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美しき世界
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その日、メテオシュタインはアステルを連れ、例のエネルギー装置のある場所へ向かった。警備は顔パス。そこにいた研究者たちは不審そうにしていたが、二人をあっさり受け入れた。
装置の起動スイッチに長い指が伸びたときには流石に彼らも反抗した。
けれどアステルに妨害されて、それを阻止することは叶わなかった。
「さっさとこの星から逃げろ」
「どうして…」
現場主任と思しき男が、困惑を露わにメテオシュタインを捉える。
「失いたくないと、思ってしまった」
メテオシュタインは、肩をすくめてそう言った。
慌てふためき逃げ去る同胞を、彼はどのような心境で眺めていたのだろう。
その後ろ姿を、スカイブルーの瞳がじっと見ていた。
次々と星を去る侵略者たち。
星のエネルギーが濾過され、元のエネルギーに戻っていく。
その過程で、いつかエネルギーが侵されたときのように大地は痩せ、多くの――本当に多くの命が亡くなった。
「これが浄化作用か」
メテオシュタインは小さく呟き、傍らに立つ青年をそっと抱きしめた。
「……これで、元の美しい星になる」
陰惨たる表情だ。けれどその瞳はしっかりと、変化する今を映している。
「敵わぬわけだ」
メテオシュタインはこのとき、アステルの強さを本当の意味で理解した。
彼の方を向いたアステルは、かすかに眉根を寄せて小さく笑う。メテオシュタインはその少し痩せた頬に触れ、水気を帯びた美しい瞳に顔を寄せ、親指で優しく目許を撫でた。
「森には戻らないのか」
「あんたがいるし」
「私も同行する」
メテオシュタインは図太いのか無神経なのかわからない。
「元敵だぞ」
アステルはそんな彼を見上げ、呆れたように肩をすくめる。
「いまは同じエネルギーの者だ」
ロイヤルパープルの瞳は、まったく動じないので。
「……あんたがいいなら、いいけどさ」
彼が "隊長" だった頃にされたあれやこれやを思い出し、少しくらい皆から詰られればいいと思ってしまった。
麗らかな日の光。
低く艶やかな声が耳許で囁く。
「アステル…」
「…も、いいからっ」
切羽詰った表情を映す瞳は悪戯に煌めいて、望む言葉を聞くまで待つ体勢だ。焦れたアステルは羞恥を押しやり、眉根を寄せて小さく唇を開く。
「……メテオ、っン…」
同じエネルギーになった二人は、なんの気兼ねもなく互いを感じることが出来た。
名前を呼んで、瞳を合わせればすべて伝わる。
(アステルと出会うために生きてきたのだ)
メテオシュタインはいま、心からそう思う。
そっと頬を撫でられて、ゆっくりと唇を重ね合わせる。
「君はなぜ、私を受け入れた?」
「……なんだよ、突然…」
ロイヤルパープルの瞳がまっすぐに見詰めてくるので、アステルはぶっきらぼうに言う。
「なんかわかんないけど、気付いたら好きになってた。自分でも、妙だと思ってる」
最初は真逆の感情を抱いていたのに、おかしなものだ。
「それを本人に言うか」
「っ聞いたのはあんただ!」
アステルは赤い顔で眉を吊り上げる。メテオシュタインはくつくつ笑った。
「たしかに、妙なものではあるな」
それはメテオシュタインのすべてを変えてしまったようだった。いまや、視界に移るすべてがきらきらと輝いて見えるのだ。
「世界がこんなにも美しかったとは」
スカイブルーの瞳の煌めきを見ていると、胸がジンと痺れてどうしようもない気持ちになる。
「知ってもらえて良かったよ」
どこか照れたような微笑みは花のよう。
青い空、豊かな緑、美しい鳥の声。
「彼らは春真っ盛りだな」
見守る人々の、瞳優しく。
置換変異の最前線-fin-
装置の起動スイッチに長い指が伸びたときには流石に彼らも反抗した。
けれどアステルに妨害されて、それを阻止することは叶わなかった。
「さっさとこの星から逃げろ」
「どうして…」
現場主任と思しき男が、困惑を露わにメテオシュタインを捉える。
「失いたくないと、思ってしまった」
メテオシュタインは、肩をすくめてそう言った。
慌てふためき逃げ去る同胞を、彼はどのような心境で眺めていたのだろう。
その後ろ姿を、スカイブルーの瞳がじっと見ていた。
次々と星を去る侵略者たち。
星のエネルギーが濾過され、元のエネルギーに戻っていく。
その過程で、いつかエネルギーが侵されたときのように大地は痩せ、多くの――本当に多くの命が亡くなった。
「これが浄化作用か」
メテオシュタインは小さく呟き、傍らに立つ青年をそっと抱きしめた。
「……これで、元の美しい星になる」
陰惨たる表情だ。けれどその瞳はしっかりと、変化する今を映している。
「敵わぬわけだ」
メテオシュタインはこのとき、アステルの強さを本当の意味で理解した。
彼の方を向いたアステルは、かすかに眉根を寄せて小さく笑う。メテオシュタインはその少し痩せた頬に触れ、水気を帯びた美しい瞳に顔を寄せ、親指で優しく目許を撫でた。
「森には戻らないのか」
「あんたがいるし」
「私も同行する」
メテオシュタインは図太いのか無神経なのかわからない。
「元敵だぞ」
アステルはそんな彼を見上げ、呆れたように肩をすくめる。
「いまは同じエネルギーの者だ」
ロイヤルパープルの瞳は、まったく動じないので。
「……あんたがいいなら、いいけどさ」
彼が "隊長" だった頃にされたあれやこれやを思い出し、少しくらい皆から詰られればいいと思ってしまった。
麗らかな日の光。
低く艶やかな声が耳許で囁く。
「アステル…」
「…も、いいからっ」
切羽詰った表情を映す瞳は悪戯に煌めいて、望む言葉を聞くまで待つ体勢だ。焦れたアステルは羞恥を押しやり、眉根を寄せて小さく唇を開く。
「……メテオ、っン…」
同じエネルギーになった二人は、なんの気兼ねもなく互いを感じることが出来た。
名前を呼んで、瞳を合わせればすべて伝わる。
(アステルと出会うために生きてきたのだ)
メテオシュタインはいま、心からそう思う。
そっと頬を撫でられて、ゆっくりと唇を重ね合わせる。
「君はなぜ、私を受け入れた?」
「……なんだよ、突然…」
ロイヤルパープルの瞳がまっすぐに見詰めてくるので、アステルはぶっきらぼうに言う。
「なんかわかんないけど、気付いたら好きになってた。自分でも、妙だと思ってる」
最初は真逆の感情を抱いていたのに、おかしなものだ。
「それを本人に言うか」
「っ聞いたのはあんただ!」
アステルは赤い顔で眉を吊り上げる。メテオシュタインはくつくつ笑った。
「たしかに、妙なものではあるな」
それはメテオシュタインのすべてを変えてしまったようだった。いまや、視界に移るすべてがきらきらと輝いて見えるのだ。
「世界がこんなにも美しかったとは」
スカイブルーの瞳の煌めきを見ていると、胸がジンと痺れてどうしようもない気持ちになる。
「知ってもらえて良かったよ」
どこか照れたような微笑みは花のよう。
青い空、豊かな緑、美しい鳥の声。
「彼らは春真っ盛りだな」
見守る人々の、瞳優しく。
置換変異の最前線-fin-
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