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第四章
【第三話】仲間との出会い①
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カバール村にある宿屋のベッドの上で、朝から焔達がイチャコラしていた同時刻。
その頃ソフィアは、反応に困った空気を纏いながら、村に隣接している森の中で、この先どうするべきなのかの対応を思案していた。目の前には見知らぬ男が一人立っていて、「はえ?確かに声はしたのに…… 姿が見えないっすよ⁉︎」と言いながら周囲に視線を彷徨わせて、明らかにソフィアの事を探している。
「…… オカシイ。絶対に歌声がこの辺から聴こえたんすけどねぇ」
後頭部をぼりぼりと無造作にかきながらボヤく男は手に大きな鉈を握っていて、見るからにとても物騒だ。今はまだ、ソフィアはこの男に見付かっていないみたいだが、残念ながら発見までは時間の問題だろう。
話し声、イコールそれは生物。
そう思っている男は生物を探しているからソフィアはまだ認識されずに済んでいるというだけで、実際には森の中で宙に浮く洋書なんか目立ってしょうがないからだ。
微動だにせず、空中に浮いたまま、じっと我慢してソフィアは男の様子を窺い続ける。声の主を探すのを止めない男の第一声が『オラァァァッ。山賊様っすよぉ!大人しく金を出せっ!』だったモノだから、存在がバレてしまったらどうなるのかと、ソフィアは気が気じゃなかった。
「あーあぁ…… 。元の世界の古臭い歌が聴こえた気がしたから、転移仲間が居るって思ったんすけどねぇ」
しゅんっと肩を落としている男の姿に嘘は見られないが、じゃあ何で第一声があんな台詞になるんですか、とソフィアは思った。
(言葉から察するに、この方もどうやら焔様と同じ、異世界転移者みたいですねぇ。元の世界へ戻らない者が何名かいるとオウガノミコト様も仰っていましたし、もしかしたら、彼はその一人でしょうか)
このままでは何も変わらない。よし…… いい加減にワタクシも覚悟を決めますか、と心の中で呟き、『あのぉ』とソフィアが声を掛ける。すると男は「フギャアァッ!」と尻尾を踏まれた猫みたいな悲鳴をあげ、両手で鉈を柄を握り、即座に戦闘態勢を取った。——ぽいが、へっぴり腰ないせいでかなり格好悪い。突然の声掛けに驚いたからかもしれないとはいえ、まともに戦った経験があるとは到底思えないヘタレっぷりだ。
「ど、どこ、何処だ!隠れやがってこの野郎、卑怯っすよ!」
ガタガタと体を震わせているせいで構えた鉈が小刻みに揺れている。そんな体勢では虫すら殺せそうにない。最初の勢いは一体何だったのだろうか…… 。
『えっとですね、先程からずっと此処に居りますよー』
手を挙げて言うみたいに、少しだけソフィアの右角が上にあがっている。
「…… は?」
『此処です、此処ーっ』
男はキョロキョロと周囲を見るが、ソフィアの存在はガン無視だ。ソフィアはリアンと違って姿を消すマジックアイテムを持ってもいなければ、代理で装備してすらいないのだが、まさか男には見えていないのだろうか?
右に左にと跳ねるみたいに宙で動き、ソフィアが存在をアピールする。
そこまでされてやっと彼の存在を認識出来たのか、男は「ぎゃぁぁぁぁっ!」と情けないくらい大声で叫び、後ろへ大きく下がった。そのせいで背中を激しく大木に打ちつけ、持っていた鉈を地面にガランッと落としてしまった。
「しゃべった!本がしゃべったぁぁぁ。マジっすか!——まさか、自分の理想型がこんな所にっ⁉︎」
叫び声が、途中から最初とはちょっと異質な色に変わった。
ぎゃあと叫んだ時とは違って、歓喜の悲鳴といった感じが混じる。その事を不思議に思いつつも、ソフィアはいつものノリで会話を続けた。
『マジっす。ワタクシの名前はソフィア。とある召喚士様のサポート役兼魔導書の役割を担っております』
ソフィアの自己紹介を聞き、色々な意味でひとまずは落ち着こうと努力する男は「…… 魔導書?魔導書っすか、そりゃ喋るワケだ」と呟いて、ジッと彼を見詰めてきた。頰はちょっと高揚していて、瞳が輝いている。
魔導書だから喋るという理解はかなり間違っているが、ツッコミが不在なので途切れずに話が続く。
