43 / 54
第四十二話 イルカ
しおりを挟む景色が変わり、私とイヤリス大尉は砂浜の上に立っていた。
目の前には海がある。
すんすん。潮の香りがする。とても懐かしい匂いだ。
「こ、怖かったでしゅ~」
恐怖と緊張の解けたイヤリス大尉が、ヘナヘナと砂浜の上に膝から崩れた。
可愛い。
「キュイー♪」
ふと、可愛らしい鳴き声が聞こえる。
海を見ると、遠くで懐かしい生き物が海面を優雅にジャンプしていた。
「イルカの鳴き声だったのか」
「キュイー♪」
離れているにも関わらず、イルカがこちらに気づいた。
背鰭を海上に出しながら、もの凄い速さで泳いで私達に向かってくる。
「人懐っこいイルカだ」
愛らしく泳ぐ姿に、思わず笑みを浮かべた。
だがここで、イルカの背鰭がどんどん大きくなっている事に気づく。
「あれ? イルカってこんなに大きかったか?」
最初は点のように小さかったのに、近くに来れば来るほど巨大化していき――。
「キュイイイイイイイイ――!!」
ついには小島と見間違えるくらいの大きさで、私達の正面にある海上に現れた。
「でかいな」
「お、大きいでしゅ」
「キュイ……」
そして私達と目が合うと、まんまるでくりっくりの愛らしい瞳が、怪獣のように鋭くなる。
「ぴぃいいい――!」
突然の変化に、イヤリス大尉が悲鳴を上げる。
「ギュイイイイイイイッ――!」
怖い顔になったイルカが、口をパックリと開けて、私達を食べようと海から砂浜へと泳いできた。
口の中にはびっしりとノコギリのような歯が生えており、もしゴリラがこの場にいたらすぐ食べられてミキサーのように細かく刻まれていただろう。
だが。
「私はエサじゃない」
正面にジャンプして、その勢いのままイルカの上顎を殴る。
「ふん!」
ボッ。
拳の当たった部分の歯が消え、イルカの上顎も最初から無かったかのように消滅した。
「ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ――――!!!!」
上顎を失ったイルカの悲鳴が、サイレンのように喉の奥から響いてうるさい。
「黙れイルカ」
くるっと一回転してイルカの頭上に立ち、真上から頭を殴る。
ボッ。
脳みそごと、イルカの顔がこの世から消滅した。
残った体の大半は海に沈み、砂浜に上がっていた下顎はイヤリス大尉の正面スレスレで止まった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
❤️レムールアーナ人の遺産❤️
apusuking
SF
アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。
神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。
時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。
レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。
宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。
3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ
8分間のパピリオ
横田コネクタ
SF
人間の血管内に寄生する謎の有機構造体”ソレウス構造体”により、人類はその尊厳を脅かされていた。
蒲生里大学「ソレウス・キラー操縦研究会」のメンバーは、20マイクロメートルのマイクロマシーンを操りソレウス構造体を倒すことに青春を捧げるーー。
というSFです。
銀河文芸部伝説~UFOに攫われてアンドロメダに連れて行かれたら寝ている間に銀河最強になっていました~
まきノ助
SF
高校の文芸部が夏キャンプ中にUFOに攫われてアンドロメダ星雲の大宇宙帝国に連れて行かれてしまうが、そこは魔物が支配する星と成っていた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
GIGA・BITE
鵤牙之郷
SF
「鷹海市にはゾンビがいる」 2034年、海沿いののどかな町で囁かれる奇妙な都市伝説。 ごく普通の青年・綾小路 メロは、ある日ゾンビのように変貌した市民の乱闘に遭遇し、重傷を負う。そんな彼を救ったのは1人の科学者。彼はメロに人体改造を施し、【超獣】として蘇生させる。改造人間となったメロを待っていたのは、1つの町を巻き込む邪悪な陰謀だった…。
※2024年4月より他サイトにて連載、既に完結した作品を加筆・修正したものです。
霊装探偵 神薙
ニッチ
SF
時は令和。本州に位置する月桑市にて、有能だが不愛嬌な青年こと神薙蒼一は、ある探偵事務所に勤めていた。決して大きくはない探偵事務所だが、世に伝わらない奇妙な依頼業務を請け負うことがあった。
秋風が泳ぎ始める十月頃、事務所へ【協会】からの依頼が舞い込む。眉間に皺を刻む神薙はいつも通り溜息をつき、相棒(笑)である星宮を引き連れ、町へと繰り出す――。
CREATED WORLD
猫手水晶
SF
惑星アケラは、大気汚染や森林伐採により、いずれ人類が住み続けることができなくなってしまう事がわかった。
惑星アケラに住む人類は絶滅を免れる為に、安全に生活を送れる場所を探す事が必要となった。
宇宙に人間が住める惑星を探そうという提案もあったが、惑星アケラの周りに人が住めるような環境の星はなく、見つける前に人類が絶滅してしまうだろうという理由で、現実性に欠けるものだった。
「人間が住めるような場所を自分で作ろう」という提案もあったが、資材や重力の方向の問題により、それも現実性に欠ける。
そこで科学者は「自分達で世界を構築するのなら、世界をそのまま宇宙に作るのではなく、自分達で『宇宙』にあたる空間を新たに作り出し、その空間で人間が生活できるようにすれば良いのではないか。」と。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる