God & Devil-Ⅰ.ミカエルとルシファーのまずは聖学校脱出!-

日灯

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2章.Kyrie

ひとときの安らぎ

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 ミカエルは肩で息をする。そこへ冷静な声が落ちた。

「これはまだかかりそうだな」
「いきなり、触んなっ」
「ちゃんと聞いたけど?」
「ちげぇ、おまえがやるなんて、思わねえからっ」

 色気を感じる声が、耳許で「驚かせてゴメンネ」と言った。ミカエルは舌打ちしてルシファーの首に腕を回す。

「だっこ?」
「ハグに決まってんだろ」

 ルシファーは息を溢すように笑ってミカエルを抱きしめた。シャツが濡れると、ミカエルは今更ながら思う。
 本当に今更だ。
 ミカエルはルシファーのシャツの中に手を入れて、直接肌に触れ、骨張った背中を抱き寄せた。

「満足?」
「おー」

 心が落ち着く。熱い身体もそれを求めていたようだ。
 しかしまだ、ジワジワと中心に集まりゆく熱の感覚がある。

「イク?」
「自分でやる」

 放出するたび身体の熱は引いて、三度目でようやく収まった。そこでふと、彼の下着の前が主張していることに気づいてしまう。触発されて、反応してしまったのかもしれない。
 口を開くより前に顎を掬われ上向かされて、視界に端麗な顔が映った。平時と変わらない、何食わぬ顔だ。

「おつかれ」
「……おまえも出しちまえよ」
「あとで」

 ミカエルはそちらに手を伸ばす。しかし下着に触れる前に手首を掴まれ、止められた。

「キツイだろ」
「君のまえでやるつもりはない」
「俺は気にしねえよ」
「俺が気にする」

 彼に散々見せてしまったミカエルは、ムッとして半目になった。

「君は普通の状態じゃなかっただろう」
「巻き込まれたおまえもそうだッ」

 少々ヤケになり、手首を掴まれたままの腕を伸ばして彼の下着を掴もうとしたが、強く掴まれ阻止された。
 まだ粉の効き目が完全に切れておらず、俊敏な動きができないのだ。

「チッ」
「君、俺をイかせたいわけ」
「やってもらったからな」
「ヤられた仕返し?」
「感謝のほうだぜ」

 ルシファーは息を吐き、おもむろにシャワーを手にした。

「目瞑って。シャワー浴びてて」

 我慢させるより良いと思い、ミカエルは言われた通りにした。けれど、だんだん気になってくる。

「目、開けたら協力破棄」
「開けてねーよ。なんでわかんだ…」
「気配。ウズウズしてる」

 ミカエルは口を噤んで、シャワーを顔にかけた。水が口に入るもそのまま、「なんも見てねーー」と言うと、揺れ揺れの声音に、彼がフッと笑ったようだった。
 少しして、シャワーを奪われ目を開ける。

「どうも」
「こっちのセリフだ」

 ミカエルは気怠さの残る表情で立ち上がる。ルシファーもおざなりに身だしなみを整え、よいせと立ち上がった。

「世話になったな」
「……オジサンくさい」
「あ?」
「そんな言葉より、キスされたほうがずっといい」

 ミカエルは押し黙り、戯れのようにほざいた紅の瞳をじっと見た。
 初めて会ったときは冷たく感じたが、今となっては親しみすら覚える。

「そうかよ」

 眉を上げて半目で返し、すれ違いざま、背伸びして白い頬にキスをした。
 紅の瞳がかすかに開かれる。
 本当にされるとは思っていなかったのだろう。ミカエルは鼻で笑って脱衣所のタオルを手に取った。
 客室に二人分用意してあった替えの服を着て、ドアを開く。

「ミカエル。もう平気か?」
「ハイ、センセー。アリガトウゴザイマシタ」

 ドアの外でずっと見張りをしてくれていたらしいツァドキエルは、ホッとしたように笑った。それから、眉尻を下げる。

「今回は、俺が介抱したことにしていいか? 彼はその、」
「そのほうがいい」

 振り返れば、ルシファーがいた。
 ツァドキエルとルシファーと三人で真昼の廊下を行くのは、妙な気分だ。

「俺も変に関わりを持ちたくない」
「……ミカエル、それでいいか」
「ハイ、センセー」
「わかった。遅刻については、咎めないよう俺から伝える」
「次の講義からでいいデスカ」
「ああ、そうだな。少し休んだほうがいい」

 建物から出て午後の日差しのもとへ。
 ツァドキエルはルシファーをチラリと窺い、切りだす。

「それで、君を襲った人のことだが――」

 ミカエルは相手の特徴やされた事を冷静に語った。
 怒りはあるし、ぶん殴りたいと思うが、ここで問題は起こせない。

「その生徒の処分は俺には決められない。すまんが、どうであれ受け入れてくれ。あと、腹の痛みはラファエル先生に治癒してもらうといい。なんなら、俺も一緒に医務室行くぞ」
「もう平気デス」
「そうか。よかった。じゃあ、次の講義に遅れないようにな」
「ハイ、センセー。アリガトウゴザイマシタ」

 去っていく後ろ姿を眺め、ミカエルは言う。

「なんだかんだ、普通に話すじゃねえか」
「あの教師が変わってるんだ。他の教師だったら、俺を見た瞬間叫んでる」
「ラファエルも?」
「あの人は例外。君のために来たような人だから」

 ミカエルは顔をしかめて小道から逸れると、草原の上に寝転んだ。ゆっくり流れゆく雲を見ていたら、頬にベロリと衝撃が。

「ぅぶっ、どこ行ってたんだよクリスー!」

 執拗に顔を舐めてくるクリスを、今度こそ手の平で撫でくり回した。

「俺は休憩してんの。おまえも寝ろよ」

 ワンッ

「っは、しゃーねーな」

 嬉しそうに尻尾をブンブン振って誘われては敵わない。
 ミカエルはいつかのようにクリスと走り回って遊んだ。ルシファーは壁にもたれて観覧だ。

「おまえも来いよ」
「遠慮する」
「クリス、行け!」

 じゃれるクリスをいなそうとするルシファーは、いつもの落ち着き払った様子とは別人のようだ。

「クリス、怒るぞっ」
「クリスに怒ったら俺が怒るぜ」

 ルシファーは息を吐いてやってきた。
 ご機嫌でお尻を撫でるよう催促するクリス。ミカエルは愛しいモフモフのお尻を解すように撫でる。

「おまえ、いつからミカエルの手下になったわけ」
「おまえの手下だったのか?」
「俺と過ごしてきた時間が一番長いはず」
「もっと遊んでやれよ」
「遊んでる。さすがに追いかけっこはしないけど」

 どうやらクリスは、一緒に身体を動かして遊んでくれるミカエルが気に入ったらしい。草原に腰を下ろせば、足の間に背中を向けて座り、撫でるよう催促された。

「いい毛並みだ。俺もおまえが好きだぜ」

 ミカエルは愛らしい背中に抱き着いてモフモフを堪能する。
 連れ出されて来たのに放置されたルシファーは、ウンチングスタイルでどこか不満そうな顔をして、そんな一人と一匹を見ていた。
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