『はい、そんな感じです』
「…… じゃあ、さっきの歌声は——」
『ワタクシですね。すみません、煩かったでしょうか?』
「いや。全然っすよ、大丈夫!」
『ならば良かったです。では、ワタクシはおいとましてもよろしいですか?』
そそくさと帰ろうとするソフィアに対し、「それはダメっす!」と男は大声で叫んだ。
(おっと、これはヤバイですかねぇ。金を出せの続きでしょうか)
『…… 駄目、ですか。ですがワタクシは通りすがりの魔導書です。何もお渡し出来る物は無いのですが』
焔の資産の半分をその身の中に抱えたままだが、その事実をさらりと隠す。洋書の表紙には表情の変化しない単調な作りの顔しか描かれていないおかげで、声にさえ動揺を出さなければ、隠し事などソフィアには容易い事だった。
「あぁっ、最初に言った『金出せって』ってアレ、忘れて下さい!仕様美っちゅーか…… 自分でも言いたいワケじゃないのに、つい言っちゃう的なやつっす」
両手をブンブンと横に振り、慌てながら男が言い訳をする。そのせいでかけている眼鏡が鼻からズレたがお構いなしだ。
『そうでしたか。なら余計に用件は以上ですね。では失礼して——』と言い、ソフィアがシラッとした雰囲気で再びその場を去ろうとした。だがしかし、そんな彼の体を男が両手で掴み、がっしりと拘束する。
「待って!置いて行かないでっ。自分も一緒に行きたいっすぅぅ!」
正直小汚い、テンプレート的山賊風な格好をした男に拘束されてしまい、『む、無理ですよぉ!』とソフィアが叫んだ。そのボリュームに驚き、周囲にの木々から鳥達が一斉に逃げ去ったくらいの大声だ。
『ワタクシにはそんな許可を出す権限もありませんし、まず生理的に無理です!』
「そこを何とか頼むっすよぉ!やっと理想型に出逢ったのに、そりゃ無いっすっ」
男は一体全体何の話をしているのだ。ソフィアにはそれがわからず頭の中が混乱する。
無理に体を引っ張られ、腕の中に抱き留められそうになる。臭い…… かなり臭い!そのせいでソフィアは言葉に出来ぬ悲鳴をあげた。
『風呂くらい入ったらどうなんですか!』
「そんな金があったら、飯買うっすよ!」
『納得ですっ』
必死に逃げて、引っ張られを繰り返しながら『離して下さい!』と何度も訴える。だが一緒に行動したいらしい男は、戦闘体勢だった時の姿が嘘の様に力強く、ソフィアはその手から逃げられそうになかった。
「一緒に行っても良いって言ってくれるまで、離さないっすよぉ!」
『無茶を言わないで下さい。何処の誰かもわからない人を同行させるとか、そんなお人好しが何処に居るというんですか』
「カッコイイデザインをした君がその一例になればいいと思うっす!」
…… 格好が良いと言わてちょっとだけ気持ちが高揚する。その姿が今は洋書であろうとも、ソフィアは少しだけ気を良くしてしまった。
『…… うぐぅ。し、仕方ないですねぇ。話だけ聞きますから、せめて距離を取ってくれませんか?…… ハッキリ言って、臭いので』
「す、すみません!あ、でも離したら逃げるんじゃないっすか⁉︎」
『本心としてはそうしたいのですが、決めた事はちゃんと守りますよ』
「…… わかったっす。約束っすよ?」と言って、男がソフィアの体をそっと離す。でもいつでも掴みかかれる様に、両手は前に構えたままだ。
耐えられる程度の距離まで離れ、ソフィアがほっと息を吐く。
この世界での主人である焔からはいつもお香の様な落ち着く匂いが微かにするし、リアンや拠点の室内も同様だった為、まさか自分がここまで悪臭が苦手だとは思わなかった。
悪臭ダメ絶対。
ソフィアは今、香り袋の中に飛び込みたい気分だ。
『では、まず名前と職業を教えてもらえますか?』
「…… 名前っすか」
渋い顔をして、男が口を噤んだ。
主人みたいに名前に拘りでもあるのだろうか?と思い、ソフィアが首を傾げるみたいな角度になる。面接官の様な訊き方をしたのもまずかったかな?とも気にしてしまう。
「———…… っす」と、風がちょっと吹いただけでも消えてしまいそうな声で男が呟いた。
男の名前を聞いた瞬間、ソフィアは『それは失敗しましたねぇ』とハッキリ告げる。
