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最終章

70 村の恩返し

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南の国境付近で隣国との間に侵略戦争が起きている。

町に出ると人々は暗い顔をして噂していた。どうやら戦況は思わしくなく、戦いが行われている近くの町や村では健康で若い男の徴兵もあったらしい。 

魔王(戦ってはいないが)や疫災を乗り越えてきたアレンも国単位の人間同士の戦いには苦戦しているようだった。

頬に何かが落ちたので上を見上げると綿雪がふわりとふわりと舞っていた。

雪はどんどん増えていき視界が覚束なくなっていく。

俺がハウス作りに没頭している1年近くの間この国は戦争をしていたのか。

ほとんど家の敷地内で過ごしていた俺は添い寝の仕事もしていなかったのに報酬として支払われる給料で雇った家政婦が週3回用意してくれる食事を食べて生きてきたから気付きもしなかった。

アレンは無事なんだろうか?

どんどん降ってくる雪の寒さに不安が過る。

アレンの居る所も寒いんだろうか?

不安に押し潰されそうになり、ぎゅっと自分を抱きしめてうずくまる。

その時だった――

「――ラインハルト、どうした?」

ラインハルト。この姿の俺をそう、呼ぶのは……懐かしい声に思わず顔をあげる。

「何だ、泣いてるのかと思った。ラインハルト全然変わってないな。」

キラキラと光る金髪を煌めかせながら眩しい笑顔で俺に向けている。え、男前になってる?俺に全く似てなくなったユノは超絶イケメンに成り上がっていた。

「お前、はデカくなりすぎだ!……ユノ。」

最後に別れた時よりも随分と背が伸び、筋肉もついて男らしくなった幼馴染みを俺は嫉妬心で思いっきり睨み付けたが、すぐに立ち上がると堪えきれずにユノに抱きついた。

感動?の再会を済ませ俺は冷えきった家に戻ると急いで暖炉に火を灯してユノを迎えお茶を出した。

「ラインハルトは没頭したら周りが見えなくなるからなぁ。でも1年はないだろ。……アレン、可哀相過ぎる。」

ないわ~。と首を振りながらユノがお茶を飲む。

俺はいたたまれなくなり横を向く。

「しかもラインハルト痩せすぎ!満足に食事も取ってなかっただろ?」

「はっ?週3は食べてたし!」

俺はムキになって言い返した。

「週4は食べてないのかよ。」

声変わりした低い声でユノが俺を咎めるから俺は震えてしまう。お前誰だよ?俺に似た醜男なユノは何処へ行っちまったんだ?

「ちょっ、やめろよ!そんな怯えて、俺が子供を虐待してるみたいじゃないか!」

「誰が、子供だ。」

俺がすかさず言い返すと二人で目を合わせ堪えきれずに吹き出した。

独りで凍えそうだった気持ちが暖かくなる。

一―通り笑い終えるとユノが俺の目を真っ直ぐに見て言った。

「……ラインハルト、今この国に1番必要な材料を持ってきた。」

俺は目を見張る。

「出来たんだな?」

ユノは誇らしげに頷く。

「あの村は枯れた大地に僅かばかりでも作物を作って生き残ってきたんだ。ラインハルトの教えてくれたノウハウを忠実に守ったらあんな草を育てるのなんて訳ないよ。」

そうだな。あの土地を生き抜いてきた人達だ。きっと丁寧な仕事をして上質な物が出来たに違いない。

「俺は第1陣だ、明日も明後日も届く。ラインハルト、こなせるか?」

「……誰に物を言ってる?」

俺は村人の思いと頑張りに応えるべく真っ直ぐにユノを見返し答えた。

「あはっ!やっぱラインハルトは男前だなぁ。勿論俺も手伝うからな!」

「助かる。」

短く礼を言うと俺は深々と頭を下げた。

そして俺達は三日三晩徹夜をしてエリクサーを作った。

「……これで3万本分か。」

「ラインハルト……ごめん……俺……寝る。」

ユノは届いた薬草全てを煎じ終えると、とうとうダウンした。

「それでも足りねぇな。」

10万人単位で前線に出ていると聞く。こんな量では全く足りない。

するとユノががばっと最後の力を振り絞るかのように起き上がった。

「誰がこれで終わりって言った?これから毎日届くからな!1ヶ月だ!」

まるで俺を断罪するかの様に指を指しそう言うとまたバタっと倒れた。

「……おいおいマジかよ。あの人達どんだけ働きもんなんだ。」

両手で顔を覆い笑いを噛み締めると、天を仰ぐように感謝した。そしていつの間にか俺もそのまま眠りについていた。



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