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最終章
【第四話】それぞれ
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数十分後。
無事に城への侵入を果たした焔は今、背中に五朗を背負いながら城内を走っている。
彼の能力のおかげで二人と一冊は真正面からの侵入を果たした。竜でも通れそうなくらい巨大な扉を焔が無理矢理こじ開け、正々堂々と城内に入って行く。どうやら魔族達が日常的に利用している箇所なおかげか、罠などは一切無さそうだ。
大きなホールをさっさと通過し、奥へと進む。城の通路はどこも天井が高く、横幅も広くてとても薄暗い。灯りは蝋燭の灯る燭台が置かれていたりランタンが壁からぶら下がっているくらいだったが、通路の交差する地点には天井からは巨大でオシャレなシャンデリアが飾ってあった。血の様に赤い絨毯が敷かれた足元はとても走りやすく、焔の進行を早めてくれる。
魔物達の保養施設と思われる場所がやたらと多く、街が丸ごと城内に存在しているに近い。生活をする者には退屈なく過ごせて快適だろうが、この広さは攻略する側としては厄介な点となりそうだ。
たまに立ち止まり、周囲を確認しながら黙々と焔が走る。あちこちに眠っていると思われる魔物達が多数倒れており、死屍累々といった感じだ。これでも城内は手薄な状態であるとは俄かに信じ難いが、今残っているのが非戦闘部員達ばかりなのだとしたら納得がいく。
ソフィアは不満そうな雰囲気のまま黙って二人の後を追尾しているが、目の無い彼からは送られるはずのない冷たい視線がグサグサと五朗の後頭部へ突き刺さっていた。
「すみません…… 主人さん」
珍しく、五朗が言葉少なに詫びを言う。
「構わん。お前にはかなり無理をさせているからな。そもそも人間がこんな時間までずっと、殆ど休み無く行動している事自体に無理があるんだ。このままでも眠れそうなら、いっそ俺の背中で寝ていても構わんぞ」
「恐縮っす」
両手で顔面を覆い、五朗がすまなそうに項垂れる。大の大人が子供の様におんぶされているせいで、かなり恥ずかしそうだ。
どうやら五朗は、侵入前の下準備で魔力を使い過ぎてしまったらしい。此処まで長時間かけた移動のせいで溜まった疲労も重なり、体力と魔力の上限値もかなり減っている。どちらも全回復出来る薬を持って来てはいるのだが、道中でガバガバ飲んでしまったせいでお腹の中がタプタプになっていてコレ以上は一滴だって飲みたくない。『だからぁ、ゲーム世界なんだから変に現実的な仕様にするなって!』と五朗は焔に背負われながら、揺れるたびに吐き気に見舞われつつ、何度も何度も思った。
「せめて朝までどこかで休めたら良かったんだがな」
「古い水路とかから侵入出来たんだったら可能でしたけどね。今は煙の効果が切れる前に、少しでも進んだ方がいいっすよ」
煙に混ぜている睡眠や麻痺などの効果は永続的ではなく、敵の耐性値次第で切れる時間がまちまちだ。レベルの高い者程早く動ける様になるだろう事を考えると、少しでも早く魔王の元に辿り着いてしまいたい。なので今はしばらく歩けそうに無い五朗背負って、焔が走る事になった。もしリアンがいたら…… とは、二人と一冊は揃って考えないようにしながら。
『ところで主人…… 』
珍しく不安そうな声でソフィアが焔を呼ぶ。
「どうした?」
『まさか今は、闇雲に走っている訳ではない…… ですよね?』
ソフィアの指摘を聞き、五朗もハッと目を見開いた。ありえる!と叫びたい顔だ。普段なら真っ先に五朗が思い至りそうな所だが、体力もスタミナも切れているせいか頭が回っていない。
「そうだが?——と、普段の俺なら言うだろうが、今回は違うから安心しろ」
