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【イベントストーリー】
ホワイトデー
しおりを挟む——これは、焔がオウガノミコトの手によって異世界へ放り出された日から、数ヶ月程先のちょっと特別な日のお話。
◇
「おはようございます、ソフィアさん」
『おはようございます、リアン様』
着替えなどといった朝の用意を済ませたリアンが、拠点内の掃除をしているソフィアに声を掛けた。
ふんわりと浮く彼の前で箒が勝手に動き、床のゴミを集めていく。中途半端に現実的な創りのせい棚や床などが汚れてしまうので、掃除はどうしたって必要なのだ。
「…… 主人は何処へ?」
普段ならば一階のテーブルでお茶を飲んでいる時間なのに、二人の主人である焔が居ない。五朗も不在である分には全く気にならないが、焔がとなるとリアンにとって話は別だ。他の部屋に居るような気配も無い事を不思議に思っていると、ソフィアが『お出掛けになりましたよ』と言った。
「出掛ける?主人が、お一人でですか?」
そんな事は今まで一度も無かった事なので、リアンは驚きを隠せない。ソフィアを残して行く以上、そう極端に遠くではないはずだが、一人で一体どうしたというのだろうか。
主人である焔よりも遅くまで寝ていたくせに、起こしてでも誘ってくれなかった事も面白くなかった。
「主人は、『来るな』とか『一人にしてくれ』とは言っていましたか?」
『いいえ。そういう事は一切。ただ「少し出かけてくるから、此処の事は頼む」と言っていましたので、お供は致しませんでした』
「そうなんですか。では、私はちょっと主人を探してきますね。何か問題があれば、解決へのお手伝いも出来るでしょうし」
ニコッと笑い、リアンは早々に用意を整えると、“隠れ身の仮面”を装備して拠点から駆け出して行った。
◇
一方その頃、同時刻の森の中では——
仕留めた敵から爪を引き抜き、焔が腕を軽く振って血を払う。普段腰から下げている短剣を手に持って残骸に突き立てて剥ぎ取り、ドロップアイテムを回収すると、「——コイツも違った、か」と残念そうに呟いた。
「あーくそっ。こんなに手間なら、ソフィアも連れて来るべきだったな」
陽が登ってすぐくらいの時間から今まで相当数の敵を彼は狩り続けてはいるのだが、目的の品が一向に手に入らない。具体的に“何が”欲しいというのがあるワケではないのだが、とにかく何でもいいから“貴重品っぽい物”が焔は欲しかった。
今日という日に相応しい、何かが。
レア素材がドロップした時は敵の残骸がちょっといつもと違う光を放つ。それだけを頼りに、ソフィアが居ないせいでどんなアイテムを回収出来ているのかもわからぬまま、焔は素材集めをしている。だが当然その様な状態では終わりが見えず、数打ちゃ当たるみたいに目に付いた魔族達を次々に仕留めていた。
「さて、次は…… 」
くんっと匂いを嗅ぎ、森の中に居る魔族の気配を探す。
この様に、一人で積極的に狩りをするのはこの世界へ焔が投げられてからは初めての事かもしれない。目的があっての事ではあるが…… 敵のレベルが低過ぎて手応えが無く、終わりが見えないせいもあってか、正直ちょっと飽きてきた。
「次は二キロも先なのか?随分と敵の配置が分散されているな」
はぁと溜息を吐き、首を後ろを無造作に撫る。
気分的にはもう帰ってしまいたいくらいなのだが、やると決めた事を簡単に放り出すのは後味が悪い。上手くいくかは何ともいえない状況ではあるが、やらないで諦めるよりはやる方がマシだろうと自分へ言い聞かせ、スッと背筋を正した。
「やるか」と呟き、次の瞬間焔は、地面を蹴って獲物に向かい一直線に走り出したのだった。
◇
「——主人ー!」
マップで大雑把に焔の現在地を確認したリアンが、仮面で姿を消しつつ、主人である焔を探す。ノトスの森の中に気配を感じつつも、『この辺だなと』確認した位置からはすぐに焔が移動してしまっていてなかなか追いつけない。
