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第二章
【第三話】「まさか自分が、恋愛ゲーム定番イベント(しかも十八禁)を経験する羽目になるとは」と焔は思う
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「おーい。起きろ、リアン」
銀色の懐中時計の文字盤はもう十一時を指している。朝…… とは言い難い時間だ。『起こして欲しい』とお願いされていたのにもうこんな時間では、もしかしたらリアンは拗ねるかもしれない。だが、拗ねた奴の相手は面倒だとこのまま放置する事は、更に面倒な事態になりかねない。流石にそれは避けたいなと思い、焔はベッドの上で穏やかな寝息をたてたままのリアンに声を掛けた。
「起きろー。そうすぐ昼になるぞ」
二度の声掛けも虚しく、彼が起きる気配は無い。
だけど何となく焔の声は聴こえているのか、「ん…… っ」と言いながら、リアンは寝返りを打った。
「…… 今までお前はどんな生活を送っていたんだ?」
起きてはいたものの、午前のほとんどをゴロゴロとすごしていた自分の事は棚にあげ、焔がぼやく。
ベッドの上で安らかな寝息をたてているリアンは、ハーフエルフ程度に軽く尖った耳のそれぞれに三つずつのピアスをしており、それらはルビーなどの高価な宝石の様に見受けられる。今は布団と同じ木綿っぽい材質のシンプルな寝衣を着ているが、召喚時に身に纏っていた衣装はどれも一流の職人が作ったのだろうなと素人目でもわかる物ばかりだった。金糸での刺繍が裾の部分に入り、それらの様に上品な仕上がりの物を身に着ける者は召喚魔の中でも上位の存在なのだろうなと、他人事を深読みする気が全く無い焔ですらも考える程に。
召喚出来る対象者であろうとも、この世界では、彼らにも普段の生活というものがあるみたいだ。呼び出されるまでの間は何処かで霊体にでもなって眠っているというわけでは無いらしいと知り、無知だったとはいえ、焔は此処へ無遠慮にリアンを呼び出してしまった事を少しだけ後悔した。
(…… リアンの場合本来は、今は呼び出し対象では無いのだったな。ならば余計に悪い事をしたかな?)
さぞかしお前は貴族の様に優雅な生活を送っていたのだろうな、と思いながら焔が再び「起きろー。朝になったら起こせと言ったのは、お前だぞ」と、声を掛けながらリアンの肩を揺さぶった。
「あと五分…… 」
焔が朝まで使っていた枕を抱き締め、リアンが閉じたままの目蓋を強く瞑った。
ここ最近の彼は、部下達が有能過ぎるせいで仕事をさせてもらえず、暇過ぎてすっかり生活のリズムが崩れてしまっていた。その弊害なのか、昼も近いというのに眠っている体が全然動かない。何となく焔が側に居るなという事は認識出来始めてはいるのだが、どうしても眠気の方が優ってしまう。
「その台詞を言って、本当に五分後に起きた奴を俺は知らないぞ」
呆れながら焔がベッドの端っこに腰掛ける。
彼に対し、“好感度”が最大値である百にまでもう達している相手には一番してはいけない行為なのだが、そんな事を思い付きもしない焔は警戒心の欠片も抱いてはいない。今朝起きた時、図体の大きなリアンに抱き枕の様に雁字搦めにされていたというのに、だ。
「おーきーろー。もう昼になるぞ」
顔を近づけ、耳元で焔が言った。
するとリアンが当然の流れのように彼の首に腕を回して自分の方へと焔を引き寄せ始める。そして布団を焔の背中にもサッと掛けて中へと引き込み、彼の小さめな体を逞しい胸の中にギュギュッと抱き締めた。
額の角に無意識のまま気を付けながら、焔の柔らかな黒髪に頬擦りをする。するとリアンは満足気に微笑み、また意識が眠りの中へと落ち始めてしまった。
その事に気が付いた焔が慌てて彼の胸をぐぐっと強く押す。だがしかし、この程度の事でリアンを傷付けるのは本意では無い為、本気で力を入れていないせいもあってか、見目麗しき寝坊助は引き剥がせそうになかった。
「おい、起きろ。俺まで眠りに引き込むな」
「んー…… 焔は温かいなぁ、ちいせぇ……し、 可愛いし」
「黙れ、起きろ」
