極上αだった俺が突然Ωになって(本当はなってない)パリピαに面白がられる話

はるか

文字の大きさ
上 下
10 / 12

10 許し

しおりを挟む
「辰様……」
「陽葉瑠、探しました。無事でよかった……。でも、どうしてここへ……?」
 辰様のほうへ行こうとしたが、風名に腕を掴まれてしまい、あと数歩のところで立ち止まった。
 緑の瞳を見上げる。
「教えてください。青帝が風名さんを愛しているのであって、辰様が彼女を愛しているわけじゃない。そうですよね?」
「え、ええ……そうですが……?」
 辰様は戸惑うように、眉をひそめた。
 
 胸がどきどきしている。息が苦しくて、浅い呼吸を素早く繰り返す。

 辰様と風名が天界に還れば、この世界から夜魔はいなくなる。辰様も毎年別の神様を食べるという罪をおかさずにすむ。
 でも、風名は辰様を愛しているわけじゃない。死んでも構わないとさえ思っている。辰様は風名を愛しているわけじゃない。私を愛してくれている。

 いいやもうそんな理屈なんてどうでもよかった。
 そばにいたい。離れたくない。もうほかの女性なんて抱かないでほしい。風名と寄り添うところなんて二度と見たくない。風名の嫉妬で光の雨を使わされて、死んでいくところなんか見たくない。

 だから私は罪をおかす。
 あなたを苦しめることになるかもしれないとわかっていても。
 衝動が私を突き動かす。いま手を伸ばさないと永久に失われてしまうものが目の前にあって、私は何よりそれが欲しい。迷いはまだある。そのくせ自分を止められない。

「私は辰様に命令します」
 辰様が驚愕に目を見開く。
 あなたに捧げた私の血が、きちんとあなたを縛りますように。強く強く念じながら、言葉を発する。
「風名さんを愛さないでください。風名さんと天界に還らないでください」
「陽葉瑠……っ!」
「これは命令です。私だけを、愛してください」
 
 これは世界を滅ぼす呪いの言葉となるのかもしれない。

「辰様、私はあなたが思うほど優しくもなければ、正しくもありませんでした。私も……醜い」
 もう既に後悔で胸が苦しい。言わなければ良かった、でも言わずにいられなかった。目が熱い。苦しい。心がぐちゃぐちゃだ。

「はは……は……」

 辰様は目を真っ赤にして泣きながら笑っていた。胸を押さえて、大声で叫ぶように笑う。時折痙攣したように肩を震わせ、喘いだ。口から唾液を垂らし、手の甲で口元をぬぐった。

「は……はは……あはは! 私の気持ちがわかりますか。ふふ、自分が壊れてしまいそうなほど嬉しくて、……っふ、自分が壊れそうなそうなほど絶望しています。ああでも、いいのです、全ての罪は私が背負いましょう。陽葉瑠が私の愛を欲しがってくれた、それだけで私は幸せすぎて死んでしまいそうです。永遠にそばにいます、陽葉瑠!」
 碧の目は異様にぎらつき、ひきつった笑みを浮かべる口元はこれから起こる凶事を予感させた。風名は異様なものでも見るような目つきで私と辰様を見た。
「嘘でしょう、私と天界に戻ってくれるわよね? ねえ!」
 風名の叫びに辰様は冷笑を返した。
「私はもう天界には還りません」
「そんな、どうして……だって、あなたは青帝なのだから……神の血の制約なんて無視できるはずでしょう?」
「いいえ。青帝と私では私のほうが優位なんです。ですので私が縛られるものは何であれ青帝も縛られます。残念ですが諦めてください。私も青帝も、あなたを愛することを禁じられてしまいました。もう風名に心動かされることはない」
「そんな……」
 風名はがっくりと頭を垂れた。
「痛っ……」
 私の腕を掴んだ爪が肉に食い込んでいる。離そうとしたが、力が強い。この小さな手の一体どこからそんな力が湧くのか。
 ゆらり、顔を上げた。美しく整った童顔であるがゆえに、怒りや嫉妬といった感情が不釣り合いで、まるで別人のように人相が変わってしまっていた。
「許さない、こんなの……絶対に許さないわ……!」
「……っく!」
 腕を引っ張られて、地面にたたきつけられた。とても人間の力とは思えない怪力だ。腰を打ったけれど、でも爪が食い込む痛みから解放されてほっとする。
 彼女は一歩、一歩、大地に呪いをかけながら歩くかのようにじわじわと進んだ。
「風名、どこに行く気ですか」
 辰様は立ちふさがり、両手を伸ばして、行く手を遮った。
「行かせるわけにはいきません。あなたがやろうとしていることが私にはわかります。それだけはいけません」
 しかし、風名は目にもとまらぬ早さで身をひるがえし、手を広げた辰様の横をすり抜けた。
「私を裏切ったあなたたち二人が幸せになることだけは、許さない!」
 振り返りざまにそう吐き捨てると、広場のほうへ駆けていった。

 辰様は追いかけようと数歩駆け出したものの、すぐ引き返してきて、私の肩を掴んだ。
「あまり時間がありません。これから言うことをよく聞いてください。風名はおそらく神産みの箱に入る気です。でも天界に戻るためじゃない。強力な夜魔を産むために入るのです」
「どういうことですか……」
「相手を乗っ取って自分のものとする夜魔の力を使い、神産みの箱を乗っ取る気なのです。あの箱は夜魔を生む装置に変えられてしまう。それもただの夜魔ではなく、箱の中で眠っている次なる神々と合体させた夜魔、つまり私のような者を産む気なのです」
「辰様と同じ者ならば、心配はいらないのでは……」
 辰様はかぶりを振った。
「夜魔は風名の支配下にあります。半分が神であっても、風名が命じるままに人々を殺そうとするでしょう。ああ、安心してください、私は支配を受けません。私は特殊なのです。青帝と一体化しているから風名の力は及びません。でも、ほかの神たちはそうはいかない……私たちは天女より格下ですから」
「夜魔に侵された神様が、これから人を襲うと……」
「ええ。神の喜びごとが、凶事に変じ、人々に災いが降りかかるのです」
 ことの重大さが飲み込めてきた。
 あの緑色の神秘の箱が、恐ろしい災いの元にされてしまう。
 それと同時に、これか、と思った。以前、紅飛斗長が予感していた、神産みの箱に迫る危機。

 紅飛斗長が感じた不吉な予言は……おそらく現実になる。

「陽葉瑠。これから話すことをよく聞いてください」
 嫌な予感がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

アルファとアルファの結婚準備

金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。  😏ユルユル設定のオメガバースです。 

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

処理中です...