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帝国編
17 寄生虫のような国
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悪役として生きてきた俺は【道徳心】や【恐怖心】を覚えた今、優しい人々に強い憧れを持っていたらしい。
それを認めると何とかしてあの人達を救いたいと思った。これが優しい人間に近付く第一歩のような気がしたのだ。
「どうしたら帝国の魔の手から彼らを救えるのだろうか。」
俺が顎に手をやり呟くと瞳を閉じていたディラン猫が片目をあけ、興味が無さそうにまた閉じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――これは。」
プルプルとスプーンの上で楽しそうに震えている物体を見て言葉を失う。思いきって口に運ぶとあまりの美味しさに昇天しそうになった。
「下僕よ、これは素晴らしい食べ物だ。このような食べ物を作るとは帝国とは素晴らしい技術を持っているのだな。」
食べると不思議と顔がにやけてしまう謎の食べ物の名をプ・リーンと言うらしい。下僕が地下牢で「おいたわしや」と持ってきてくれたものだった。
「なんと可愛らしい方だ。これから毎日お持ちします。」
下僕は帝国の人間にしては優しい人間なのかもしれない。王の目を掻い潜りプ・リーンという素晴らしい食べ物を届けてくれたのだから。
「下僕よ、お前は優しい人に近いかもしれない。私もそうありたいものだ。」
俺は再度プ・リーンを口に含んだ。
あっまーい❤
片手を頬にやりにんまりと笑う。
「……絵師を呼ぶべきでした。貴方のこの瞬間を描き写したい!」
最高級の椅子とテーブルのセットがあってよかった。このプ・リーンはこのように優雅に食べるのが相応しい。これまた最高級のティーセットで注がれた最高級の紅茶を飲みながら幸せを噛み締める。
「陛下に何度も訴えているのですが聞いて下さらないのです。いっその事、このまま貴方を拐って遠い辺境の地で二人で生きていこうかと……」
鉄格子の先で思い詰めたように下僕が訴える。
コト、と音をさせティカップを置くと下僕を見る。
「そんな事をしたら、あの極悪非道な王から優しき人々を救えない。私はあの国を守りたいのだ。力を貸してくれないか?」
「……陛下が貴方にした事は許しがたい事です。しかし、陛下が神に愛された国を救おうとされている事は嘘偽りはなく本心です。」
「そんな都合のよい話があるか?そんな慈善事業をして帝国にどんなメリットがあるというのだ。」
帝国の人間は優しき人々ではない。何か裏があるはずだ。俺は真意を知ろうと下僕の目を見据えた。
「帝国の民はあの国を崇拝しています。あの国がなくなるのは帝国が滅びるのと同じなのです。今回、初めて頼られ帝国はお祭り騒ぎでした。」
「……どうしてそこまで。」
ただの隣国ではないか。帝国のような強国があの小さな国をどうしてそんなに大切にするのか私には到底理解が出来なかった。
「小さな国ながら最強の盾を持ち決して侵す事は出来ないがゆえ人々は優しく美しくても決して手が届く事はない。その頂点たる2000年続く王朝は世界に類をみない一つの血統で続いている。本来ならお会いする事も叶わない尊い方なのに、世界で災害があれば国王陛下が自ら真っ先に駆け付け慰問をして下さる。するとその後災害がピタリと止まる。その事が分かっていらっしゃるのでしょう危険を省みず毎回駆け付け他国の人々を励まされる。私たちにとってあの国は神のような存在なのです。今回は他の国も名乗りをあげましたが、あの国は帝国の手をとって下さった。あの時の喜びと感動を帝国の民は生涯忘れる事はないでしょう。」
――なんか凄い事になっている。
あの人達はただ単に神に愛されていただけだ。
国王が災害に駆け付けるって「地震が起きたら観光が出来る~♪」と喜んで行っていたあれか?
「______あの人々をよろしく頼む。」
俺は深々と頭を下げ帝国の未来を思った。
帝国はいつまで耐えられるだろうか?今まで神に与えられた資源を湯水のように使ってきた人々だ。帝国の資源を食いつくし、次は他の国へそして次へと渡り歩くのだろう。それほどあの人々が愛されているのなら俺の出る幕はないと思った。
「……しかし、私は貴方を幸せにしたいと思ってしまったのです。どうかこちらに来ていただけませんか?」
焦がれるように言われて、吸い込まれるように鉄格子に近付くと下僕は俺の手を取りぎゅっと握った。
「神に愛された国で唯一の悪と恐れられていた貴方を排除出来るとあって私は喜んでその役を担ったのに、……会ってしまったらもう駄目でした。あんなに憧れ続けた国の第一血統に一番近いお方だ、こうなる事は必然だったのかもしれない。しかもご本人はこんなに純粋で美しく愛らしい方だなんて……。」
下僕から首の後ろに手を優しく添えられ鉄格子に顔を近付けさせられた。
そして熱に浮かされたような顔で下僕が近付いてくる。
ちゅ。
唇攻撃を片手で受け下僕の顔を押しやった。
「……今度は叩かないんですね。しかし、手強い。」
下僕は苦笑して俺から離れた。
「待っていて下さい。いつか貴方を必ず手に入れます。その為にこの国を捨てたっていいとさえ思っています。」
そう言って下僕は名残惜しそうに行ってしまった。
「――なぁ、ディラン猫?下僕はいきなり顔を近付る不敬をしてまで何を言っていたんだ?」
ベッドに座りディラン猫の頭を撫でながら問いかける。
プイッとディラン猫が横を向いた。
「あっ、プ・リーンを一人で食べた事を怒っているのか?あれは仕方のない事だった。あの美味しさには神でさえも逆らえない。……そう怒るな。私は優しくなりたいから今度は必ず取っておこう。」
