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澄み渡る

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 アステルは抱擁を解くと、彼に唇を寄せた。心からこうしたいと思ったのは初めてだ。
 メテオシュタインは石になったかのように動かない。
 それでそのまま、彼の薄い唇を舌で押し開き、よく彼がするように唾液を流しこんでやった。

「、っ」

 そこでようやく、メテオシュタインはハッとしてアステルを突き放した。

「いま、」
「お返しだ」

 アステルはほんの軽い気持ちでやったのだが、メテオシュタインが喉を手で押さえて前かがみになったのを見て、慌てて広い背中を擦る。

「俺たちのエネルギーは弱いから、あんたたちにはなんの影響もないんだろ?」

 いつか、メテオシュタインがそんな事を話していたはずだ。
 それなのに――。

「っぁ、う、っ……」
「おい、苦しいのか?」

 メテオシュタインの身体が束の間、淡い碧に包まれた。
 アステルは彼の肩に手を置いて、その顔を覗きこもうとする。
 そのとき、メテオシュタインがゆるゆると顔を上げた。

「……エネルギーの弱さというのは、心の隙だ。どうやら、私は、君の侵入を許してしまったらしい」

 アステルは驚きに目を見開く。
 寄越されたロイヤルパープルの瞳。透明感が増して、宝石のように煌めいている。

「チョーカーを」

 アステルは言われるがままチョーカーを外し、彼に渡した。そこに嵌められている石に、メテオシュタインの長い指が触れる。
 少しの間そうしていたが、石の色が変化することはなかった。

 はぁ…。

 メテオシュタインは椅子に深く沈みこみ、息を吐きだした。

「……つまり、あんたのエネルギーは、俺と同じになった…?」

 エネルギーが混じり合うどころではなく、アステルのエネルギーに侵され、置換されてしまった、と。

「どんな術を使った」
「……何もしてない」

 メテオシュタインにも予想外なことだったらしく、困惑しているように見える。しかしながら、それはアステルにとっては素晴らしい好機だった。

「例のエネルギー装置を起動させてくれ。もう、時間がない」

 今のメテオシュタインなら、そうなってもここに居られる。

「同胞を見殺しにしろと?」
「さっさとこの星を出て行くように伝えてくれ」

 まったく感情の感じられない目を見るに、メテオシュタインは単に言ってみただけかもしれない。

「君のかつての同胞はどうする」
「……」

 そう。そうなれば侵されたエネルギーの人々は、もうこの星で生きてはいけないのだ。
 しかし、それは星が望んだことである。
 かすかに眉根を寄せてはいるが、スカイブルーの瞳に曇りはない。

「君は、最初から覚悟を決めていたのだったな」

 思えば、星霊を躊躇なく討伐していたときに、メテオシュタインはそれを悟ったのだった。
 重厚な雰囲気を醸し出す、クラシックな机に目を落とす。

 (同胞からエネルギーの侵略を受ければ、元に戻れる)

 けれどメテオシュタインの心は、それを望まなかった。
 アステルによって置き換えられてしまったエネルギーは、侵略という言葉とはほど遠い。息苦しくなったのはほんの一時で、このエネルギーが身体中に巡ったときには、心地良ささえ覚えたのだ。
 これが彼の言う "愛" の感覚なのかもしれない。

「一つだけ。君が私の言葉を聞くというのなら、君の望みを叶えよう」
「……なんだ?」

 メテオシュタインは、すっとアステルを捉える。

「私はこれまでの全てに別れを告げて、この星に残る」

 アステルの喉がコクリと鳴った。

「私のものになれ」

 ロイヤルパープルの澄んだ煌めき。放たれた言葉とは、あまりに不似合いだ。

「……あんたを独りにはしない」

 アステルは苦笑するように言い、メテオシュタインの知らない愛の言葉をそっと囁いた。

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