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第五章
【第十一話】過去の記憶・焔④(焔・談)
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…… 瞼をゆっくりと開く。
陽の暮れていたはずの室内が明るくなっていて、また刻が飛んだのだとわかった。
竜斗からの凌辱に振り回された感覚がまだ根強く残る体を無理に起こすと、今度は手にぬるっとした感触があった。生温かくって、嗅ぎ憶えのある独特な匂いが鼻腔を擽ぐる。
何だったろうか?この匂いは。
不思議に思いながら手に視線を落とすと、赤黒いモノがベッタリとついていた。
「…… 」
声が出ず、恐る恐る顔を上げる。
すると目の前に、今さっきまで抱き合っていたはずの竜斗が、無惨な姿で転がっていた。全身が血塗れで、黒くて美しい長髪が水面に浮かぶ様に畳の上で広がり、淡い色合いの上品柄の着物は真っ赤に染まっている。見開かれた目の焦点は何処にも合っておらず、もうその瞳には何も映っていない。白い狐耳には鋭い歯で食い千切った痕跡があり、腕や脚にまでその形跡が残っていた。
襖や畳だけではなく、天井にまで大量の血が飛散し、ボタボタと上から垂れ落ちてきて、俺の体をも真っ赤に染め上げていく。
「——ッ!」
一体全体何が起きたのか。訳が分からず、叫び声すら出ない。
だけどこの光景は知っている。今までに何度も見てきた光景だ。この部屋の惨事だけは、何をしても、忘れたくても忘れきれず、意味を理解出来ぬまま何度も夢に出てきた。特に、オウガノミコトの手によって異世界へ飛ばされてからは、何度も何度も何度も白昼夢かの如く目の前に広がっては消えてを繰り返していたが…… そうか——
やっぱりコレは、俺が…… やったのか。
全てが腑に落ちて、顔面が蒼白になるのが鏡で見なくてもわかる。
最も愛おしい者を手に掛けた事実が心に重くのしかかり、上手く呼吸も出来ず、今にも気が狂いそうだ。
「りゅう、と…… 」
ボソッと呟き、この手で惨殺してしまった体に手を伸ばす。
そっと触れるとまだ温かく、それならばせめて、この体を残らず喰わねばならないと思う衝動が腹の奥から湧き上がってきて止まらない。爪で切り裂いた肌に優しく触れ、むき出しになった筋肉をそっと撫で、血がこぽこぽと血管から溢れ出し続けたままになっている箇所に口を近づけた。さっきまであんなに激しく動いていたあの体が、もう二度と稼働しないのだと思うと、この刹那がひどく愛おしく感じられる。
——だが、何故死んだ?何故俺は、竜斗を殺した?
肝心な記憶が欠落している。多分、きっかけとなった瞬間、動揺し過ぎて本当に全く全然覚えておらず、記憶として自分から呼び起こす事すら出来ないのだろう。だが、余程の事がなければこんな事はしない。己が鬼だろうが、それだけは断言出来る。
折角記憶を取り戻し、竜斗という存在をも取り返したはずだったのに、これでは無意味じゃないか。
返してくれ、竜斗を。
返せ、アレは俺のモノだ。
見開かれた瞳からボロボロと涙が溢れて止まらない。でもその涙は綺麗な色なんかしていなくって、全てが全て血の様に真っ赤なものだった。あの日の母の様に、今生の別れを受け止めきれず、心と体が悲鳴をあげている。自分で竜斗の命を奪い、未来との繋がりを断ち切っておきながら、よくまぁ図々しくこんな涙を流せるものだ。
ぐちゃりと音をたてながら竜斗の体を口に含む。体温の残る肉に牙を立てて食み、血を啜り、それらを全て腹の中へと飲み下していく。すると遠くから足音が鳴り始め、段々と近づいて来て、ついには背後から大きな音が聞こえた気がしたが、俺は構わず食らい続けた。
「——りゅ、竜斗ぉぉぉぉ!」
よく聴き知った声が突如響いたが、食うのを止める事が出来ない。
こうでもせねば永遠に竜斗を失ってしまうという強迫観念に縛られてしまう。血生臭いのに不思議と甘く、喉の中を通る瞬間は脳髄が蕩けそうな程の心地よさがある。まぐわいとはまた違う一体感が心を満たし、コレで良かったのだと、何かが耳元で囁いている気さえしてきた。
だが、竜斗の名を呼んだ男が腕を勢いよく振りかざし、俺の体を横殴りにして彼の体から引き剥がしていく。体が部屋の壁へと激しくぶつかり、その勢いで口の中にあった竜斗の血を吐き出してしまった。
取り戻さねば!
