God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

日灯

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3章.Graduale

便利な瞬間移動

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 店を出たミカエルは、ルシエルの腕を掴んで我が家へ瞬間移動した。
 ルシエルが片眉を上げて見下ろしてくる。

「おまえも酔ってるだろ。今日はもう寝ようぜ」
「俺があの程度で酔うとでも?」

 ミカエルは構わず鍵を取り出し、玄関のドアを開いた。

「あれで酔わねえやつは人間じゃねえ」
「俺は人間じゃない」
「人間だっつの。おら、入れ」

 腕を引っ張り、ルシエルを家の中に入れる。ドアを閉めて振り返ると、目の前にいた彼がミカエルの後ろのドアに腕をつき、見下ろしてきた。

「なんだよ」
「君はおかしい」
「おかしいのは今のおまえだ」

 ミカエルは彼の腕を持ち上げ、少し屈んで彼を通り越した。リビングへ向かい、上着を脱いでソファに投げる。それから、風呂の準備に向かった。バラキエルはよく薪で沸かしてくれたが、お湯も出るのだ。
 リビングに戻ると、ルシエルはソファに沈んでいた。ミカエルは二人分のグラスに水を入れ、一つを彼に手渡す。

「どーも」
「なんで酒飲み対決になったんだ?」
「酒に強そうと言われて、強いと答えたらそうなった。彼女は相当の自信があったんだろう」

 ミカエルは眉を上げ、近くの椅子に座った。

「君のほうは、最後までやらなかったって?」
「おう。やる気になれなくてよ」
「……どういう意味で?」
「興奮しても、突っ込みてえって思わなかった」

 グラスを傾け、ルシエルは小さく息を吐く。

「君は素晴らしく理性的な人間だ」
「女の柔らけぇ肌は好きだぞ」
「それ、あまり他人ひとに言わないように。軟派な男と思われる」
「言うかよ」

 ミカエルは笑って喉を潤した。揺らめく水面を眺め、口を開く。

「今日、行ってみてよかった。ありがとな」
「それはどうも」
「よくわかんねえと思ってたけど、簡単なことだったんだ」

 視線を感じたが、ミカエルは手許に目を落としたまま話した。

「おまえの言った通り、知らないから知りてえと思う」

 知ってしまえば、特別なことなんてなくて。

「……やっぱ、そうなんだ。好きな相手じゃねえと、やりてえと思わねえよ」
「例のパーティーの子は?」

 ミカエルは緩く首を振った。

「たぶん会っても、もう触りてえとは思わねぇ」

 あのときのミカエルには、女性というだけで新鮮な存在だった。その上、彼女は周りと異なる雰囲気を漂わせていた。興味を引かれて当然だろう。――それから、あの哀しそうな瞳。
 あの目を見たら、放っておけないと思った。

「けどやっぱ、守りてえとか、優しくしてえとか思う。王家の妹も…」

 この感覚も、柔らかな肌に触れたいと思ったのと同じように、本能的なものに思う。

「君は理性的なだけでなく、どうやら紳士らしい」
「褒めてんのか?」
「褒めてる」

 笑うような声で言われても、実際のところはわからない。
 ミカエルは片眉を上げる。
 ルシエルは微笑を浮かべた。

「君はい男だ」

 端麗な彼こそそうだと、ミカエルは思った。

 シャワーを浴びながら、思い出すのはダイアの温かな雰囲気。姉のような微笑。美しい身体――。
 彼女は売られてきたと言ったが、深刻さはなかった。ママと呼んでいた女性が彼女に向けた慈しむような眼差し。ダイアが実際どのような体験をしてきたのか、ミカエルは知らない。だから、そこで考えるのをやめた。
 リビングに戻ると、ソファのルシエルは目蓋を閉じていた。こっそり近づいてみたが、動かない。
 ミカエルは、彼の足許にしゃがんで眠り顔を観察する。
 こうして見ると、あまりに整った白皙の美貌は作り物のようである。腿に置かれた手に触れようとしたとき、長い睫毛がパッと上がり、紅の瞳と目が合った。

「……風呂、でた」
「夜這い?」
「あ? 早く入れよ」
「君の髪を乾かしたらね」

 肩にかけていたタオルを取られ、頭に乗せられた。
 ミカエルは目を閉じて口を開く。

「明日、今日の街から師匠探し続けっか」
「そのように」
「色んな人がいる街だったからな。おまえが元に戻るための情報も探してみようぜ」

 もにょもにょの手が止まった。

「早くお師匠さんに会いたいだろう」
「師匠は瞬間移動ができる。闇雲に探しても、会える確率は低いだろ。それに、師匠のほうから会いにきてくれるかもしれねえ」
「……君がいいなら」
「決まりだな」
 
 ミカエルは軽やかに言った。
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