3 / 4
1章:私は貴方を諦める
物心つくお年頃と過保護な保護者
しおりを挟む
季節はうららかな優しい陽射しを部屋に注ぎ、擦れる木の葉の囁きが子守唄の様で、うとうとと寝ていたのでしょう。
その光からさえも守る様に幾重にも柔らかなレースで、天蓋から覆われたベビーベッドに、私は眠っていた様でした。
寝返りが打てる様になり、赤児の狭い視界が天井から部屋の内装をぐるりと見渡せる様に変わりました。
見渡せる様になって壁側の家具らしき物が、随分と小さい、、といいますか、遠くに感じる様な気がしていました。
実際、赤児の私には過分の部屋の広さを与えられていたのだと、扉からおにいさまが私に向かって駆け寄って下さった時に知る事となったのです。
小さな姿、おにいさまらしき姿から、おにいさまの声がします。
小首を傾げる様にし、おにいさまのお声の方向へ手を伸ばすと、一層歓喜に満ちたお声が聞こえ、それが段々と大きくなり、お顔が分かる距離になると理解出来るものです。
私の、赤児の部屋にしては広過ぎる、、と。
それでも私が、声を出せば放置せず壁側に控えている侍女や乳母がすっとやって来て、小さな事でも世話をやいて下さるのです。
義務的で無く、必ず柔らかな光を讃えた瞳で優しく優しくお声を掛け、お世話して下さいます。
愛しい愛しいと目で、表情で声色で、抱く手で、全てで伝わって来るのです。
嬉しいけれども、気恥ずかしく、胸の奥がきゅっとむず痒く疼いてしまいます。
精一杯のお返しに、私の出来る限りの笑顔で笑いかけ、侍女や乳母の指をきゅっと握りしめ返しておりました。
そして、それを聞いたおとうさまが私を起こそうとして、おかあさまと、おにいさまにお叱りを受けたと、私の頬を柔らかな指先でするすると撫でながら、お話しして下さいます。
『羨ましい、ずるい。私だってステラに笑いかけられたいし、指ギュッてされたいのに。』
おとうさま、涙目でボソボソ訴えていたそうです。
「お父様の気持ちは、僕も分かるけどステラを無理矢理起こしちゃダメだよね~。」
「ステラの事になると、僕も負けないし、負けるつもりも無いのだけど、お父様は更に輪を掛けて駄々っ子になるってお母様が言ってたんだ。」
ふふふっと天使の様な顔を綻ばせ、するすると撫でていた指先は、わたくしの鼻をちょんっと突いて来ます。
「ステラ、いくらでもいつでも君が例え忘れてしまっても、僕は、ううん、僕らは何度でも君に伝えるよ。」
「君を、君を害する全てから守ってあげる。君が何よりも愛しくて、大事なんだって事。覚えていてね。」
何とか答えたくて、鼻先に当たるおにいさまの指先をきゅっと握り、はいっと返事をしました。
「あぅぁ!」
あくまで私は、はいっと返事をしたのです。
・・・赤子の舌はまだ言葉がしっかりでないだけです。
恥ずかしさを堪えていると、破顔し真っ赤なお顔のおにいさまが見えました。
「ステラ、僕の妹!可愛すぎてどうしよう!」
侍女や乳母の視線も温かく、くすくすと笑い声が聞こえます。
柔らかな空気が部屋の中を満たしていました。
ああ、今世はこの家族と、この家の人達の愛だけで私は幸せです。
いえ、この人達が与えて下さる無償の愛だけ、私には有れば良い。
私の何処かにいる番の貴方。
どうか、偽物で貴方にとっては本物の番様とお幸せに。
心の痛みが少し無くなった気がしました。
家族の無償の愛を注がれて、和らいだのか。
前世と何かが変わって変化が始まったのか、鍵をかけ過ぎて鈍くなったのか。
その時の私には、察する事は出来なかったのです。
その光からさえも守る様に幾重にも柔らかなレースで、天蓋から覆われたベビーベッドに、私は眠っていた様でした。
寝返りが打てる様になり、赤児の狭い視界が天井から部屋の内装をぐるりと見渡せる様に変わりました。
見渡せる様になって壁側の家具らしき物が、随分と小さい、、といいますか、遠くに感じる様な気がしていました。
実際、赤児の私には過分の部屋の広さを与えられていたのだと、扉からおにいさまが私に向かって駆け寄って下さった時に知る事となったのです。
小さな姿、おにいさまらしき姿から、おにいさまの声がします。
小首を傾げる様にし、おにいさまのお声の方向へ手を伸ばすと、一層歓喜に満ちたお声が聞こえ、それが段々と大きくなり、お顔が分かる距離になると理解出来るものです。
私の、赤児の部屋にしては広過ぎる、、と。
それでも私が、声を出せば放置せず壁側に控えている侍女や乳母がすっとやって来て、小さな事でも世話をやいて下さるのです。
義務的で無く、必ず柔らかな光を讃えた瞳で優しく優しくお声を掛け、お世話して下さいます。
愛しい愛しいと目で、表情で声色で、抱く手で、全てで伝わって来るのです。
嬉しいけれども、気恥ずかしく、胸の奥がきゅっとむず痒く疼いてしまいます。
精一杯のお返しに、私の出来る限りの笑顔で笑いかけ、侍女や乳母の指をきゅっと握りしめ返しておりました。
そして、それを聞いたおとうさまが私を起こそうとして、おかあさまと、おにいさまにお叱りを受けたと、私の頬を柔らかな指先でするすると撫でながら、お話しして下さいます。
『羨ましい、ずるい。私だってステラに笑いかけられたいし、指ギュッてされたいのに。』
おとうさま、涙目でボソボソ訴えていたそうです。
「お父様の気持ちは、僕も分かるけどステラを無理矢理起こしちゃダメだよね~。」
「ステラの事になると、僕も負けないし、負けるつもりも無いのだけど、お父様は更に輪を掛けて駄々っ子になるってお母様が言ってたんだ。」
ふふふっと天使の様な顔を綻ばせ、するすると撫でていた指先は、わたくしの鼻をちょんっと突いて来ます。
「ステラ、いくらでもいつでも君が例え忘れてしまっても、僕は、ううん、僕らは何度でも君に伝えるよ。」
「君を、君を害する全てから守ってあげる。君が何よりも愛しくて、大事なんだって事。覚えていてね。」
何とか答えたくて、鼻先に当たるおにいさまの指先をきゅっと握り、はいっと返事をしました。
「あぅぁ!」
あくまで私は、はいっと返事をしたのです。
・・・赤子の舌はまだ言葉がしっかりでないだけです。
恥ずかしさを堪えていると、破顔し真っ赤なお顔のおにいさまが見えました。
「ステラ、僕の妹!可愛すぎてどうしよう!」
侍女や乳母の視線も温かく、くすくすと笑い声が聞こえます。
柔らかな空気が部屋の中を満たしていました。
ああ、今世はこの家族と、この家の人達の愛だけで私は幸せです。
いえ、この人達が与えて下さる無償の愛だけ、私には有れば良い。
私の何処かにいる番の貴方。
どうか、偽物で貴方にとっては本物の番様とお幸せに。
心の痛みが少し無くなった気がしました。
家族の無償の愛を注がれて、和らいだのか。
前世と何かが変わって変化が始まったのか、鍵をかけ過ぎて鈍くなったのか。
その時の私には、察する事は出来なかったのです。
13
お気に入りに追加
306
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから
咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。
そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。
しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

夫は私を愛してくれない
はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」
「…ああ。ご苦労様」
彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。
二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる