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3章.Graduale
伝説の兄弟
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翌日、ミカエルたちはコルセの街にいた。
街には立派な図書館があったため、寄ってみることに。置かれている本は、騎士道物語や各地の伝承、異文化に関する本など、聖学校の図書館より幅広い。聖学校では禁書になっていた異国の本も、普通に置かれていた。
「色んな本があるんだな」
「ここは特にそうかもしれない」
「けど、デビルって字は見かけねえ」
「それはさすがに」
「わかんねえぜ? ……お」
ミカエルは怪しげな表紙が気になり、『錬金術の歴史』と書かれた本を手に取る。目次には不老不死という言葉もあって、興味が湧いた。しかし、その本に書かれていたのは錬金術が扱う研究内容の推移についてで、肝心の研究に関しては書かれていなかった。
本を戻して、周辺の本棚に目をやる。
「錬金術の本はねえの?」
「彼らが秘密主義らしいのは聞いたことがある」
「そいつらだったら、何か知ってるかもな」
純真な瞳に、ルシエルは肩をすくめた。
本棚の間を歩いていたとき、ふと目についた青い本。白字で『ルムドゥグ伝説』と書かれている。
「ルムドゥグって?」
「この地の古い名前だ」
ルシエルが本に手を伸ばす。
彼が開いて見せてくれたページには、アジェ兄弟の活躍というタイトルがあり、目を通したミカエルは片眉を上げた。そこに、アジェ家の二人の息子たち、ルシエルとミカエルの物語が書かれていたのだ。
「例の伝承か」
「そうとも、弟くん」
ミカエルは鼻で笑って物語を読む。
――いきなりやって来た移民たちは奪うことしか知らない暴徒で、この地に住まう者たちは、彼らと対立せざるを得なかった。彼らは見知らぬ兵器を携えていた。それに対してこの地に住まう者たちは、秘めたる力で対抗した。この地を守る精霊の加護により類い稀なる美貌と能力を兼ね揃えたアジェ兄弟の活躍が、この地を守ったのである――。
「類稀なる美貌と能力」
「力が強い者は、容姿も優れていると考えられている」
ミカエルは振り返ってルシエルの顔を見る。そして、納得した。
ルシエルはかすかに首を傾げ、口を開いた。
「この地は教会勢力がそこまで強くなさそうだ。でなければ、精霊が登場するバージョンは置いておけない」
「そういや、精霊って初めて聞いたな。ホントにいるのか?」
「古くからある民間信仰だ。本当にいるかどうかはわからない」
ミカエルは目を瞬いた。
「わからない?」
「世界には見えない存在もいる。同じ場所にいても、異なる次元にいれば交わらない。俺は会ったことがないけれど、だからといって、精霊が存在しないとは言いきれない」
「じげんと場所は違うのか」
「場所の違いは位置の違い、次元の違いは振動数の違い。振動数が上がると非物質になって見えなくなる。精霊が俺たちより高次元に存在するなら、目にすることは叶わない」
ルシエルは本を戻して歩きだす。ミカエルもそれに続いた。
「彼らは意図的に振動数を落とし、俺たちと関わりを持つことができる」
「へぇ」
「会ったことのある人がいてもおかしくない」
「もし神がいるなら、神もそうかもな」
「……そうだな」
睫毛を伏せた彼の横顔。気になったが、ミカエルは前を向いて沈黙に乗った。
雑踏を歩いていると、やはり視線を感じる。昨日は真新しさに目を奪われ、あまり気にならなかったのだ。軍服を着ているというのも、理由の一つだろう。向けられる感情はあまり好意的ではない。
ミカエルは、平然としているルシエルにこっそり尋ねた。
「なぁ、軍人って嫌われてんのか」
「戦に勝ったあと、彼らがやることと言ったら強奪だ。金目の物に酒に女。ほしいものはなんでも奪い取る」
「最悪じゃねえか」
ミカエルは顔をしかめた。
「この恰好、デビル退治のときだけでよくねえか」
「それなら、家に戻って着替えよう」
そうして二人は、森の家に瞬間移動した。
玄関前にて、鍵を開けるミカエルを眺めてルシエルが口を開く。
「この家はお師匠さんが?」
「荒れてた家を住めるようにしたって聞いたぜ」
「家の中に瞬間移動できないようになっている。お師匠さんは、なかなかの術師だ」
ミカエルは振り返って目を瞬いた。そういえば、家の中に瞬間移動しようと思ったことはない。やろうとしてみると、家の内部のイメージがあやふやになって無理だった。
「……気づかなかった」
「気づかないほど自然に回避させている」
「師匠、すげー」
ミカエルは無邪気に目を輝かせ、家に入った。
