第10回歴史・時代小説大賞(アルファポリス)

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嘉永六年、黒船来航

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 嘉永六(西暦一八五三)年六月、四隻から成る外国の船団が江戸湾内に出現した。アメリカ海軍東インド艦隊司令長官ペルリ提督が率いる艦隊だった。世に言う黒船来航である。日本来航の目的は江戸幕府に開国を要求する親書を渡すことだった。アメリカ艦隊の武力に恐れを為した幕府は嘉永七(一八五四)年に日米和親条約を締結し二百年以上に及んだ鎖国を解く。安政五(一八五八)年には日米修好通商条約を締結。これにより横浜、長崎、新潟、兵庫、函館の五港が開港し、そこに外国人の居留地が作られることになった。
 従って、それらの土地以外には外国人が暮らしていないはずなのだが、こんな話が残っている。
『八四 佐々木氏の祖父は七十ばかりにて三四年前に亡くなりし人なり。この人の青年のころといえば、嘉永かえいの頃なるべきか。海岸の地には西洋人あまた来住してありき。釜石かまいしにも山田にも西洋館あり。船越ふなこしの半島の突端にも西洋人の住みしことあり。耶蘇ヤソ教は密々に行われ、遠野郷にてもこれを奉じてはりつけになりたる者あり。浜に行きたる人の話に、異人はよく抱き合いてはめ合う者なりなどいうことを、今でも話にする老人あり。海岸地方にはあいなかなか多かりしということなり。』
 柳田国男の著書『遠野物語』の一節である。佐々木氏というのは柳田に遠野に伝わる民話を話して聞かせた佐々木鏡石こと佐々木喜善であろう。彼の祖父が青年だった嘉永の時代には、既に釜石や山田や船越半島に西洋人が住んでおり、日本人と交流があったと書かれている。本当の話なのだろうか? 禁止されている耶蘇教の信仰が密々に行われ、それが発覚して死刑になった者までいた、というのも興味深い。公的な記録があれば事実だと立証できるかもしれないが、どうなのだろう。
 それはさておき、この『遠野物語』の説話を読んで思い浮かんだのが眠狂四郎だ。ご存知の方が多いことだろう。柴田錬三郎の小説『眠狂四郎』シリーズの主人公である。彼は転び伴天連バテレンと日本人女性の間に生まれたニヒルな剣豪だ。
 眠狂四郎の出自は『遠野物語』の西洋人伝説に流用可能だろう。それは転び伴天連ではなく、棄教しなかった伴天連と日本女性の子が活躍する物語となる。まあ別に、伴天連でなくても構わない。西洋人の血が流れる剣豪という設定だけで、そこそこ痺れると思う。そんな感じの話を書きたい。しかし、今から書いて締め切りに間に合うのか? どうしたものか、思案中である。
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