【道徳心】【恐怖心】を覚えた悪役の俺はガクブルの毎日を生きています。

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帝国編

12 ディラン推し

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信じられない事にテントが無いという事は敷物を引いただけで寝るという事らしいと気付いたのは男がゴロンと横になった時だった。

「用意が出来ました。どうぞご寛ぎ下さい。」

このころような場所で寝かせようというのになんと押し付けがましい事だ。誰がこの様なところで寛げるものか。

不敬である。

「お前も一緒に寝てしまったら危険が迫ったらどうするのだ?」

俺は怒りを噛み殺し尋ねた。

「ご心配には及びません。この辺に危険な生物は居ませんし、万が一の為に結界石でお守りしますよ。さっ、夜は長い事ですし、神に愛されし国の話をお聞かせ下さい。」

……なら一人で夜営をしたらいい。

その夜は男をディランに朝まで眠らせて貰い、夕食もディランの館で取ることにした。

「――何故私をそんなに見ているのだ?」

ディランに見つめられてナイフとフォークの手を止める。

「また薄汚れてきた。……今日は風呂に入れよう。」

「そうか?では頼もう。」

そうして俺は久しぶりに快適な夜を過ごした。

朝、ゆっくりと寝てから男の元へ戻った。男はイビキをかいて寝ていた。

「ディラン猫、起こしてくれ。」

「にゃっ。」

ディラン猫の目が怪しく光ると男が目を覚ました。

「……?おはようございます。早いですね。……何か綺麗になってません?」

男が不思議そうに俺を見る。

そんなに誉めても優しき人々の話は少ししかしてやらないぞ? 

そうやって俺の初めての帝国の旅は山あり谷ありで過ぎていった。途中150㎞で村に着いたが特に疲れてもいなかったので素通りした時は男が泣きそうな顔をしていたが、どうでもいい事だ。そして国境を出てから3ヶ月を経った頃に帝都に着いた。

「世話になったな。」

ん?国境警備隊長、少し痩せたか?

「グレン殿、神に愛されし国の話をたくさん聞かせて下さってありがとうございました!たまにカチンとくる事もありましたが、意外といい人なんですね。……噂は当てにならないなぁ。」

男が少し寂しそうに頭を掻いた。湿っぽいのはなんだかむず痒いから嫌だ。

「私もカチンとくる事は多々あったが、お前との旅は心地よいものだった。……これをあげよう。礼はお前が無事に国境に帰る事だ。」

俺は男にある紙を手渡し踵を返し振り返らなかった。

「?……こっ、これは!!!?」

男の手には男が肌身離さず持っていたディランの絵。

帝国では優しき人々の絵が流行しているらしく男はディランの絵を持っていた。その絵はディランが可愛らしくデフォルメされていて「誰だこれは!?」とグレンは見せられた時大爆笑した。人生で初めてこんなに笑ったと言っても過言ではない。

その絵にはいつの間にかディランのサインがしてあった。

「にゃーん。」
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