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3章.Graduale
初めて盛り
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果たして、入った店は清潔感があり、外の雑踏が嘘のように静かだった。
ルシエルが店内を見渡し、口を開く。
「なかなか良さそうだ」
「そーだな。俺は店に入ったこと自体、初めてだけどな」
「君は初体験が多くて楽しそうだな」
「おまえだって、俺ん家来てそうだったろ」
「ああ…、素晴らしき未知との遭遇と筋肉痛の日々」
二人がコソコソ話しているうちに、カチッとした服装の男性が現れた。ウェイターというのだと、後でルシエルが教えてくれた。
「いらっしゃいませ。二名様ですね。こちらへどうぞ」
ミカエルは男に続き、示された席に落ち着いた。窓際の明るい場所だ。ウェイターの視線がルシエルからミカエルに移り、さりげなく滑る。気になったのは髪色か、軍服か、――聖剣か。
「お決まりになりましたらお呼びください」
彼が去ったあと、ミカエルはこっそりと聞いてみた。
「なぁ、聖剣って有名なのか」
「伝承のミカエルが持っていたといわれる剣だ。王家の宝としても有名」
「見たらわかんの?」
「感じてみればわかるだろう。さっきの男は、気づいたらしい」
ウェイターは、――もしや聖剣!!!? という心の叫びをお首にも出さずに去ったプロフェッショナルである。しかし残念なことに、気配に敏いミカエルたちには筒抜けだった。
美味い料理をたらふく食べたら、
「請求は国で」
聖剣を翳して支払い免除。
「失礼ですが、あなた方はいったい…」
クールなウェイターの気配は、聞きたくて堪らないと言わんばかりにウズウズしている。
ミカエルはクッと口角を上げた。
「王よりデビル退治の任を拝命した。俺はミカエル。こっちは、あー、俺の仲間だ」
「ミィっ」
ウェイターは奇声を発して腰を折った。
「お務めご苦労様でございます」
「どーも」
綺麗なお辞儀で見送られ、軽やかに店を出たミカエルたちだった。
『君が聖剣を持つことに、不審を抱く者もいるだろう』
それは王より聖剣を下賜された後のこと。
『その時には、任務の内容とともに、名を明かすといい』
ゾフィエル曰く、デビル退治は生半可な腕の者には務まらない上、ミカエルやルシエルと聞けば、その強さは推して知るべしということである。
「分かりやすくて結構なこった」
ミカエルは肩をすくめる。名を聞けば力の強さが分かってしまうのだから簡単だ。
「"俺の仲間"」
ボソリと言われ、ルシエルの方を向く。
「おまえ、外ではまだルシファーなんだろ。エルがついてねえから、面倒になるかもって思ってよ」
「君の兄でも構わないけど?」
「それを言うなら弟だ」
ミカエルは鼻で笑った。するとルシエルはクールに言う。
「俺のブラザー」
「っ、おまえが言うと、キザな貴族にしか聞こえねえっ」
「君が言ったら?」
「俺のブラザー」
ルシエルの動きが一瞬止まる。
「……犯罪の匂いがする」
「は⁉」
「俺が危険人物とバレるからやめておこう」
「どういう意味だ?」
「あ、お宿。今日はここで一泊? 帰宅? 女性のところ?」
考えているうちに、ぐいと腕を引かれた。
「迷うなら体験したまえ」
「、待てって」
ルシエルはミカエルの手を引いて、いかがわしい雰囲気の路地へズンズン入っていく。色とりどりの原色に近い明かりがあざとく、誘う女性たちをより艶めかしく感じさせていた。
中でも大きく上品な佇まいの店の入り口を見つけると、ルシエルはようやく足を止めた。
「ここならいいだろう」
「おまえ、こういう店も来たことあるのか?」
「あるわけない」
そのわりに、躊躇なく店のドアを開いている。
「なんだい、見回りかい? それともお客?」
派手な女性に問われ、ルシエルはミカエルを振り返った。
「そういえば、軍服だった」
「アウトじゃね?」
「これは見回り。あとで客として来よう」
