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2章.Kyrie

コカビエルの部屋で

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 ミカエルは小さく息を吐き、コカビエルの部屋のドアをノックする。
 すぐにドアが開いてコカビエルが姿を見せた。

「ようこそ」
「しつれーシマス」

 ペネムエルの部屋と同様にソファがあり、本棚が並んでいる。しかし、こちらの方が雑然とした雰囲気で、本棚には鉱石や輝かしい貴金属も飾られていた。
 その中に赤い輝きを見つけたミカエルは、内心ほくそ笑む。

「美しいだろう」
「ハイ、センセー。剣はどこデスカ」
「そう焦るな。まずは君に触れさせてくれ」
「見せてくれたらデス。本当にありマスカ」

 ミカエルがさっと避けると、コカビエルは首に手を当て、やれやれと首を振った。

「わかったよ、まずお目に掛けよう。そしたら次は俺が君を堪能する。最後に君が剣に触れる。それでいいな」
「ハイ、センセー」
「こっちだ」

 コカビエルは奥にあったドアを開いて、その向こうにミカエルを招き入れる。
 そこは寝室だった。彼はベッドの上に飾られていた濃紺の剣を指差し、耳許で囁いた。

「あれが例の剣。本当にあっただろ?」
「……ハイ、センセー」

 肩を抱く手が気になったが、ミカエルはじっと耐え、剣を観察する。黒光りする青い剣はダークな印象だ。黒っぽい石が鍔の辺りに埋め込まれている。

「ホントにあれが?」
「ああ、そうさ。高品質のトルマリンは青いんだ」
「黒っぽい」
「力を蓄えると青くなる」

 耳を食まれ、ミカエルは瞬時にコカビエルから距離を取った。

「触るだけデス」
「食わせてくれたら、剣を食ってもいいぞ」
「剣は食えねえだろデス」
「わかったわかった。ほら、こっちに来い」

 促され、ミカエルは仕方なくふかふかベッドに座る。

「脱がせるのもアガるな」

 上着の前を全開にされ、自分で脱いだ。シャツの中に侵入した手が素肌に触れて、身体が揺れる。

「いい手触りだ。君の肌は極上だな。やたら色っぽいのは、バディができた影響か」
「舐め、っな!」
「唇や舌で触れてるだけだろう?」

 首筋を舐められ反射的に首をすくめれば、寛げたシャツから覗く鎖骨にキスされた。
 生暖かい手が身体に纏わりつくようで鬱陶しく、身を捩る。
 笑って耳を食まれ、シャツを脱がされた。熱くなった身体にはちょうどいい。

「腕を上げろ」
「腕?」

 ミカエルは不審に思いつつ腕を上げる。するとコカビエルは露わになった腋を眺め、口を開いた。

「薄いが生えてるな。ここの毛、なくてもいいだろ」
「あ?」
「こだわりがあるのか?」
「気にしたこともねえけど…」

 首を傾げるミカエルに、コカビエルは手の平大の黄色いボールを見せた。柔らかそうだ。

「これでこうすると、毛がなくなる」

 言いながらミカエルの腋に押し当て、手の平を使ってクルクル回しながら肌を滑らせる。
 ボールを退ければあら不思議。生えていた毛がなくなっていた。
 ミカエルは目を瞬く。

「毛、どこいったんだスカ」
「このボールが吸収して分解してくれる。便利だろ」
「っつか、なくす必要あんのデス?」
「俺はないほうが好みだな。好きずきだろう」
 
 何も考えたことがなかったミカエルは、促されるまま逆側の腕も上げ、スベスベになった。なんだか無防備な感じで落ち着かない。
 腋に意識がいっているうちに押し倒され、見上げれば、コカビエルがふっと笑った。

「これに慣れると、生えてるほうが不快に感じる」
「っ舐めんな!」
「そのためになくしたんだろう」
「は!?」

 腕を上げて押さえつけてくる手を退かそうとしたが、ゾワゾワしてあまり力が入らず無理だった。
 もう片方の手が腰を撫で上げる。
 こんな所を舐めるなんて絶対おかしい。しかしコカビエルは当然のように腋に顔を寄せるのだ。

「っ、やめろってっ」
「匂いも魅惑的だな」
「っあ?」

 腋の盛り上がっている部分を唇で食んだかと思えば、凹みに舌を這わせてくるので眉根が寄る。

「おいっ、っく、すぐってえデスっ」
「なかなかカワイイ顔をするじゃないか」
「っ、」

 こんどは乳首を吸われ、眉を吊り上げた。抵抗しても、ビクともしない。

「だからっ、触るっ、だけってッ」
「ああ、触っているだけだ」
「食ってる!」
「こんなの、食ううちに入らんだろう。こんなに愛らしい乳首をしているのがわるい」

 言いながら下着をおろされ、股の内側を焦らすように撫で上げられた。
 どうしても身体が反応してビクビク揺れる。

「っ、っ」
「しっかり感じてるじゃないか。気持ちイイんだろ、素直に楽しめよ」
「楽しく、ねえっ」
「俺には楽しんでいるように見えるが?」

 コカビエルはようやく胸元から離れ、ミカエルの腰を抱くように手を添えて腹の辺りを舐めている。もう片方の手は、わき腹から腿の方まで造形を楽しむように撫でていた。
 なんだか美術品にでもなった気分だ。
 痙攣する身体。少しずつ下がる舌の愛撫に呼応して、中心に熱が集まっていく。

「薄い身体だな。背ばかり伸びて、大人のように見えても、内面が伴っていない。そんな君たちの、アンバランスで、簡単に壊れてしまいそうなところが、堪らなく愛おしいんだ」
「も、おわりっ」
「これからだろう」

 ひっくり返され、背筋を舌が這う。弓なりに背中がしなって、ゾクゾクする感覚から逃れるように首が伸びた。
 抜け出そうと手を伸ばし、手の甲に重ねられた手に縫いとめられる。

「美しい…」

 肌の感触やミカエルの反応。本人すら知らないことを露わにされて、丹念に味わわれている気分だ。
 これが身体を暴くということなのだろうか。
 この感覚は、巾着袋の粉野郎のときには感じなかった。何か大切なものを侵されているような、不安感に襲われる。

「なぁ、っ…」
「これは本当に翼の名残りなのかもな」
「もう、いいだろ」
「ちゃんとベッドに乗って膝を曲げろよ。君は尻が格別いいんだ」
「聞けよヘンタイ!」
「っそうさ、俺は男にしか勃たない変態だ」
「ッ、」

 おもむろに腰を掴んで持ち上げられ、膝蹴りで膝を折られる。
 お尻を突き出すような恰好となり、抵抗しようとしたのだが。
 覆いかぶさるように後ろにくっついたコカビエルが股に足を挟んでミカエルの手をそれぞれの手で上から抑え込むので、身動きが取れなくなってしまった。

「痛い思いをしたくないなら、大人しくしていろよ」
「触るだけっつっただろ!」
「ああ、そうだ」

 固いものをお尻に押しつけられ、ミカエルは嫌な予感がした。
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