God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

日灯

文字の大きさ
上 下
26 / 174
3章.Graduale

便利な瞬間移動

しおりを挟む
 店を出たミカエルは、ルシエルの腕を掴んで我が家へ瞬間移動した。
 ルシエルが片眉を上げて見下ろしてくる。

「おまえも酔ってるだろ。今日はもう寝ようぜ」
「俺があの程度で酔うとでも?」

 ミカエルは構わず鍵を取り出し、玄関のドアを開いた。

「あれで酔わねえやつは人間じゃねえ」
「俺は人間じゃない」
「人間だっつの。おら、入れ」

 腕を引っ張り、ルシエルを家の中に入れる。ドアを閉めて振り返ると、目の前にいた彼がミカエルの後ろのドアに腕をつき、見下ろしてきた。

「なんだよ」
「君はおかしい」
「おかしいのは今のおまえだ」

 ミカエルは彼の腕を持ち上げ、少し屈んで彼を通り越した。リビングへ向かい、上着を脱いでソファに投げる。それから、風呂の準備に向かった。バラキエルはよく薪で沸かしてくれたが、お湯も出るのだ。
 リビングに戻ると、ルシエルはソファに沈んでいた。ミカエルは二人分のグラスに水を入れ、一つを彼に手渡す。

「どーも」
「なんで酒飲み対決になったんだ?」
「酒に強そうと言われて、強いと答えたらそうなった。彼女は相当の自信があったんだろう」

 ミカエルは眉を上げ、近くの椅子に座った。

「君のほうは、最後までやらなかったって?」
「おう。やる気になれなくてよ」
「……どういう意味で?」
「興奮しても、突っ込みてえって思わなかった」

 グラスを傾け、ルシエルは小さく息を吐く。

「君は素晴らしく理性的な人間だ」
「女の柔らけぇ肌は好きだぞ」
「それ、あまり他人ひとに言わないように。軟派な男と思われる」
「言うかよ」

 ミカエルは笑って喉を潤した。揺らめく水面を眺め、口を開く。

「今日、行ってみてよかった。ありがとな」
「それはどうも」
「よくわかんねえと思ってたけど、簡単なことだったんだ」

 視線を感じたが、ミカエルは手許に目を落としたまま話した。

「おまえの言った通り、知らないから知りてえと思う」

 知ってしまえば、特別なことなんてなくて。

「……やっぱ、そうなんだ。好きな相手じゃねえと、やりてえと思わねえよ」
「例のパーティーの子は?」

 ミカエルは緩く首を振った。

「たぶん会っても、もう触りてえとは思わねぇ」

 あのときのミカエルには、女性というだけで新鮮な存在だった。その上、彼女は周りと異なる雰囲気を漂わせていた。興味を引かれて当然だろう。――それから、あの哀しそうな瞳。
 あの目を見たら、放っておけないと思った。

「けどやっぱ、守りてえとか、優しくしてえとか思う。王家の妹も…」

 この感覚も、柔らかな肌に触れたいと思ったのと同じように、本能的なものに思う。

「君は理性的なだけでなく、どうやら紳士らしい」
「褒めてんのか?」
「褒めてる」

 笑うような声で言われても、実際のところはわからない。
 ミカエルは片眉を上げる。
 ルシエルは微笑を浮かべた。

「君はい男だ」

 端麗な彼こそそうだと、ミカエルは思った。

 シャワーを浴びながら、思い出すのはダイアの温かな雰囲気。姉のような微笑。美しい身体――。
 彼女は売られてきたと言ったが、深刻さはなかった。ママと呼んでいた女性が彼女に向けた慈しむような眼差し。ダイアが実際どのような体験をしてきたのか、ミカエルは知らない。だから、そこで考えるのをやめた。
 リビングに戻ると、ソファのルシエルは目蓋を閉じていた。こっそり近づいてみたが、動かない。
 ミカエルは、彼の足許にしゃがんで眠り顔を観察する。
 こうして見ると、あまりに整った白皙の美貌は作り物のようである。腿に置かれた手に触れようとしたとき、長い睫毛がパッと上がり、紅の瞳と目が合った。

「……風呂、でた」
「夜這い?」
「あ? 早く入れよ」
「君の髪を乾かしたらね」

 肩にかけていたタオルを取られ、頭に乗せられた。
 ミカエルは目を閉じて口を開く。

「明日、今日の街から師匠探し続けっか」
「そのように」
「色んな人がいる街だったからな。おまえが元に戻るための情報も探してみようぜ」

 もにょもにょの手が止まった。

「早くお師匠さんに会いたいだろう」
「師匠は瞬間移動ができる。闇雲に探しても、会える確率は低いだろ。それに、師匠のほうから会いにきてくれるかもしれねえ」
「……君がいいなら」
「決まりだな」
 
 ミカエルは軽やかに言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

処理中です...