ギュッと更に強く抱き締められ、離せと言わんばかりに腕の中でもがいてみたが、やっぱり抜け出せない。だからといってこのまま諦めて眠るワケにもいかず、焔はリアンの胸をドンドンッと叩いてみた。
「叩くなよ、痛いだろうが」
「ったく」とこぼしながら、リアンが焔の頭をよしよしと宥める様に撫でまくる。半分以上まだ脳内が眠っているせいか、言葉遣いに彼の素が見て取れる。焔は少し驚いたが、『そういやコイツは魔族だもんな』とすぐに納得した。
「自分で起こせと言ったくせに…… どうしろと言うんだ、こんな状態の奴を」
ボヤきながら半分諦めムードが焔から漂い始めた。
急ぎたいが、急がなければいけない旅でもない。ならばもう怠惰を貪り、リアンと眠りに落ちるのもいいかもしれないなと思った時——
焔は自分の体に、ゴリッと不穏なモノが擦り付けられたのを感じた。
「…… は?」
同性故に何となくナニが当たったのか検討がついてしまう。もう朝ではないが、コレは朝立ちという状態なのだろうなと気が付き、焔がより一層リアンから離れる努力をし始めた。
「起きろ、ホント起きてくれ、頼むからっ」
そう言う焔の声には焦りがあり、胸を押す腕は力を加減しなければいけないせいか、プルプルと震えている。
「…… 起きてるって…… 」
気怠げに、目蓋を閉じたまま言われても説得力は無い。しかも焔の体に当たった程度であったリアンの異物が、段々と意思を持って擦り付けられ始め、『お前は発情期の犬か!』と叫びたい気分になった。
「絶対にお前は起きていない。なのに、そんな箇所だけはちゃっかり元気に勃たせるなっ」
「…… でも、気持ちいし」
「あのな?気持ちよければなんでもしていいワケじゃないと思うんだが」
「焔は、鬼なんだろう?…… なら、酒池肉林、殺す犯すなんか…… 平常営業のウチじゃないか」
んっ…… と甘い声を微かにこぼしながら、リアンが言う。
口調が崩れたままなので、会話が成立し始めてはいるが、どうやらきちんと覚醒は出来ていないみたいだ。しかもまだ、彼は焔が本物の鬼であるとは思っていない。だがしかし『主人は、この世界では鬼なのだな』という受け止め方はし始めており、それ故の発言だった。
「…… 待て、お前は誤用をしてるぞ。“酒池肉林”とはだな、肉欲の意味では無く、酒や肉が豊富で豪奢な酒宴という意味だ」
「へぇーそ?でもほら、犯す殺すはあってるんでしょ?鬼なんだし」
「お前は鬼に対して一体どんなイメージを抱えているんだ」
(まぁ、そうあるべきなのだろうが…… 生憎俺にはそんな経験、無いぞ?)
言うべきか、言わざるべきか。迷って焔は言わない事を選んだ。
自分からわざわざ、己にとって黒歴史となる話を言う気になどなれないからだ。鬼として当然経験するべき、自己中心的で傲慢な略奪行為をした過去が無い四角四面な生き方をしてきた事など、理由があった事だとはいえ、焔にとっては恥ずべき点でしかない。
「じゃあ…… いいよな?夢の中でくらい、エロい事してもさぁ」
夢——だと?
おいおいおい!と焔が心の中で叫んだ。
寝惚けたままなリアンの頭では、この状況を夢だと誤認しているのだと知り、血の気が引いて顔色がスッと青くなる。このままでは昨日と同じ流れになるではないか。
「魔力は寝る前に充分回復しただろう?必要…… 無いんじゃないか?精液なんて」
「まぁそうだなぁ…… でも、好きだったら抱きたいって思うのは、普通の事だろぉ?」
ぼーっとしたままリアンが口を大きく開けながら下へと少し体をずらし、焔の首に横から噛み付く。甘噛みをしつつ長い舌先でベロッと白い絹の様な肌を舐められ、焔から「うわぁ!」と大きな声が出てしまった。
「マジでかぁ、いいなぁ…… 」
うっとりとした声でそう言いながら、再び首を噛む。
先程よりも少し強めだったせいでリアンの鋭い八重歯が刺さる。他の歯の噛み跡も薄っすらとついてしまい、それらからじんわりと血が滲んだ。
「んなっ。こ、痕跡を残すな」
着物では隠れない位置に噛み跡を付けられてしまい、その事に対して焔が文句を言ったが、コレは夢だと思っているリアンに反省の色は全く無い。
「まぁまぁまぁ…… 。綺麗だから平気だって。ぷっくりと出ている血も、跡も赤くって…… あぁそうだ、キスマークも…… 口吸いの跡も、沢山つけようか」
「言い直さずとも、流石に知ってる」
着物の胸元をゆっくりと開かれ、意外にしっかりとした胸板が晒されてしまう。そんな焔の姿を見て、リアンが彼の上に覆い被さりながら感嘆の息を吐いた。
「というか、あのな…… 夢じゃないんだが、コレ」
「んな訳がないだろ、焔が素直だし」
「待て。俺の行動に素直要素は…… あったか?」
記憶を振り返っても思い当たらず、焔の目元が、目隠しの奥で困惑気味に歪んだ。
「胸とか、いいなぁ…… 。真っ白で、ピンッと小さな乳首だけが尖っていて愛らしいし、何よりも美味しそうだ」
キーラ達では聞きたくても聞けなかった言葉を次々に言いながら、リアンが焔の胸の尖りをかぷりと咥える。そして舌先で転がすみたいに先っぽを舐められてしまい、焔の腰がビクッと跳ねた。
脚には着物と寝衣越しに陰茎を擦り付けられ、リアンが完勃ちしているのは明らかだ。穿いている下着にはもう先走りの汁が滲み出始めていて少し気持ち悪い。
「…… なぁ。挿れるのは、ダメか?」
腰を浮かし、リアンが寝衣を下着ごとずらして陰茎を剥き出しにする。まさか…… と思いながら軽く視線を目隠し越しに下へ向けると、ギンギンに膨れきった赤黒いモノの先端をバッチリと目撃してしまい、焔の頭が勢いよく布団に戻った。
(昨晩といい、今といい…… 戦闘と無関係な行動しかしてないな、お前は)
快楽に溺れる行為をする事自体は、鬼であるが故にやぶさかではない。だが、一方通行の好意なのに、お前は満足出来るのか?出来ないから、昨日みたいに回数を重ねて誤魔化しているんじゃないのか?と不思議に思ってしまう。
「あれ?焔も…… 勃ってきてるのな」
「…… んなっ」
着物の前を捲られ、焔の穿いている六尺褌が露わになる。苦しそうに陰茎部が褌の中で勃ち上がっていて、布地にも少し汁が染みていた。
「やっぱ穿いていたのは褌なんだな。初めて見たけど…… なんか、エロいや」
何とか脱がせられないかと引っ張るが、巻かれ方がまず検討もつかないせいで上手く外せない。滾りに滾り、もう興奮でいっぱいなせいで、褌を脱がせる行為がリアンは面倒くさくなってきた。
「あーもう!いいや、今回もまた太腿借りるか」
焔の体をぐるんと引っ繰り返し、うつ伏せ状態にする。脚を真っ直ぐにさせてしっかり閉じさせると、股間の隙間にズズッと自らの陰茎をリアンが押し入れていった。
「うわ…… 褌の布と肌が…… 擦れて、気持ちぃ…… 」
夢であると思い込んでいるせいか動きが激しい。そのせいで、敷布団に押し付けられている状態になっている焔の股間が無遠慮に擦れてしまう。いい加減止めろと言うべきなのだろうが、正直気持ち良くって快楽に流されてしまう。震えた手で布団を掴み、焔は枕を噛んで必死に喘ぎ声を堪えた。
「声我慢しなくてもいいのに。こんな時でも、照れ屋なんだなぁ、焔は」
ここまでしてもまだ、夢に違いないと思う脳味噌に呆れてしまう。でもそれを指摘する余裕が今の焔には無く、胸の先も布に擦れ、否応無しに享楽が全身を襲った。
「ふぐっ、んっ、くっ」
「でも…… あぁ、いいなぁ。必死に耐えちゃって、背中まで赤いし」
着崩れしていてほとんど意味を持たなくなっている着物の後ろ側をリアンが引っ張り、細いうなじや肩甲骨を陽の下に晒す。紅牡丹の様に染まる焔の肌を噛み、吸い付き、情事の痕跡を更に増やしていく。その間も腰は動き続けており、快楽の限界がリアンの目の前に迫ってきた。
「ははは…… ちんこがめっちゃ擦れて、も…… イキそうだや」
「もう、と、とっとイケ!」
「じゃあ…… 一緒に、一緒にイこうか…… ふふっ」
んーっと耳裏に何度もキスをして、小振りなお尻も揉みしだく。このエロ河童め!とは思うも、声を我慢するのが精一杯なままで、やっぱりそこまでは言えなかった。
汗や先走りの汁でグチュグチュと互いの下腹部から水音が激しく聞こえてくる。
コレでも現実だと気が付けない事が信じられないくらいに、耳奥をも淫猥な音で犯され、もしかしたらリアンは、現状を夢だと思い込んでいるフリをしているだけなのでは?と焔が感じ始めた。
「い、いい加減にして…… くれっ」
「んー?もっとシテって?はいはい、わかったよー」
