誰かの望んだ世界

日灯

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前篇

在りし日に(sideラウレル

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 夜空の下で呆然と立ち尽くし、辺りを見回す。
 ここは学園。

 今は――、今はいつ?

 逸る心を抑えきれず、自室へ急ぐ。震える指で講義の内容をメモしているノートを開けば、本当に四年の始めに戻っていた。
 へたりと座り込み、壁に寄り掛かる。
 現実に頭が着いていかない。さきほどまであった光景が目まぐるしく頭を駆け抜ける。
 膝を抱えて座り、頭を埋めるように俯いた。
 世界から身を守るようになるべく小さくなる。

 自分に何が出来るというのか。受け入れられない光景が思い浮かび、ぎゅっと目を閉じた。

 ――あんな思いをしなくて済むなら、なんでも出来る。

 意識して、ゆっくりと深呼吸をする。それから少しずつ、記憶を辿った。


 ◇◇◇


 朝、差し込む暖かい日の光。
 俺を起こしてくれるイオの声。無邪気な笑顔。
 学舎からは、賑やかな喧騒が響く。
 教室に入ればジンとアスファーがいて、やる気のないグラディオが来る。
 生徒会に顔を出せば、微笑むルー兄と挨拶をしてくれる役員のみんな。
 心ここにあらずなノヴィ兄をリュイ兄が引き戻している。優しく微笑むリュイ兄を見ていると、泣きそうになった。

 過ぎ去る穏やかな日々がとても大切に感じて、どうしようもなく胸が詰まる。イオの核心を突くような言葉にドキリとしたり、ジンたちを心配させてしまったり。
 俺だけが持っている記憶。――二度目の今日。けれど、みんなには初めての今日だから。
 いつも通りを装って、俺もなるべく真っ白な気持ちを心掛ける。

 どうなったら良かったのかは分からない。

 でも、あの瞬間、どうなって欲しいと思ったかは、鮮明に覚えている。
 リュイ兄が知ったら怒りそうだけど。あのときの気持ちは、忘れられないから。

 ――俺は、俺の望みを叶えるために動くよ。

 願わくは、こんな日々がいつまでも続きますように―――…

 叶わない夢を、流れ星に託して。
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