Bloodpray

イクミ

文字の大きさ
上 下
6 / 8
狩人の矜持

第5話

しおりを挟む
 早朝に目覚めた私は宿屋の女将に挨拶をしてから出ることにした。受付に行くと掃除をしている最中であった女将が振り向いて驚いた表情をした。

「あら、狩人様じゃないか!こんな朝早くに起きて何処か出かけるのかい?」

「いや、新しい任務が出来たからこの宿を出ることになった。短い間だが世話になったから挨拶をしようと思ってここに来た。」

「もう出てっちゃうのかい!それは残念だねえ・・・。次は何処行くんだい?」

「商業都市ヴィタルトだ。この町に転移魔法陣は設置されているか?あればそれを利用したいのだが・・・。」

「ヴィタルトに行くのかい!?あそこは魔獣達が近くで出没し始めたって噂だよ?転移魔法陣はあるけど、ヴィタルトへの転移は3日前から停止してるらしいし、商人達もみんな行かないようだよ。」

「そうか・・・。教えてくれて助かる。転移魔法陣があるなら使用できるか直接聞いてみる。」

「そうかい!まあ狩人様なら使わせてもらえるとあたしは思うよ!また元気な姿を見せに来ておくれ!」

「ありがとう。短い間だったが世話になった。」

 女将に挨拶をして宿屋を出た私は転移魔法陣の設置されている広場へと向かう。転移魔法陣は規模の大きい街や都市に設置されているものであり、各都市や街の行き来を一瞬で行うことが出来る。使用するには各都市の管轄部署へ申請が必要だが、騎士団や狩人は申請がなくても使用することが許可されている。広場に辿り着くと転移魔法陣が設置されており、近くに管轄部署らしき建物があった。建物に入ると申請待ちの人々が多くおり管轄部署の職員も忙しなく働いていた。受付に向かうと職員がにこやかに対応してくれた。

「いらっしゃいませ。転移魔法陣の使用申請でしょうか?どちらへの転移をご希望ですか?」

「ダグラス一派の狩人だが、任務の関係で商業都市のヴィタルトに行きたい。都市の防衛任務だから直ぐにでも転移魔法陣を使用したい。」

 そう言って紋章を見せると、職員はハッとした表情をした。紋章を確認したあと真剣な表情になり私の方を向いた。

「確かにダグラス一派の紋章ですね。ヴィタルトへの転移は魔獣出没の関係で停止していましたが、狩人様だということが確認取れましたので使用を許可いたします。すぐにでも転移頂いて大丈夫です。」

「ありがとう、非常に助かる。」

「いえいえ、あなたの幸運をお祈りしてます。」

 職員に使用の許可を得た私は、広場へと戻り転移魔法陣の中央に立つ。そうすると転移魔法陣が作動して辺りが輝き始めた。身体が宙を浮き始めると、周囲の景色や音や魔力の流れが目まぐるしく変わる。やがて治まると先ほどまでいた広場ではない場所に立っていた。

「この感覚にはいつまで経っても慣れないな。」

 そう呟いて周囲を見ると綺麗なガラス張りの建物の中にいた。どうやらヴィタルトへ無事に転移出来たようだ。

(とりあえずこの建物を出て騎士団の詰所に向かうか・・・)

 そう考えた私はガラス張りの建物から出てみると、騎士達が慌ただしく街中を駆け回っているのを見つけた。いつもなら賑わっているであろう街通りも人通りが非常に少なく、騎士団たちしか見えない。辺りを伺っている私に気づいた1人の騎士が声をかけてきた。

「君、勝手に外へ出たらダメじゃないか!今日は魔獣の襲撃に備えて自宅にいるか教会に避難するか昨夜指示が出ていただろう!」

「いや、私は狩人だ。この都市の住人じゃない。騎士団の詰所に向かいたいのだが何処にある?そこに仲間も居るはずなのだが・・・。」

「あっ、申し訳ありません!大変失礼しました!てっきり住人かと思い・・・。詰所ならすぐそこの角にある建物になります!狩人の皆さんもそこに待機してますので仲間の方たちもそこに居るかと!」

「分かった、ありがとう。」

 騎士に詰所の場所を聞きそこへ向かうと、石造りの大きな建物があった。中へ入ると騎士達が戦いに備えて準備をしていたり、狩人らしき人達が自身の武器の手入れを入念に行なっていた。狩人の人数をざっと数えただけでも30人程度はいる。今回の防衛のために手当たり次第に狩人を集めてきたのを感じていると声をかけてくる人物がいた。

「よう、久しぶりだな、セツナ。」

 その声に振り返ると灰髪に漆黒の瞳をした体格のどっしりとした大男がいた。一見すると強面の雰囲気があるがセツナにとっては数少ない見知った顔であった。

「グレイブか!久しぶりだな、相変わらずでかいな。」

「そういうお前は随分腕を上げたらしいな。ダグラスから聞いてるぞ。」

「流石にいつまでもひよっ子のままではいられないからな。ところであと2人仲間がいると聞いているが、何処にいるんだ?」

「ああ、もうここに着いているはずだが・・・。」

 グレイブがそう言いかけていると割って入るように別の男の声がした。

「あっ、グレイブさんじゃないですか!お久しぶりです!」

 声がした方向を見ると、赤髪に翠色の瞳した爽やかな雰囲気のある細身の男と茶髪に黄色の瞳をした大人しそうな女がいた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王の求める白い冬