どうやら、彼をただの美少年にできるのはクリスだけではなかったようだ。ルシエルは小さく息を吐き、足を踏みだした。
街には立派な図書館があったため、寄ってみることに。置かれている本は、騎士道物語や各地の伝承、異文化に関する本など、聖学校の図書館より幅広い。聖学校では禁書になっていた異国の本も、普通に置かれていた。
「色んな本があるんだな」
「ここは特にそうかもしれない」
「けど、デビルって字は見かけねえ」
「それはさすがに」
「わかんねえぜ? ……お」
ミカエルは怪しげな表紙が気になり、『錬金術の歴史』と書かれた本を手に取る。目次には不老不死という言葉もあって、興味が湧いた。しかし、その本に書かれていたのは錬金術が扱う研究内容の推移についてで、肝心の研究に関しては書かれていなかった。
本を戻して、周辺の本棚に目をやる。
「錬金術の本はねえの?」
「彼らが秘密主義らしいのは聞いたことがある」
「そいつらだったら、何か知ってるかもな」
純真な瞳に、ルシエルは肩をすくめた。
本棚の間を歩いていたとき、ふと目についた青い本。白字で『ルムドゥグ伝説』と書かれている。
「ルムドゥグって?」
「この地の古い名前だ」
ルシエルが本に手を伸ばす。
彼が開いて見せてくれたページには、アジェ兄弟の活躍というタイトルがあり、目を通したミカエルは片眉を上げた。そこに、アジェ家の二人の息子たち、ルシエルとミカエルの物語が書かれていたのだ。
「例の伝承か」
「そうとも、弟くん」
ミカエルは鼻で笑って物語を読む。
――いきなりやって来た移民たちは奪うことしか知らない暴徒で、この地に住まう者たちは、彼らと対立せざるを得なかった。彼らは見知らぬ兵器を携えていた。それに対してこの地に住まう者たちは、秘めたる力で対抗した。この地を守る精霊の加護により類い稀なる美貌と能力を兼ね揃えたアジェ兄弟の活躍が、この地を守ったのである――。
「類稀なる美貌と能力」
「力が強い者は、容姿も優れていると考えられている」
ミカエルは振り返ってルシエルの顔を見る。そして、納得した。
ルシエルはかすかに首を傾げ、口を開いた。
「この地は教会勢力がそこまで強くなさそうだ。でなければ、精霊が登場するバージョンは置いておけない」
「そういや、精霊って初めて聞いたな。ホントにいるのか?」
「古くからある民間信仰だ。本当にいるかどうかはわからない」
ミカエルは目を瞬いた。
「わからない?」
「世界には見えない存在もいる。同じ場所にいても、異なる次元にいれば交わらない。俺は会ったことがないけれど、だからといって、精霊が存在しないとは言いきれない」
「じげんと場所は違うのか」
「場所の違いは位置の違い、次元の違いは振動数の違い。振動数が上がると非物質になって見えなくなる。精霊が俺たちより高次元に存在するなら、目にすることは叶わない」
ルシエルは本を戻して歩きだす。ミカエルもそれに続いた。
「彼らは意図的に振動数を落とし、俺たちと関わりを持つことができる」
「へぇ」
「会ったことのある人がいてもおかしくない」
「もし神がいるなら、神もそうかもな」
「……そうだな」
睫毛を伏せた彼の横顔。気になったが、ミカエルは前を向いて沈黙に乗った。
雑踏を歩いていると、やはり視線を感じる。昨日は真新しさに目を奪われ、あまり気にならなかったのだ。軍服を着ているというのも、理由の一つだろう。向けられる感情はあまり好意的ではない。
ミカエルは、平然としているルシエルにこっそり尋ねた。
「なぁ、軍人って嫌われてんのか」
「戦に勝ったあと、彼らがやることと言ったら強奪だ。金目の物に酒に女。ほしいものはなんでも奪い取る」
「最悪じゃねえか」
ミカエルは顔をしかめた。
「この恰好、デビル退治のときだけでよくねえか」
「それなら、家に戻って着替えよう」
そうして二人は、森の家に瞬間移動した。
玄関前にて、鍵を開けるミカエルを眺めてルシエルが口を開く。
「この家はお師匠さんが?」
「荒れてた家を住めるようにしたって聞いたぜ」
「家の中に瞬間移動できないようになっている。お師匠さんは、なかなかの術師だ」
ミカエルは振り返って目を瞬いた。そういえば、家の中に瞬間移動しようと思ったことはない。やろうとしてみると、家の内部のイメージがあやふやになって無理だった。
「……気づかなかった」
「気づかないほど自然に回避させている」
「師匠、すげー」
ミカエルは無邪気に目を輝かせ、家に入った。
どうやら、彼をただの美少年にできるのはクリスだけではなかったようだ。ルシエルは小さく息を吐き、足を踏みだした。
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