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吸血鬼のいる街
吸血鬼のいる街
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人生を尽くしてやるべきことや、命を賭けるに値する夢。10代の若者たちは、そんなことについてある程度は考えてみたのではないか。産経高校2年生、この日ひっそりと17歳の誕生日を迎えた斑木コペルも、その1人である。学校を終えてバスを乗り継ぎ、家の玄関扉を開けるまでの約40分、彼は脳内で将来を展開する。
進級するにはまず苦手な英語を克服しなければならない。3年生に上がれば特進学級に編入しとにかく勉強、12月には偏差値を62に伸ばし、無事受験を終える。第1志望の大学の受験番号ボードには自分の番号があって…、ここまでは組み上がった。
最近は毎日のように、同じところから始めて同じところで終わる。家には部屋が8個あり、それとは別にバスルームと個室トイレが2つ。2階の部屋の1つでは祖母が眠っている。
誰しもこの受験を控えた期間は余裕が無い。周りは皆、大して努力してないけどなんか余裕あるよんっていう態度を取っているので、何となく焦ってはいるが勉強は手付かずの状態なのだ。コペルはそのことを知っている。しかし、怠惰で現状を変えるようなアクションを起こせていないというのもまた、事実なのである。
コペルは不安をかき消すように目を瞑る。風呂に濡れた髪などはどうでもいい。髪を乾かさないのは怠惰の原因するところだと思うし、そうじゃないかも知れない。明日の課題をしないのは、今日の授業で疲労が限界を迎えたからだし、もしかしたら怠惰なのかも知れない。
明日になればまたエンジンがかかる…。そう思って眠る日々に早くおさらばしたい。最後にそれだけ思って眠ってしまうのも、またいつものことなのである。
その夜も、コペルは夢を見た。今日もまた、いつもと同じ夢を見る。広がる世界はら黄金色の眩い朝陽が照らし出す1面の花畑。
ヒラヒラと舞う蝶々たちがまるで天使に見える。この美しい輝きが咲き誇る花々を煌めかす。その輝きは、どこまでも見果てぬ青の空が突き上げた先から降り注ぐ。
コペルはこの花畑の真ん中にいる。そこには、もう1人、朝陽に照らされた鮮やかなゴールドの髪をかきあげて笑っている女性がいた。本当に暖かい笑顔の女性だった。
「コペル……」
女性はそう呟いた。まるで大切な宝物を両手で包み込むように、優しい声だった。
微笑む彼女。昇りゆく太陽の輝き。コペルはあまりの眩しさのあまり、目を瞑った。そして思い出す。
これは夢だ。アクションを起こせば、次のページが開かれる物語。
景色は変わる。コペルが目を開くと、自分の寝室にいた。外は土砂降りで、真っ暗な夜になっていた。先程の女性は目の前にいた。そして、もう1人。黒いマントに身を包んだ者がいた。そいつは、女性がかきあげた髪の隙間から見えるうなじに噛み付いた。そのまま、ゴクゴクと、女性の血を吸っていった。その姿はまるで吸血鬼だった。コペルは、どうして、こうなるんだと思った。何故思ったのかは、分からない。助けたいと思っても、何だか動けずにいた。
やがて、女性は苦しそうにもがく腕を止めて、崩れ落ちた。その様子を見届けた吸血鬼は、黒いマントを翻して部屋を出て行った。玄関の扉を開ける音が響いた。そして、雨の音と倒れた女性だけが残った。
この街には、もしかしたら吸血鬼がいるんじゃないか。コペルは朝になるとそう思う。何故なら、夢に出てくるからなんて言ったら笑われそうだが、妙にリアルなゆめだと思う。初めてこの夢を見た時は大して心に留めていなかったが、どうしてか最近は毎日見るので、何か意味があるのではないかと考えるようになった。
あの女性を思い出すと、何故だか悲しい感情が湧き上がってくる。
バスが産高前駅に着くとどうでも良くなるこの夢を、このコペルという少年は毎朝考えている。別にボケーっとファンタジーを妄想するのが好きなのではない。ただ、意味があるのではないかと、そう思っている。この街には、吸血鬼が潜んでいる、いや、潜んでいるのかもしれない。そういう事も、もしかしたら有り得るのかもしれない。
