吸血鬼のいる街

北岡元

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6分の1のサバイブ

吸血鬼、テラスは楽園を渇望する

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「………………」

 意識を失ったマクスウェルが発見されたのは、ゼッターが隠れ家に使用していた下水路だった。
 ボロ切れのようにひれ伏して、虚ろな瞳をぐらぐらと揺らすマクスウェルの肩を持ち、テラスは歩き出す。
 いつからだろうか。楽園を望んだのは。あのアリオスとかいう吸血鬼がイギリスにやってきた時、テラスの環境は全て変わった。戦うためだけに存在する戦闘兵器、もしくは、楽園を渇望する哀れな吸血鬼。
 そう、楽園。それこそが目的。屍にはまだなれない。この世界に幸福を掴むまでは。
「……死んではならないわ、マクスウェル……」
 語りかける。しかし、返答はかえってこない。その代わりに、1粒の涙をマクスウェルは流した。
「…………」
 テラスはマクスウェルを投げ捨てる。身体に力が入らず、マクスウェルはべたりと倒れ込む。
「第2の術……フィギュア…………」
 漆黒に満ちたエネルギーがマクスウェルを包み込む。これでいい。そうだ、楽園のためなのだから、これでいい。
 漆黒に塗りつぶされる心。意志を屠り、進み続けたマクスウェルにはもう、自我など存在していなかった。
 程なくしてマクスウェルは立ち上がり、歩き出した。
「雇った能力者を使うぞ、テラス……」
 素人のぎこちないあやつり人形のように、がちゃがちゃと朧気に歩くマクスウェルの背中を見て、テラスはいつも思う。楽園はあるのか、と。
 今宵の満月は街を洗い流すように、青黒く景色を侵食する。やがてくる暁のためか。それとも、罪と業をまた1つ、この街に植え付けるためか。
 
 遠ざかる楽園を渇望し、テラスは暁に眠る。せめて、この時だけは、この瞬間だけは、安らかに…………。
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