昨日の態度とあまりに違うリアンの様子に困惑し、焔が軽く後ろを振り返る。
半開きになっている焔の口の端からは涎が流れ出ていて、八重歯が濡れ光っていた。目隠しには涙が滲みているような跡もあり、そんな彼の様子を見て、リアンの口元が嬉しそうに弧を描いた。
「その目隠しは瞳が見えなくってウゼェなって思ってたけど、プレイだと思うと…… ちょっと燃えるな」
折角朝イチで綺麗な物に交換したばかりなのに、コレではまた違う物に変えねばならないだろう。だがこれ以外に新たな替えなどはもう無く、焔が少し憂鬱な気持ちになった。
「…… はぁはぁはぁ…… 。この、クソが」
リアンの変態的発言に対し、どうにかこうにか文句を言う。
そんな彼に対し、リアンの全身が雷にでも打たれたみたいに痺れ、端麗な顔が快感に歪んだ。
目の前の対象を犯したい犯したい犯したい——
もっと激しく、もっと深くと要求が欲深くなってしまう。
焔の六尺褌を脱がす事さえ出来ればと思うが、このまま達してしまいたい衝動も捨て切れない。この寝バックみたいな体勢のおかげで竿の上部分が捩れている褌の布に擦れるという快感が、今までに経験の無い快楽を与えてくれているからだ。左右は焔の艶やかな太腿に挟まれている事も加算ポイントとなっている。
「焔——」
耳の辺りに手を回して前を向けぬ様に固定し、顔を近づけてリアンが焔の唇を奪った。
ノリと流れで重なった口の隙間に、遠慮無しにリアンが長い舌を押し込んでいく。互いの唇も舌も吐息までもが熱く、焔の頭の中で思考する為の機能が形を失っていく。そのせいで自分からも舌を突き出して絡め、激しく口内を貪ったせいで舌が八重歯にぶつかり、傷付いて血が溢れ出たが、鬼と魔王である彼らは美酒でも飲んだ時のように興奮したのだった。
「…… こ、腰までふっちゃって、いやらしいなぁ」
(流石は夢だ。願望がそのまま具現化しているなんて最高じゃないか。昨日沢山痴態を見せてもらえたおかげだな)
嬉しくって堪らず、リアンがクスッと笑みをこぼす。すると焔は血と唾液とで濡れる自らの唇をペロリと舐め、挑発的な笑みを返した。
その表情のせいで、ブツッとリアンの中で色々なモノが盛大に吹き飛ぶ。もうイク事だけしか考えられない、思春期の学生並みに欲求に全てを支配されてしまっている。ナーガが今リアンの側に居れば、大歓喜間違い無しの状態だ。
「ほ、焔っ!」
興奮する感情をそのままぶつけるみたいに必死に腰を振って快楽を求め、味わい尽くす。その為もう限界間近だったリアンの怒張する陰茎がぐっと大きさを増し、次の瞬間には大量の白濁液を焔の太腿に吐き出していた。
「あっあぁぁ!んくっ…… んっ…… はぁはぁ、はぁぁぁぁっ——」
残滓をも全て出し尽くし、怠い体を軽く倒して焔の後頭部に優しく口付けをする。枕に顔を深く沈めている焔の体がそれにより少し跳ね、気不味そうな雰囲気になりながらリアンに向かって肘打ちを喰らわせてきた。
「いたっ。何だ?…… ツンデレか?」
焔はリアンと同じタイミングで褌の中に果ててしまったせいで、下腹部が気持ち悪くて仕方が無い。賢者タイムなせいですっかり冷静になった頭の中は、早く退けて欲しい気持ちでいっぱいだ。此処まできてすらも夢だと思っている節が口調から伝わり、呆れてしまった。
「お前はもう、とっとと風呂にでも入って来い」と言い、焔がリアンの下から強引に抜け出す。
激しく動かれたせいで少しずれてしまった目隠しを縛り直し、着物を簡単に整える。早く着替えたい…… が、着替えなんぞ他には持ってはおらず、焔が頭を抱えた。
「わかったよ、んじゃ入ってくるかな」
ベッドの上であぐらをかき、体を伸ばしてリアンがあくびをする。昨日見た彼とは随分とかけ離れていて、かなり子供っぽいなと焔は思った。
「一緒に入るか?焔」
「死んでもお断りだ、このクソガキが」
顔を合わせる事なく、焔が淡々と返した。
「先に降りるからな」と残して部屋を出ていく焔の背中を、リアンが見送る。
「ふふっ…… 。いいな、『幼馴染を起こしに行ったら、布団に引きづり込まれてえっちしちゃった』って雰囲気。ほんとに可愛いなぁ…… 」