バスが停留所に到着すると、途端に、すごく気だるい感覚に襲われる。ぎゅうぎゅう詰めの人の波に押されて、一歩一歩ステップを降りていく。急に、誰かに足を踏まれてステップから外に転げ落ちた。
当たり前の様に、誰も手を差し伸べてはくれない。コペルは、深々とため息をつく。すくり立ち上がって、何事も無かったかのように歩き出した。
自分の下駄箱を開けると、ゴミがなだれ落ちていって、革靴の上にバサバサ覆い被さる。自分で入れたゴミでは無い。多分、クラスの部活動生が玄関を掃除したがゴミ箱に捨てに行くのが面倒なので、テキトーに下駄箱を選んでゴミ箱代わりにぶち込んだんだろう。テキトーに選んでいる割には、今月でもう7回目なのだが。
廊下を歩いていると、すごく気だるい気持ちが膨らんでいく。通りすがった教室の中からくすくすと笑う声が聞こえてくると、帽子を深々と被り込んでため息をついた。
クラスに着くと、自分の机の上に突っ伏した。何故今日も学校に来たんだろうか、いや、来てしまったんだろうかと思う。楽しく話をしたり、宿題を写し合ったりするような友達がいる訳では無い。勉強に精を出している訳でもない。授業をテキトーに聞き流して、昼になればトイレで美味くも何ともないパンを食い、ホームルームが終われば帰る。それ以外の時間は、仲間内に入れずにいるコペルの事を変な目で見ているクラスメイトの視線に怯えて、1人で静かに本でも読んで過ごしている。
コペルは孤独だった。孤独なので、皆は嘲笑ったり陰口を言って侮辱したり、ゴミ箱代わりにしたりする。そんな毎日がすごく嫌だったが、この現状を変えるという事は、コペルにとって世の中のどんな事よりも難しいんじゃないかと思えた。
死にたい。学校にいると、毎日その一言が頭をよぎる。死んだら、誰かに悲しまれるんだろうか。皆、辛かったんだなと、思い直してくれるんだろうか。気づけば、そんな事ばかりを考えていた。惨めで仕方がなかった。そして今日もまた、帰りのホームルームが終わるまで、死んだ魚の様な眼で窓の外を見つめていた。
「なあコペル、もうそろそろ俺んとこの部活見に来いよ」
放課後、帰りの支度をしているとそう話しかけられた。声の方へ振り向くと白金龍一がいた。彼は、クラスの中でも一際変なやつとして有名な男だ。ニタニタ半笑いでコペルの机の上に尻を置いて、コペルの反応を待っている。
「行かないよ」
下を向いてそう答えた。
「お前けっこう頭がいいだろ、スピリチュアルIQのほうだけど」
龍一は帰ろうとするコペルを脚で通せんぼしながら、断った事などお構い無しに話を続ける。
「コペル君にしか出来ない事なんだよ。な、頼むから。ほらこの通り」
「俺じゃなくても、他にきっといると思うぞ」
「なんでコペル君なのかっていうと、つまり、お前にビビっときてるからだよ」
龍一は直感を大切にしている。すらっと長い脚で筋肉質な細マッチョ体型で、ちょっと練習すれば勉強もスポーツも基本なんだって出来ますよ、というタイプの男。イケメンなのだが変人気質で、特に彼の所属する部活は特殊な名前をしている。
「吸血鬼退治部の入学届け、コペルくんの分もう書いてるからな、部室で会おう!」
そう言い残して、教室から出ていった。
「めちゃくちゃなやつだ」
コペルは「この手のやつ」を振り切っている白金龍一を、嫌っている訳では無いが大して仲良くなりたいとは思っていない。自分より人生豊かそうだから、妬いているのである。
廊下をぶっちぎって階段を駆け上がる龍一を見届けたコペルは思った。もう帰ろうと。えっと、昨日は何考えてたんだろう? そう、大学に入ったら、えーと……。
次の日、コペルは部室にいた。生徒会室へ向かう途中にヘンテコなドローンにカッ攫われ、この部室にいた。そう、
「吸血鬼退治部入部の面接を開始します」
コペルはうんざりしていた。そう言えば1年前、この龍一という男に吸血鬼の妄想を話したことある気がする。やめた方が良かった。
「まず、こいつは斑木星子。本当はセイコだけど、ほしこって呼んでる」
「ほしこよ、よろしく」
よろしくじゃねえよ。そんなこと言ったらドローンが飛んできそうだから、続きを聞くことにした。
