27 / 174
3章.Graduale
伝説の兄弟
しおりを挟む
翌日、ミカエルたちはコルセの街にいた。
街には立派な図書館があったため、寄ってみることに。置かれている本は、騎士道物語や各地の伝承、異文化に関する本など、聖学校の図書館より幅広い。聖学校では禁書になっていた異国の本も、普通に置かれていた。
「色んな本があるんだな」
「ここは特にそうかもしれない」
「けど、デビルって字は見かけねえ」
「それはさすがに」
「わかんねえぜ? ……お」
ミカエルは怪しげな表紙が気になり、『錬金術の歴史』と書かれた本を手に取る。目次には不老不死という言葉もあって、興味が湧いた。しかし、その本に書かれていたのは錬金術が扱う研究内容の推移についてで、肝心の研究に関しては書かれていなかった。
本を戻して、周辺の本棚に目をやる。
「錬金術の本はねえの?」
「彼らが秘密主義らしいのは聞いたことがある」
「そいつらだったら、何か知ってるかもな」
純真な瞳に、ルシエルは肩をすくめた。
本棚の間を歩いていたとき、ふと目についた青い本。白字で『ルムドゥグ伝説』と書かれている。
「ルムドゥグって?」
「この地の古い名前だ」
ルシエルが本に手を伸ばす。
彼が開いて見せてくれたページには、アジェ兄弟の活躍というタイトルがあり、目を通したミカエルは片眉を上げた。そこに、アジェ家の二人の息子たち、ルシエルとミカエルの物語が書かれていたのだ。
「例の伝承か」
「そうとも、弟くん」
ミカエルは鼻で笑って物語を読む。
――いきなりやって来た移民たちは奪うことしか知らない暴徒で、この地に住まう者たちは、彼らと対立せざるを得なかった。彼らは見知らぬ兵器を携えていた。それに対してこの地に住まう者たちは、秘めたる力で対抗した。この地を守る精霊の加護により類い稀なる美貌と能力を兼ね揃えたアジェ兄弟の活躍が、この地を守ったのである――。
「類稀なる美貌と能力」
「力が強い者は、容姿も優れていると考えられている」
ミカエルは振り返ってルシエルの顔を見る。そして、納得した。
ルシエルはかすかに首を傾げ、口を開いた。
「この地は教会勢力がそこまで強くなさそうだ。でなければ、精霊が登場するバージョンは置いておけない」
「そういや、精霊って初めて聞いたな。ホントにいるのか?」
「古くからある民間信仰だ。本当にいるかどうかはわからない」
ミカエルは目を瞬いた。
「わからない?」
「世界には見えない存在もいる。同じ場所にいても、異なる次元にいれば交わらない。俺は会ったことがないけれど、だからといって、精霊が存在しないとは言いきれない」
「じげんと場所は違うのか」
「場所の違いは位置の違い、次元の違いは振動数の違い。振動数が上がると非物質になって見えなくなる。精霊が俺たちより高次元に存在するなら、目にすることは叶わない」
ルシエルは本を戻して歩きだす。ミカエルもそれに続いた。
「彼らは意図的に振動数を落とし、俺たちと関わりを持つことができる」
「へぇ」
「会ったことのある人がいてもおかしくない」
「もし神がいるなら、神もそうかもな」
「……そうだな」
睫毛を伏せた彼の横顔。気になったが、ミカエルは前を向いて沈黙に乗った。
雑踏を歩いていると、やはり視線を感じる。昨日は真新しさに目を奪われ、あまり気にならなかったのだ。軍服を着ているというのも、理由の一つだろう。向けられる感情はあまり好意的ではない。
ミカエルは、平然としているルシエルにこっそり尋ねた。
「なぁ、軍人って嫌われてんのか」
「戦に勝ったあと、彼らがやることと言ったら強奪だ。金目の物に酒に女。ほしいものはなんでも奪い取る」
「最悪じゃねえか」
ミカエルは顔をしかめた。
「この恰好、デビル退治のときだけでよくねえか」
「それなら、家に戻って着替えよう」
そうして二人は、森の家に瞬間移動した。
玄関前にて、鍵を開けるミカエルを眺めてルシエルが口を開く。
「この家はお師匠さんが?」
「荒れてた家を住めるようにしたって聞いたぜ」
「家の中に瞬間移動できないようになっている。お師匠さんは、なかなかの術師だ」
ミカエルは振り返って目を瞬いた。そういえば、家の中に瞬間移動しようと思ったことはない。やろうとしてみると、家の内部のイメージがあやふやになって無理だった。
「……気づかなかった」
「気づかないほど自然に回避させている」
「師匠、すげー」
ミカエルは無邪気に目を輝かせ、家に入った。
どうやら、彼をただの美少年にできるのはクリスだけではなかったようだ。ルシエルは小さく息を吐き、足を踏みだした。
街には立派な図書館があったため、寄ってみることに。置かれている本は、騎士道物語や各地の伝承、異文化に関する本など、聖学校の図書館より幅広い。聖学校では禁書になっていた異国の本も、普通に置かれていた。
「色んな本があるんだな」
「ここは特にそうかもしれない」
「けど、デビルって字は見かけねえ」
「それはさすがに」
「わかんねえぜ? ……お」
ミカエルは怪しげな表紙が気になり、『錬金術の歴史』と書かれた本を手に取る。目次には不老不死という言葉もあって、興味が湧いた。しかし、その本に書かれていたのは錬金術が扱う研究内容の推移についてで、肝心の研究に関しては書かれていなかった。
本を戻して、周辺の本棚に目をやる。
「錬金術の本はねえの?」