猫宮乾
BL
 僕は交通事故に遭い、別の世界に魔王として転生した。最強の力を貰って。だから何度勇者が訪れても、僕は死なない。その内に、魔王はやはり勇者に倒されるべきだと思うようになる。初めはそうではなかった、僕は現代知識で内政をし、魔族の国を治めていた。けれど皆、今は亡い。早く僕は倒されたい。そう考えていたある日、今回もまた勇者パーティがやってきたのだが、聖剣を抜いたその青年は、同胞に騙されていた。※異世界ファンタジーBLです。全85話、完結まで書いてあるものを、確認しながら投稿します。勇者×魔王です。

おとぎ話の結末

咲房
BL
この世界の何処かにいる〈運命の番〉。 だが、その相手に巡り会える確率はゼロに等しかった。だからこそ、その相手との出会いは現代のおとぎ話と囁かれており、番のいないαとΩの憧れである。 だが、その出会いを相手に嫌悪されたら、Ωはどうすればいい? 吹き荒れる運命と心を裏切る本能にどうやって抗えばいい? はたして、愛は運命を超えることが出来るのだろうか── これは、どこにでもいる平凡な男の子が掴む、本当の愛、本当の世界、本当の未来のお話です。 どうぞ彼と一緒に現代のおとぎ話の行く末を見守って下さい。 尚、素晴らしい表紙はeast様に描いて頂いてます。east様、ありがとうございます!

おれの愛する不機嫌なクピド

野中にんぎょ
BL
 ファッションモデルの金原薫(17)は、八百屋で働く幼馴染の黒木輔(22)への恋心をこじらせ、類まれな美貌を持つにも関わらずコンプレックスの塊になっていた。そんな中、トラブルをきっかけに世界的なショーモデル・伊月文彦と出会い、薫は彼のカメラに撮られることで徐々に心の殻を破っていくが……。  長い片思いと、新しくも運命的な出会い。二人の「運命の人」の間で揺れ動く薫の成長と恋の行方を紡いだ、人生を変えるトライアングル・ラブ。

神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。

白光猫(しろみつにゃん)
BL
脱サラしたアラフォー男が異世界へ転生したら、癒しの力で民を救っている美しい神子でした。でも「世界を救う」とか、俺のキャパシティ軽く超えちゃってるので、神様とは縁を切って、野菜農家へ転職しようと思います。美貌の後見人(司教)とか、色男の婚約者(王太子)とか、もう追ってこないでね。さようなら……したはずなのに、男に求愛されまくる話。なんでこうなっちまうんだっ! 主人公(受け)は、身体は両性具有ですが、中身は異性愛者です。 ※「ムーンライトノベルズ」サイトにも転載。

今度は殺されるわけにいきません

ナナメ
BL
国唯一にして最強の精霊師として皇太子の“婚約者”となったアレキサンドリート。幼い頃から想いを寄せていたテオドールに形だけでも添い遂げられると喜んでいたのも束の間、侯爵令嬢であるユヴェーレンに皇太子妃の座を奪われてしまう。それでも皇太子の側にいられるならと“側妃”としてユヴェーレンの仕事を肩代わりする日々。 過去「お前しかいらない」と情熱的に言った唇で口汚く罵られようと、尊厳を踏みにじられようと、ただ幼い頃見たテオドールの優しい笑顔を支えに耐えてきた。 しかしテオドールが皇帝になり前皇帝の死に乱れていた国が治まるや否や、やってもいない罪を告発され、周りの人々や家族にすら無罪を信じてもらえず傷付き無念なまま処刑されてしまう。 だが次目覚めるとそこは実家の自室でーー? 全てを捨て別人としてやり直す彼の元にやってきた未来を語るおかしな令嬢は言った。 「“世界の強制力”は必ず貴方を表舞台に引きずり出すわ」 世界の強制力とは一体何なのか。 ■■■ 女性キャラとの恋愛はありませんがメイン級に出張ります。 ムーンライトノベルズさんで同時進行中です。 表紙はAI作成です。

蜜柑色の希望

蠍原 蠍
BL
黒瀬光は幼い頃から天才と言われてきた神童ピアニストだった。 幼い頃から国内外問わずコンクールは総なめにしてきたまごう事なき才能の塊であり、有名な音楽家を輩出しているエルピーゾ音楽院の生徒であり人生の大半をピアノに捧げる人生を送っていた。 しかし、ある日彼はピアニストが稀にかかる筋肉が強張る原因不明の病にかかってしまい、14歳の時からピアノを弾くことが出来なくなってしまう。 最初は本人は勿論、彼に期待を寄せていた両親、彼の指導者も全身全霊を尽くしてサポートしていたのだが酷くなる病状に両親の期待は彼の妹に移り、指導者からも少しずつ距離を置かれ始め、それでも必死にリハビリをしていた光だったが、精神的に追い詰められてしまう。そして、ある日を境に両親は光に祖父や祖母のいる日本で暮らすように言いつけ精神的にもギリギリだった光は拒否することができず、幼い頃に離れた日本へと帰国して、彼にとって初めての日本の学生生活を送る事になる。 そんな中で出会う蜜柑色の髪色を持つ、バスケの才能が光っている、昔見たアニメの主人公のような普通と輝きを併せ持つ、芦家亮介と出会う。 突出していなくても恵まれたものを持つ芦家とピアノの翼を奪われた天才である黒瀬の交わる先にあるものは…。 ※荒削りで展示してますので、直してまた貼り直したりします。ご容赦ください。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

使命を全うするために俺は死にます。

あぎ
BL
とあることで目覚めた主人公、「マリア」は悪役というスペックの人間だったことを思い出せ。そして悲しい過去を持っていた。 とあることで家族が殺され、とあることで婚約破棄をされ、その婚約破棄を言い出した男に殺された。 だが、この男が大好きだったこともしかり、その横にいた女も好きだった なら、昔からの使命である、彼らを幸せにするという使命を全うする。 それが、みなに忘れられても_

処理中です...