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第一章
【第二話】異世界へ
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『——主人、主人、起きて下さーい。主人ってばぁ』
芝生だらけな地面に倒れている焔の頰をペシペシッと何かが叩いている。同時に何度も、随分と長い時間声を掛けているのだが、彼が起きる気配は無い。
『困りましたねぇ…… 。まさかここまで全く起きる気配が無いとは。これはもう、最終手段でいきますか?』
そう言って、分厚く、四角い物体が宙に浮き、ゆっくりと焔の顔の上に移動していく。どうやらこの物体は、彼の顔面にダイブする気満々な様だ。己の身を挺して対象者も守るのならばカッコイイと絶賛出来るのだが、自身の全体重をかけて叩き起こそうとしているシーンに感動要素は微塵も感じられない。
『では、いきます!ワタクシの、一世一代の渾身のいちげ——』
もう次の瞬間にはこの喋る物体が顔面に落下してくる寸前で、焔がカッと勢いよく意識を取り戻し、「止めろ、この馬鹿が」と言いながら、急所に直撃する落下物となるはずだった物を容赦なく叩き落とした。
『あっ——いたたたたっ』
宙に浮いていた物体の角っこが、焔に叩かれた勢いで地面に突き刺さる。彼が声を発する物体に視線をやると、ソレは一冊の分厚い本だった。
表紙に文字の様なものは書かれておらず、表情の無い、丸と棒だけで表現したシンプルな顔らしきモノが中心に大きく描かれている。金や銀といった色合いで綺麗な装飾も施されており、高級感漂うその本は、全体的に洋書っぽい雰囲気を持っていた。
「本ごときに…… 俺はやられそうになったのか」
呆気に取られながら焔が体を起こし、片膝を立てた状態で座り直す。
喋る本を前にして少しだけ動揺したが、すぐに周囲への警戒に気を向ける。どうやらこの周辺にはこの本以外には何も存在せず、そうとわかった焔はやっと安堵の息を吐いた。
ズボッと音をたてながら地面から自身の体を抜き、一冊の洋書が再び宙に浮き上がった。そしてゴホンッと一度咳払いをすると、その洋書は礼をするみたいに少しだけ斜めに。
『お初にお目にかかります、我が主人よ。早速貴方様のお名前をお教え頂けますか?』
先程までの気易い雰囲気を完全に捨て去り、執事の様な丁寧な口調と上品な声色で焔に声を掛ける。だがしかし、焔は訝しげな空気を纏いながら「嫌だ」と一蹴した。
『何と!この見知らぬ世界で、ワタクシの手助けも無しに彷徨うおつもりですか⁉︎』
動揺し、オロオロと洋書が空中で右往左往とする。だが焔はその様子をただじっと見詰めるだけで、やはり名乗る気配は微塵も無かった。
「…… 見知らぬ、世界?」
(あぁ、そういえば…… オウガが、異世界がなんたらとか言っていたような…… )
状況が上手く掴めないままではあるが、自分が元の世界とは違う場所に放り出された事だけは把握出来た。あとは『帰って来い』という指示を実行するだけなのだろうが、手始めはコイツとの対話なのか?と思いながら、焔がガシガシと後頭部を無造作にかいた。
『そうです!此処は主人の見知らぬ世界。異世界とも言える、右も左もわからぬ土地で、貴方様の手助けをせよと、ワタクシは特別に、特別に!オウガノミコト様から直々に御用命を頂いた“名も無き本”にございます』
そう言って、“名も無き本”と名乗った洋書が胸を張るみたいな角度になった。
「同じ事を二度も言うな、二度も」
『大事な事でしたので、つい』
だけど今、主人もしていましたよね⁉︎——とツッコミを入れるのを我慢しつつ、“名も無き本”がもう一度『お名前をお教え頂けますか?主人』と懇願した。
「主人と呼んでいるままでいいんじゃないのか?」
『コレは先に進む為に必要な手続きでして、そういうワケには。此処は元の世界とは違って、何事も手順というものが大事な世界なのです』
「だが、名前の重要性は、お前がオウガの使いの者ならよく知っているだろう?名を告げる行為は、相手に自分の運命をも握らせる様なものだと」
『だからこそ、お教え頂きたいのです』
頑なに態度を変えない“名も無き本”に対し、焔が黙ったまま顔を向ける。
だが、彼の瞳はボロ切れの様な細長い布に幾重にも覆われており、表情が眉毛の角度や口元からしか読み取れない。そんな彼を前にして、“名も無き本”は先に進めぬ事に失意を感じ始めた。
「お前はアレだよな、付喪神」
『洋風な風貌をしたワタクシに向かい、此処の世界観をガン無視したご指摘、ありがとうございます』
「ただでさえ名前を教える行為にはリスクがあるのに、付喪神になんか、余計に名前を教えられる訳がないだろうが」
