてもらいたいのだろうな」

 ミカエルは半目になって言う。

「そもそも、悪魔なんていんの?」
「さて、」
「それを言うなら、神も同じですな」

 アズラエルの言葉に、ミカエルは口を噤んだ。
 神を信じるか、悪魔を信じるか。どちらも、心根は同じなのだろう。

「そういった団体の取り締まりは教会がやっている。国としては、デビル退治をやるのみだ」

 ミカエルは頷いて、ふと思い出す。

「人売りはどこも取り締まってねえんだな」
「……それは悪習の一つだ。国の発展のため、多大な労働力が必要な時は確かにあった」

 ミカエルが求めた答えにはなっていないと、口にしてからゾフィエルは思う。
 息を吐き、改めて真っ直ぐな瞳を見詰めた。

「彼らを同じ人間と捉えられる者は、あまりに稀有なのだよ」

 多くの人は、そこに問題意識を抱いたりしない。国や教会にとって悪いことがあるわけでもないので、どちらもわざわざ取り締まったりしないのだ。

「なんで、……」

 ミカエルには、ゾフィエルの言葉こそ理解しがたいことだった。どう見ても、彼らは人間だったからだ。
 澄んだ瞳を前に、ゾフィエルは言葉を失う。
 代わりに口を開いたのは、アズラエルだった。

「人は元来、野蛮な生き物です。宗教をもってして、愛を説いている。そのお陰で、同じ宗教の者には同胞として、他人であろうと愛ある行動が取れるのです」

 宗教がなかったら、自分本意な人間たちは他人に心を配ることなどできないだろう。そう語ったアズラエルの声には、どこか侮辱的な響きがあった。

「けれど、一概には言えないようですね」
 
 そっとミカエルの頬を撫でたアズラエルの唇は、優しい微笑を浮かべていた。

 コーヒーを飲んで一服した二人は、ルシエルのベッド作りに精を出す。
 揶揄やゆされたため、熱々のコーヒーをそのまま飲んだミカエルだったが、やはり火傷し、涙目でフーフーすることになった。睨んでもルシエルはくつくつ笑っていた。けれど最後には「舌出して」と言い、ミカエルが半目でベッと舌を出すと、手を翳して治癒してくれたのだった。
 ベッド作りには、細めの木をそのまま使う。なめらかで手触りの良い木だ。切りだした木の長さを整え、皮を剥いてはめ込む場所を小さくカットしたりして、組み立てられるようにする。木の長さは目算。ルシエルの身長に合わせて作るベッドは、ミカエルのベッドより少し大きい気がする。

「君は器用だな」

 細かいカッティングを施すミカエルを、ルシエルは座って眺める。

「おまえだってやればできるだろ。やろうとしねえだけで」

 ミカエルは彼をジト目で見やった。ルシエルはやればできそうなのにやらない事が多い気がする。あとは嵌め込むだけという木を布巾で磨きながら、ルシエルは肩をすくめていた。
 部品が揃ったら、組み立てだ。
 物置と化していたロフトは綺麗に片付けられている。手作りのベッドには、なんとも言えない温もりがあった。ヘッド部分に用いた木は、それぞれが微妙に曲がっている。木そのものの個性を感じられるベッドである。
 
「上出来だろ」

 ミカエルは腰に手を当て、クッと口角を上げる。

「わるくない」

 ルシエルも艶やかな唇に弧を描いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...