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第三十五話 任務

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 噛んだけど可愛い。頭撫でよ。撫で撫で。

「ふわっ、な、なんで撫でるんですか!」

「可愛いから」

「きゃわっ!!」

 動揺してイヤリス大尉は噛んだが、無視して頭を撫でる。
 スリカ少佐の髪もさらさらしていたが、イヤリス大尉は毛の一本一本が最高級の絹のようにさらさらしていた。
 そんな、触っているだけでも心地いい毛並みを撫でて幸せな気持ちになりながら、イヤリス大尉へ話しかける。

「これからよろしく。イヤリス大尉」

「は、はい。よろしくです。クロノ中佐ぁ~」

 イヤリス大尉は、動揺していたのが嘘のように目を細め、「ふにゃっ~~」と気持ちよさそうな顔しながら答えてくれた。
 なんだこの可愛い生き物は。飼ってもいいかな。
 と、思うと同時に、気がつけば私は、シーナ大佐へ懇願していた。

「シーナ大佐。イヤリス大尉を私にくれないか」

「ふにゃっ!?」

 あるはずもない猫耳をピンっと立てる錯覚を起こすように、イヤリス大尉が驚く。可愛い。飼いたい。ぎゅっとしたい!

「ダメだ!」

 シーナ大佐がバッサリと私の要求を断る。イヤリス大尉はホッと胸を撫で下ろしていた。

「……そうか。残念だ」

 私は落ち込む。気分は最悪だ。

「ああ、あの。く、クロノ中佐」
 
 そんな私に、イヤリス大尉が恥ずかしそうな顔をしながら、小さな声で話しかけてきた。

「驚きましたけど、き、気にしてません……よ。
 そ、それと可愛いって言ってくれたの。と、とても嬉しかった……です」

「イヤリス大尉」

 気がつけば私は、イヤリス大尉にぎゅっと抱きついていた。
 あわあわするイヤリス大尉をもふもふ。ぎゅっぎゅっ。
 
「はぁ~幸せ~」

 私は元気を取り戻した。気分は最高だ。

「おい、そろそろイヤリスから離れろ」

「……」

 シーナ大佐が離れろと言ってきたが、私は無視する。

「命令だ。イヤリスから離れろ」

 今度は殺気に似た迫力を出しながら命令してきた。
 そのせいでイヤリス大尉や、スリカ少佐がびくびく怯えている。

「……………………………………………………わかった」

 シーナ大佐の命令に従い、私は泣く泣くイヤリス大尉から離れた。
 シーナ大佐の迫力も収まる。

「それでいい。これから余が話すからしっかり聞けよ」

「はっ!」

「……ああ」

「ひゃい!」

 三者三様で返事を返す。
 シーナ大佐は真面目な表情になり、私とイヤリス大尉を交互に見ながら口を開く。

「ではクロノ、イヤリス」

「なんだ」

「はっ、ひゃいっ!」

 急に名前を呼ばれ、噛みながら返事をするイヤリス大尉。可愛い。またもふもふしたい。
 シーナ大佐は続けて話す。

「これからお前達二人に、ガーディアンズの一隊員として、任務を与える!」

「任務?」

「ふわっ、私とクロノ中佐にですきゃっ!?」

「無論。お前達二人に、だ」

 そう言うと、机の引き出しからくるくる巻かれた一枚の紙を出した。

「クロノ。お前はガーディアンズに入隊したばかりで知らないだろうから、余が直々に教えてやる。
 ガーディアンズの任務。それは――」

「それは?」

 喋りながら、私達に見えるように紙を広げるシーナ大佐。
 その紙には、真ん中に敵と思われるイラストが描かれており、一番上にはAランクの四文字、下には任務内容が大きくこう書かれていた。

【外宇宙からの侵略者。『ポセイドン』の討伐】と。

「――ポセイドンの討伐。つまり『』の討伐だ」
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