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3章.Graduale
クリスや段取り
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†††
朝食を終えたミカエルとルシエルは畑に向かった。
一時放置されていた畑は雑草も伸び放題。知識がないルシエルには、どれが野菜か分からないほどである。――雑草取り。それはルシエルにとって、新鮮な体験だった。最初は手に土がつくだけで気になったりしたが、気付けば黙々と雑草を引っこ抜いていた。
「っ、」
「あ? ミミズじゃねえか。殺すなよ」
驚いて滅しそうになったルシエルは、降参ポーズで頷いた。
ミカエルは慣れた様子で土と向き合っている。
「瞬間移動って、行ったことねえ場所にも行けるのか?」
「会いたい人の力の波長を思い浮かべれば、その人のいる所に行ける」
行ったことがある場所と、力の波長を思い起こせる人のいる場所。瞬間移動は、その二点において可能だ。――ああ、しかし。
「相手が会いたくないと思って、力の波長を分からなくさせてたら無理だ」
ミカエルは黙り込む。追っ手から逃げているバラキエルのことだ。そうしているに違いない。
「個人的に分かるようにするとか…」
「難しいだろう」
ミカエルは試しに、バラキエルの波長を思い浮かべてみた。
少し前まで近くで感じていた。安心感を覚える波長だ。どっしりとした、岩のような――。
「……わかんねえ」
「逃亡中じゃあね」
ルシエルは指を擦り合わせ、ついていた土を落とそうとした。
「一応言っておくけれど、瞬間移動は意外と力を使う。ホイホイやらないほうがいい」
「そうなのか」
ミカエルは俯いたままだ。ルシエルは蒼穹を見上げる。
今後のことは、ゾフィエルが来るまで分からない。バラキエルに関して、ゾフィエルなら、何か情報を持っているだろうか。
「あーー…クリスをモフりてえ」
ミカエルは町にいた頃の記憶を思い出す。ルシエルもよくクリスと一緒にいたと言っていた。彼も同じだと思うと、なんだか笑えた。
「なに」
「俺もちっこい頃、クリスって犬のダチがいたんだよ」
「……同じ名前?」
「そ。だからお前がクリスって呼んだときは、驚いたぜ」
そういえば、ミカエルのただの美少年のような可愛らしい顔は、クリスといるときにしか見られない。
「クリスは可愛いからな」
ミカエルの頭に浮かんでいるクリスは、どちらだろう。
「あったかいし、手触りがいい」
続けたルシエルは降り注ぐ木漏れ日を視界に映し、目を細めた。
そのとき、家の玄関辺りに人の気配がした。
ゾフィエルだ。抱えた袋からパンが覗いている。彼は辺りを見渡し、畑にミカエルたちを見つけると、なんとも微妙な表情をしてやってきた。
「話はついたのか」
ミカエルが立ち上がる。
ゾフィエルは一瞬何かを耐えるような顔をして、けれど何事もなかったかのように口を開いた。
「陛下は、君たちを城へ招待すると仰せになった。デビル退治の任を与えると」
「そうか…。おまえ、よっぽど気に入られてんだな」
ミカエルはクッと口角を上げる。
「……そのようだ」
ゾフィエルは何かを噛み締めるように頷いた。そうして、式の段取りを話しだす。ミカエルは首を傾げながら聞いていた。
「色んな国の人が来るんだな」
「ああ。どこの国も、"ミカエル" への関心は大きい。国内においても、それぞれの地域の管理を任されている者に、君の存在を知らせておいたほうがいいからな」
このようなミカエルという者が、デビル退治のために様々な地域を巡る、と。
「俺、ぱーてぃーとか知らねえし。どうしたらいいかわかんねえよ」
「パーティーは立食会になる予定だ。君から動かずとも、あちらから寄って来る。敵を作らぬよう、友好的な態度でいれば大丈夫だろう」
友好的と言われても。ミカエルが眉根を寄せたところで、ルシエルが口を開いた。
「俺は行かない」
「……ああ。それでも良いと、陛下がおっしゃっていた」
「俺も行きたくねえ」
「君は来てもらわねば困る」
そう言われると思っていたが、ミカエルは半目になってしまった。
「それで、師匠について、何かわかった事あるか?」
「いや…。教会が追っている現状に変わりはない」
「教会も居場所は掴めてねえんだな」
状況は変わらず、か。ミカエルは小さく息を吐く。
朝食を終えたミカエルとルシエルは畑に向かった。
一時放置されていた畑は雑草も伸び放題。知識がないルシエルには、どれが野菜か分からないほどである。――雑草取り。それはルシエルにとって、新鮮な体験だった。最初は手に土がつくだけで気になったりしたが、気付けば黙々と雑草を引っこ抜いていた。
「っ、」
「あ? ミミズじゃねえか。殺すなよ」
驚いて滅しそうになったルシエルは、降参ポーズで頷いた。
ミカエルは慣れた様子で土と向き合っている。
「瞬間移動って、行ったことねえ場所にも行けるのか?」
「会いたい人の力の波長を思い浮かべれば、その人のいる所に行ける」
行ったことがある場所と、力の波長を思い起こせる人のいる場所。瞬間移動は、その二点において可能だ。――ああ、しかし。
「相手が会いたくないと思って、力の波長を分からなくさせてたら無理だ」
ミカエルは黙り込む。追っ手から逃げているバラキエルのことだ。そうしているに違いない。
「個人的に分かるようにするとか…」
「難しいだろう」
ミカエルは試しに、バラキエルの波長を思い浮かべてみた。
少し前まで近くで感じていた。安心感を覚える波長だ。どっしりとした、岩のような――。
「……わかんねえ」
「逃亡中じゃあね」
ルシエルは指を擦り合わせ、ついていた土を落とそうとした。
「一応言っておくけれど、瞬間移動は意外と力を使う。ホイホイやらないほうがいい」
「そうなのか」
ミカエルは俯いたままだ。ルシエルは蒼穹を見上げる。
今後のことは、ゾフィエルが来るまで分からない。バラキエルに関して、ゾフィエルなら、何か情報を持っているだろうか。
「あーー…クリスをモフりてえ」
ミカエルは町にいた頃の記憶を思い出す。ルシエルもよくクリスと一緒にいたと言っていた。彼も同じだと思うと、なんだか笑えた。
「なに」
「俺もちっこい頃、クリスって犬のダチがいたんだよ」
「……同じ名前?」
「そ。だからお前がクリスって呼んだときは、驚いたぜ」
そういえば、ミカエルのただの美少年のような可愛らしい顔は、クリスといるときにしか見られない。
「クリスは可愛いからな」
ミカエルの頭に浮かんでいるクリスは、どちらだろう。
「あったかいし、手触りがいい」
続けたルシエルは降り注ぐ木漏れ日を視界に映し、目を細めた。
そのとき、家の玄関辺りに人の気配がした。
ゾフィエルだ。抱えた袋からパンが覗いている。彼は辺りを見渡し、畑にミカエルたちを見つけると、なんとも微妙な表情をしてやってきた。
「話はついたのか」
ミカエルが立ち上がる。
ゾフィエルは一瞬何かを耐えるような顔をして、けれど何事もなかったかのように口を開いた。
「陛下は、君たちを城へ招待すると仰せになった。デビル退治の任を与えると」
「そうか…。おまえ、よっぽど気に入られてんだな」
ミカエルはクッと口角を上げる。
「……そのようだ」
ゾフィエルは何かを噛み締めるように頷いた。そうして、式の段取りを話しだす。ミカエルは首を傾げながら聞いていた。
「色んな国の人が来るんだな」
「ああ。どこの国も、"ミカエル" への関心は大きい。国内においても、それぞれの地域の管理を任されている者に、君の存在を知らせておいたほうがいいからな」
このようなミカエルという者が、デビル退治のために様々な地域を巡る、と。
「俺、ぱーてぃーとか知らねえし。どうしたらいいかわかんねえよ」
「パーティーは立食会になる予定だ。君から動かずとも、あちらから寄って来る。敵を作らぬよう、友好的な態度でいれば大丈夫だろう」
友好的と言われても。ミカエルが眉根を寄せたところで、ルシエルが口を開いた。
「俺は行かない」
「……ああ。それでも良いと、陛下がおっしゃっていた」
「俺も行きたくねえ」
「君は来てもらわねば困る」
そう言われると思っていたが、ミカエルは半目になってしまった。
「それで、師匠について、何かわかった事あるか?」
「いや…。教会が追っている現状に変わりはない」
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状況は変わらず、か。ミカエルは小さく息を吐く。
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