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1章:私は貴方を諦める
物心つくお年頃と過保護な保護者
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季節はうららかな優しい陽射しを部屋に注ぎ、擦れる木の葉の囁きが子守唄の様で、うとうとと寝ていたのでしょう。
その光からさえも守る様に幾重にも柔らかなレースで、天蓋から覆われたベビーベッドに、私は眠っていた様でした。
寝返りが打てる様になり、赤児の狭い視界が天井から部屋の内装をぐるりと見渡せる様に変わりました。
見渡せる様になって壁側の家具らしき物が、随分と小さい、、といいますか、遠くに感じる様な気がしていました。
実際、赤児の私には過分の部屋の広さを与えられていたのだと、扉からおにいさまが私に向かって駆け寄って下さった時に知る事となったのです。
小さな姿、おにいさまらしき姿から、おにいさまの声がします。
小首を傾げる様にし、おにいさまのお声の方向へ手を伸ばすと、一層歓喜に満ちたお声が聞こえ、それが段々と大きくなり、お顔が分かる距離になると理解出来るものです。
私の、赤児の部屋にしては広過ぎる、、と。
それでも私が、声を出せば放置せず壁側に控えている侍女や乳母がすっとやって来て、小さな事でも世話をやいて下さるのです。
義務的で無く、必ず柔らかな光を讃えた瞳で優しく優しくお声を掛け、お世話して下さいます。
愛しい愛しいと目で、表情で声色で、抱く手で、全てで伝わって来るのです。
嬉しいけれども、気恥ずかしく、胸の奥がきゅっとむず痒く疼いてしまいます。
精一杯のお返しに、私の出来る限りの笑顔で笑いかけ、侍女や乳母の指をきゅっと握りしめ返しておりました。
そして、それを聞いたおとうさまが私を起こそうとして、おかあさまと、おにいさまにお叱りを受けたと、私の頬を柔らかな指先でするすると撫でながら、お話しして下さいます。
『羨ましい、ずるい。私だってステラに笑いかけられたいし、指ギュッてされたいのに。』
おとうさま、涙目でボソボソ訴えていたそうです。
「お父様の気持ちは、僕も分かるけどステラを無理矢理起こしちゃダメだよね~。」
「ステラの事になると、僕も負けないし、負けるつもりも無いのだけど、お父様は更に輪を掛けて駄々っ子になるってお母様が言ってたんだ。」
ふふふっと天使の様な顔を綻ばせ、するすると撫でていた指先は、わたくしの鼻をちょんっと突いて来ます。
「ステラ、いくらでもいつでも君が例え忘れてしまっても、僕は、ううん、僕らは何度でも君に伝えるよ。」
「君を、君を害する全てから守ってあげる。君が何よりも愛しくて、大事なんだって事。覚えていてね。」
何とか答えたくて、鼻先に当たるおにいさまの指先をきゅっと握り、はいっと返事をしました。
「あぅぁ!」
あくまで私は、はいっと返事をしたのです。
・・・赤子の舌はまだ言葉がしっかりでないだけです。
恥ずかしさを堪えていると、破顔し真っ赤なお顔のおにいさまが見えました。
「ステラ、僕の妹!可愛すぎてどうしよう!」
侍女や乳母の視線も温かく、くすくすと笑い声が聞こえます。
柔らかな空気が部屋の中を満たしていました。
ああ、今世はこの家族と、この家の人達の愛だけで私は幸せです。
いえ、この人達が与えて下さる無償の愛だけ、私には有れば良い。
私の何処かにいる番の貴方。
どうか、偽物で貴方にとっては本物の番様とお幸せに。
心の痛みが少し無くなった気がしました。
家族の無償の愛を注がれて、和らいだのか。
前世と何かが変わって変化が始まったのか、鍵をかけ過ぎて鈍くなったのか。
その時の私には、察する事は出来なかったのです。
その光からさえも守る様に幾重にも柔らかなレースで、天蓋から覆われたベビーベッドに、私は眠っていた様でした。
寝返りが打てる様になり、赤児の狭い視界が天井から部屋の内装をぐるりと見渡せる様に変わりました。
見渡せる様になって壁側の家具らしき物が、随分と小さい、、といいますか、遠くに感じる様な気がしていました。
実際、赤児の私には過分の部屋の広さを与えられていたのだと、扉からおにいさまが私に向かって駆け寄って下さった時に知る事となったのです。
小さな姿、おにいさまらしき姿から、おにいさまの声がします。
小首を傾げる様にし、おにいさまのお声の方向へ手を伸ばすと、一層歓喜に満ちたお声が聞こえ、それが段々と大きくなり、お顔が分かる距離になると理解出来るものです。
私の、赤児の部屋にしては広過ぎる、、と。
それでも私が、声を出せば放置せず壁側に控えている侍女や乳母がすっとやって来て、小さな事でも世話をやいて下さるのです。
義務的で無く、必ず柔らかな光を讃えた瞳で優しく優しくお声を掛け、お世話して下さいます。
愛しい愛しいと目で、表情で声色で、抱く手で、全てで伝わって来るのです。
嬉しいけれども、気恥ずかしく、胸の奥がきゅっとむず痒く疼いてしまいます。
精一杯のお返しに、私の出来る限りの笑顔で笑いかけ、侍女や乳母の指をきゅっと握りしめ返しておりました。
そして、それを聞いたおとうさまが私を起こそうとして、おかあさまと、おにいさまにお叱りを受けたと、私の頬を柔らかな指先でするすると撫でながら、お話しして下さいます。
『羨ましい、ずるい。私だってステラに笑いかけられたいし、指ギュッてされたいのに。』
おとうさま、涙目でボソボソ訴えていたそうです。
「お父様の気持ちは、僕も分かるけどステラを無理矢理起こしちゃダメだよね~。」
「ステラの事になると、僕も負けないし、負けるつもりも無いのだけど、お父様は更に輪を掛けて駄々っ子になるってお母様が言ってたんだ。」
ふふふっと天使の様な顔を綻ばせ、するすると撫でていた指先は、わたくしの鼻をちょんっと突いて来ます。
「ステラ、いくらでもいつでも君が例え忘れてしまっても、僕は、ううん、僕らは何度でも君に伝えるよ。」
「君を、君を害する全てから守ってあげる。君が何よりも愛しくて、大事なんだって事。覚えていてね。」
何とか答えたくて、鼻先に当たるおにいさまの指先をきゅっと握り、はいっと返事をしました。
「あぅぁ!」
あくまで私は、はいっと返事をしたのです。
・・・赤子の舌はまだ言葉がしっかりでないだけです。
恥ずかしさを堪えていると、破顔し真っ赤なお顔のおにいさまが見えました。
「ステラ、僕の妹!可愛すぎてどうしよう!」
侍女や乳母の視線も温かく、くすくすと笑い声が聞こえます。
柔らかな空気が部屋の中を満たしていました。
ああ、今世はこの家族と、この家の人達の愛だけで私は幸せです。
いえ、この人達が与えて下さる無償の愛だけ、私には有れば良い。
私の何処かにいる番の貴方。
どうか、偽物で貴方にとっては本物の番様とお幸せに。
心の痛みが少し無くなった気がしました。
家族の無償の愛を注がれて、和らいだのか。
前世と何かが変わって変化が始まったのか、鍵をかけ過ぎて鈍くなったのか。
その時の私には、察する事は出来なかったのです。
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