「早速だが俺と星子はハンドパワーなんかチャチいぜって感じの超能力を持っている。そして、コペルくんを誘ったのは、もちろんコペルくんが超能力者だからだ」
コペルはピンと来た。確かに、昔から怪力の超能力がある。だが、もちろん学校では使ったことがない。誰にも見せたことなんかない。
「なんだそりゃ」
「とぼけたって無駄さ。俺たちは見ただけで分かるんだからな。お前もすぐにそうなる」
龍一はコペルに掌を見せる。コペルは驚愕した。彼は何も握ってなかった。そう認識した1秒後、その掌には、
「そのドローンは……」
「これが俺の能力、名付けてサテライト・メビウス。太陽エネルギーを凝縮した弾丸を発砲できるのさ」
部室のカーテンがなびくのをコペルは認識した。膝の上をホコリが舞う。黒板が陽に照らされる。木々がゆらゆらと揺らめく。気づけば龍一の周りを飛ぶドローンは5機になっていた。そして、目の前の男は超能力者で、これは現実だと、認識した。
「嘘だろ」
「星子も超能力を持っているが、ここでは出すことが出来ない。ワケありの能力だからな」
斑木コペルは、本当に内気な少年である。だが、心の中では自分の存在を知っている。未知なるパワーを内包した自分を、コペルは知っていて、誰にも話せないでいた。龍一が羨ましかった。こんなにも輝ける瞳を持って、自身を持って自分を証明できる人物。コペルは、大きな憧れを持った。
「コペルくん。君が必要なんだ。君の本当の力が、俺たちには必要なんだ」
コペルは風向きが変わるのを感じた。人生の風向き。歩む方向がただの人生に終わらない、現実を見る度にそう実感出来た。
ふと、昨夜の夢を思い出した。何も出来ない自分の夢だった。1歩を踏み出せない自分が何も変えられないので、同じ夢を毎日見ているのだと思った。ずっとそうだった。自分には何も出来ずに、過ぎていった出来事など山のようにあった。初めて現れた、自分を必要としてくれる人物。今この瞬間とは、コペルにとって、初めて自分から1歩を踏み出した、その瞬間だった。
「俺は……この部活で何をすればいいんだ」
龍一と星子は顔を見合せた。
「今日、丁度いいんじゃない?」
星子の提案は
「かもな」
採用される。そう、この物語は、コペルの物語はここから動き始めるのだ。
「単刀直入に言う。コペルくん、今から吸血鬼退治を決行する」
進級するにはまず苦手な英語を克服しなければならない。3年生に上がれば特進学級に編入しとにかく勉強、12月には偏差値を62に伸ばし、無事受験を終える。第1志望の大学の受験番号ボードには自分の番号があって…、ここまでは組み上がった。
最近は毎日のように、同じところから始めて同じところで終わる。家には部屋が8個あり、それとは別にバスルームと個室トイレが2つ。2階の部屋の1つでは祖母が眠っている。
誰しもこの受験を控えた期間は余裕が無い。周りは皆、大して努力してないけどなんか余裕あるよんっていう態度を取っているので、何となく焦ってはいるが勉強は手付かずの状態なのだ。コペルはそのことを知っている。しかし、怠惰で現状を変えるようなアクションを起こせていないというのもまた、事実なのである。
コペルは不安をかき消すように目を瞑る。風呂に濡れた髪などはどうでもいい。髪を乾かさないのは怠惰の原因するところだと思うし、そうじゃないかも知れない。明日の課題をしないのは、今日の授業で疲労が限界を迎えたからだし、もしかしたら怠惰なのかも知れない。
明日になればまたエンジンがかかる…。そう思って眠る日々に早くおさらばしたい。最後にそれだけ思って眠ってしまうのも、またいつものことなのである。
その夜も、コペルは夢を見た。今日もまた、いつもと同じ夢を見る。広がる世界はら黄金色の眩い朝陽が照らし出す1面の花畑。
ヒラヒラと舞う蝶々たちがまるで天使に見える。この美しい輝きが咲き誇る花々を煌めかす。その輝きは、どこまでも見果てぬ青の空が突き上げた先から降り注ぐ。
コペルはこの花畑の真ん中にいる。そこには、もう1人、朝陽に照らされた鮮やかなゴールドの髪をかきあげて笑っている女性がいた。本当に暖かい笑顔の女性だった。
