近未来テクノロジー 禁断の頭脳コンバージョン オリンピック水泳の金メダルを勝ち得る

水波海河

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20X2年 4月 8日 持て余す肉体(1)

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プールの水面はわずかな動きもなく、鏡のような反射を見せていた。
数十分間前まで水泳選手たちによってできた激しい流動の時と打って変わって、
凍ったかのように水の分子たちは1㎜の動きもなかった。

日本水泳選手権の全ての日程が終了した。社会人や競合大学のチームが大勢でミーティングらしきことをやっている間を抜けて、Z工業大学のチーム3名がプール会場から外へ出た。

「あぁ~やっと終わった~ようやく水泳からしばらく離れられるわ」
「は、何言ってるの?」

Z工大唯一の出場選手、赤月瑛樹からのあまりにもやる気ない発言に、小柄のマネージャーが甲高い声をあげた。

「赤月は今日の結果で満足なの?後半の落ち方もハンパなかったし、明日からもう来年に向けて練習するよ!」
「うるせぇな桃山、準決まで残れたから充分じゃねぇか」
「充分って・・・」

桃山愛菜は立ち止まって、反論をするのをやめた。
以前長時間口論しても取り合ってくれなかったことを思い出していた。

数秒間立ち尽くしていたが、前の男子2人は見向きもせずに駅方面の出口に向かっていた。慌てて追いつくため小走りした。ショートボブの黒髪が軽くなびいた。
同級生で練習パートナーとして同行した白原啓介の腕を軽く叩いて同意を求めた。

「ちょっと、白原からも何か言ってよ~」
「声が大きいわ、周りの人見てるし」

急に周りの視線が気になって恥ずかしくなった。白原が声のトーンを抑えて分析しだした。

「ま、赤月が最初の50mでトップに食い込んだときはもしかしたら?と思ったけど、後半は案の定だったな」
「でもな!それで少しは会場も盛り上がっただろ!?泳いでいてラップ見えるんだわ、さすがの紫吹さんだって見て焦ったはずだぞ!」
「そういうことじゃなくて・・・もう」

同い年で翌年のオリンピック出場が有力視されているY体育大学の有名人を引き合いに出していた。


3人が駅に近づくと、赤月は時計を見て次の電車に乗るために急ぎ出した。

「でもまじめに練習行けなくなりそう。実験もしないといけないし。教授が手伝えってうるさいんだわ、この日本選手権出場選手に対して。じゃあお疲れさん」

そう言い残すと早足で改札を通って行ってしまった。
姿が見えなくなってから、桃山の普段からのいらだちが噴出した。

「あぁもう!赤月はやる気出せば絶対もっと速くなると思うのに!白原だってそう思うでしょ?」

「そりゃそうだ、あんな力まかせで突っ込むから後半落ちているんだろうし、もっと効率のいいフォームで固めていけば、紫吹さんレベルまでいけてもおかしくはない。動画解析したり、マッサージしてるから良く分かる。それに比べて、見たろ?紫吹くんの超きれいな泳ぎ」

「うん本当にきれいに泳ぐよね、水しぶきの量が全然違う・・・体系的には赤月とは本当に差がないように見えるのにね」

「マジでもったいないって!あれだけの身体能力を持っているのにやる気がないなんて・・・あの理想的な体型を持て余しやがって。オレもあんな恵まれた体になってみたいわ、でもあんな顔になるのは嫌だけど」

「どういう意味!?」

桃山がまた高周波な声で白原に詰め寄った。その見幕に一瞬ひるんだが、すぐに言い返した。

「いやだってあのおもろい顔だから、さらに坊主だし、そんなムキになるなって・・・あいつのことが好きだからって」
「はぁ!?あんなやつ、全然好きじゃないし!」

白原に着信が来て、片手でタブレットを操作して斜めに画面を見た。

「悪い、ちょっと戻るわお疲れ」
「あっそ、じゃあまた明日ね」

白原はプール方面に戻っていった。心なしか足取りが軽く見えた。

(はいはいどうせ彼女と帰るんでしょ・・・やっぱり苦手だわ、白原は。しかもいつもなんか見透かされているような感じになる、私が赤月のことを好きなんて友達にも誰にも言ってないのに)

一人残された桃山は、男子2人の好き勝手な行動を思い出して、あきれてため息をついた。それにより更に重さを増したリュックサックは、その小さな肩に更に食い込んだ。軽いジャンプで背負い直して自分の乗る電車のホームを探した。
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