咄嗟にそう感じ、体勢を立て直して再び竜斗の元へと手を伸ばす。額には札が貼られてはおらず、赤い瞳は炎の様に光を帯び、爪や牙が伸びて己の感情の制御が効かなかった。
「全ての“帯”よ!紅焔を拘束しろ!目を最優先に隠せ!絶対にあの瞳を見るな!」
怒髪天をつくを体現するかのような状態にある白狐がそう声を張り上げると、閉まっていた襖がひとりでに開き、その奥から大量の着物の帯が俺へと向かって伸びてきた。四方八方からその帯が全身に巻き付き、俺の顔を全て覆い、視界どころか呼吸もままならない。
だが、そうなってやっと、俺は少しだけ落ち着きを取り戻せた。
——違う、コレはただの記憶だ。
過去の幻想でしかない。『焦るな、記憶に呑まれるな』と、何度も自分へ言い聞かせる。
「…… 父、うえ?」
「喋るな!今助けてやるからな」
竜斗の声が微かに聞こえた。
…… 生きていたの、か?あの状態で?さすが半人半神とはいえども神属の端くれだ。竜斗の生命力の強さに対し、冷静に感心してしまう。それと同時に、あの時そうだとは気が付けなかった自分の不甲斐なさに煩悶した。
「——し、知らない鬼が…… 急に、目の前に、居て…… 」
「…… は?」
白狐の驚く声と、俺の気持ちが完全に重なった。
アレだけ俺に執着し、求めて追い立て、何度も昇りつめ合ったのに、『知らない鬼』とはどういう了見だ。己の中には存在しなかったはずの殺意が瞬時に湧き、この帯を解けと暴れてしまう。
「『君は…… 誰?』って…… 訊いたら、急に…… 」
「待て、待て…… 何を、言っているんだい?紅焔はお前の…… 」
彼が俺の気持ちを代弁するみたいな言葉を紡ぐ。そうだ、それが知りたいんだ。
感謝で胸がいっぱいになり、身動ぐ事を止めて即座に黙る。
「だけど、だけど…… あの瞳を見ていたら、逃げちゃ、駄目だなって…… あの子、動きに、迷いがあったから…… 逃げられたの、に…… ゴフッ!」
血を吐き出し竜斗が咳き込む。
話すという行為は、今の彼の死期を早める行為に近い様だ。
「もう喋るな、治ったら聞いてやるから」と、白狐は優しく言い聞かせようとするが、竜斗は話す事を止めようとしない。これだけは最後に父へ言わなければいけないという、使命感すら感じられる。
「…… 貴方が泣き止むのなら、自分は…… 消えてもいいかなって…… 思え、てきて……父、上。ごめん、なさい…… 」
涙が止まらない。
何重にも帯で顔を覆われていようとも、次々と染み込んでは消えていく。あの時の竜斗は、こんは言の葉を残していたのかと思うと、より一層深く彼の愛情を感じた。
「謝るな。わかった、わかったからもう、喋らないでくれないか」
「あの子…… は、悪くないから、罰したりは…… し——」
言葉が途切れ、竜斗が何も言わなくなった。
その代わり、白狐の嗚咽が聞こえてくる。胸を苦しめ、締め付け、俺を激しく責め立てる音だ。
ごめんなさい、ごめんなさいごめん——
子供みたいに心の中で叫び、同じ言葉を繰り返す。
取り返しのつかない失敗をし、父へ向かって必死に謝るみたいに、何度も、何度も、何度も。
あぁ、そうか、この白狐は、オウガノミコトだ。
今とは様子が違うせいでいつまでも気が付けずにいたが、やっとわかった。尻尾の数も違ったし、達観した様な顔をせず、愛おしげな瞳を俺にさえも与えてくれる今のオウガとは大違いで、今の今までに気が付けなかった事を申し訳なく思う。
「…… もうその体は保たない。無理だ、救えない。魂が消えてしまう前に、私の勾玉の中に、お前の魂を移そうな」
その言葉が耳に届き、オウガが常に身につけている黒曜石で作られた勾玉の首飾りを思い出した。よくあれで手遊びをし、暇さえあれば眺めていたが、そんなに大切な者が大事に閉じ込められたいたのか…… 。今更でも知る事ができ、こんな状況下のくせについつい頬が緩む。
