God & Devil-Ⅰ.ミカエルとルシファーのまずは聖学校脱出!-

日灯

文字の大きさ
上 下
18 / 73
2章.Kyrie

悪魔の取り引き

しおりを挟む
 ここが例の地下牢なのだろう。出入り口に鍵をかけて行ってしまったから、今夜はここで酷い痛みに耐えねばならない。この痛みでは、眠気もやってこないのではないか。

「ンでだよっ」

 あまりのことに、涙がポロポロ出てきた。
 ぬぐうのも億劫で、身体を丸めて出るに任せる。

「うぅぅぅぅあぁぁぁぁ」

 動くと痛いが、じっと耐えられるものでもなく、呻き声ばかり出た。
 いっそのこと、石畳の床に頭を打ちつけて意識を飛ばそうか。そう思い始めた頃、カツリ、コツリと小さな靴音がこちらへやってきた。
 ペネムエルでもラファエルでもない。
 ミカエルはもぞもぞと顔を上げ、鉄格子の向こうに目をやった。

「うわ、痛そう」

 薄暗いため、はっきり姿が見えるわけでないが、色気を感じる深い声でルシファーだと確信する。
 いろいろ限界だったミカエルは、必死に声をあげた。

「おまえ、一瞬で俺を眠らせること、できるか?」
「……君は本当に突飛だな。それ、ヤバい人に言ったら殺されるよ?」
「痛くてどうにかなりそうなんだよ。自分でやろうと思ったけど、冷静じゃねえのはわかってる。死んだら、笑えねェだろ」
「まぁ実際、拷問に耐えかねて自ら命を絶つ人はいるしね。さすがに生徒の話じゃないけど」

 ルシファーはなんでもないふうに言い、鉄格子に腕をつく。

「ペネムエルは、君がみずから命を絶つとは思ってないんだろう。手を拘束されている以外は自由に動ける状態だし、くつわを噛まされてもいない」
「俺は死にてぇわけじゃねえ」
「そうなんだ」
「ったりめーだろ」

 ルシファーの声音は普段通りで、置かれた状況を忘れそうになる。

「おまえ、俺のこと見えてねえのか」
「見えてる。夜目は利くからね」
「フツーすぎるだろ」
「驚いたけど? 生徒にここまでする教師がいたんだ、って」

 ミカエルはますます眉根を寄せる。

「少しは俺の心配しろや」
「君に死ぬ気がないなら問題ない」
「ああ?」
「それくらいでは、人は死なない」
「死にてぇくらいキチィから、どうにかしてくれってんだよ」

 なんだかクラクラしてきた。

「記憶抹消されて、別人になった方がよかったと思ってる?」

『その内わかりますよ。どちらを選んだ方がマシなのか』

 ミカエルは脳裏に響いた声に顔をしかめる。

「思うわけねえだろ」
「そしたらたぶん、こんな目には遭わない」
「全部忘れちまったら俺じゃねえ。そんな事より、おまえはできるのか? はやく意識飛ばしてえんだよ」

 ミカエルの必死さがようやく伝わったのか、ルシファーは小さく笑って「おいで」と言った。
 ミカエルは呻きながら四つん這いもとい三つん這いでジリジリ進み、ようやく鉄格子に辿り着く。
 ルシファーが格子越しにしゃがみこみ、首を傾げた。

「お礼に何してくれる?」
「……あ?」
「望みを叶えてあげるんだから、相応の対価があってもいいだろう。悪魔はタダじゃ動かない」

 ミカエルはルシファーの顔をぼんやり見ていたが、ハッとして言った。

「おまえ、人間じゃなくてあくまってやつなのか」
「違うから。一応人間だから」
「なんだ…」

 ホッとしたような残念なような微妙な気分になったところに腕が伸び、鉄格子を越えてミカエルの顔に迫った。
 ミカエルはそのままルシファーを見上げている。
 ついにその手が頬に触れ、そっと涙をぬぐわれた。

「無防備」
「おまえは、痛ぇこと、しねえだろ」
「これから君を気絶させるんだけど?」

 手を引っ込めたルシファーは、指についた雫を舐めて「しょっぱい」と言う。それから再び腕を伸ばして、今度は金髪に触れた。感触を楽しむように撫でたり指で梳いたりしている。

「なあ、まだかよ」
「捕獲された野生動物愛でてる気分」
「俺は人間だ」
「知ってるよ」

 不思議なことに、楽しげな手に頭を撫でられると、背中の痛みがほんの少しマシになるような気がした。

「おまえ、治癒できるのか?」
「君と同じ。力は使えない」
「だよな…」
「きもちいい?」
「ちょっとマシになる」

 孤を描いた唇は機嫌が良さそうだ。
 ミカエルは痛みで何も考えられない頭でそれを見ていた。

「……好き勝手触らせてもらったし、対価はこれでいいかな」

 ルシファーはそう言って、最後にミカエルの頭をわしゃわしゃ撫でた。

「他の人に、簡単に触らせないでね」
「なんで?」
「俺の対価が安くなるでしょ。そこは特別感を感じさせてくれないと」
「そういうもんか」

 ミカエルは頷いて、悪魔ごときの話を受け入れた。

「それじゃ、おやすみ」

 鉄格子の中に伸びた腕が振り下ろされる。
 首に衝撃を受け、ミカエルは意識を失った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

隣のチャラ男くん

木原あざみ
BL
チャラ男おかん×無気力駄目人間。 お隣さん同士の大学生が、お世話されたり嫉妬したり、ごはん食べたりしながら、ゆっくりと進んでいく恋の話です。 第9回BL小説大賞 奨励賞ありがとうございました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

処理中です...