「あらやだ、お兄さん庶子? 顔立ちも良いじゃな」
顔をすっかり覚えられる前に店を出ようと素早くドアを開いて表に出たが、ドアが閉まる前に聞こえた女性の声からして、遅かったかもしれない。
ルシエルが店内を見渡し、口を開く。
「なかなか良さそうだ」
「そーだな。俺は店に入ったこと自体、初めてだけどな」
「君は初体験が多くて楽しそうだな」
「おまえだって、俺ん家来てそうだったろ」
「ああ…、素晴らしき未知との遭遇と筋肉痛の日々」
二人がコソコソ話しているうちに、カチッとした服装の男性が現れた。ウェイターというのだと、後でルシエルが教えてくれた。
「いらっしゃいませ。二名様ですね。こちらへどうぞ」
ミカエルは男に続き、示された席に落ち着いた。窓際の明るい場所だ。ウェイターの視線がルシエルからミカエルに移り、さりげなく滑る。気になったのは髪色か、軍服か、――聖剣か。
「お決まりになりましたらお呼びください」
彼が去ったあと、ミカエルはこっそりと聞いてみた。
「なぁ、聖剣って有名なのか」
「伝承のミカエルが持っていたといわれる剣だ。王家の宝としても有名」
「見たらわかんの?」
「感じてみればわかるだろう。さっきの男は、気づいたらしい」
ウェイターは、――もしや聖剣!!!? という心の叫びをお首にも出さずに去ったプロフェッショナルである。しかし残念なことに、気配に敏いミカエルたちには筒抜けだった。
美味い料理をたらふく食べたら、
「請求は国で」
聖剣を翳して支払い免除。
「失礼ですが、あなた方はいったい…」
クールなウェイターの気配は、聞きたくて堪らないと言わんばかりにウズウズしている。
ミカエルはクッと口角を上げた。
「王よりデビル退治の任を拝命した。俺はミカエル。こっちは、あー、俺の仲間だ」
「ミィっ」
ウェイターは奇声を発して腰を折った。
「お務めご苦労様でございます」
「どーも」
綺麗なお辞儀で見送られ、軽やかに店を出たミカエルたちだった。
『君が聖剣を持つことに、不審を抱く者もいるだろう』
それは王より聖剣を下賜された後のこと。
『その時には、任務の内容とともに、名を明かすといい』
ゾフィエル曰く、デビル退治は生半可な腕の者には務まらない上、ミカエルやルシエルと聞けば、その強さは推して知るべしということである。
「分かりやすくて結構なこった」
ミカエルは肩をすくめる。名を聞けば力の強さが分かってしまうのだから簡単だ。
「"俺の仲間"」
ボソリと言われ、ルシエルの方を向く。
「おまえ、外ではまだルシファーなんだろ。エルがついてねえから、面倒になるかもって思ってよ」
「君の兄でも構わないけど?」
「それを言うなら弟だ」
ミカエルは鼻で笑った。するとルシエルはクールに言う。
「俺のブラザー」
「っ、おまえが言うと、キザな貴族にしか聞こえねえっ」
「君が言ったら?」
「俺のブラザー」
ルシエルの動きが一瞬止まる。
「……犯罪の匂いがする」
「は⁉」
「俺が危険人物とバレるからやめておこう」
「どういう意味だ?」
「あ、お宿。今日はここで一泊? 帰宅? 女性のところ?」
考えているうちに、ぐいと腕を引かれた。
「迷うなら体験したまえ」
「、待てって」
ルシエルはミカエルの手を引いて、いかがわしい雰囲気の路地へズンズン入っていく。色とりどりの原色に近い明かりがあざとく、誘う女性たちをより艶めかしく感じさせていた。
中でも大きく上品な佇まいの店の入り口を見つけると、ルシエルはようやく足を止めた。
「ここならいいだろう」
「おまえ、こういう店も来たことあるのか?」
「あるわけない」
そのわりに、躊躇なく店のドアを開いている。
「なんだい、見回りかい? それともお客?」
派手な女性に問われ、ルシエルはミカエルを振り返った。
「そういえば、軍服だった」
「アウトじゃね?」
「これは見回り。あとで客として来よう」
「あらやだ、お兄さん庶子? 顔立ちも良いじゃな」
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