『大丈夫でございますよ、此処は主人の世界とは違うルールに基づいて創られら新たな世界。今のワタクシには残念ながら、本来付喪神が持ち合わせている力や縛りは持っておりません。ただ、今後の主人の適性や職業、基本スキルを定め、手助けをし、荷物の運搬などの補助をするだけの存在なのです』
「…… まるで人間の作ったゲームみたいだな」
ボソッとこぼした焔の一言に『まさにソレです!』と、“名も無き本”が喰いついた。
『企画者が優秀なのか、我らがオウガノミコト様が素晴らしい才能の持ち主なのか、此処はまさにゲームとかいうモノと類似した世界。いや…… ゲーム世界と言っても過言では無いでしょう』
「言っているお前自身が、ゲームをよくわかってない様な言い方だな」
『し、仕方ないではありませんか…… ワタクシは本来古参の付喪神。こうして単独でお仕事を任される事すらも珍しいというのに、そのうえ人間共の新しい遊戯に触れる機会など、そうそうあるものではございませんので』
シュンッとした様な雰囲気を纏い、“名も無き本”が項垂れる。ただ角度が変化しているだけなのに、随分と感情豊かな奴だなと焔は思った。
「……焔、だ。当然本名では無いが、オウガにはそう呼ばれているのだから、コレでいいだろう?」
『も、もちろんでございます!ありがとうございます!』
一転して明るい雰囲気を“名も無き本”が纏う。
『我が主人、“焔”の名を基にして貴方様の基本スキルや職業を決定させて頂きます』と言って、パッと洋書が自らの体をぱらりと開いた。
『あー…… 主人は元となる性質上、勇者の適性はゼロですね』
「だろうな。というか、そもそもなんなんだ、“勇者”って。侍じゃないのか」
焔の疑問はガン無視し、“名も無き本”が言葉を続ける。
『初期の段階で就ける職業は…… アサシンがありますが、適性はこちらもかなり低いですね』
「男は黙って正面から堂々と行け」
『…… (納得)』
「他には、白魔導士に黒魔道士…… か、洋風な響きの職業ばかりだな」
焔が立ち上がり、“名も無き本”の中を覗き込んで書かれている文字を読む。
他にもそれなりに選択肢はあるみたいではあるものの、しっくりくるものはあまり無かった。
『はい。この世界観は西洋文化をベースに創られていますので。なのでワタクシもこの通り、普段の姿とは一転して、洋書風の仕様となった次第です』
ふーん、と言って焔がサラッと話を流す。
「ゼロ適正の職業のものであろうが、コレを使えば就職出来るのか?」
振り分け前の能力値を指差し、焔が訊く。この数値を知能や力などといったそれぞれの能力に割り振りする事で、この世界での得意不得意や職業選択の幅を、ある程度は自分で変更する事が出来そうだった。
『はい、出来はしますね。でも勇者適性値だけが三桁のマイナススタートなので、コレだけは全部の数値を振っても、一生選択は出来なさそうです』
「そこまで英雄要素が無いとか、むしろ清々しいな」
『そうですね。ワタクシは好きですよ、そういうお方も。ところで、何か適性の低い職業でやってみたいものでもあるのですか?』
「どれもやりたくは無い」
『キッパリ言い切りましたね。でもそれだと此処から何処へも、移動すら出来ませんよ?』
「だろうな、そうだろうと思ったよ。どれだけ周囲に気を向けても、途中までで遮断されているからな。どうせ現状では行動範囲が決まっているんだろ、まさにゲーム世界の様に」
『その通りでございます。主人は案外適応力がお高いのですね』
微妙に褒めていないなと思いながら、書かれいる職業名に焔が再度目を通す。
その中で一番本来の自分とは縁遠く、だけど興味をそこそこには持てる職業をなんとか絞る事が出来た。
「勇者以外ならば、就けるんだよな?」
『はい。能力値を割り振れば、大概の職は問題無いです。白魔導士は…… ギリギリ、ホントギリギリですけど!』
「そんな職は向いてない事くらい自分が一番わかっているし、そもそもなる気もない。アレはほら、集団を癒す職業なのだろう?一人で行動する俺が、何を守るってんだ」
『ワタクシですとか』
「自分の身くらい、自分で守れ」
『正論、ありがとうございます』
「——召喚士は、どうだ?」
『かしこまりました。召喚士をご希望ですね?では初期の職業は召喚士として設定させて頂きます。尚、職業の変更は今後の能力値やスキルの育て方次第で分岐していきますが、このままこの職業を極めるという手立てもございますのでご参考まで』と言い、頭を下げるみたいに“名も無き本”が動いた。
「御託はいいから、さっさとしろ」
『はい、只今。——我が主人、名を“焔”。職業を“召喚士”と定める』
