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3章.Graduale
交易の街、コルセ
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二人が街に入ったのは夕方のこと。それなりに人の往来があるらしく、思っていたより歩きやすい山道だった。
「なんっつーか、ごちゃごちゃしてるな」
大きな街だ。コルセは、どうやら交易地点らしかった。大通りに荷馬車や出店が並んでいる。異国の服を身につけている人も見かけた。色んな人がいて、活気に溢れている。その熱量にミカエルは圧倒された。
横道に逸れると、少しは人も減り歩きやすい。気の向くままに歩いていたミカエルは、ふと足を止めた。
「あれ、……」
ルシエルも視線を追ってそちらを向く。
何やら書かれたプレートを首から下げた裸に近い格好の人たちが台の上に乗せられていた。彼らは女性や子ども、逞しい男性など様々だ。
「人売り」
「人って、売れるのか」
「奴隷。聞いたことない?」
「そういや、ラファエルが言ってたな…」
「侵略先から連れてきた人が多い」
台の上に乗せられている人たちは皆、暗い表情をしていた。オリーブ色の肌で見るからに異民族という人もいれば、そうでない人もいる。
「国は黙認してんのか」
「推奨はしてないだろう」
ミカエルはしばし黙りこむ。
「買われたら、どうなるんだ?」
「人によるだろう。力がある男の人は、労働力として働かされるだろうし。女の人や子どもは…、まぁ、楽しい人生が待ってるとは思えないな」
ルシエルが淡々と答えるので、ミカエルは眉根を寄せた。
「売人伸して助けてあげる?」
「……そうだな」
彼らを助けたいというよりは、煙草を吹かしながら笑みを浮かべて客引きしている売人を一発ぶん殴りたい気分だ。
ミカエルは鋭い眼光を隠すことなく、売人のもとへ行く。ルシエルも彼に続いた。
「おいオッサン、調子はどうだ?」
「えぇえぇ好調ですよ。なんせウチは、顔立ちがいいのを厳選してますから、ね…」
そこらの野次馬とでも思ったのだろう。呼びこみの片手間に答えていた売人は、ミカエルたちの方を向いて息を呑む。
「そいつァ結構なこった」
ミカエルが拳を握りしめると、彼は両の手の平を顔辺りまで持ち上げて、引きつった愛想笑いを浮かべた。
「こ、これはこれは軍人さん方。ご苦労様でございます。どうです? 一人。彼らなら、日頃溜まったアレやコレやを遠慮なく晴らしてくれますよ」
この女性は大きなお尻がいいでしょう、この少年などは初物ですぞ! それからこちらの少女は――。売人の口は動きを止めそうにない。
ミカエルの額に青筋が浮く。
「ペラペラペラペラ煩ぇ口だ」
「ヒッ」
ミカエルがゆらりと一歩踏み出すと、彼は裏返った声を出し、一歩後退した。
ミカエルは、ニッと獰猛な笑みを浮かべる。
「遠慮なく晴らせてもらうぜ。テメェでな!」
そうして売人が逃げるより先に、渾身のストレートをその頬へぶち込んだ。
見事に吹っ飛ぶ売人。
向こうの荷馬車に激突し、ヘナヘナと地面に倒れこむ。
「少しの憂さ晴らしにもなりゃしねえ」
ミカエルは腰に手を当て吐き出すように言うと、その場を後にしてしまう。斜め後ろで静かに見守っていたルシエルが口を開いた。
「いるも逃げるもご自由に」
「おう」
鎖で繋がれているでもなかった。逃げたければ逃げるだろう。その後どうなるかは、分からないけれど。
「っつか、腹へったな」
通りの出店を見渡せば、料理を売っている店もちらほらあった。
「屋台か…、ちゃんとした店もある」
「俺は野菜食えりゃいい」
「それなら、あの店がよさそうだ」
どうやらルシエルは、グツグツ煮られている謎の料理や、何かの動物をダイナミックに焼いた料理などには興味がないらしい。
「んじゃそこな」