そう言って近くにある枕を抱き締め、バタンッとベッドに倒れていく。リアンの瞳はまだ眠そうで、今までの行為を依然として、夢の中の出来事だと思い込んだままなのであった。
銀色の懐中時計の文字盤はもう十一時を指している。朝…… とは言い難い時間だ。『起こして欲しい』とお願いされていたのにもうこんな時間では、もしかしたらリアンは拗ねるかもしれない。だが、拗ねた奴の相手は面倒だとこのまま放置する事は、更に面倒な事態になりかねない。流石にそれは避けたいなと思い、焔はベッドの上で穏やかな寝息をたてたままのリアンに声を掛けた。
「起きろー。そうすぐ昼になるぞ」
二度の声掛けも虚しく、彼が起きる気配は無い。
だけど何となく焔の声は聴こえているのか、「ん…… っ」と言いながら、リアンは寝返りを打った。
「…… 今までお前はどんな生活を送っていたんだ?」
起きてはいたものの、午前のほとんどをゴロゴロとすごしていた自分の事は棚にあげ、焔がぼやく。
ベッドの上で安らかな寝息をたてているリアンは、ハーフエルフ程度に軽く尖った耳のそれぞれに三つずつのピアスをしており、それらはルビーなどの高価な宝石の様に見受けられる。今は布団と同じ木綿っぽい材質のシンプルな寝衣を着ているが、召喚時に身に纏っていた衣装はどれも一流の職人が作ったのだろうなと素人目でもわかる物ばかりだった。金糸での刺繍が裾の部分に入り、それらの様に上品な仕上がりの物を身に着ける者は召喚魔の中でも上位の存在なのだろうなと、他人事を深読みする気が全く無い焔ですらも考える程に。
召喚出来る対象者であろうとも、この世界では、彼らにも普段の生活というものがあるみたいだ。呼び出されるまでの間は何処かで霊体にでもなって眠っているというわけでは無いらしいと知り、無知だったとはいえ、焔は此処へ無遠慮にリアンを呼び出してしまった事を少しだけ後悔した。
(…… リアンの場合本来は、今は呼び出し対象では無いのだったな。ならば余計に悪い事をしたかな?)
さぞかしお前は貴族の様に優雅な生活を送っていたのだろうな、と思いながら焔が再び「起きろー。朝になったら起こせと言ったのは、お前だぞ」と、声を掛けながらリアンの肩を揺さぶった。
「あと五分…… 」
焔が朝まで使っていた枕を抱き締め、リアンが閉じたままの目蓋を強く瞑った。
ここ最近の彼は、部下達が有能過ぎるせいで仕事をさせてもらえず、暇過ぎてすっかり生活のリズムが崩れてしまっていた。その弊害なのか、昼も近いというのに眠っている体が全然動かない。何となく焔が側に居るなという事は認識出来始めてはいるのだが、どうしても眠気の方が優ってしまう。
「その台詞を言って、本当に五分後に起きた奴を俺は知らないぞ」
呆れながら焔がベッドの端っこに腰掛ける。
彼に対し、“好感度”が最大値である百にまでもう達している相手には一番してはいけない行為なのだが、そんな事を思い付きもしない焔は警戒心の欠片も抱いてはいない。今朝起きた時、図体の大きなリアンに抱き枕の様に雁字搦めにされていたというのに、だ。
「おーきーろー。もう昼になるぞ」
顔を近づけ、耳元で焔が言った。
するとリアンが当然の流れのように彼の首に腕を回して自分の方へと焔を引き寄せ始める。そして布団を焔の背中にもサッと掛けて中へと引き込み、彼の小さめな体を逞しい胸の中にギュギュッと抱き締めた。
額の角に無意識のまま気を付けながら、焔の柔らかな黒髪に頬擦りをする。するとリアンは満足気に微笑み、また意識が眠りの中へと落ち始めてしまった。
その事に気が付いた焔が慌てて彼の胸をぐぐっと強く押す。だがしかし、この程度の事でリアンを傷付けるのは本意では無い為、本気で力を入れていないせいもあってか、見目麗しき寝坊助は引き剥がせそうになかった。
「おい、起きろ。俺まで眠りに引き込むな」
「んー…… 焔は温かいなぁ、ちいせぇ……し、 可愛いし」
「黙れ、起きろ」
ギュッと更に強く抱き締められ、離せと言わんばかりに腕の中でもがいてみたが、やっぱり抜け出せない。だからといってこのまま諦めて眠るワケにもいかず、焔はリアンの胸をドンドンッと叩いてみた。
「叩くなよ、痛いだろうが」
