God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

日灯

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3章.Graduale

対面せしは

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「やぁ、ミカエル。よく来てくれた」

 そのとき部屋にやって来た人物に、ゾフィエルはギョッとした。

「陛下、殿下、」
「ゾフィエル、そなたもご苦労であった」
「はい…」
 
 ミカエルはゆったりやって来た煌びやかな二人をまっすぐ捉える。

「ミカエル。出生について、聞いているようだな。私がそなたの父、ヨハエルだ。これなるは息子のラジエル。そなたの兄にあたる」
「はじめまして、ミカエル」
「……はじめまして」

 先ほどのソフィーエルもそうだが、彼らはグイグイ来る。この事は彼らにとって、あまり触れたくない事だろうと思っていたミカエルは、わずかに後ずさりした。

「そう構えるでない。そなたは母親似だな。その瞳が青であったなら…」
「父上」
「おお、すまぬ。ミカエル、そなたを庶子として認知しようと思う。どうだ?」
「しょし?」

 ゾフィエルが驚きの反応を見せたこともあり、ミカエルは首を傾げた。

「そうだ。正妻でない相手との間にできた子を王が認めた場合、その者は王の血を引く者として認識される。そうなれば、相応の地位を与えることもできるのだ」
「でも、俺の母親は、」
「間違いなく正妻だ。だが、それを公にすることはできぬ」

 ヨハエルははっきり述べた。
 息を吐き、ミカエルは肩をすくめる。

「俺はバラキエルに育てられた。王の血を引くとか、そういうのはどうでもいい」
「では、認知を拒むと?」
「おう。……拒みます」

 視線を逸らして言葉を付け加えた。
 ヨハエルとラジエルが顔を見合わせている。

「そなたは欲のない男だな」
「森で好きなように暮らしてえです」
「なるほど、聖学校から飛び出たのも、それが理由だったな」
「はい、そうです」

 堂々と答えるミカエルに、ヨハエルは笑って言う。

「普段のように話せば良い。余計な気遣いはいらぬ」
「俺は王族じゃねえので」
「それでもそなたは、私の子だ」

 ミカエルは一瞬言葉に詰まり、ふいっとそっぽを向いた。

「バラキエルの子です」
「……バラキエル殿は手強いな」

 そこでふと、ラジエルが口を開く。

「ミカエル、先ほどは戦に関わらぬと、よく宣言した」

 感情の読めない瑠璃色の目が、つと細められた。

「ちょうど父上が戦に乗り気になられたところだ。父上、ブランデレン公国と、再び開戦なさるのでしょう?」
「おまえは鋭いな」

 ヨハエルは肩をすくめる。ラジエルは分かりきっていたように続けた。

「近頃、彼の国の内情や付近の状況を綿密に探らせておいでですし、シュイツともやり取りなさっている。シュイツの傭兵は、強いと評判です」

 ミカエルは現実味のない話をぼんやり聞いている。
 ヨハエルの視線がミカエルを捉えた。

「ミカエル?」
「……なんで戦うんですか」
「ふむ。あの地は豊かでな。次なる戦のために得ておきたいのだ」
「次の戦?」
「代々続いているパラディッセの地における戦いだ。私の代で覇権を握りたい」

 そう思うのが当然とばかりにヨハエルは語る。
 聖学校で学んだところによると、パラディッセと呼ばれる地域には幾つかの国や教皇領があったはずだ。最終的な狙いは、教皇の権威を削ぐことだろうか。

「先王の時代に追い出されてしまいましたからね」
「教皇の呼びかけがあってな。どの国も、ああいう時ばかり一丸となるのだ」
「我が国もそうでしょう。利害が一致すれば、昨日の敵は今日の友」
「そうとも。ああ、逆もしかりだ」

 ヨハエルは鼻で笑った。
 ルシエルの忠告を聞いてよかったと心底思う。彼らの話す内容は、ミカエルにはちっとも共感できなかった。

 二人が去ると、ミカエルはやたらと弾むソファに腰掛け、息を吐く。縦長の窓から斜陽が差し、視界を橙色に染め上げていた。
 踏みこんでしまった世界に眩暈を覚える。

「ゾフィ、おまえは普段、こんな所にいるんだな」
「王宮のことか?」
「それだけじゃねえよ」

 ヨハエルたちは一見好意的だが、腹の底では何を考えているかわからない。
 特にラジエル。
 穏やかな雰囲気ながら、その目はミカエルを品定めするようだった。

「次はぜってぇルシにも来てもらう」

 ミカエルが眉根を寄せて首を振ると、ゾフィエルは苦笑した。

「ところで、彼とはどうやって知り合ったんだ?」
「あ? あー、風呂場で」
「っ、ふッ!?」
「そんなに驚くことか?」

 咳き込んだゾフィエルを見上げ、眉を上げる。

「いや、想像もつかない」
「遅い時間に行ったら、あいつと遭遇した」
「ほぅ…」
「あいつがいたから、あそこから出れたんだ。……俺も、あいつの力になりてえ」

 前屈みになって腿についた両腕で指を組む姿は祈るかのようだ。この空間にあって、どこか神聖ですらある。その美しさに、ゾフィエルはしばし見惚れた。
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