【道徳心】【恐怖心】を覚えた悪役の俺はガクブルの毎日を生きています。

はるか

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帝国編

16 優しい人に私はなりたい

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気がつくと固い床の上に寝ていた。

石の床と固いベッドに鉄格子。

そうだ、牢屋っていうのはこういうものだ。

モコモコした暖かそうな絨毯にフカフカのベッド。家具が揃っていていつでも出入り自由ってなんだ。

「フフ、あの者達、好き勝手しすぎだ。」

少し笑うと叩かれた頬がズキリと痛んだ。触るのが怖い。乳首どころじゃない。

はだけたままだった服のボタンを留めていく。ちょっと前まではこんな事出来なかったのに自分で服を着れるし脱げるようにもなった。すごい進歩だ。途中キレながらも根気よく教えてくれた男を思う。

「……ディラン。」

俺が呟いたと同時に鉄格子に白い手がかかる。

「遅くなった。」

すぐに牢屋の中に入り俺の近くにきたディランが俺の頬に手をあてると痛みが引いていく。俺は思わず身を引く。

「?」

「汚ないから……。」

俺は顔を反らしディランから距離を取ろうとした。汚ない自分といると綺麗なディランが汚れそうな気がしたのだ。

「……お腹もやられたのか。」

ディランは気にせず俺の腕を掴み抱き込むと全体を癒しの光で包んだ。

全ての痛みが消えた。

「私は優しき人々に酷い事をしてきたんだ。私は……汚ない。」

胸の中でそう呟くとディランは更に抱き込む力を強めた。

「確かに酷い事はしてきたが、こんな事はしていない。していたら俺が止めていた。……そしてこの国の人間に貴方がやられる筋合いはない。」

淡々と話すディランの声に安心して涙が溢れてくる。

「酷い目に合わせた。怖かった事だろう。もう貴方を誰にも決して傷付けさせないから安心していい。」

チュッと頭にキスを落とされ撫でられる。


「ディラン殿、ディラン殿――。」

何度も名を呼ぶ。

「ディラン、――怖かった。」

最後の声は震えた。

ゆらりとディランから怒りの炎があがる。

「滅ぼそう。跡形もなく。歴史上にも名を残さぬよう木っ端微塵に。」

俺は冗談ではないと首を振る。

「それは駄目だろう。帝国が滅びたらあの国が立ち行かなくなる。」

「では貴方に暴力を振るった皇帝の首をすげ替えるか。」

俺はディランの胸から顔を上げ怒れる美しいその顔を見つめた。

「そうなったら嬉しい。あの男がこの国の皇帝だと思うと震えが止まらない。……でもそれでは今までの私と何ら変わりがなくなってしまう。私は変わった。変わってしまったから……今度は優しい、優しい人に私はなりたい。」

ディランをじっと見つめ俺は訴えた。

ディランは暫く見つめあった後、フイと俺から視線を反らした。

「――ここは冷たい。牢屋とはモコモコの絨毯が引いてあってフカフカのベッドがあるものなんだろう?」

ディランがそう言うとかつての牢屋のように暖かな空間が出来上がる。

「ここなら俺も住めそうだ。……出入りも自由だろうから2日に1回は風呂に帰る。」

そう言うとディランは猫の姿になり、フカフカのベッドで丸くなった。

「ディラン猫、私は一回忌には行きたくないから長生きするのだぞ?」

頭を撫でるとディラン猫は気持ち良さそうにブルーの瞳を隠した。
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