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番外編
グラ先の苦い思い出 その二 <本編前>
しおりを挟む・白衣禁止令・
紆余曲折ありアルコイリス学園の教師となったフェランは、名をグラディオと改め、その務めを全うしていた。
そんな、ある日のこと。
「今年度から保健医を担当するルルムです。よろしくお願いいたします」
そこには学生時代、同じ生徒会役員だった後輩の姿があった。それは他にも例があるためどうでもいいのだが、一点だけ、グラディオにはどうしても許しがたいことが。
朝の集会の後、眉間にしわを刻んで、保健室へ向かったルルムの後を追う。
「おい」
同僚に話し掛けるにしては物騒な声である。ダメ出しに肩を掴んで強引に足を止めさせた。
「はい? ……ッ」
首を傾げて振り返ったルルムの頬に食い込む長い人差し指。
「俺、おまえにも言ったことあったよな」
「にゃんでしぇんふぁいが」
グラディオは容赦なく指でグリグリとルルムの頬を抉りながら言う。
「一度で覚えろ。二度目はないと言ったはずだが?」
一筋銀の混じる金色の瞳がチリチリと音を立てそうなほど強められた時、割って入った第三者が勢いよくルルムを横へ張り倒した。
「げふぉっ」
壁に叩きつけられたルルムが変な声を出したが、ヒーローのごとく唐突に現れたスクーロは、グラディオを一心に見詰めたままだ。
「ルルムは先輩が赴任なさっていることを知らなかった」
浅葱色の瞳は真っ直ぐにグラディオを捉えている。
しばしその色を眺めた後、グラディオはルルムを顎でしゃくった。
「あいつによくよく言っておけ。次に見掛けたら、うっかり窓から投げ落としちまうかもしれねぇからな」
その目が本気だったので、スクーロは深々と頷いた。
そこでようやく物騒な気を仕舞ったグラディオは、ふっと口角を上げてみせる。
「今はお互い教師なんだ。グラディオと呼べ」
「……呼び慣れない」
スクーロにはフェランという名の方が馴染み深い。
「早く慣れろよ」
グラディオは肩を竦めると、スクーロの髪を軽く撫でて去って行った。
「酷いよスクーロ。眼鏡が割れちゃったじゃないか」
のそりと起き上がったルルムの眼鏡は大破しており、頬が赤く腫れ上がっている。
「……それくらいで済んだことを感謝してほしいくらいだ」
「うーん、まさか先輩がいるとは思わなかったよ」
「教師なんてイメージ全くなかった」と喚くルルムに、スクーロは苦笑する。
「これからは、白衣は保健室だけにしろよ」
「先輩がいるときはね」
ルルムはあまり懲りた様子がない。
やれやれと肩を竦めたスクーロだった。
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