「コペル……」
女性はそう呟いた。まるで大切な宝物を両手で包み込むように、優しい声だった。
微笑む彼女。昇りゆく太陽の輝き。コペルはあまりの眩しさのあまり、目を瞑った。そして思い出す。
これは夢だ。アクションを起こせば、次のページが開かれる物語。
景色は変わる。コペルが目を開くと、自分の寝室にいた。外は土砂降りで、真っ暗な夜になっていた。先程の女性は目の前にいた。そして、もう1人。黒いマントに身を包んだ者がいた。そいつは、女性がかきあげた髪の隙間から見えるうなじに噛み付いた。そのまま、ゴクゴクと、女性の血を吸っていった。その姿はまるで吸血鬼だった。コペルは、どうして、こうなるんだと思った。何故思ったのかは、分からない。助けたいと思っても、何だか動けずにいた。
やがて、女性は苦しそうにもがく腕を止めて、崩れ落ちた。その様子を見届けた吸血鬼は、黒いマントを翻して部屋を出て行った。玄関の扉を開ける音が響いた。そして、雨の音と倒れた女性だけが残った。
この街には、もしかしたら吸血鬼がいるんじゃないか。コペルは朝になるとそう思う。何故なら、夢に出てくるからなんて言ったら笑われそうだが、妙にリアルなゆめだと思う。初めてこの夢を見た時は大して心に留めていなかったが、どうしてか最近は毎日見るので、何か意味があるのではないかと考えるようになった。
あの女性を思い出すと、何故だか悲しい感情が湧き上がってくる。
バスが産高前駅に着くとどうでも良くなるこの夢を、このコペルという少年は毎朝考えている。別にボケーっとファンタジーを妄想するのが好きなのではない。ただ、意味があるのではないかと、そう思っている。この街には、吸血鬼が潜んでいる、いや、潜んでいるのかもしれない。そういう事も、もしかしたら有り得るのかもしれない。
バスが停留所に到着すると、途端に、すごく気だるい感覚に襲われる。ぎゅうぎゅう詰めの人の波に押されて、一歩一歩ステップを降りていく。急に、誰かに足を踏まれてステップから外に転げ落ちた。
当たり前の様に、誰も手を差し伸べてはくれない。コペルは、深々とため息をつく。すくり立ち上がって、何事も無かったかのように歩き出した。
自分の下駄箱を開けると、ゴミがなだれ落ちていって、革靴の上にバサバサ覆い被さる。自分で入れたゴミでは無い。多分、クラスの部活動生が玄関を掃除したがゴミ箱に捨てに行くのが面倒なので、テキトーに下駄箱を選んでゴミ箱代わりにぶち込んだんだろう。テキトーに選んでいる割には、今月でもう7回目なのだが。
廊下を歩いていると、すごく気だるい気持ちが膨らんでいく。通りすがった教室の中からくすくすと笑う声が聞こえてくると、帽子を深々と被り込んでため息をついた。
クラスに着くと、自分の机の上に突っ伏した。何故今日も学校に来たんだろうか、いや、来てしまったんだろうかと思う。楽しく話をしたり、宿題を写し合ったりするような友達がいる訳では無い。勉強に精を出している訳でもない。授業をテキトーに聞き流して、昼になればトイレで美味くも何ともないパンを食い、ホームルームが終われば帰る。それ以外の時間は、仲間内に入れずにいるコペルの事を変な目で見ているクラスメイトの視線に怯えて、1人で静かに本でも読んで過ごしている。
コペルは孤独だった。孤独なので、皆は嘲笑ったり陰口を言って侮辱したり、ゴミ箱代わりにしたりする。そんな毎日がすごく嫌だったが、この現状を変えるという事は、コペルにとって世の中のどんな事よりも難しいんじゃないかと思えた。
死にたい。学校にいると、毎日その一言が頭をよぎる。死んだら、誰かに悲しまれるんだろうか。皆、辛かったんだなと、思い直してくれるんだろうか。気づけば、そんな事ばかりを考えていた。惨めで仕方がなかった。そして今日もまた、帰りのホームルームが終わるまで、死んだ魚の様な眼で窓の外を見つめていた。
「なあコペル、もうそろそろ俺んとこの部活見に来いよ」
放課後、帰りの支度をしているとそう話しかけられた。声の方へ振り向くと白金龍一がいた。彼は、クラスの中でも一際変なやつとして有名な男だ。ニタニタ半笑いでコペルの机の上に尻を置いて、コペルの反応を待っている。