『では、匂いを辿っているとか、ですか?』
「いいや。知らん奴の匂いは流石に追えん」
「そりゃ当然っすよね」
「——おっと、丁度あったな」と言い、通路が交差する地点で焔が立ち止まる。そして顎で壁の方を指すと、「アレを頼りに進んでいるんだ」と説明した。
「アレ?」
『ん?』
あれってどれよ?と不思議そうに五朗とソフィアが焔の指示した方を向く。するとそこには、ご丁寧にも城内の案内図が壁に飾ってあるではないか。
「テーマパークかよ!」
間髪入れず、五朗がつっこむ。凝っていてとても可愛らしいデザインをした城内案内図は、ネズミが支配する巨大なテーマパークを連想させる物だった。
『…… 広い場所に住んでいる身としては、確かにありがたい仕様ですね』
そう言うソフィアも何とも複雑そうな声をしている。
「勇者っぽい者達が来るなんて、全く想定していないエリアなんでしょうねぇ」
「しかもそいつらは誕生したとほぼ同時に撃退されているんだったよな。それなら城へ来るとは思っていないのも納得だ。——次はあっちの通路だな」と、また即座に判断して焔が走り出した。
『ところで、主人は何処へ向かっているのでしょうか?』
「そりゃ当然、“王座の間”だ。いかにも魔王が居そうな名前の場所が、そのくらいだったからな」
◇
「…… あらヤダ、ワタシったらいつの間にか眠ってたのね」
のっそりとした動きで、ナーガが眠気まなこを軽く擦る。起きたはいいがまだひどく眠いままだし、体調が何だかおかしい。体力が減っているのが嫌でもわかり、彼は慌てて自身のステータスを確認した。
「——ちょっ、何よコレ!」と叫び、宙に浮かぶ半透明はパネルを凝視しながらナーガが叫ぶ。体力が半分以下になっていて、しかも今も継続して毒の効果が残ったままだ。
「まさか…… さっきの果物がいけなかったのかしら」
眠る前に怪しい果実を食べた事を思い出し、即座に納得した。城を攻められる経験が無いせいで、『もしかしたら敵襲かも』という発想が全く出てこない。そのせいで、『あまり変な物は食べるべきじゃないわねぇ』と思いながらのっそりと蛇の姿をした半身を器用に動かし、彼はキーラに治癒でもしてもらおうと考え、自室を出て廊下に向かった。
「——なっ…… 何よコレは!」
同じ言葉を二度も短時間で口にしてしまった。
驚きが顔全体に現れていて、震える手を口元に当てる。周囲を見渡すと、広い廊下のあちこちに部下達が倒れているではないか。
「ちょっと、アンタ起きなさい!大丈夫なの?」
一番近くで倒れていたゴブリンの護衛兵の肩を揺すり、起こそうと試みる。だが彼は深い深い眠りについていて目覚めそうに無い。そのうえ麻痺や毒にまで侵されていて、このままでは死んでしまいそうだ。
「…… マズイわね。ってか、ホント何が起きてるのよぉ!」
ナーガは慌てて、一番城内の状況を把握していそうなキーラを呼び出した。だが彼も倒れているのか全く反応が返って来ない。仕方なく遠征中のケイトを呼び出したが、そちらからも返答は無かった。
「ったく!役立たずねぇ二人とも!」
キレ気味になりつつそう言うと、ナーガはキーラの自室へ体を這わせて行った。
「ちょっとぉ!キーラァァ!居るんでしょ?居るなら返事しなさい!」
大声でそう言いながら、キーラの自室の扉をバンッと強引に開く。
ズルズルと遠慮無しにナーガが室内に入って行くと、ふわふわと愛らしくコーディネートされた室内の端にあるベッドの上で羊型の獣人であるキーラが布団も掛けずに倒れていた。
「ヤダ…… この子までやられてるじゃない」
側に寄り添い、「キーラ?」と声を掛けながら体を揺する。すると彼はパチッと目を開いたが、話せる様な状態では無かった。ナーガと同じく毒にも侵されているだけじゃなく、麻痺になっていて喋れないみたいだ。