竜斗は完全には死んでいなかった。
彼の魂は、まだ辛うじて残っている。
記憶として自分の中にはありつつも、当時は錯乱していて見付ける事が出来ずにいた事実を知れた事を嬉しくも思えた。
最愛の存在をこの手に掛けてしまったと。何らかの理由で突然竜斗が俺の事を忘れたのを許せずに、感情に任せて裂き殺してしまったのだと思い込み、絶望し、苦しみ続け、この先の百年近くを幽閉先の座敷牢の中で過ごした日々が自分の中で頭を擡げる。
あのままでは心が保たず、座敷牢の中で己の命の糸を切ろうとする寸前までいき、自分の記憶に分厚い蓋をする事で、俺はどうにかこうにか生き永らえた。
その後、ほとんど騙されたに近い形でオウガノミコトと契約を結び、新たな呼び名として“焔”という名を与えられた。それからはずっと、あれの眷属の様な、家族のような、義理の息子の様な、何とも微妙な扱いをされながら、今に至る。
色々な出来事をまるっと思い出せた事でやっと得られた安堵と共に、帯に拘束されたまま、ゆっくりと頷く。
——そして、次に俺が顔を軽く上げた瞬間、今度は目の前にリアンが立っていた。
そのせいで脳の処理が一気に追いつかなくなり、俺は燎原の火かの如く奴の胸倉に掴みかかり、「おい!今お前は何を見た⁉︎何を知った!早く答えろ」と叫んだのだった。
陽の暮れていたはずの室内が明るくなっていて、また刻が飛んだのだとわかった。
竜斗からの凌辱に振り回された感覚がまだ根強く残る体を無理に起こすと、今度は手にぬるっとした感触があった。生温かくって、嗅ぎ憶えのある独特な匂いが鼻腔を擽ぐる。
何だったろうか?この匂いは。
不思議に思いながら手に視線を落とすと、赤黒いモノがベッタリとついていた。
「…… 」
声が出ず、恐る恐る顔を上げる。
すると目の前に、今さっきまで抱き合っていたはずの竜斗が、無惨な姿で転がっていた。全身が血塗れで、黒くて美しい長髪が水面に浮かぶ様に畳の上で広がり、淡い色合いの上品柄の着物は真っ赤に染まっている。見開かれた目の焦点は何処にも合っておらず、もうその瞳には何も映っていない。白い狐耳には鋭い歯で食い千切った痕跡があり、腕や脚にまでその形跡が残っていた。
襖や畳だけではなく、天井にまで大量の血が飛散し、ボタボタと上から垂れ落ちてきて、俺の体をも真っ赤に染め上げていく。
「——ッ!」
一体全体何が起きたのか。訳が分からず、叫び声すら出ない。
だけどこの光景は知っている。今までに何度も見てきた光景だ。この部屋の惨事だけは、何をしても、忘れたくても忘れきれず、意味を理解出来ぬまま何度も夢に出てきた。特に、オウガノミコトの手によって異世界へ飛ばされてからは、何度も何度も何度も白昼夢かの如く目の前に広がっては消えてを繰り返していたが…… そうか——
やっぱりコレは、俺が…… やったのか。
全てが腑に落ちて、顔面が蒼白になるのが鏡で見なくてもわかる。
最も愛おしい者を手に掛けた事実が心に重くのしかかり、上手く呼吸も出来ず、今にも気が狂いそうだ。
「りゅう、と…… 」
ボソッと呟き、この手で惨殺してしまった体に手を伸ばす。
そっと触れるとまだ温かく、それならばせめて、この体を残らず喰わねばならないと思う衝動が腹の奥から湧き上がってきて止まらない。爪で切り裂いた肌に優しく触れ、むき出しになった筋肉をそっと撫で、血がこぽこぽと血管から溢れ出し続けたままになっている箇所に口を近づけた。さっきまであんなに激しく動いていたあの体が、もう二度と稼働しないのだと思うと、この刹那がひどく愛おしく感じられる。
——だが、何故死んだ?何故俺は、竜斗を殺した?
