吸血鬼のいる街

北岡元

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ゼッターのラッキー・ストライク

ウェスト

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 明くる日、5人は正午に駅前へと待ち合わせをした。土曜日なのだが、私服は汚したくないという星子の主張から、コペルと彼方はいつもの制服姿で集合することになった。武情と龍一は関係ないので普通に私服を着て来る。こすい部長である。
「じゃ、予定通り俺と武情は西側、お前らは東側だ。北から下っていって南側のジャンパチの駐車場で合流し、そこからは全員で南側を捜索する」
「連絡はどうする?」
「今回は極力連絡せずに行く。その代わり連携を怠るな。俺、そしてコペルと彼方は互いに後方支援に徹するんだ。武情、星子、お前らは前衛だ」
 そう言うと龍一と武情はそそくさと歩き去って行った。それを見送ったコペル、彼方、星子の3人は、とりあえずはシャッター街を目ざして歩こうということになった。
 今日は土曜日ということもあってか、人通りが多い。だが路地裏には野良猫たちが日向ぼっこをしに道路に寝そべっている。何とも賑わいのあるのかないのか分からないのだが、そこにある雰囲気を楽しむ分には、忙しない学生たちには十分楽しいのであった。結局猫に引っ張られて路地裏を探索していた一行。武情あたりが飛んできて燃やし尽くしそうなやる気の無さである。
 そこから少し歩いたところで、星子は既にこの一行の違和感に気づいていた。
「ねえ、ちょっと」
 コペルと彼方。この2人が全く喋らないのである。
「ねえってば」
 星子の呼び掛けに答えたのは彼方であった。
「なんスか。あ、バッタ」
「バッタじゃないわ。なんか喋りなって」
 彼方はああ、なんだそんなことかと口に出してるも同然のあくびをかました。なにか2人でごにょごにょしてたことに気づいたコペルは彼方に、
「どうしたって?」
と聞いたが、
「いや、別に」
と彼方が言うので、
「あ、そう」
と言って2人でまたそそくさと歩き始めた。傍から見てると気持ちの悪い2人組である。
「なんか違うな~、思い描いてたのと……」
 一方の武情、龍一組。2人は団地エリアへと足を踏み入れた。この西側一帯は隣町の駅がすぐそこにあるため完全に住宅区であり、至るところに古い団地郡を見かけることが出来る。
 龍一は1人葛藤していた。この坂上武情、あまりにもイカつい。ペイズリーの柄シャツと金縁の丸グラサンにダボダボのワイドパンツという借金取りファッション。小脇に携えたセカンドバッグも怪しく見えるというものである。イオンのポロシャツを3着着回すのみの龍一には少々話しかけづらい。怖ぇよー。なんか最近俺と星子ばっか驚いたり気遣ったりの役目になってきてる気がする……。
 龍一は大して気にせず行こうと思ったが、どうしても微妙な距離感を感じていた。そう、武情とはまだ知り合って4日しか経っていないのである。まずはこの部長、白金龍一から仲良くならねばならない。見た感じ硬派で、恐らく誰相手にも辛辣に食らわすタイプ……。龍一はついに会話に踏み切った。
「この辺ぼろ臭い団地ばっかでよ、嫌になるぜ。特によ、あれ見ろよ、ボロッボロじゃねえか」
「あそこは俺の家だ」
「あっ……、あれ見ろよ! 高校生が金髪に染めてよ、イキんなってな! ブッスいしな!」
「あれは妹だ」
「あっ、うららちゃ……、さんね……」
 死なせてくれ、俺を。龍一は神に祈った。
「よく見るとめっちゃ美人さんかも……」
「…………」
「本音なんだよ、今のは……」
「もう喋るな……」
 そんなやり取りもありながらも、龍一たちは団地を抜け、しばらく歩くと住宅地も抜けて、人気のない公園に着いた。
「少し休ませてくれ、武情……」
「好きにしろ」
 武情は時計を見た。2時45分。この(龍一の)ペースではまだまだ先は長そうである。自分も休んだ方がいいと思った。龍一の方を向くと、自販機で飲み物を買おうとしていたので、ついでに自分のものも買ってもらおうと思った。
「おい、龍一」