「彼らが秘密主義らしいのは聞いたことがある」
「そいつらだったら、何か知ってるかもな」
純真な瞳に、ルシエルは肩をすくめた。
本棚の間を歩いていたとき、ふと目についた青い本。白字で『ルムドゥグ伝説』と書かれている。
「ルムドゥグって?」
「この地の古い名前だ」
ルシエルが本に手を伸ばす。
彼が開いて見せてくれたページには、アジェ兄弟の活躍というタイトルがあり、目を通したミカエルは片眉を上げた。そこに、アジェ家の二人の息子たち、ルシエルとミカエルの物語が書かれていたのだ。
「例の伝承か」
「そうとも、弟くん」
ミカエルは鼻で笑って物語を読む。
――いきなりやって来た移民たちは奪うことしか知らない暴徒で、この地に住まう者たちは、彼らと対立せざるを得なかった。彼らは見知らぬ兵器を携えていた。それに対してこの地に住まう者たちは、秘めたる力で対抗した。この地を守る精霊の加護により類い稀なる美貌と能力を兼ね揃えたアジェ兄弟の活躍が、この地を守ったのである――。
「類稀なる美貌と能力」
「力が強い者は、容姿も優れていると考えられている」
ミカエルは振り返ってルシエルの顔を見る。そして、納得した。
ルシエルはかすかに首を傾げ、口を開いた。
「この地は教会勢力がそこまで強くなさそうだ。でなければ、精霊が登場するバージョンは置いておけない」
「そういや、精霊って初めて聞いたな。ホントにいるのか?」
「古くからある民間信仰だ。本当にいるかどうかはわからない」
ミカエルは目を瞬いた。
「わからない?」
「世界には見えない存在もいる。同じ場所にいても、異なる次元にいれば交わらない。俺は会ったことがないけれど、だからといって、精霊が存在しないとは言いきれない」
「じげんと場所は違うのか」
「場所の違いは位置の違い、次元の違いは振動数の違い。振動数が上がると非物質になって見えなくなる。精霊が俺たちより高次元に存在するなら、目にすることは叶わない」
ルシエルは本を戻して歩きだす。ミカエルもそれに続いた。
「彼らは意図的に振動数を落とし、俺たちと関わりを持つことができる」
「へぇ」
「会ったことのある人がいてもおかしくない」
「もし神がいるなら、神もそうかもな」
「……そうだな」
睫毛を伏せた彼の横顔。気になったが、ミカエルは前を向いて沈黙に乗った。
雑踏を歩いていると、やはり視線を感じる。昨日は真新しさに目を奪われ、あまり気にならなかったのだ。軍服を着ているというのも、理由の一つだろう。向けられる感情はあまり好意的ではない。
ミカエルは、平然としているルシエルにこっそり尋ねた。
「なぁ、軍人って嫌われてんのか」
「戦に勝ったあと、彼らがやることと言ったら強奪だ。金目の物に酒に女。ほしいものはなんでも奪い取る」
「最悪じゃねえか」
ミカエルは顔をしかめた。
「この恰好、デビル退治のときだけでよくねえか」
「それなら、家に戻って着替えよう」
そうして二人は、森の家に瞬間移動した。
玄関前にて、鍵を開けるミカエルを眺めてルシエルが口を開く。
「この家はお師匠さんが?」
「荒れてた家を住めるようにしたって聞いたぜ」
「家の中に瞬間移動できないようになっている。お師匠さんは、なかなかの術師だ」
ミカエルは振り返って目を瞬いた。そういえば、家の中に瞬間移動しようと思ったことはない。やろうとしてみると、家の内部のイメージがあやふやになって無理だった。
「……気づかなかった」
「気づかないほど自然に回避させている」
「師匠、すげー」
ミカエルは無邪気に目を輝かせ、家に入った。
どうやら、彼をただの美少年にできるのはクリスだけではなかったようだ。ルシエルは小さく息を吐き、足を踏みだした。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!
梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。
あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。
突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。
何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……?
人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。
僕って最低最悪な王子じゃん!?
このままだと、破滅的未来しか残ってないし!
心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!?
これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!?
前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー!
騎士×王子の王道カップリングでお送りします。
第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。
本当にありがとうございます!!
※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる