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純血と侵略者
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メテオシュタインはゆったりと立ち上がり、おもむろに来客用のテーブルに向かう。アステルは睫毛を伏せて、その場に佇んでいた。
「原初の森は、この星の最後の要。シールドを破ろうと試みてはいるものの、我々は未だに陥落できずにいる」
そうしてテーブルにあったバスケットのなかの果物を手に取ったメテオシュタインは、そこから一粒もぎ取って、今度はアステルのもとへ歩みくる。
「この星は豊かだな」
口許に差し出された、一口大の紫の実。
アステルはかすかに睫毛を震わせ、視線をそらした。
「食べられないのか?」
隊長である自分が差し出しているのに? と、切れ長の軽薄な目が言っている。
「なぜ拒む」
「っ…」
深く落ち着いた声が耳許で囁いた。
それは、彼らのエネルギーに侵された地で収穫されたもの。純血と呼ばれる者が食べれば、体内を巡る純粋なこの星のエネルギーが侵され、もう元へは戻れない。
「君が原初の森の出身ではなく、純血でないというのなら、躊躇うこともないはずだ」
薄紅色の唇がかすかに開かれる。
けれどもやはり、アステルがそれを咥内へ招くことは、出来なかったのである。
メテオシュタインは目を細め、行き場をなくした果実を自らの口へ放り込む。果物自体はこの星のものであるのに、エネルギーが侵されているため食すことが出来ないのが、アステルには悲しかった。
「ここへ来た目的はなんだ」
ふと問われ、唇を引き結ぶ。
「我々の弱点でも探ろうというのか」
「ちがう」
アステルは細く息を吐き、冷たいロイヤルパープルの瞳を改めて捉えた。
「あんたの言った通り、原初の森は、この星の最後の要だ」
そこがなくなれば、この星の純粋なるエネルギーは、もうどこにもなくなってしまう。見た目は変わりなくても、それはもう、本来の星のものとは異なる。星を巡るエネルギーが置き換えられるのは、精神を乗っ取られるようなものなのだ。
「俺たちは、ずっと森を守ってきた。だけど星霊が出てきて、星の意思を知ったんだ」
「星の意思?」
首を傾げたメテオシュタインに、小さく頷く。
「星は、このまま自分でいられなくなるくらいなら、いっそ消滅した方がいいと思ってる」
侵されたエネルギーを取り込んだ人々は、異星人の考え方に似ていった。それはつまり、自然を蔑にして征服したり、コントロールしようとするようになったということだ。そのうえ、人々のあいだにも競争意識や階級意識のようなものができ、争いが起こるようになった。
「この星の多くの人も、もう、星から心が離れてしまっているし…」
この星の人々は、社会の頂点に君臨する異星人を敬い、彼らに従うことに疑問を抱かない。彼らの言葉を善として働き、星を傷つける。
(俺たちも星の一部なのに)
星霊は、人々に目を覚ましてほしくて、地震を起こしたりするのだろう。
「だから俺たちは決めた。この星を、消滅させる」
「……なに?」
悲しい決意を宿したスカイブルーの瞳の煌めきに、メテオシュタインはかすかに目を見開いた。
「そんなの望まないけど、そうするしかないんだ」
アステルたち原初の森に住む人々は、星の意思に賛同し、星を消滅すべく、星のコアにエネルギーを集中させることを決めたのだ。そこを破壊すれば、星は消滅する。
「だけど、その前に。少しでも可能性があるのならと思って、ここに来た」
もしかしたら異星人は、侵されたエネルギーを元の純粋なエネルギーに戻す技術を持っているのかもしれない。
それが、アステルの抱いた最後の望みだった。
「そちらには高い技術力がある。俺たちに出来ないことも、あんたたちなら出来るんじゃないか」
この星が消滅するとき、ここに住まう異星人も星と心中することになるだろう。それは、彼らの望むことではないはずだ。
「たしかに、この星が消滅するのは惜しいが…」
しかし、純粋なエネルギーに戻せば、異星人はここに住まえなくなるわけで。