「…… 此処でもないのか」
戦闘があった痕跡はもう無く、ただ焔の匂いだけが微かに残っている。犬の様に匂いを追って探す器用な真似は出来ないが、召喚士と召喚魔の繋がりだけを頼りにリアンは焔を引き続き探し続けた。
森を歩き、動物や魔族は早めに察知して倒す事はせずに避けて行く。
一度も戦闘にならないまま追っていると、三十分程度経過した辺りで、丁度戦闘中だった焔を見付ける事が出来た。
音も無く、無駄な動きを微塵もせずに一撃で魔物を仕留めている。仲間を殺される気分の悪さも吹っ飛ぶ美麗な動きを前にして、リアンはただうっとりとした顔で立ち尽くし、一切の加勢も出来なかった。
「ん?…… あぁ、来たのか」
リアンの気配に気が付き、焔が動きを止める。
足元に転がるゴブリンの痛ましい姿に心を痛めつつリアンが焔の側まで近づくと、「魔族狩り…… ですか?」と声を掛けた。
「あぁ。別に魔族じゃ無くても良かったんだが、これが一番手っ取り早いと思ってな」
ガシガシと後頭部をかきむしり、焔が気不味そうな顔をする。『出来れば今日は来て欲しくはなかったな』と思っているが、自分の召喚魔である彼には少し言い難い様だ。そもそも召喚士と召喚魔が離れて行動出来る時点で通常とは違うのだが、その点に焔は気付いていない。
「何かお探しでしたか?欲しい物がある、とか」
リアンが首を傾げると、渋々といった顔で、短く「あぁ、そうだ」と焔が答えた。
「丁度良い、コイツの剥ぎ取りを頼めるか?」
「…… 了解しました」
作り笑顔を狐の仮面の下に隠して、リアンがゴブリンの遺体の側にしゃがむ。豪奢な装飾品の多いその遺体はどうやら特殊個体だった様で、綺麗な輝きを仄かに放っていた。
「随分とレアリティーの高い子を退治したのですね」
「そうなのか?…… あぁ、どうやらその様だな」
今までの個体とは違う輝き方をしている事に今更気が付き、『やっと出たか』と心の中で呟いた。
自動的に発動する固有スキル“激運”の効果が『今更発動したのか?』と思ったが、よくよく考えてみると、今だから発動したのかもしれないと、焔は考えを改めた。
「何が手に入ったか見てみてもらえるか?」
「はい。えっとですね…… おや、マジックアイテムの“青薔薇の宝石”が手に入ったみたいですよ」
ステータス画面を開き、荷物一覧を開いたリアンが、驚いた顔をした。
このアイテムは今装備している“隠れ身の仮面”以上にレア度の高い一品で、店に売れば相当な額になる代物だ。魔力の最大値を四十パーセントもアップさせるという、魔法使い系の職業ならばいつかは必ず欲しいと思う程のアイテムでもあり、この宝石を使って造る装備品は魔王戦に挑むのなら是非とも手に入れておきたい物でもあった。
「青いのか、それはいいな。済まないが、一度こちらへ渡してもらえるか?」と言い、リアンの瞳の色合いの同系色である事を焔が喜んだ。
「もちろんです」
そう答え、荷物の中から“青薔薇の宝石”を取り出す。
加工前な為装飾の一切されてない原石の状態なのだが、名前の通りに薔薇のような形をしていてとても綺麗だ。微かな光まで放つそれは日光が当たるとステンドグラスにも似た透明感のある美しさすら滲ませている。
「綺麗だな…… 」
宝石を受け取り、手に持った焔が嬉しそうな声で呟いた。
「とってもお似合いですよ、焔様」
ニコッと微笑み、嬉しそうな笑みを浮かべる焔の姿を瞳の奥へと焼き付ける。美しい物が本当に好きなのだなと思うと、もっと色々な物を集めてあげたい気持ちが頭をもたげてしまう。自分の城にある宝物庫の中から色々勝手に持ち出したいくらいな思いまで感じたが、『数が合わない!』と管理者へキーラ達からお咎めがあっては可哀想なので、それはすぐに諦めた。
「プレゼントだ、リアン。コレはお前が好きに使ってくれ」
そう言って、焔がリアンの前に“青薔薇の宝石”を差し出す。