「そういえばアンタ、睡眠効果には耐性あったわよね…… 」
自分は麻痺に耐性があり、かからない。確かケイトは毒耐性があるが、自分達にはその耐性が無いので今の状態に納得が出来た。
「…… アレ?これってまさか、敵襲なんじゃないの?」
今更ハッと気が付いた顔をしたナーガに対し、キーラが怒りに満ちた視線を投げかける。どう見ても『気が付くの遅い!』と訴えていて、「悪かったわねぇ。まさか魔王ちゃんも居ない原状で、本拠地への敵襲なんか想定しているワケがないじゃないのよ」と返す顔は、珍しくちょっと気不味そうだ。
「と、とにかく、アンタの麻痺を治さないとね。毒もどうにかしないといけないけど、あー…… ワタシ薬なんか持ち歩いてないわ。キーラの部屋には何かあったりする?」
ナーガの問いに対し、渋い顔だけをしてキーラが答える。
「無い…… のねぇ。まぁそうか、そうよねぇ」と言い、ナーガがため息をつく。普段全然必要の無い物をわざわざ自室に置いておくなんてあるはずが無いので、『何で無いの』とは責められなかった。
「仕方ないわね。確か魔王ちゃんの為にもって、“王座の間”には置いてあるはずだから、そっちまでアンタを運ぶわ。医務室よりも近いし、そっちの方がいいでしょ。さて、ワタシも毒状態が治って無いから急ぐわよ」
「にしても、誰なのよぉ。“勇者”はケイトが始末してきたはずでしょう?それなら敵なんか来ないだろうに、何で今攻められてんのよぉ!」
小柄で軽いキーラを腕に抱えながら、ナーガがズルズルと廊下を這って行く。毒のせいで体力が激減しており、ちょっと動きも鈍い。好奇心から食べてしまった果実のせいでは無かった事に安堵はしつつも、予想よりももっと状況は悪かった事は全く喜べない。
「しかも魔王ちゃんは居ないままなのよ?此処へ来ても無駄なのに、どうしてこのタイミングで来る気になったっていうのよ」
キーキーと怒りながらナーガ達が先へ進む。
焔達と鉢合わせるまで、もうあと少しだ。
無事に城への侵入を果たした焔は今、背中に五朗を背負いながら城内を走っている。
彼の能力のおかげで二人と一冊は真正面からの侵入を果たした。竜でも通れそうなくらい巨大な扉を焔が無理矢理こじ開け、正々堂々と城内に入って行く。どうやら魔族達が日常的に利用している箇所なおかげか、罠などは一切無さそうだ。
大きなホールをさっさと通過し、奥へと進む。城の通路はどこも天井が高く、横幅も広くてとても薄暗い。灯りは蝋燭の灯る燭台が置かれていたりランタンが壁からぶら下がっているくらいだったが、通路の交差する地点には天井からは巨大でオシャレなシャンデリアが飾ってあった。血の様に赤い絨毯が敷かれた足元はとても走りやすく、焔の進行を早めてくれる。
魔物達の保養施設と思われる場所がやたらと多く、街が丸ごと城内に存在しているに近い。生活をする者には退屈なく過ごせて快適だろうが、この広さは攻略する側としては厄介な点となりそうだ。
たまに立ち止まり、周囲を確認しながら黙々と焔が走る。あちこちに眠っていると思われる魔物達が多数倒れており、死屍累々といった感じだ。これでも城内は手薄な状態であるとは俄かに信じ難いが、今残っているのが非戦闘部員達ばかりなのだとしたら納得がいく。
ソフィアは不満そうな雰囲気のまま黙って二人の後を追尾しているが、目の無い彼からは送られるはずのない冷たい視線がグサグサと五朗の後頭部へ突き刺さっていた。
「すみません…… 主人さん」
珍しく、五朗が言葉少なに詫びを言う。
「構わん。お前にはかなり無理をさせているからな。そもそも人間がこんな時間までずっと、殆ど休み無く行動している事自体に無理があるんだ。このままでも眠れそうなら、いっそ俺の背中で寝ていても構わんぞ」
「恐縮っす」