「我々にとっては、消滅する前にこの星を去ればいいだけの話だ」
メテオシュタインはそう結論付けると、眉根を寄せたアステルをとっくり眺めた。
「原初の森は、この星の最後の要。シールドを破ろうと試みてはいるものの、我々は未だに陥落できずにいる」
そうしてテーブルにあったバスケットのなかの果物を手に取ったメテオシュタインは、そこから一粒もぎ取って、今度はアステルのもとへ歩みくる。
「この星は豊かだな」
口許に差し出された、一口大の紫の実。
アステルはかすかに睫毛を震わせ、視線をそらした。
「食べられないのか?」
隊長である自分が差し出しているのに? と、切れ長の軽薄な目が言っている。
「なぜ拒む」
「っ…」
深く落ち着いた声が耳許で囁いた。
それは、彼らのエネルギーに侵された地で収穫されたもの。純血と呼ばれる者が食べれば、体内を巡る純粋なこの星のエネルギーが侵され、もう元へは戻れない。
「君が原初の森の出身ではなく、純血でないというのなら、躊躇うこともないはずだ」
薄紅色の唇がかすかに開かれる。
けれどもやはり、アステルがそれを咥内へ招くことは、出来なかったのである。
メテオシュタインは目を細め、行き場をなくした果実を自らの口へ放り込む。果物自体はこの星のものであるのに、エネルギーが侵されているため食すことが出来ないのが、アステルには悲しかった。
「ここへ来た目的はなんだ」
ふと問われ、唇を引き結ぶ。
「我々の弱点でも探ろうというのか」
「ちがう」
アステルは細く息を吐き、冷たいロイヤルパープルの瞳を改めて捉えた。
「あんたの言った通り、原初の森は、この星の最後の要だ」
そこがなくなれば、この星の純粋なるエネルギーは、もうどこにもなくなってしまう。見た目は変わりなくても、それはもう、本来の星のものとは異なる。星を巡るエネルギーが置き換えられるのは、精神を乗っ取られるようなものなのだ。
「俺たちは、ずっと森を守ってきた。だけど星霊が出てきて、星の意思を知ったんだ」
「星の意思?」
首を傾げたメテオシュタインに、小さく頷く。
「星は、このまま自分でいられなくなるくらいなら、いっそ消滅した方がいいと思ってる」
侵されたエネルギーを取り込んだ人々は、異星人の考え方に似ていった。それはつまり、自然を蔑にして征服したり、コントロールしようとするようになったということだ。そのうえ、人々のあいだにも競争意識や階級意識のようなものができ、争いが起こるようになった。
「この星の多くの人も、もう、星から心が離れてしまっているし…」
この星の人々は、社会の頂点に君臨する異星人を敬い、彼らに従うことに疑問を抱かない。彼らの言葉を善として働き、星を傷つける。
(俺たちも星の一部なのに)
星霊は、人々に目を覚ましてほしくて、地震を起こしたりするのだろう。
「だから俺たちは決めた。この星を、消滅させる」
「……なに?」
悲しい決意を宿したスカイブルーの瞳の煌めきに、メテオシュタインはかすかに目を見開いた。
「そんなの望まないけど、そうするしかないんだ」
アステルたち原初の森に住む人々は、星の意思に賛同し、星を消滅すべく、星のコアにエネルギーを集中させることを決めたのだ。そこを破壊すれば、星は消滅する。
「だけど、その前に。少しでも可能性があるのならと思って、ここに来た」
もしかしたら異星人は、侵されたエネルギーを元の純粋なエネルギーに戻す技術を持っているのかもしれない。
それが、アステルの抱いた最後の望みだった。
「そちらには高い技術力がある。俺たちに出来ないことも、あんたたちなら出来るんじゃないか」
この星が消滅するとき、ここに住まう異星人も星と心中することになるだろう。それは、彼らの望むことではないはずだ。
「たしかに、この星が消滅するのは惜しいが…」
しかし、純粋なエネルギーに戻せば、異星人はここに住まえなくなるわけで。
「我々にとっては、消滅する前にこの星を去ればいいだけの話だ」
メテオシュタインはそう結論付けると、眉根を寄せたアステルをとっくり眺めた。
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