「ったく」とこぼしながら、リアンが焔の頭をよしよしと宥める様に撫でまくる。半分以上まだ脳内が眠っているせいか、言葉遣いに彼の素が見て取れる。焔は少し驚いたが、『そういやコイツは魔族だもんな』とすぐに納得した。
「自分で起こせと言ったくせに…… どうしろと言うんだ、こんな状態の奴を」
ボヤきながら半分諦めムードが焔から漂い始めた。
急ぎたいが、急がなければいけない旅でもない。ならばもう怠惰を貪り、リアンと眠りに落ちるのもいいかもしれないなと思った時——
焔は自分の体に、ゴリッと不穏なモノが擦り付けられたのを感じた。
「…… は?」
同性故に何となくナニが当たったのか検討がついてしまう。もう朝ではないが、コレは朝立ちという状態なのだろうなと気が付き、焔がより一層リアンから離れる努力をし始めた。
「起きろ、ホント起きてくれ、頼むからっ」
そう言う焔の声には焦りがあり、胸を押す腕は力を加減しなければいけないせいか、プルプルと震えている。
「…… 起きてるって…… 」
気怠げに、目蓋を閉じたまま言われても説得力は無い。しかも焔の体に当たった程度であったリアンの異物が、段々と意思を持って擦り付けられ始め、『お前は発情期の犬か!』と叫びたい気分になった。
「絶対にお前は起きていない。なのに、そんな箇所だけはちゃっかり元気に勃たせるなっ」
「…… でも、気持ちいし」
「あのな?気持ちよければなんでもしていいワケじゃないと思うんだが」
「焔は、鬼なんだろう?…… なら、酒池肉林、殺す犯すなんか…… 平常営業のウチじゃないか」
んっ…… と甘い声を微かにこぼしながら、リアンが言う。
口調が崩れたままなので、会話が成立し始めてはいるが、どうやらきちんと覚醒は出来ていないみたいだ。しかもまだ、彼は焔が本物の鬼であるとは思っていない。だがしかし『主人は、この世界では鬼なのだな』という受け止め方はし始めており、それ故の発言だった。
「…… 待て、お前は誤用をしてるぞ。“酒池肉林”とはだな、肉欲の意味では無く、酒や肉が豊富で豪奢な酒宴という意味だ」
「へぇーそ?でもほら、犯す殺すはあってるんでしょ?鬼なんだし」
「お前は鬼に対して一体どんなイメージを抱えているんだ」
(まぁ、そうあるべきなのだろうが…… 生憎俺にはそんな経験、無いぞ?)
言うべきか、言わざるべきか。迷って焔は言わない事を選んだ。
自分からわざわざ、己にとって黒歴史となる話を言う気になどなれないからだ。鬼として当然経験するべき、自己中心的で傲慢な略奪行為をした過去が無い四角四面な生き方をしてきた事など、理由があった事だとはいえ、焔にとっては恥ずべき点でしかない。
「じゃあ…… いいよな?夢の中でくらい、エロい事してもさぁ」
夢——だと?
おいおいおい!と焔が心の中で叫んだ。
寝惚けたままなリアンの頭では、この状況を夢だと誤認しているのだと知り、血の気が引いて顔色がスッと青くなる。このままでは昨日と同じ流れになるではないか。
「魔力は寝る前に充分回復しただろう?必要…… 無いんじゃないか?精液なんて」
「まぁそうだなぁ…… でも、好きだったら抱きたいって思うのは、普通の事だろぉ?」
ぼーっとしたままリアンが口を大きく開けながら下へと少し体をずらし、焔の首に横から噛み付く。甘噛みをしつつ長い舌先でベロッと白い絹の様な肌を舐められ、焔から「うわぁ!」と大きな声が出てしまった。
「マジでかぁ、いいなぁ…… 」
うっとりとした声でそう言いながら、再び首を噛む。
先程よりも少し強めだったせいでリアンの鋭い八重歯が刺さる。他の歯の噛み跡も薄っすらとついてしまい、それらからじんわりと血が滲んだ。
「んなっ。こ、痕跡を残すな」
着物では隠れない位置に噛み跡を付けられてしまい、その事に対して焔が文句を言ったが、コレは夢だと思っているリアンに反省の色は全く無い。
「まぁまぁまぁ…… 。綺麗だから平気だって。ぷっくりと出ている血も、跡も赤くって…… あぁそうだ、キスマークも…… 口吸いの跡も、沢山つけようか」
「言い直さずとも、流石に知ってる」
着物の胸元をゆっくりと開かれ、意外にしっかりとした胸板が晒されてしまう。そんな焔の姿を見て、リアンが彼の上に覆い被さりながら感嘆の息を吐いた。