両手で顔面を覆い、五朗がすまなそうに項垂れる。大の大人が子供の様におんぶされているせいで、かなり恥ずかしそうだ。
どうやら五朗は、侵入前の下準備で魔力を使い過ぎてしまったらしい。此処まで長時間かけた移動のせいで溜まった疲労も重なり、体力と魔力の上限値もかなり減っている。どちらも全回復出来る薬を持って来てはいるのだが、道中でガバガバ飲んでしまったせいでお腹の中がタプタプになっていてコレ以上は一滴だって飲みたくない。『だからぁ、ゲーム世界なんだから変に現実的な仕様にするなって!』と五朗は焔に背負われながら、揺れるたびに吐き気に見舞われつつ、何度も何度も思った。
「せめて朝までどこかで休めたら良かったんだがな」
「古い水路とかから侵入出来たんだったら可能でしたけどね。今は煙の効果が切れる前に、少しでも進んだ方がいいっすよ」
煙に混ぜている睡眠や麻痺などの効果は永続的ではなく、敵の耐性値次第で切れる時間がまちまちだ。レベルの高い者程早く動ける様になるだろう事を考えると、少しでも早く魔王の元に辿り着いてしまいたい。なので今はしばらく歩けそうに無い五朗背負って、焔が走る事になった。もしリアンがいたら…… とは、二人と一冊は揃って考えないようにしながら。
『ところで主人…… 』
珍しく不安そうな声でソフィアが焔を呼ぶ。
「どうした?」
『まさか今は、闇雲に走っている訳ではない…… ですよね?』
ソフィアの指摘を聞き、五朗もハッと目を見開いた。ありえる!と叫びたい顔だ。普段なら真っ先に五朗が思い至りそうな所だが、体力もスタミナも切れているせいか頭が回っていない。
「そうだが?——と、普段の俺なら言うだろうが、今回は違うから安心しろ」
『では、匂いを辿っているとか、ですか?』
「いいや。知らん奴の匂いは流石に追えん」
「そりゃ当然っすよね」
「——おっと、丁度あったな」と言い、通路が交差する地点で焔が立ち止まる。そして顎で壁の方を指すと、「アレを頼りに進んでいるんだ」と説明した。
「アレ?」
『ん?』
あれってどれよ?と不思議そうに五朗とソフィアが焔の指示した方を向く。するとそこには、ご丁寧にも城内の案内図が壁に飾ってあるではないか。
「テーマパークかよ!」
間髪入れず、五朗がつっこむ。凝っていてとても可愛らしいデザインをした城内案内図は、ネズミが支配する巨大なテーマパークを連想させる物だった。
『…… 広い場所に住んでいる身としては、確かにありがたい仕様ですね』
そう言うソフィアも何とも複雑そうな声をしている。
「勇者っぽい者達が来るなんて、全く想定していないエリアなんでしょうねぇ」
「しかもそいつらは誕生したとほぼ同時に撃退されているんだったよな。それなら城へ来るとは思っていないのも納得だ。——次はあっちの通路だな」と、また即座に判断して焔が走り出した。
『ところで、主人は何処へ向かっているのでしょうか?』
「そりゃ当然、“王座の間”だ。いかにも魔王が居そうな名前の場所が、そのくらいだったからな」
◇
「…… あらヤダ、ワタシったらいつの間にか眠ってたのね」
のっそりとした動きで、ナーガが眠気まなこを軽く擦る。起きたはいいがまだひどく眠いままだし、体調が何だかおかしい。体力が減っているのが嫌でもわかり、彼は慌てて自身のステータスを確認した。
「——ちょっ、何よコレ!」と叫び、宙に浮かぶ半透明はパネルを凝視しながらナーガが叫ぶ。体力が半分以下になっていて、しかも今も継続して毒の効果が残ったままだ。
「まさか…… さっきの果物がいけなかったのかしら」
眠る前に怪しい果実を食べた事を思い出し、即座に納得した。城を攻められる経験が無いせいで、『もしかしたら敵襲かも』という発想が全く出てこない。そのせいで、『あまり変な物は食べるべきじゃないわねぇ』と思いながらのっそりと蛇の姿をした半身を器用に動かし、彼はキーラに治癒でもしてもらおうと考え、自室を出て廊下に向かった。
