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エデン
吸血鬼退治部
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ここは吸血鬼退治部の部室。そして、5人の部員たち。いつもであればくだらないお話を、咲かせた花も枯れ果てる程にダラダラ垂れ流しているはずのこの空間で、ギラついた空気を漂わせている。
遂に訪れた、吸血鬼たちとの決戦を前に、皆が心を緊張させていた。その1人、腕を組んで机に足をかけて座る男、白金龍一が、立ち上がって4人を見渡し、重い空気をものともせずに口を開いた。
「お前らに、いくつか言っておく事がある」
4人は彼に視線をやる。しっかりと聞いている事を確認した龍一は、先を続けた。
「今日の戦いは、可能な限りは2手に別れて行動する。俺と武情チーム、そしてコペル、星子、彼方チーム。例え策略にハマろうが、チーム同士の行動は必ず意識するんだ」
軍服のような長ランを着た男、武情は龍一を睨みつけると、フンと鼻を鳴らして俯いた。
彼には戦う理由というものがある。絶対に吸血鬼を倒し、妹を危険に晒し続けた生活を脱却しなければならない。例え仲間であろうとも、他人に構っている心の余裕などありはしない。彼の魂に宿る感情は今、灼熱の炎すら焦がし尽くす殺戮衝動、ただそれひとつだけだ。
だが、そんなことは言われなくても理解している。だからこそ龍一は、このチーム分けにしたのだ。
「チームは分ける。だが、あくまで数の有利を取りやすい為であることは断っておく。全ては己の命を最優先だ。命を捨てる所まで追い込まれるな。その為の数であるということを断っておく」
窓際のパイプ椅子にもたれかかる彼方は、瞳を閉じてうんと頷いた。ありがたい話だ。
彼方には、何としてでもマックスに拉致された母親を取り戻さなくてはならないという、戦いの覚悟の動機がある。仲間たちとは共にここまでやってきたが、最優先は母親だ。その事態を汲んでくれているのだと考えて、感謝すると心の中で呟いた。
「それと、ここまでやってきたのは皆のおかげだ。それしか言葉が出てこないが、皆には本当に感謝している。大きな事態に発展しちまったが、どうか最後まで生きているんだ、いいな」
なんかいいふうに仕切っちゃって、と星子は思った。死戦を越え、龍一は本当に頼もしいやつになった。いや、ここにいる皆がそうだと、星子は確信する。コペルを、戦う理由をもって集まった皆を、助けたいから。星子はキュッと後ろ髪を結んだ。
「俺からは以上だ。何かあるやつはいるか」
そう聞くと、スっと手を挙げたのはコペルだ。
「今から、皆に俺のゴールデン・ブラッドを輸血するよ。戦う上で、勝算の足しにはなるはずだ」
「いいのか、コペル」
「うん。気にしないでくれ。完全な状態で挑まないと」
コペルは右腕を差し出し、キツく拳を握りしめて力を込めると、たちまち右腕が黄金に輝き始めた。
「皆、コペルから血をもらおう」
輸血をしている間、コペルはこれから先の事を考える。きっと俺は鍵なんだ。吸血鬼と人間のハーフであるこの俺こそが、楽園を開くためのマスターキーなんだ。でもそれは、楽園を求める者がいなくなった時に、なんの意味もなさない存在へと成り下がる事を意味する。本当に怖い事だ。消えてしまうかも知れないと思うと、身体中が震えて止まらない。
それでも、今の俺には羽ばたけるだけの力が残されている。皆を救う事が出来るのだとしたら、相手がどんな手を使い、どんな強大な能力でかかってこようとも、関係ない。この身に宿り始めた新しい力で、未来をら切り拓いていくだけだ。そう思った。
「準備はいいな、お前ら」
龍一はそう言うと、返答も聞かず皆に背を向けた。それは、龍一なりの覚悟の表れであった。戦う理由などない。先祖から受け継いだこの物語に、決着をつけに行くだけだ。そのためにも、あのテラスとかいう吸血鬼をやっつける。何故かは分からないが、どうしてもあの吸血鬼の事が気にかかる。ならば直感に従おう。それは龍一にとって最もいい選択のしかただ。部長としても、絶対にやっつけてみせる。その覚悟だ。
5人は次々に部室から出て行く。必ず生きてここに戻ってくる。明日、またここで皆を待っている。5人は見つめ合う。この瞬間が、この体験が、魂の居場所すらも失いかけていた彼らを誇り高き勇者へと育て上げた。
皆の道が重なり交わったこの何ヶ月間かを、きっと心から感謝しているだろう。外れたはずの道だった。誰からも拒まれた。誰もを拒み続けた。孤独に逃げていた5人が、この愛すべきハミ出し者達が、内に秘めた黄金の運命を辿って仲間と出会うことが出来た。そして今思えば、本当に実りのある経験だった。かけがえのないものが、温度ある血として流れ始めているのを感じる。さあ、最後の戦いへと駆り出す時が来た。
