Bloodpray

イクミ

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狩人の矜持

第4話

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 料理を食べ終えて男と別れた後、宿屋へと向かった。宿屋の女将に部屋へと案内してもらった私は、今までの疲労を感じすぐにベッドで横になる。

(知らない奴とあんなに話したのは久しぶりだな・・・)

 狩人は基本的に1人か2人組で行動するため、他人と話すことがほとんどない。それにも関わらず会ったばかりの男と酒場とはいえ、あれほど会話したことに自分自身でも不思議であった。しかも口約束までしてしまっていたのだ。思いのほか酔いが回っているのかもしれないと考え眠りにつこうとした時、何かが窓をつつく音が聞こえた。

(なんだ・・・?)

 窓に近づいてみると、伝令鴉が窓をつついていた。伝令鴉の模様を見ると自分が所属している一派の長であるダグラスからであった。

(ダグラスからなんて珍しいな)

 そう思いつつ窓を開くと伝令鴉が部屋の中に入ってきた。伝令鴉は部屋の中をぐるりと旋回して周囲を見渡した後、言葉を発してきた。

「随分と質素な部屋に泊まってるじゃねえか。」

 渋みのある低音と声だけでも感じ取れる圧力は一派の長であるダグラスだった。

「珍しいな、直接会話のできる伝令鴉を使役するなんて。」

「たまには弟子の身を案じて直接会話するのも悪くねえかと思ったが、その反応だと俺とはあまり話したくなかったか?」

 そう言うとダグラスはくつくつと笑い出した。

「そんなことは思ってない。久しぶりだな、ダグラス。」

「思ったよりは元気そうだな。どうだった、今回の任務で狩った魔獣は?」

「群れを形成するタイプの魔獣だった。全部で5体いたが無事に狩れたよ。」

「ほう、それはなかなかやるじゃねえか。元々素質はあったが、狩人に育てた甲斐があったぜ。それで、生存者はいるのか?」

 ダグラスにそう聞かれた際、頭の中に無惨に殺された死体が過ぎった。

「いや、逃げ延びた者以外は全員殺された。無惨に食い殺されてたよ。」

「そうか。まあしょうがないな。そいつらの運が無かっただけだ、気にすんな。」

「既に報告した内容を聞くためにわざわざ伝令鴉を使役したわけじゃ無いだろう?用件はなんだ?」

「おいおい、世間話もしたくないってか?つれない奴だな。」

 ダグラスはため息をつくと本題を話し始めた。

「任務が終わって早々に悪いが、お前に新しい任務だ。それも緊急のな。」

「内容は?」

「商業都市ヴィタルト近郊で魔獣の群れが目撃されてる、それも数十体のな。どうやらヴィタルトに向かってきているらしい。今回は魔獣の群れから都市の防衛にあたってくれ。」

「都市なら騎士団が常駐しているだろう。なぜ狩人が加勢しなければならない?」

「魔獣の群れにはかなり強い個体がいて騎士団にも被害が出てるらしい。先日にも騎士団が討伐任務に出たらしいが、それも失敗に終わってヴィタルト陥落を阻止するために防衛を固める方向にしたみたいだ。そこで騎士団から狩人の各一派に支援要請が来たんだよ。俺たちの一派からはお前含めて4人選出することになった。」

「なるほど・・・。事情は分かった、明日の朝に出発する。」

「助かるぜ。しかし妙に気になるのが、その魔獣たちが何かから逃げるようにヴィタルトの方向に来たっていう報告が出てるんだよ。その調査は別の奴に任せているから、取り敢えず騎士団と協力して防衛にあたってくれ。」

「了解した。」

「頼んだぜ、死なないように気をつけてくれよ?」

「死ぬ時は誰だって死ぬ。約束はできないが気をつける。」

「ああ。俺が話したいことは以上だ、ゆっくり休んでくれ。」

 そう言うと役目を果たした伝令鴉は静かに消えていった。次の戦いに備えるためにベッドに横になり休息を取る。

(いつまでこの戦いは続くのか・・・)

 考えてもどうにもならないことだが、ふとした瞬間に頭を掠めることが多々ある。終わりの見えない戦いに絶望して生きることを諦める人間もなかにはいるが、自分はそうならないと常に思っていた。

(生きる理由はもう他にないしな・・・)

 狩人は騎士団と違い誰でもなることが出来る。主に莫大な報酬が目当てでなる者が大半だが、戦い自体が好きな者も少なからずいる。だが自分はそのどちらでもない。ダグラスと出会い狩人になると決めたあの日から、死ぬまで戦い続けると決めたのだ。もうそれしか生きる目的や意味が見出せないからだ。

(感傷に浸ってる場合じゃないな)

 ぐるぐると頭の中で渦巻いていた思考を断ち切り瞼を閉じる。どんなことを考えようと、自分は狩人で魔獣や咎人を殺すことが役目であり、それが自分に残された唯一の生きる理由なのだから。そう結論づけて深い眠りに落ちるのであった。


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