臭いけど、すごく臭いけど!そんなネーミングセンスの持ち主ならば何だか面白そうだし、ひとまず焔達に会わせ、彼の扱いはお二人に一任しましょうと勝手に決めたのだった。
その頃ソフィアは、反応に困った空気を纏いながら、村に隣接している森の中で、この先どうするべきなのかの対応を思案していた。目の前には見知らぬ男が一人立っていて、「はえ?確かに声はしたのに…… 姿が見えないっすよ⁉︎」と言いながら周囲に視線を彷徨わせて、明らかにソフィアの事を探している。
「…… オカシイ。絶対に歌声がこの辺から聴こえたんすけどねぇ」
後頭部をぼりぼりと無造作にかきながらボヤく男は手に大きな鉈を握っていて、見るからにとても物騒だ。今はまだ、ソフィアはこの男に見付かっていないみたいだが、残念ながら発見までは時間の問題だろう。
話し声、イコールそれは生物。
そう思っている男は生物を探しているからソフィアはまだ認識されずに済んでいるというだけで、実際には森の中で宙に浮く洋書なんか目立ってしょうがないからだ。
微動だにせず、空中に浮いたまま、じっと我慢してソフィアは男の様子を窺い続ける。声の主を探すのを止めない男の第一声が『オラァァァッ。山賊様っすよぉ!大人しく金を出せっ!』だったモノだから、存在がバレてしまったらどうなるのかと、ソフィアは気が気じゃなかった。
「あーあぁ…… 。元の世界の古臭い歌が聴こえた気がしたから、転移仲間が居るって思ったんすけどねぇ」
しゅんっと肩を落としている男の姿に嘘は見られないが、じゃあ何で第一声があんな台詞になるんですか、とソフィアは思った。
(言葉から察するに、この方もどうやら焔様と同じ、異世界転移者みたいですねぇ。元の世界へ戻らない者が何名かいるとオウガノミコト様も仰っていましたし、もしかしたら、彼はその一人でしょうか)
このままでは何も変わらない。よし…… いい加減にワタクシも覚悟を決めますか、と心の中で呟き、『あのぉ』とソフィアが声を掛ける。すると男は「フギャアァッ!」と尻尾を踏まれた猫みたいな悲鳴をあげ、両手で鉈を柄を握り、即座に戦闘態勢を取った。——ぽいが、へっぴり腰ないせいでかなり格好悪い。突然の声掛けに驚いたからかもしれないとはいえ、まともに戦った経験があるとは到底思えないヘタレっぷりだ。
「ど、どこ、何処だ!隠れやがってこの野郎、卑怯っすよ!」
ガタガタと体を震わせているせいで構えた鉈が小刻みに揺れている。そんな体勢では虫すら殺せそうにない。最初の勢いは一体何だったのだろうか…… 。
『えっとですね、先程からずっと此処に居りますよー』
手を挙げて言うみたいに、少しだけソフィアの右角が上にあがっている。
「…… は?」
『此処です、此処ーっ』
男はキョロキョロと周囲を見るが、ソフィアの存在はガン無視だ。ソフィアはリアンと違って姿を消すマジックアイテムを持ってもいなければ、代理で装備してすらいないのだが、まさか男には見えていないのだろうか?
右に左にと跳ねるみたいに宙で動き、ソフィアが存在をアピールする。
そこまでされてやっと彼の存在を認識出来たのか、男は「ぎゃぁぁぁぁっ!」と情けないくらい大声で叫び、後ろへ大きく下がった。そのせいで背中を激しく大木に打ちつけ、持っていた鉈を地面にガランッと落としてしまった。
「しゃべった!本がしゃべったぁぁぁ。マジっすか!——まさか、自分の理想型がこんな所にっ⁉︎」
叫び声が、途中から最初とはちょっと異質な色に変わった。
ぎゃあと叫んだ時とは違って、歓喜の悲鳴といった感じが混じる。その事を不思議に思いつつも、ソフィアはいつものノリで会話を続けた。
『マジっす。ワタクシの名前はソフィア。とある召喚士様のサポート役兼魔導書の役割を担っております』
ソフィアの自己紹介を聞き、色々な意味でひとまずは落ち着こうと努力する男は「…… 魔導書?魔導書っすか、そりゃ喋るワケだ」と呟いて、ジッと彼を見詰めてきた。頰はちょっと高揚していて、瞳が輝いている。
魔導書だから喋るという理解はかなり間違っているが、ツッコミが不在なので途切れずに話が続く。
『はい、そんな感じです』
「…… じゃあ、さっきの歌声は——」
『ワタクシですね。すみません、煩かったでしょうか?』
「いや。全然っすよ、大丈夫!」