ミカエルもそういった物にチャレンジしたいとは思わないので、コクリと頷いた。
「なんっつーか、ごちゃごちゃしてるな」
大きな街だ。コルセは、どうやら交易地点らしかった。大通りに荷馬車や出店が並んでいる。異国の服を身につけている人も見かけた。色んな人がいて、活気に溢れている。その熱量にミカエルは圧倒された。
横道に逸れると、少しは人も減り歩きやすい。気の向くままに歩いていたミカエルは、ふと足を止めた。
「あれ、……」
ルシエルも視線を追ってそちらを向く。
何やら書かれたプレートを首から下げた裸に近い格好の人たちが台の上に乗せられていた。彼らは女性や子ども、逞しい男性など様々だ。
「人売り」
「人って、売れるのか」
「奴隷。聞いたことない?」
「そういや、ラファエルが言ってたな…」
「侵略先から連れてきた人が多い」
台の上に乗せられている人たちは皆、暗い表情をしていた。オリーブ色の肌で見るからに異民族という人もいれば、そうでない人もいる。
「国は黙認してんのか」
「推奨はしてないだろう」
ミカエルはしばし黙りこむ。
「買われたら、どうなるんだ?」
「人によるだろう。力がある男の人は、労働力として働かされるだろうし。女の人や子どもは…、まぁ、楽しい人生が待ってるとは思えないな」
ルシエルが淡々と答えるので、ミカエルは眉根を寄せた。
「売人伸して助けてあげる?」
「……そうだな」
彼らを助けたいというよりは、煙草を吹かしながら笑みを浮かべて客引きしている売人を一発ぶん殴りたい気分だ。
ミカエルは鋭い眼光を隠すことなく、売人のもとへ行く。ルシエルも彼に続いた。
「おいオッサン、調子はどうだ?」
「えぇえぇ好調ですよ。なんせウチは、顔立ちがいいのを厳選してますから、ね…」
そこらの野次馬とでも思ったのだろう。呼びこみの片手間に答えていた売人は、ミカエルたちの方を向いて息を呑む。
「そいつァ結構なこった」
ミカエルが拳を握りしめると、彼は両の手の平を顔辺りまで持ち上げて、引きつった愛想笑いを浮かべた。
「こ、これはこれは軍人さん方。ご苦労様でございます。どうです? 一人。彼らなら、日頃溜まったアレやコレやを遠慮なく晴らしてくれますよ」
この女性は大きなお尻がいいでしょう、この少年などは初物ですぞ! それからこちらの少女は――。売人の口は動きを止めそうにない。
ミカエルの額に青筋が浮く。
「ペラペラペラペラ煩ぇ口だ」
「ヒッ」
ミカエルがゆらりと一歩踏み出すと、彼は裏返った声を出し、一歩後退した。
ミカエルは、ニッと獰猛な笑みを浮かべる。
「遠慮なく晴らせてもらうぜ。テメェでな!」
そうして売人が逃げるより先に、渾身のストレートをその頬へぶち込んだ。
見事に吹っ飛ぶ売人。
向こうの荷馬車に激突し、ヘナヘナと地面に倒れこむ。
「少しの憂さ晴らしにもなりゃしねえ」
ミカエルは腰に手を当て吐き出すように言うと、その場を後にしてしまう。斜め後ろで静かに見守っていたルシエルが口を開いた。
「いるも逃げるもご自由に」
「おう」
鎖で繋がれているでもなかった。逃げたければ逃げるだろう。その後どうなるかは、分からないけれど。
「っつか、腹へったな」
通りの出店を見渡せば、料理を売っている店もちらほらあった。
「屋台か…、ちゃんとした店もある」
「俺は野菜食えりゃいい」
「それなら、あの店がよさそうだ」
どうやらルシエルは、グツグツ煮られている謎の料理や、何かの動物をダイナミックに焼いた料理などには興味がないらしい。
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ミカエルもそういった物にチャレンジしたいとは思わないので、コクリと頷いた。
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