びいどろ綺談

紫蓮

文字の大きさ
上 下
3 / 3
幕前

静かにしめやかに縁は結ぶ 参

しおりを挟む
「特殊とは?お聞きしても?」

(足りない情報に思考が追いつかない、情報を引き出さなくては、自分を選びまた期日が厳守とは何なんだ?)

動揺を悟られない様、短く、端的に、言葉を選ぶ橘は海千山千の両名に見破られている事すら気がつかない程、動転していた。


嗚呼、聴こえていたのかい?参ったなぁ

わざとらしく困り顔を見せる晴政に、わざわざ聴こえる様にしたんだろうがと、谷中は咳払いをして見せる。
この友人、晴政と言う男は身内に入れるか否かでスルリと仮面が剥がれ、悪意の無い親愛なる戯れイケズや言葉遊びを仕掛けるのだから。

政権下での晴政は、氷華のごとく情等一切考慮せず切り捨てると厳しいと評判の男であった。

短い遣り取りであっても、人となりを見極める手腕は流石、裏で政権を左右する一族の当主である。

愛娘を任せ、定められた運命からも守ってくれるだろう・・・と。

いつも伏せ目がちで、自信無く微笑む愛娘の姿を思い出しつつ、聞いたからには逃がさないし、逃げる事や断る事は赦す気は無いと、決意の籠った視線を向け、話し始める。


我が家自体が特殊で、ね?


軽くつむがれる言の葉の音階は、継がれる言の葉に似合わず重く重く響き渡る。

己の呼吸音や鼓動音までが大きく聞こえる気がする程の、部屋の静寂。
実際には、晴政の声だけが音として部屋を支配しており、左京は緊張と、未知への恐怖心からなのか、ごくりと喉が鳴っていた。


そう、あれは娘と息子を授かった時だったか。

こくりと、酒を傾け喉を潤した晴政は遠くを見る表情を見せた。

「妻と私は喜び幸多かれと深く深く願ったのだよ。
息子はある意味で心配は無いのだが、娘の美夜子はね。」

言葉を切ると、困った様な悲しみを潜ませ手にしている盃を手慰む様に指先で転がしていた。

「信じられないかもしれないが、目を合わせた相手のが聞こえるんだ。」


上司の谷中が息を呑んだのが伝わってきた。

左京の膝の上に置いた両手こぶしは、自身の動揺を鎮めようと、更にキツく結ばれる。
爪が手の平に食い込んでいた。


ふふ、信じられないってのが人の常さ。

気にして無いから、っと片手をさらりと降り作り笑いを零す晴政に、動揺を無作法を、無礼を許されたのだと知る。

「ただ、ね?」

「君達が、どう思うかどうかはどうでも良い。」
「真実、美夜子は目を通してだ。」

幼子というものは、疑う事をしらない。
不思議と思い、知りたいと思う事は言葉に出すだろう。

それが、良い事か、悪き事に繋がるかなど考えもせず。

「みやこは、しねばよかったのにってどういうこと?かあさま。」

美夜子が、乳母の1人を指差して無邪気に妻に問うたのだ。

「あの人が言ってたよ?いまはね、こころがきこえてるの?っていってるよ?ばけもの?ってなぁに?」

侍従をさらに指差し

「あっちの人は、みやこは、いらないこだって、にいさまだけだったらよかったって、どうして?」


と・・・ね。


「それからだ、使用人を近づけ無くなり、一族の前にも姿を余り出さなくなった。化け物、いらない子供と、聴こえない声が、美夜子にだけ聴こえる環境。美夜子があの子が人と目を合わせなくなり、自らを愛される事は無いと思い込む様になった。」

ふう、と一つ息を吐き晴政はこてりと首を傾ける。

「私たち家族の言葉は、慰めにもならないが根気よくいくつもりだったんだよ。」

だけど、事情が変わったんだと渇いた笑いを溢す晴政の表情には苛立ちが混ざっていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

訳ありな家庭教師と公爵の執着

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝名門ブライアン公爵家の美貌の当主ギルバートに雇われることになった一人の家庭教師(ガヴァネス)リディア。きっちりと衣装を着こなし、隙のない身形の家庭教師リディアは素顔を隠し、秘密にしたい過去をも隠す。おまけに美貌の公爵ギルバートには目もくれず、五歳になる公爵令嬢エヴリンの家庭教師としての態度を崩さない。過去に悲惨なめに遭った今の家庭教師リディアは、愛など求めない。そんなリディアに公爵ギルバートの方が興味を抱き……。 ※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷  ※稚拙ながらも投稿初日(2025.1.26)からHOTランキングに入れて頂き、ありがとうございます🙂 最高で26位(2025.2.4)。 ※断罪回に残酷な描写がある為、苦手な方はご注意下さい。

処理中です...