肝心な記憶が欠落している。多分、きっかけとなった瞬間、動揺し過ぎて本当に全く全然覚えておらず、記憶として自分から呼び起こす事すら出来ないのだろう。だが、余程の事がなければこんな事はしない。己が鬼だろうが、それだけは断言出来る。
折角記憶を取り戻し、竜斗という存在をも取り返したはずだったのに、これでは無意味じゃないか。
返してくれ、竜斗を。
返せ、アレは俺のモノだ。
見開かれた瞳からボロボロと涙が溢れて止まらない。でもその涙は綺麗な色なんかしていなくって、全てが全て血の様に真っ赤なものだった。あの日の母の様に、今生の別れを受け止めきれず、心と体が悲鳴をあげている。自分で竜斗の命を奪い、未来との繋がりを断ち切っておきながら、よくまぁ図々しくこんな涙を流せるものだ。
ぐちゃりと音をたてながら竜斗の体を口に含む。体温の残る肉に牙を立てて食み、血を啜り、それらを全て腹の中へと飲み下していく。すると遠くから足音が鳴り始め、段々と近づいて来て、ついには背後から大きな音が聞こえた気がしたが、俺は構わず食らい続けた。
「——りゅ、竜斗ぉぉぉぉ!」
よく聴き知った声が突如響いたが、食うのを止める事が出来ない。
こうでもせねば永遠に竜斗を失ってしまうという強迫観念に縛られてしまう。血生臭いのに不思議と甘く、喉の中を通る瞬間は脳髄が蕩けそうな程の心地よさがある。まぐわいとはまた違う一体感が心を満たし、コレで良かったのだと、何かが耳元で囁いている気さえしてきた。
だが、竜斗の名を呼んだ男が腕を勢いよく振りかざし、俺の体を横殴りにして彼の体から引き剥がしていく。体が部屋の壁へと激しくぶつかり、その勢いで口の中にあった竜斗の血を吐き出してしまった。
取り戻さねば!
咄嗟にそう感じ、体勢を立て直して再び竜斗の元へと手を伸ばす。額には札が貼られてはおらず、赤い瞳は炎の様に光を帯び、爪や牙が伸びて己の感情の制御が効かなかった。
「全ての“帯”よ!紅焔を拘束しろ!目を最優先に隠せ!絶対にあの瞳を見るな!」
怒髪天をつくを体現するかのような状態にある白狐がそう声を張り上げると、閉まっていた襖がひとりでに開き、その奥から大量の着物の帯が俺へと向かって伸びてきた。四方八方からその帯が全身に巻き付き、俺の顔を全て覆い、視界どころか呼吸もままならない。
だが、そうなってやっと、俺は少しだけ落ち着きを取り戻せた。
——違う、コレはただの記憶だ。
過去の幻想でしかない。『焦るな、記憶に呑まれるな』と、何度も自分へ言い聞かせる。
「…… 父、うえ?」
「喋るな!今助けてやるからな」
竜斗の声が微かに聞こえた。
…… 生きていたの、か?あの状態で?さすが半人半神とはいえども神属の端くれだ。竜斗の生命力の強さに対し、冷静に感心してしまう。それと同時に、あの時そうだとは気が付けなかった自分の不甲斐なさに煩悶した。
「——し、知らない鬼が…… 急に、目の前に、居て…… 」
「…… は?」
白狐の驚く声と、俺の気持ちが完全に重なった。
アレだけ俺に執着し、求めて追い立て、何度も昇りつめ合ったのに、『知らない鬼』とはどういう了見だ。己の中には存在しなかったはずの殺意が瞬時に湧き、この帯を解けと暴れてしまう。
「『君は…… 誰?』って…… 訊いたら、急に…… 」
「待て、待て…… 何を、言っているんだい?紅焔はお前の…… 」
彼が俺の気持ちを代弁するみたいな言葉を紡ぐ。そうだ、それが知りたいんだ。
感謝で胸がいっぱいになり、身動ぐ事を止めて即座に黙る。