「というか、あのな…… 夢じゃないんだが、コレ」
「んな訳がないだろ、焔が素直だし」
「待て。俺の行動に素直要素は…… あったか?」
記憶を振り返っても思い当たらず、焔の目元が、目隠しの奥で困惑気味に歪んだ。
「胸とか、いいなぁ…… 。真っ白で、ピンッと小さな乳首だけが尖っていて愛らしいし、何よりも美味しそうだ」
キーラ達では聞きたくても聞けなかった言葉を次々に言いながら、リアンが焔の胸の尖りをかぷりと咥える。そして舌先で転がすみたいに先っぽを舐められてしまい、焔の腰がビクッと跳ねた。
脚には着物と寝衣越しに陰茎を擦り付けられ、リアンが完勃ちしているのは明らかだ。穿いている下着にはもう先走りの汁が滲み出始めていて少し気持ち悪い。
「…… なぁ。挿れるのは、ダメか?」
腰を浮かし、リアンが寝衣を下着ごとずらして陰茎を剥き出しにする。まさか…… と思いながら軽く視線を目隠し越しに下へ向けると、ギンギンに膨れきった赤黒いモノの先端をバッチリと目撃してしまい、焔の頭が勢いよく布団に戻った。
(昨晩といい、今といい…… 戦闘と無関係な行動しかしてないな、お前は)
快楽に溺れる行為をする事自体は、鬼であるが故にやぶさかではない。だが、一方通行の好意なのに、お前は満足出来るのか?出来ないから、昨日みたいに回数を重ねて誤魔化しているんじゃないのか?と不思議に思ってしまう。
「あれ?焔も…… 勃ってきてるのな」
「…… んなっ」
着物の前を捲られ、焔の穿いている六尺褌が露わになる。苦しそうに陰茎部が褌の中で勃ち上がっていて、布地にも少し汁が染みていた。
「やっぱ穿いていたのは褌なんだな。初めて見たけど…… なんか、エロいや」
何とか脱がせられないかと引っ張るが、巻かれ方がまず検討もつかないせいで上手く外せない。滾りに滾り、もう興奮でいっぱいなせいで、褌を脱がせる行為がリアンは面倒くさくなってきた。
「あーもう!いいや、今回もまた太腿借りるか」
焔の体をぐるんと引っ繰り返し、うつ伏せ状態にする。脚を真っ直ぐにさせてしっかり閉じさせると、股間の隙間にズズッと自らの陰茎をリアンが押し入れていった。
「うわ…… 褌の布と肌が…… 擦れて、気持ちぃ…… 」
夢であると思い込んでいるせいか動きが激しい。そのせいで、敷布団に押し付けられている状態になっている焔の股間が無遠慮に擦れてしまう。いい加減止めろと言うべきなのだろうが、正直気持ち良くって快楽に流されてしまう。震えた手で布団を掴み、焔は枕を噛んで必死に喘ぎ声を堪えた。
「声我慢しなくてもいいのに。こんな時でも、照れ屋なんだなぁ、焔は」
ここまでしてもまだ、夢に違いないと思う脳味噌に呆れてしまう。でもそれを指摘する余裕が今の焔には無く、胸の先も布に擦れ、否応無しに享楽が全身を襲った。
「ふぐっ、んっ、くっ」
「でも…… あぁ、いいなぁ。必死に耐えちゃって、背中まで赤いし」
着崩れしていてほとんど意味を持たなくなっている着物の後ろ側をリアンが引っ張り、細いうなじや肩甲骨を陽の下に晒す。紅牡丹の様に染まる焔の肌を噛み、吸い付き、情事の痕跡を更に増やしていく。その間も腰は動き続けており、快楽の限界がリアンの目の前に迫ってきた。
「ははは…… ちんこがめっちゃ擦れて、も…… イキそうだや」
「もう、と、とっとイケ!」
「じゃあ…… 一緒に、一緒にイこうか…… ふふっ」
んーっと耳裏に何度もキスをして、小振りなお尻も揉みしだく。このエロ河童め!とは思うも、声を我慢するのが精一杯なままで、やっぱりそこまでは言えなかった。
汗や先走りの汁でグチュグチュと互いの下腹部から水音が激しく聞こえてくる。
コレでも現実だと気が付けない事が信じられないくらいに、耳奥をも淫猥な音で犯され、もしかしたらリアンは、現状を夢だと思い込んでいるフリをしているだけなのでは?と焔が感じ始めた。
「い、いい加減にして…… くれっ」
「んー?もっとシテって?はいはい、わかったよー」
昨日の態度とあまりに違うリアンの様子に困惑し、焔が軽く後ろを振り返る。
半開きになっている焔の口の端からは涎が流れ出ていて、八重歯が濡れ光っていた。目隠しには涙が滲みているような跡もあり、そんな彼の様子を見て、リアンの口元が嬉しそうに弧を描いた。