「行かないよ」
下を向いてそう答えた。
「お前けっこう頭がいいだろ、スピリチュアルIQのほうだけど」
龍一は帰ろうとするコペルを脚で通せんぼしながら、断った事などお構い無しに話を続ける。
「コペル君にしか出来ない事なんだよ。な、頼むから。ほらこの通り」
「俺じゃなくても、他にきっといると思うぞ」
「なんでコペル君なのかっていうと、つまり、お前にビビっときてるからだよ」
龍一は直感を大切にしている。すらっと長い脚で筋肉質な細マッチョ体型で、ちょっと練習すれば勉強もスポーツも基本なんだって出来ますよ、というタイプの男。イケメンなのだが変人気質で、特に彼の所属する部活は特殊な名前をしている。
「吸血鬼退治部の入学届け、コペルくんの分もう書いてるからな、部室で会おう!」
そう言い残して、教室から出ていった。
「めちゃくちゃなやつだ」
コペルは「この手のやつ」を振り切っている白金龍一を、嫌っている訳では無いが大して仲良くなりたいとは思っていない。自分より人生豊かそうだから、妬いているのである。
廊下をぶっちぎって階段を駆け上がる龍一を見届けたコペルは思った。もう帰ろうと。えっと、昨日は何考えてたんだろう? そう、大学に入ったら、えーと……。
次の日、コペルは部室にいた。生徒会室へ向かう途中にヘンテコなドローンにカッ攫われ、この部室にいた。そう、
「吸血鬼退治部入部の面接を開始します」
コペルはうんざりしていた。そう言えば1年前、この龍一という男に吸血鬼の妄想を話したことある気がする。やめた方が良かった。
「まず、こいつは斑木星子。本当はセイコだけど、ほしこって呼んでる」
「ほしこよ、よろしく」
よろしくじゃねえよ。そんなこと言ったらドローンが飛んできそうだから、続きを聞くことにした。
「早速だが俺と星子はハンドパワーなんかチャチいぜって感じの超能力を持っている。そして、コペルくんを誘ったのは、もちろんコペルくんが超能力者だからだ」
コペルはピンと来た。確かに、昔から怪力の超能力がある。だが、もちろん学校では使ったことがない。誰にも見せたことなんかない。
「なんだそりゃ」
「とぼけたって無駄さ。俺たちは見ただけで分かるんだからな。お前もすぐにそうなる」
龍一はコペルに掌を見せる。コペルは驚愕した。彼は何も握ってなかった。そう認識した1秒後、その掌には、
「そのドローンは……」
「これが俺の能力、名付けてサテライト・メビウス。太陽エネルギーを凝縮した弾丸を発砲できるのさ」
部室のカーテンがなびくのをコペルは認識した。膝の上をホコリが舞う。黒板が陽に照らされる。木々がゆらゆらと揺らめく。気づけば龍一の周りを飛ぶドローンは5機になっていた。そして、目の前の男は超能力者で、これは現実だと、認識した。
「嘘だろ」
「星子も超能力を持っているが、ここでは出すことが出来ない。ワケありの能力だからな」
斑木コペルは、本当に内気な少年である。だが、心の中では自分の存在を知っている。未知なるパワーを内包した自分を、コペルは知っていて、誰にも話せないでいた。龍一が羨ましかった。こんなにも輝ける瞳を持って、自身を持って自分を証明できる人物。コペルは、大きな憧れを持った。
「コペルくん。君が必要なんだ。君の本当の力が、俺たちには必要なんだ」
コペルは風向きが変わるのを感じた。人生の風向き。歩む方向がただの人生に終わらない、現実を見る度にそう実感出来た。
ふと、昨夜の夢を思い出した。何も出来ない自分の夢だった。1歩を踏み出せない自分が何も変えられないので、同じ夢を毎日見ているのだと思った。ずっとそうだった。自分には何も出来ずに、過ぎていった出来事など山のようにあった。初めて現れた、自分を必要としてくれる人物。今この瞬間とは、コペルにとって、初めて自分から1歩を踏み出した、その瞬間だった。
「俺は……この部活で何をすればいいんだ」
龍一と星子は顔を見合せた。
「今日、丁度いいんじゃない?」
星子の提案は
「かもな」
採用される。そう、この物語は、コペルの物語はここから動き始めるのだ。
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