「だけど、だけど…… あの瞳を見ていたら、逃げちゃ、駄目だなって…… あの子、動きに、迷いがあったから…… 逃げられたの、に…… ゴフッ!」
血を吐き出し竜斗が咳き込む。
話すという行為は、今の彼の死期を早める行為に近い様だ。
「もう喋るな、治ったら聞いてやるから」と、白狐は優しく言い聞かせようとするが、竜斗は話す事を止めようとしない。これだけは最後に父へ言わなければいけないという、使命感すら感じられる。
「…… 貴方が泣き止むのなら、自分は…… 消えてもいいかなって…… 思え、てきて……父、上。ごめん、なさい…… 」
涙が止まらない。
何重にも帯で顔を覆われていようとも、次々と染み込んでは消えていく。あの時の竜斗は、こんは言の葉を残していたのかと思うと、より一層深く彼の愛情を感じた。
「謝るな。わかった、わかったからもう、喋らないでくれないか」
「あの子…… は、悪くないから、罰したりは…… し——」
言葉が途切れ、竜斗が何も言わなくなった。
その代わり、白狐の嗚咽が聞こえてくる。胸を苦しめ、締め付け、俺を激しく責め立てる音だ。
ごめんなさい、ごめんなさいごめん——
子供みたいに心の中で叫び、同じ言葉を繰り返す。
取り返しのつかない失敗をし、父へ向かって必死に謝るみたいに、何度も、何度も、何度も。
あぁ、そうか、この白狐は、オウガノミコトだ。
今とは様子が違うせいでいつまでも気が付けずにいたが、やっとわかった。尻尾の数も違ったし、達観した様な顔をせず、愛おしげな瞳を俺にさえも与えてくれる今のオウガとは大違いで、今の今までに気が付けなかった事を申し訳なく思う。
「…… もうその体は保たない。無理だ、救えない。魂が消えてしまう前に、私の勾玉の中に、お前の魂を移そうな」
その言葉が耳に届き、オウガが常に身につけている黒曜石で作られた勾玉の首飾りを思い出した。よくあれで手遊びをし、暇さえあれば眺めていたが、そんなに大切な者が大事に閉じ込められたいたのか…… 。今更でも知る事ができ、こんな状況下のくせについつい頬が緩む。
竜斗は完全には死んでいなかった。
彼の魂は、まだ辛うじて残っている。
記憶として自分の中にはありつつも、当時は錯乱していて見付ける事が出来ずにいた事実を知れた事を嬉しくも思えた。
最愛の存在をこの手に掛けてしまったと。何らかの理由で突然竜斗が俺の事を忘れたのを許せずに、感情に任せて裂き殺してしまったのだと思い込み、絶望し、苦しみ続け、この先の百年近くを幽閉先の座敷牢の中で過ごした日々が自分の中で頭を擡げる。
あのままでは心が保たず、座敷牢の中で己の命の糸を切ろうとする寸前までいき、自分の記憶に分厚い蓋をする事で、俺はどうにかこうにか生き永らえた。
その後、ほとんど騙されたに近い形でオウガノミコトと契約を結び、新たな呼び名として“焔”という名を与えられた。それからはずっと、あれの眷属の様な、家族のような、義理の息子の様な、何とも微妙な扱いをされながら、今に至る。
色々な出来事をまるっと思い出せた事でやっと得られた安堵と共に、帯に拘束されたまま、ゆっくりと頷く。
——そして、次に俺が顔を軽く上げた瞬間、今度は目の前にリアンが立っていた。
そのせいで脳の処理が一気に追いつかなくなり、俺は燎原の火かの如く奴の胸倉に掴みかかり、「おい!今お前は何を見た⁉︎何を知った!早く答えろ」と叫んだのだった。
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