『ならば良かったです。では、ワタクシはおいとましてもよろしいですか?』
そそくさと帰ろうとするソフィアに対し、「それはダメっす!」と男は大声で叫んだ。
(おっと、これはヤバイですかねぇ。金を出せの続きでしょうか)
『…… 駄目、ですか。ですがワタクシは通りすがりの魔導書です。何もお渡し出来る物は無いのですが』
焔の資産の半分をその身の中に抱えたままだが、その事実をさらりと隠す。洋書の表紙には表情の変化しない単調な作りの顔しか描かれていないおかげで、声にさえ動揺を出さなければ、隠し事などソフィアには容易い事だった。
「あぁっ、最初に言った『金出せって』ってアレ、忘れて下さい!仕様美っちゅーか…… 自分でも言いたいワケじゃないのに、つい言っちゃう的なやつっす」
両手をブンブンと横に振り、慌てながら男が言い訳をする。そのせいでかけている眼鏡が鼻からズレたがお構いなしだ。
『そうでしたか。なら余計に用件は以上ですね。では失礼して——』と言い、ソフィアがシラッとした雰囲気で再びその場を去ろうとした。だがしかし、そんな彼の体を男が両手で掴み、がっしりと拘束する。
「待って!置いて行かないでっ。自分も一緒に行きたいっすぅぅ!」
正直小汚い、テンプレート的山賊風な格好をした男に拘束されてしまい、『む、無理ですよぉ!』とソフィアが叫んだ。そのボリュームに驚き、周囲にの木々から鳥達が一斉に逃げ去ったくらいの大声だ。
『ワタクシにはそんな許可を出す権限もありませんし、まず生理的に無理です!』
「そこを何とか頼むっすよぉ!やっと理想型に出逢ったのに、そりゃ無いっすっ」
男は一体全体何の話をしているのだ。ソフィアにはそれがわからず頭の中が混乱する。
無理に体を引っ張られ、腕の中に抱き留められそうになる。臭い…… かなり臭い!そのせいでソフィアは言葉に出来ぬ悲鳴をあげた。
『風呂くらい入ったらどうなんですか!』
「そんな金があったら、飯買うっすよ!」
『納得ですっ』
必死に逃げて、引っ張られを繰り返しながら『離して下さい!』と何度も訴える。だが一緒に行動したいらしい男は、戦闘体勢だった時の姿が嘘の様に力強く、ソフィアはその手から逃げられそうになかった。
「一緒に行っても良いって言ってくれるまで、離さないっすよぉ!」
『無茶を言わないで下さい。何処の誰かもわからない人を同行させるとか、そんなお人好しが何処に居るというんですか』
「カッコイイデザインをした君がその一例になればいいと思うっす!」
…… 格好が良いと言わてちょっとだけ気持ちが高揚する。その姿が今は洋書であろうとも、ソフィアは少しだけ気を良くしてしまった。
『…… うぐぅ。し、仕方ないですねぇ。話だけ聞きますから、せめて距離を取ってくれませんか?…… ハッキリ言って、臭いので』
「す、すみません!あ、でも離したら逃げるんじゃないっすか⁉︎」
『本心としてはそうしたいのですが、決めた事はちゃんと守りますよ』
「…… わかったっす。約束っすよ?」と言って、男がソフィアの体をそっと離す。でもいつでも掴みかかれる様に、両手は前に構えたままだ。
耐えられる程度の距離まで離れ、ソフィアがほっと息を吐く。
この世界での主人である焔からはいつもお香の様な落ち着く匂いが微かにするし、リアンや拠点の室内も同様だった為、まさか自分がここまで悪臭が苦手だとは思わなかった。
悪臭ダメ絶対。
ソフィアは今、香り袋の中に飛び込みたい気分だ。
『では、まず名前と職業を教えてもらえますか?』
「…… 名前っすか」
渋い顔をして、男が口を噤んだ。
主人みたいに名前に拘りでもあるのだろうか?と思い、ソフィアが首を傾げるみたいな角度になる。面接官の様な訊き方をしたのもまずかったかな?とも気にしてしまう。
「———…… っす」と、風がちょっと吹いただけでも消えてしまいそうな声で男が呟いた。
男の名前を聞いた瞬間、ソフィアは『それは失敗しましたねぇ』とハッキリ告げる。
臭いけど、すごく臭いけど!そんなネーミングセンスの持ち主ならば何だか面白そうだし、ひとまず焔達に会わせ、彼の扱いはお二人に一任しましょうと勝手に決めたのだった。
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