そう言ってディラン猫の頭にキスを落とした。
それを認めると何とかしてあの人達を救いたいと思った。これが優しい人間に近付く第一歩のような気がしたのだ。
「どうしたら帝国の魔の手から彼らを救えるのだろうか。」
俺が顎に手をやり呟くと瞳を閉じていたディラン猫が片目をあけ、興味が無さそうにまた閉じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――これは。」
プルプルとスプーンの上で楽しそうに震えている物体を見て言葉を失う。思いきって口に運ぶとあまりの美味しさに昇天しそうになった。
「下僕よ、これは素晴らしい食べ物だ。このような食べ物を作るとは帝国とは素晴らしい技術を持っているのだな。」
食べると不思議と顔がにやけてしまう謎の食べ物の名をプ・リーンと言うらしい。下僕が地下牢で「おいたわしや」と持ってきてくれたものだった。
「なんと可愛らしい方だ。これから毎日お持ちします。」
下僕は帝国の人間にしては優しい人間なのかもしれない。王の目を掻い潜りプ・リーンという素晴らしい食べ物を届けてくれたのだから。
「下僕よ、お前は優しい人に近いかもしれない。私もそうありたいものだ。」
俺は再度プ・リーンを口に含んだ。
あっまーい❤
片手を頬にやりにんまりと笑う。
「……絵師を呼ぶべきでした。貴方のこの瞬間を描き写したい!」
最高級の椅子とテーブルのセットがあってよかった。このプ・リーンはこのように優雅に食べるのが相応しい。これまた最高級のティーセットで注がれた最高級の紅茶を飲みながら幸せを噛み締める。
「陛下に何度も訴えているのですが聞いて下さらないのです。いっその事、このまま貴方を拐って遠い辺境の地で二人で生きていこうかと……」
鉄格子の先で思い詰めたように下僕が訴える。
コト、と音をさせティカップを置くと下僕を見る。
「そんな事をしたら、あの極悪非道な王から優しき人々を救えない。私はあの国を守りたいのだ。力を貸してくれないか?」
「……陛下が貴方にした事は許しがたい事です。しかし、陛下が神に愛された国を救おうとされている事は嘘偽りはなく本心です。」
「そんな都合のよい話があるか?そんな慈善事業をして帝国にどんなメリットがあるというのだ。」
帝国の人間は優しき人々ではない。何か裏があるはずだ。俺は真意を知ろうと下僕の目を見据えた。
「帝国の民はあの国を崇拝しています。あの国がなくなるのは帝国が滅びるのと同じなのです。今回、初めて頼られ帝国はお祭り騒ぎでした。」
「……どうしてそこまで。」
ただの隣国ではないか。帝国のような強国があの小さな国をどうしてそんなに大切にするのか私には到底理解が出来なかった。
「小さな国ながら最強の盾を持ち決して侵す事は出来ないがゆえ人々は優しく美しくても決して手が届く事はない。その頂点たる2000年続く王朝は世界に類をみない一つの血統で続いている。本来ならお会いする事も叶わない尊い方なのに、世界で災害があれば国王陛下が自ら真っ先に駆け付け慰問をして下さる。するとその後災害がピタリと止まる。その事が分かっていらっしゃるのでしょう危険を省みず毎回駆け付け他国の人々を励まされる。私たちにとってあの国は神のような存在なのです。今回は他の国も名乗りをあげましたが、あの国は帝国の手をとって下さった。あの時の喜びと感動を帝国の民は生涯忘れる事はないでしょう。」
――なんか凄い事になっている。
あの人達はただ単に神に愛されていただけだ。
国王が災害に駆け付けるって「地震が起きたら観光が出来る~♪」と喜んで行っていたあれか?
「______あの人々をよろしく頼む。」
俺は深々と頭を下げ帝国の未来を思った。
帝国はいつまで耐えられるだろうか?今まで神に与えられた資源を湯水のように使ってきた人々だ。帝国の資源を食いつくし、次は他の国へそして次へと渡り歩くのだろう。それほどあの人々が愛されているのなら俺の出る幕はないと思った。
「……しかし、私は貴方を幸せにしたいと思ってしまったのです。どうかこちらに来ていただけませんか?」
焦がれるように言われて、吸い込まれるように鉄格子に近付くと下僕は俺の手を取りぎゅっと握った。
「神に愛された国で唯一の悪と恐れられていた貴方を排除出来るとあって私は喜んでその役を担ったのに、……会ってしまったらもう駄目でした。あんなに憧れ続けた国の第一血統に一番近いお方だ、こうなる事は必然だったのかもしれない。しかもご本人はこんなに純粋で美しく愛らしい方だなんて……。」
下僕から首の後ろに手を優しく添えられ鉄格子に顔を近付けさせられた。
そして熱に浮かされたような顔で下僕が近付いてくる。
ちゅ。
唇攻撃を片手で受け下僕の顔を押しやった。
「……今度は叩かないんですね。しかし、手強い。」
下僕は苦笑して俺から離れた。
「待っていて下さい。いつか貴方を必ず手に入れます。その為にこの国を捨てたっていいとさえ思っています。」
そう言って下僕は名残惜しそうに行ってしまった。
「――なぁ、ディラン猫?下僕はいきなり顔を近付る不敬をしてまで何を言っていたんだ?」
ベッドに座りディラン猫の頭を撫でながら問いかける。
プイッとディラン猫が横を向いた。
「あっ、プ・リーンを一人で食べた事を怒っているのか?あれは仕方のない事だった。あの美味しさには神でさえも逆らえない。……そう怒るな。私は優しくなりたいから今度は必ず取っておこう。」
そう言ってディラン猫の頭にキスを落とした。
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