「その目隠しは瞳が見えなくってウゼェなって思ってたけど、プレイだと思うと…… ちょっと燃えるな」
折角朝イチで綺麗な物に交換したばかりなのに、コレではまた違う物に変えねばならないだろう。だがこれ以外に新たな替えなどはもう無く、焔が少し憂鬱な気持ちになった。
「…… はぁはぁはぁ…… 。この、クソが」
リアンの変態的発言に対し、どうにかこうにか文句を言う。
そんな彼に対し、リアンの全身が雷にでも打たれたみたいに痺れ、端麗な顔が快感に歪んだ。
目の前の対象を犯したい犯したい犯したい——
もっと激しく、もっと深くと要求が欲深くなってしまう。
焔の六尺褌を脱がす事さえ出来ればと思うが、このまま達してしまいたい衝動も捨て切れない。この寝バックみたいな体勢のおかげで竿の上部分が捩れている褌の布に擦れるという快感が、今までに経験の無い快楽を与えてくれているからだ。左右は焔の艶やかな太腿に挟まれている事も加算ポイントとなっている。
「焔——」
耳の辺りに手を回して前を向けぬ様に固定し、顔を近づけてリアンが焔の唇を奪った。
ノリと流れで重なった口の隙間に、遠慮無しにリアンが長い舌を押し込んでいく。互いの唇も舌も吐息までもが熱く、焔の頭の中で思考する為の機能が形を失っていく。そのせいで自分からも舌を突き出して絡め、激しく口内を貪ったせいで舌が八重歯にぶつかり、傷付いて血が溢れ出たが、鬼と魔王である彼らは美酒でも飲んだ時のように興奮したのだった。
「…… こ、腰までふっちゃって、いやらしいなぁ」
(流石は夢だ。願望がそのまま具現化しているなんて最高じゃないか。昨日沢山痴態を見せてもらえたおかげだな)
嬉しくって堪らず、リアンがクスッと笑みをこぼす。すると焔は血と唾液とで濡れる自らの唇をペロリと舐め、挑発的な笑みを返した。
その表情のせいで、ブツッとリアンの中で色々なモノが盛大に吹き飛ぶ。もうイク事だけしか考えられない、思春期の学生並みに欲求に全てを支配されてしまっている。ナーガが今リアンの側に居れば、大歓喜間違い無しの状態だ。
「ほ、焔っ!」
興奮する感情をそのままぶつけるみたいに必死に腰を振って快楽を求め、味わい尽くす。その為もう限界間近だったリアンの怒張する陰茎がぐっと大きさを増し、次の瞬間には大量の白濁液を焔の太腿に吐き出していた。
「あっあぁぁ!んくっ…… んっ…… はぁはぁ、はぁぁぁぁっ——」
残滓をも全て出し尽くし、怠い体を軽く倒して焔の後頭部に優しく口付けをする。枕に顔を深く沈めている焔の体がそれにより少し跳ね、気不味そうな雰囲気になりながらリアンに向かって肘打ちを喰らわせてきた。
「いたっ。何だ?…… ツンデレか?」
焔はリアンと同じタイミングで褌の中に果ててしまったせいで、下腹部が気持ち悪くて仕方が無い。賢者タイムなせいですっかり冷静になった頭の中は、早く退けて欲しい気持ちでいっぱいだ。此処まできてすらも夢だと思っている節が口調から伝わり、呆れてしまった。
「お前はもう、とっとと風呂にでも入って来い」と言い、焔がリアンの下から強引に抜け出す。
激しく動かれたせいで少しずれてしまった目隠しを縛り直し、着物を簡単に整える。早く着替えたい…… が、着替えなんぞ他には持ってはおらず、焔が頭を抱えた。
「わかったよ、んじゃ入ってくるかな」
ベッドの上であぐらをかき、体を伸ばしてリアンがあくびをする。昨日見た彼とは随分とかけ離れていて、かなり子供っぽいなと焔は思った。
「一緒に入るか?焔」
「死んでもお断りだ、このクソガキが」
顔を合わせる事なく、焔が淡々と返した。
「先に降りるからな」と残して部屋を出ていく焔の背中を、リアンが見送る。
「ふふっ…… 。いいな、『幼馴染を起こしに行ったら、布団に引きづり込まれてえっちしちゃった』って雰囲気。ほんとに可愛いなぁ…… 」
そう言って近くにある枕を抱き締め、バタンッとベッドに倒れていく。リアンの瞳はまだ眠そうで、今までの行為を依然として、夢の中の出来事だと思い込んだままなのであった。
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