「——なっ…… 何よコレは!」
同じ言葉を二度も短時間で口にしてしまった。
驚きが顔全体に現れていて、震える手を口元に当てる。周囲を見渡すと、広い廊下のあちこちに部下達が倒れているではないか。
「ちょっと、アンタ起きなさい!大丈夫なの?」
一番近くで倒れていたゴブリンの護衛兵の肩を揺すり、起こそうと試みる。だが彼は深い深い眠りについていて目覚めそうに無い。そのうえ麻痺や毒にまで侵されていて、このままでは死んでしまいそうだ。
「…… マズイわね。ってか、ホント何が起きてるのよぉ!」
ナーガは慌てて、一番城内の状況を把握していそうなキーラを呼び出した。だが彼も倒れているのか全く反応が返って来ない。仕方なく遠征中のケイトを呼び出したが、そちらからも返答は無かった。
「ったく!役立たずねぇ二人とも!」
キレ気味になりつつそう言うと、ナーガはキーラの自室へ体を這わせて行った。
「ちょっとぉ!キーラァァ!居るんでしょ?居るなら返事しなさい!」
大声でそう言いながら、キーラの自室の扉をバンッと強引に開く。
ズルズルと遠慮無しにナーガが室内に入って行くと、ふわふわと愛らしくコーディネートされた室内の端にあるベッドの上で羊型の獣人であるキーラが布団も掛けずに倒れていた。
「ヤダ…… この子までやられてるじゃない」
側に寄り添い、「キーラ?」と声を掛けながら体を揺する。すると彼はパチッと目を開いたが、話せる様な状態では無かった。ナーガと同じく毒にも侵されているだけじゃなく、麻痺になっていて喋れないみたいだ。
「そういえばアンタ、睡眠効果には耐性あったわよね…… 」
自分は麻痺に耐性があり、かからない。確かケイトは毒耐性があるが、自分達にはその耐性が無いので今の状態に納得が出来た。
「…… アレ?これってまさか、敵襲なんじゃないの?」
今更ハッと気が付いた顔をしたナーガに対し、キーラが怒りに満ちた視線を投げかける。どう見ても『気が付くの遅い!』と訴えていて、「悪かったわねぇ。まさか魔王ちゃんも居ない原状で、本拠地への敵襲なんか想定しているワケがないじゃないのよ」と返す顔は、珍しくちょっと気不味そうだ。
「と、とにかく、アンタの麻痺を治さないとね。毒もどうにかしないといけないけど、あー…… ワタシ薬なんか持ち歩いてないわ。キーラの部屋には何かあったりする?」
ナーガの問いに対し、渋い顔だけをしてキーラが答える。
「無い…… のねぇ。まぁそうか、そうよねぇ」と言い、ナーガがため息をつく。普段全然必要の無い物をわざわざ自室に置いておくなんてあるはずが無いので、『何で無いの』とは責められなかった。
「仕方ないわね。確か魔王ちゃんの為にもって、“王座の間”には置いてあるはずだから、そっちまでアンタを運ぶわ。医務室よりも近いし、そっちの方がいいでしょ。さて、ワタシも毒状態が治って無いから急ぐわよ」
「にしても、誰なのよぉ。“勇者”はケイトが始末してきたはずでしょう?それなら敵なんか来ないだろうに、何で今攻められてんのよぉ!」
小柄で軽いキーラを腕に抱えながら、ナーガがズルズルと廊下を這って行く。毒のせいで体力が激減しており、ちょっと動きも鈍い。好奇心から食べてしまった果実のせいでは無かった事に安堵はしつつも、予想よりももっと状況は悪かった事は全く喜べない。
「しかも魔王ちゃんは居ないままなのよ?此処へ来ても無駄なのに、どうしてこのタイミングで来る気になったっていうのよ」
キーキーと怒りながらナーガ達が先へ進む。
焔達と鉢合わせるまで、もうあと少しだ。
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