 歩き出した武情だがその視線の先に龍一はいない。ああ、なぜか反対側に歩いていたようだ。改めて龍一の方を向く。
「おい、」
 またしても武情はいつの間にか反対を向いていた。もうすぐそこには、ナイフを持った男が切りかかろうとしていることも知らずに……。
「!? なんだ貴様!」
 武情は急に伸びてきた腕を払った。そしてバックステップを……。
「な、何!?」
 武情は驚愕した。何故俺は反対向きにバックステップを取っているのだ!? 不覚にも、刃渡り9センチの刃物を持った男へと、背中を向けて飛び込む形を取ってしまった。
「討ち取ったり、坂上武情!」
 刃物はゆっくりと突き出され、武情の背中に命中した。武情は死を悟ったのち背後にコツンという感触を味わい、柄シャツにふわりと弾かれてそのまま突き刺さることなく地面に落ちた。
「くっ……、ん?」
 顔を布でぐるぐるに覆われてあえなく捕まってしまったこの男は吸血鬼の仕向けたやつだということが、何となく2人には理解出来た。
 先ほど、龍一が気づいた時にはもう遅かったには遅かったのだが、ダメ元でぶち込んだ太陽弾はなぜか向きを変えることなく男の手元にばっちり命中し、刃物をはたき落とすことにあっさり成功したのだった。
「それで、君、正直に話せないわけ? 自分の能力も、自分の雇い主も」
 龍一は男の胸ぐらを掴みあげた。
「な、なんの事だ……」
「ふぅーーん」
 龍一はドローンを男の耳あたりに差し出してプロペラをひゅんひゅん言わせた。男は見えていないので能力でなにかされると感じたので、
「わ、分かった、話す……、俺の能力は「ウエスト」……、視界に入っているものを西向きにする能力だ……」
 龍一と武情は顔を見合わせた。そのまま次は両耳をひゅんひゅん言わせた。
「そんなわけないよなあ!?」
「ほ、本当なんだよ……、信じてくれ……デカい木でも何でも西向きに出来たんで、送り込まれたんだ……」
 龍一は何となく胸を撃たれた。自分が悪いとしても本音を信じて貰えないことの気持ちというのは団地で学習済みである。
「それで、雇い主は今どこに……」
「そ、それは、ここに……」
 男は提げていたバッグを引き渡した。武情が取り上げて中身を見ると、紙が3枚入っていた。うち1枚を取り出してみると、そこにはこう書かれていた。
「吸血鬼退治部をぶち殺せ大作戦!(前金もあるよ)」
 男はひゅんひゅんに加えてメラメラが両耳から聞こえるようになった。
「ふざけんじゃねえぞタコおい」
「なに色鉛筆で色つけてんだオラ」
「本当にそれに書かれてるんだよー!助けてくれーー!!」
 と、龍一があることに気がついた。
「おい、武情、裏があるぞそのプリント」
「あ?」
 裏を見たところ、ボールペンでこのように綴られていた。
「どうやら今日、あの子どもたちが動き出すようなので、俺は東のシャッター街を抜けたとこにある住宅街で待ち伏せする。西団地を抜けた公園で待ち伏せすること。」
「龍一、とりあえず敵が潜んでいることはあいつらに知らせておく」
「ああ……、ところで君、この吸血鬼についての情報はあるか?」
「あいつは……、ゼッターという名前の背の低い男だ。能力は……、当たったらとにかく絶対に倒せるというものだ……」
 龍一と武情はとりあえず南側へと歩くことにした。この2人を相手にするのがこんなカス1人というのはどう考えてもおかしい。他にも潜んでいるかもしれない。
「曇ってきている。先を急ぐぞ、武情」
「ああ」
 曇るとサテライト・メビウスが使い物にならないので、ウエストの能力者はトイレットペーパーをぐるぐる巻きにして、木に吊るしててるてる坊主になってもらった。あんま急いでないじゃん。
「それと、龍一」
 歩きながら武情は、龍一に残り2枚のプリントを渡した。そこには、「吸血鬼の歴史」「吸血鬼の目的」と題名が書かれていた。
「これは……。とりあえず先を急ぐことにするか。解読はそれからだ」
 一方、コペル、彼方、星子組。3人はメッセージを見たのち、恐らくここだろうという住宅地に到着していた。そして、そのことは既に、吸血鬼・ゼッターに目撃されていたのだった。
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