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綺麗な新入り
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日夜肥大する純白の人口都市。それは緑を飲みこんで、星の原風景は失われていく。この慌ただしい世の中で、いったい誰が真昼の月を見つけられるというのだろう。
「じ、地震?」
「山が火を噴いたんだ! 逃げろ、逃げろ!」
昔はこうではなかった。豊かな自然と自分たちが、同じ星の一部だと認識していた、あの頃は。
「このあいだ、C地区で大きな地震があったばかりだろ。この星はどうしちまったんだ」
星のイシキも、遠く離れてしまった人の心には届かない。それは天災と名付けられ、人々を恐怖に陥れた。
<至急、至急。E地区の西に星霊出現。 応援を求む>
「討伐班ツェルブ、出動だ!」
天変地異を引き起こすのは、星の意思が具現化した星霊と呼ばれるエネルギー体。散じてエネルギーに還せば、脅威は収まる。
「新入り、気張っていけよ。あいつを倒せば、出世間違いなしだ」
それが出来るのは、この星との繋がりが深い者だけ。この星を支配している異星人には、出来ないことだった。
「ま、死んだら元も子もないけどな」
嫌な笑みを浮かべて肩を叩いてきた上官に、アステルは小さく息を吐く。そうして気持ちを切り替え、目標に意識を集中させた。
キラ ラ…
星霊は半透明の大きな人型で、悲しいほどに美しい光を放っている。その美しいものを、アステルは散じなければならない。
(ごめん)
腰の剣をシャラリと抜いて持ち、一気に駆ける。
(絶対、このままにはしないから)
固い決意のもと地を蹴って飛び上がり、腕を振り上げた星霊を真っ二つに斬り去った。
「おお…」
「すげぇ…」
想像以上の働きを見せた新入りの噂は、すぐさま討伐隊中を駆け巡ることとなった。
アステルはG地区出身の十八才。討伐隊への志望動機は、生活のためという。
西へ東へ、星霊討伐に駆けずり回って早十日。口数の少ない彼には人を寄せつけない雰囲気があり、周囲に馴染むことなく浮いていた。
「アステル、昼メシ食ったのか」
「少し前に」
「そういや、お前がメシ食ってるの、見たことないぞ」
「……時間が合わないだけだ」
入隊したての下っ端でありながら、バンバン星霊を倒すアステルに、隊員たちの態度は二分していた。
「やるなぁ、アステル。そんな綺麗な顔して強いだなんて、まったくズルい奴だ」
「まだ十代でな。よくやるぜ」
「っ、」
いきなり肩を抱いて、頭を撫でたりされるのは鬱陶しいけれど。
「あとで第二倉庫裏に来い」
「……断る」
「あれぇ? ビビって来られないんでちゅか?」
「強いって噂は、こいつの顔にやられたシンパの流したウソかもな」
人目につかない所に呼び出され、新人イビリをされるよりはマシだ。
妙な言いがかりだけならともかく、彼らは暴力を振るう。もちろん、簡単にやられるアステルではないのだが、彼らの思考は想像の斜め上をいっていた。
「顔じゃなくて、カラダだったりしてな」
「へへっ…。実際のところ、どうなんだ?」
「お前も、痛いのより、気持ちイイほうがいいよな」
嫌らしい顔で迫りくる男たちに、アステルは眉根を寄せる。
「そそるねぇ…」
「まさか初物か?」
最初は意味が分からなかったが、暗闇で絡み合う男たちを見てしまい、ようやく理解した。
吐き気がする。
アステルは諸々の感情をぶつけるように、回し蹴りを炸裂させた。
「くっ…お綺麗な顔してえげつねえ…」
「……覚えてろよ…」
二度と近寄るな。
アステルは心の中で言い返す。
「おい、アステル。隊長がお呼びだ」
そんなとき背に掛かった声に、アステルはオフホワイトの髪を揺らして振り返った。
「じ、地震?」
「山が火を噴いたんだ! 逃げろ、逃げろ!」
昔はこうではなかった。豊かな自然と自分たちが、同じ星の一部だと認識していた、あの頃は。
「このあいだ、C地区で大きな地震があったばかりだろ。この星はどうしちまったんだ」
星のイシキも、遠く離れてしまった人の心には届かない。それは天災と名付けられ、人々を恐怖に陥れた。
<至急、至急。E地区の西に星霊出現。 応援を求む>
「討伐班ツェルブ、出動だ!」
天変地異を引き起こすのは、星の意思が具現化した星霊と呼ばれるエネルギー体。散じてエネルギーに還せば、脅威は収まる。
「新入り、気張っていけよ。あいつを倒せば、出世間違いなしだ」
それが出来るのは、この星との繋がりが深い者だけ。この星を支配している異星人には、出来ないことだった。
「ま、死んだら元も子もないけどな」
嫌な笑みを浮かべて肩を叩いてきた上官に、アステルは小さく息を吐く。そうして気持ちを切り替え、目標に意識を集中させた。
キラ ラ…
星霊は半透明の大きな人型で、悲しいほどに美しい光を放っている。その美しいものを、アステルは散じなければならない。
(ごめん)
腰の剣をシャラリと抜いて持ち、一気に駆ける。
(絶対、このままにはしないから)
固い決意のもと地を蹴って飛び上がり、腕を振り上げた星霊を真っ二つに斬り去った。
「おお…」
「すげぇ…」
想像以上の働きを見せた新入りの噂は、すぐさま討伐隊中を駆け巡ることとなった。
アステルはG地区出身の十八才。討伐隊への志望動機は、生活のためという。
西へ東へ、星霊討伐に駆けずり回って早十日。口数の少ない彼には人を寄せつけない雰囲気があり、周囲に馴染むことなく浮いていた。
「アステル、昼メシ食ったのか」
「少し前に」
「そういや、お前がメシ食ってるの、見たことないぞ」
「……時間が合わないだけだ」
入隊したての下っ端でありながら、バンバン星霊を倒すアステルに、隊員たちの態度は二分していた。
「やるなぁ、アステル。そんな綺麗な顔して強いだなんて、まったくズルい奴だ」
「まだ十代でな。よくやるぜ」
「っ、」
いきなり肩を抱いて、頭を撫でたりされるのは鬱陶しいけれど。
「あとで第二倉庫裏に来い」
「……断る」
「あれぇ? ビビって来られないんでちゅか?」
「強いって噂は、こいつの顔にやられたシンパの流したウソかもな」
人目につかない所に呼び出され、新人イビリをされるよりはマシだ。
妙な言いがかりだけならともかく、彼らは暴力を振るう。もちろん、簡単にやられるアステルではないのだが、彼らの思考は想像の斜め上をいっていた。
「顔じゃなくて、カラダだったりしてな」
「へへっ…。実際のところ、どうなんだ?」
「お前も、痛いのより、気持ちイイほうがいいよな」
嫌らしい顔で迫りくる男たちに、アステルは眉根を寄せる。
「そそるねぇ…」
「まさか初物か?」
最初は意味が分からなかったが、暗闇で絡み合う男たちを見てしまい、ようやく理解した。
吐き気がする。
アステルは諸々の感情をぶつけるように、回し蹴りを炸裂させた。
「くっ…お綺麗な顔してえげつねえ…」
「……覚えてろよ…」
二度と近寄るな。
アステルは心の中で言い返す。
「おい、アステル。隊長がお呼びだ」
そんなとき背に掛かった声に、アステルはオフホワイトの髪を揺らして振り返った。
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