目隠しで全ては見えずともその顔はとても誇らし気で、ちょっと幼い雰囲気を持っていた。
「…… 私に、ですか?でも、こんな高価な物を私が貰うわけには…… 」
対魔王戦には是非!な装備を造るのにも使える宝石を、魔王である自分がもらうのは筋違いもいいところだ。どちらにせよ真っ当な使い方をしないのならば、綺麗な物が好きな焔が所有していた方が断然良いに決まっている。
「でも今日は、ホワイトデーとかって日なんだろう?」
キョトンとした様子でリアンの顔を見上げ、焔が軽く首を傾げた。
「ホワイトデーには、バレンタインデーのお返しをするものだとソフィアが言っていたぞ。クリスマスみたいな巨大戦闘戦がまたもや無いのは非常に残念だが、まぁ平和的ない祭りの方が喜ぶ者も多いのだろうな」
「ホワイトデー…… の、プレゼント…… ——焔様がっ、私に、プレゼントッ!」
今にも泣き出しそうな顔で、リアンが口元と肩をプルプルと震わせている。仮面を装備している事で連動してお尻から生えている黒い狐っぽい尻尾はブンブンと犬の様に勝手に動き、喜びを体現していた。
「嬉しいのか?」
「もちろんです!一生大事に致します!」
リアンが両手を差し出し、焔から宝石を受け取る。そしてしばらくの間、ただじっとプレゼントを見続けていたが、和やかな笑みを一度浮かべたのち、“青薔薇の宝石”を自らの胸へと押し付け始めた。
その行動により、着ている村人1の様な真っ白いシャツから覗く鎖骨の少し下辺りにズブズブと宝石が体内へと吸い込まれていく。すっかりとその宝石がリアンの体内に吸い込まれると、彼の肌にはステンドグラスにも似たデザインの薔薇紋様が刺青の様に浮かび上がり、青い光をほんのりと放っていた。
彼の肌にそっと触れ、拳程の大きさのある紋様を指先でなぞりながら、「喰ったのか?」と焔が訊く。
「まぁ、似たような感じです。コレで私とこの宝石は完全に一体となったので、何度死のうが絶対に失くしませんし、他人に奪われる事もありません」
「金庫よりも安全というワケか」
「えぇ、そうですね」と言い、和やかに笑ったままリアンが焔の腰を抱く。
「私からも是非お返しをしたいのですが、受け取ってくれますよね?」
「おい。お返しにお返しをしたら、延々と贈りあって大変な事になるぞ?」
「その辺は問題ありません。焔様が更に贈り返したいと思う様なモノではありませんしね」
そう言って、腰を抱いていた手が下へとさがり、焔の小振りなお尻を優しく揉み始めた。
「ぎゃっ!——ま、ま、まさかお前っ」
「えぇ。そのまさかですよ、焔様」と言うが同時に、周囲へ結界を張り巡らせて、二人を邪魔する一切の者を侵入出来ぬ様に守りを固める。前に青姦に勤しんだ時同様にこの結界のみでは声だけはどうにもならないが、その辺はもうプレイの一環として楽しむ気満々だ。
「あまり遅くなると今度はソフィアさんが心配になって探し始めるかもしれません。なので、抵抗などの無駄は省き、手早く終わらせましょうね」
「お前の言う『手早く』は一回も早かった試しが無いだろうがっ」
早口ぎみにそう言いながら胸を押し、抵抗を試みるが、耳をぺろりと舐められてしまったせいですぐに手から力が抜けていく。
「大丈夫ですよ。夜にまた楽しみたいので、外ではちょっとだけにしますから」
狐仕様の状態に迫られ、耳を舐められているせいもあってか焔の全身から力が徐々に抜けていく。
もうすっかり快楽に引き込まれ始めている事が、リアンには手に取る様にわかった。
「焔様。プレゼント、本当にありがとうございます。たっぷりその身で、私からの感謝の気持ちを体感して下さいね」
瞳をハートマークにでもしていそうなくらいに蕩けた瞳を焔に向け、リアンはぎゅーっと小さな体を抱き締めた。そして木陰まで焔を運んでいくと、存分に、彼の小さな体へ感謝の気持ちを押し付け通したのであった。
【終わり】
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