道標は胸の中に。想いは各々瞳の奥に。
5人は視線を前に直し、シャッター街へ向けて、歩き始めた。
遂に訪れた、吸血鬼たちとの決戦を前に、皆が心を緊張させていた。その1人、腕を組んで机に足をかけて座る男、白金龍一が、立ち上がって4人を見渡し、重い空気をものともせずに口を開いた。
「お前らに、いくつか言っておく事がある」
4人は彼に視線をやる。しっかりと聞いている事を確認した龍一は、先を続けた。
「今日の戦いは、可能な限りは2手に別れて行動する。俺と武情チーム、そしてコペル、星子、彼方チーム。例え策略にハマろうが、チーム同士の行動は必ず意識するんだ」
軍服のような長ランを着た男、武情は龍一を睨みつけると、フンと鼻を鳴らして俯いた。
彼には戦う理由というものがある。絶対に吸血鬼を倒し、妹を危険に晒し続けた生活を脱却しなければならない。例え仲間であろうとも、他人に構っている心の余裕などありはしない。彼の魂に宿る感情は今、灼熱の炎すら焦がし尽くす殺戮衝動、ただそれひとつだけだ。
だが、そんなことは言われなくても理解している。だからこそ龍一は、このチーム分けにしたのだ。
「チームは分ける。だが、あくまで数の有利を取りやすい為であることは断っておく。全ては己の命を最優先だ。命を捨てる所まで追い込まれるな。その為の数であるということを断っておく」
窓際のパイプ椅子にもたれかかる彼方は、瞳を閉じてうんと頷いた。ありがたい話だ。
彼方には、何としてでもマックスに拉致された母親を取り戻さなくてはならないという、戦いの覚悟の動機がある。仲間たちとは共にここまでやってきたが、最優先は母親だ。その事態を汲んでくれているのだと考えて、感謝すると心の中で呟いた。
「それと、ここまでやってきたのは皆のおかげだ。それしか言葉が出てこないが、皆には本当に感謝している。大きな事態に発展しちまったが、どうか最後まで生きているんだ、いいな」
なんかいいふうに仕切っちゃって、と星子は思った。死戦を越え、龍一は本当に頼もしいやつになった。いや、ここにいる皆がそうだと、星子は確信する。コペルを、戦う理由をもって集まった皆を、助けたいから。星子はキュッと後ろ髪を結んだ。
「俺からは以上だ。何かあるやつはいるか」
そう聞くと、スっと手を挙げたのはコペルだ。
「今から、皆に俺のゴールデン・ブラッドを輸血するよ。戦う上で、勝算の足しにはなるはずだ」
「いいのか、コペル」
「うん。気にしないでくれ。完全な状態で挑まないと」
コペルは右腕を差し出し、キツく拳を握りしめて力を込めると、たちまち右腕が黄金に輝き始めた。
「皆、コペルから血をもらおう」
輸血をしている間、コペルはこれから先の事を考える。きっと俺は鍵なんだ。吸血鬼と人間のハーフであるこの俺こそが、楽園を開くためのマスターキーなんだ。でもそれは、楽園を求める者がいなくなった時に、なんの意味もなさない存在へと成り下がる事を意味する。本当に怖い事だ。消えてしまうかも知れないと思うと、身体中が震えて止まらない。
それでも、今の俺には羽ばたけるだけの力が残されている。皆を救う事が出来るのだとしたら、相手がどんな手を使い、どんな強大な能力でかかってこようとも、関係ない。この身に宿り始めた新しい力で、未来をら切り拓いていくだけだ。そう思った。
「準備はいいな、お前ら」
龍一はそう言うと、返答も聞かず皆に背を向けた。それは、龍一なりの覚悟の表れであった。戦う理由などない。先祖から受け継いだこの物語に、決着をつけに行くだけだ。そのためにも、あのテラスとかいう吸血鬼をやっつける。何故かは分からないが、どうしてもあの吸血鬼の事が気にかかる。ならば直感に従おう。それは龍一にとって最もいい選択のしかただ。部長としても、絶対にやっつけてみせる。その覚悟だ。
5人は次々に部室から出て行く。必ず生きてここに戻ってくる。明日、またここで皆を待っている。5人は見つめ合う。この瞬間が、この体験が、魂の居場所すらも失いかけていた彼らを誇り高き勇者へと育て上げた。
皆の道が重なり交わったこの何ヶ月間かを、きっと心から感謝しているだろう。外れたはずの道だった。誰からも拒まれた。誰もを拒み続けた。孤独に逃げていた5人が、この愛すべきハミ出し者達が、内に秘めた黄金の運命を辿って仲間と出会うことが出来た。そして今思えば、本当に実りのある経験だった。かけがえのないものが、温度ある血として流れ始めているのを感じる。さあ、最後の戦いへと駆り出す時が来た。
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