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優しい国編
02 犬猿の仲
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俺は今、世界中で一番敷居の高い屋敷の前に馬車を停めてもらっている。
中々出てこない俺を御者は固唾を飲んで待っている事だろう。
何故ここなのだと。等々終わりが始まるのかと。それに居合わせた自分は何と不幸なんだろうと。
御者は自分の運命を嘆いているに違いない。
可哀想に。付き合わせて申し訳無かったな。俺も歩いて行けばいいものを何故馬車に乗ってしまったのだろう。なんたる失態!この選択が後々破滅につながらなければよいのだが。
俺は覚悟を決めると馬車を降り、その門を叩いた。
「っぐぅ!」
いつもならお付きの者が行う事なので叩き方が判らず金具に指を挟んであまりの痛さに涙が滲む。
今までこんな指を痛めるような事を従者にさせて悪かったなぁ。恨まれてないといいが。ガクブル。
俺が痛みに呻いていると屋敷の召し使いが顔を出し、俺の顔を見て挙動不審になると「お待ち下さいませ!!!!」と言って一目散に扉を閉められてしまった。
鼻先に風があたるくらいの勢いだ。俺の鼻がもう少し高かったら当たっていたかもしれない。不敬である。ちょっと前までの俺ならあの召し使いの家族もろとも死ぬより辛い目に合わせているところだ。
はっ!?として首を振る。いけないいけない。そんな事したら恨みを買うじゃないか!!!!ガクブル。
俺が真っ青になって首を振っていると扉がまた開いた。目の前には神が前世で可哀想な死に方をした人間を今世ではパーフェクトにしてあげると言って創った様な美形が不機嫌というか、冷気を丸出しにして立っていた。弱冠見下ろされているのが悔しい。
「何のご用ですかな?」
おおう!?地の底から這うような声とはよく言ったものだな。しかしこの俺に対していつもと変わらぬこの態度である。慣れているから怖くはない。だって俺の事が嫌いだって丸分かりの態度で節してくるのはこの男だけなのである。
そう、ここが重要だ。
他の人間は俺が怖くて何も意見しないし憎悪を隠しているがこの男は違う。すれ違っても堂々と無視するし、俺の発言バンバン否定してくるし、体全体で俺の事が大嫌いっていうオーラを纏っている。うん!清々しいほどにな!
この男が悪魔と怖れられているこの俺にそんな態度がとれるのは偏に彼が神に遣わされた世界最強の人間兵器だからである。
この優しい人間が住まう地において他国に攻められた時に彼が動く。あっという間に他国の軍勢は塵とかすだろう。だろうというのは彼が人間兵器の称号を手に入れてから侵略が起きていないからだ。他国も人間兵器の存在を知っていてここ500年は手を出してこないでいる。過去2000年においてこの国に手を出して無事でいた国は居ないのだ。またその伝説が忘れ去られた頃に迷信を信じない国が侵略してくるだろうが、彼がいる限りこの地に血が流れる事はない。彼が死んでも次に引き継がれる。この国は神にえこひいきされている国なのだ。
「お、折入って話があり来た。」
あっ、どもった。
「話?どんなお話か存じ上げないが、ここで済ませていただきたい。」
訪ねてきた宰相の俺を門前払いする気か。ここでいいんだな。言っちゃうぞ?
「私は貴方の保護を受けたい。私は命を狙われている。守ってくれ。」
さぁ、早く保護しろとばかりに胸を張る。
「……何を、言っている?」
俺を見下ろす男の額に青筋が浮かぶ。
「今日からここで世話になる。」
俺は毛嫌いされているのを承知でここに来た。裏表のないこの男なら俺の寝首を掻く事ないし、一番ここが安全だ。そして一番安心できないのが自分の舘だった。あれだけ屋敷の使用人達を苛めぬいてきたんだ。どれだけ恨まれているか。ガクブル。恐ろしくて戻ることは出来ない。
「これは王命である。国の宝である私を守れと仰せだ。」
真っ赤な嘘である。
中々出てこない俺を御者は固唾を飲んで待っている事だろう。
何故ここなのだと。等々終わりが始まるのかと。それに居合わせた自分は何と不幸なんだろうと。
御者は自分の運命を嘆いているに違いない。
可哀想に。付き合わせて申し訳無かったな。俺も歩いて行けばいいものを何故馬車に乗ってしまったのだろう。なんたる失態!この選択が後々破滅につながらなければよいのだが。
俺は覚悟を決めると馬車を降り、その門を叩いた。
「っぐぅ!」
いつもならお付きの者が行う事なので叩き方が判らず金具に指を挟んであまりの痛さに涙が滲む。
今までこんな指を痛めるような事を従者にさせて悪かったなぁ。恨まれてないといいが。ガクブル。
俺が痛みに呻いていると屋敷の召し使いが顔を出し、俺の顔を見て挙動不審になると「お待ち下さいませ!!!!」と言って一目散に扉を閉められてしまった。
鼻先に風があたるくらいの勢いだ。俺の鼻がもう少し高かったら当たっていたかもしれない。不敬である。ちょっと前までの俺ならあの召し使いの家族もろとも死ぬより辛い目に合わせているところだ。
はっ!?として首を振る。いけないいけない。そんな事したら恨みを買うじゃないか!!!!ガクブル。
俺が真っ青になって首を振っていると扉がまた開いた。目の前には神が前世で可哀想な死に方をした人間を今世ではパーフェクトにしてあげると言って創った様な美形が不機嫌というか、冷気を丸出しにして立っていた。弱冠見下ろされているのが悔しい。
「何のご用ですかな?」
おおう!?地の底から這うような声とはよく言ったものだな。しかしこの俺に対していつもと変わらぬこの態度である。慣れているから怖くはない。だって俺の事が嫌いだって丸分かりの態度で節してくるのはこの男だけなのである。
そう、ここが重要だ。
他の人間は俺が怖くて何も意見しないし憎悪を隠しているがこの男は違う。すれ違っても堂々と無視するし、俺の発言バンバン否定してくるし、体全体で俺の事が大嫌いっていうオーラを纏っている。うん!清々しいほどにな!
この男が悪魔と怖れられているこの俺にそんな態度がとれるのは偏に彼が神に遣わされた世界最強の人間兵器だからである。
この優しい人間が住まう地において他国に攻められた時に彼が動く。あっという間に他国の軍勢は塵とかすだろう。だろうというのは彼が人間兵器の称号を手に入れてから侵略が起きていないからだ。他国も人間兵器の存在を知っていてここ500年は手を出してこないでいる。過去2000年においてこの国に手を出して無事でいた国は居ないのだ。またその伝説が忘れ去られた頃に迷信を信じない国が侵略してくるだろうが、彼がいる限りこの地に血が流れる事はない。彼が死んでも次に引き継がれる。この国は神にえこひいきされている国なのだ。
「お、折入って話があり来た。」
あっ、どもった。
「話?どんなお話か存じ上げないが、ここで済ませていただきたい。」
訪ねてきた宰相の俺を門前払いする気か。ここでいいんだな。言っちゃうぞ?
「私は貴方の保護を受けたい。私は命を狙われている。守ってくれ。」
さぁ、早く保護しろとばかりに胸を張る。
「……何を、言っている?」
俺を見下ろす男の額に青筋が浮かぶ。
「今日からここで世話になる。」
俺は毛嫌いされているのを承知でここに来た。裏表のないこの男なら俺の寝首を掻く事ないし、一番ここが安全だ。そして一番安心できないのが自分の舘だった。あれだけ屋敷の使用人達を苛めぬいてきたんだ。どれだけ恨まれているか。ガクブル。恐ろしくて戻ることは出来ない。
「これは王命である。国の宝である私を守れと仰せだ。」
真っ赤な嘘である。
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