“名も無き本”がそう言葉にすると、次のページが開かれ、職業欄に“召喚士”の文字が勝手に書かれていく。すると、この職業に就くために必要な数値が自動的に能力欄に割り振りされていった。
『他に上げておきたい能力はございますか?』
「…… 運とか?」
『申し訳ありません。もう既に、主人の運は上限最大まで達しております』
「ならいいか」
『他にもまだ割り振りしていない未使用の数値が大量にありますが、これらは如何なさいますか?』
「何を上げるのがいいのかよくわからないからな。まずはこのまま進んで、後で考える」
『承知致しました。では主人は、レベル1の召喚士として、このチュートリアル世界より解放させて頂きますね』
元の世界では、鬼の身にありながら神社の主神・オウガノミコトの手助けをしていた焔は、この世界で新たに“召喚士”の称号を得た。これでやっと、元の世界へ帰るためのスタート地点に立つ事が出来た様だ。
芝生だらけな地面に倒れている焔の頰をペシペシッと何かが叩いている。同時に何度も、随分と長い時間声を掛けているのだが、彼が起きる気配は無い。
『困りましたねぇ…… 。まさかここまで全く起きる気配が無いとは。これはもう、最終手段でいきますか?』
そう言って、分厚く、四角い物体が宙に浮き、ゆっくりと焔の顔の上に移動していく。どうやらこの物体は、彼の顔面にダイブする気満々な様だ。己の身を挺して対象者も守るのならばカッコイイと絶賛出来るのだが、自身の全体重をかけて叩き起こそうとしているシーンに感動要素は微塵も感じられない。
『では、いきます!ワタクシの、一世一代の渾身のいちげ——』
もう次の瞬間にはこの喋る物体が顔面に落下してくる寸前で、焔がカッと勢いよく意識を取り戻し、「止めろ、この馬鹿が」と言いながら、急所に直撃する落下物となるはずだった物を容赦なく叩き落とした。
『あっ——いたたたたっ』
宙に浮いていた物体の角っこが、焔に叩かれた勢いで地面に突き刺さる。彼が声を発する物体に視線をやると、ソレは一冊の分厚い本だった。
表紙に文字の様なものは書かれておらず、表情の無い、丸と棒だけで表現したシンプルな顔らしきモノが中心に大きく描かれている。金や銀といった色合いで綺麗な装飾も施されており、高級感漂うその本は、全体的に洋書っぽい雰囲気を持っていた。
「本ごときに…… 俺はやられそうになったのか」
呆気に取られながら焔が体を起こし、片膝を立てた状態で座り直す。
喋る本を前にして少しだけ動揺したが、すぐに周囲への警戒に気を向ける。どうやらこの周辺にはこの本以外には何も存在せず、そうとわかった焔はやっと安堵の息を吐いた。
ズボッと音をたてながら地面から自身の体を抜き、一冊の洋書が再び宙に浮き上がった。そしてゴホンッと一度咳払いをすると、その洋書は礼をするみたいに少しだけ斜めに。
『お初にお目にかかります、我が主人よ。早速貴方様のお名前をお教え頂けますか?』
先程までの気易い雰囲気を完全に捨て去り、執事の様な丁寧な口調と上品な声色で焔に声を掛ける。だがしかし、焔は訝しげな空気を纏いながら「嫌だ」と一蹴した。
『何と!この見知らぬ世界で、ワタクシの手助けも無しに彷徨うおつもりですか⁉︎』
動揺し、オロオロと洋書が空中で右往左往とする。だが焔はその様子をただじっと見詰めるだけで、やはり名乗る気配は微塵も無かった。
「…… 見知らぬ、世界?」
(あぁ、そういえば…… オウガが、異世界がなんたらとか言っていたような…… )
状況が上手く掴めないままではあるが、自分が元の世界とは違う場所に放り出された事だけは把握出来た。あとは『帰って来い』という指示を実行するだけなのだろうが、手始めはコイツとの対話なのか?と思いながら、焔がガシガシと後頭部を無造作にかいた。
『そうです!此処は主人の見知らぬ世界。異世界とも言える、右も左もわからぬ土地で、貴方様の手助けをせよと、ワタクシは特別に、特別に!オウガノミコト様から直々に御用命を頂いた“名も無き本”にございます』
そう言って、“名も無き本”と名乗った洋書が胸を張るみたいな角度になった。
「同じ事を二度も言うな、二度も」
『大事な事でしたので、つい』
だけど今、主人もしていましたよね⁉︎——とツッコミを入れるのを我慢しつつ、“名も無き本”がもう一度『お名前をお教え頂けますか?主人』と懇願した。
「主人と呼んでいるままでいいんじゃないのか?」
『コレは先に進む為に必要な手続きでして、そういうワケには。此処は元の世界とは違って、何事も手順というものが大事な世界なのです』
「だが、名前の重要性は、お前がオウガの使いの者ならよく知っているだろう?名を告げる行為は、相手に自分の運命をも握らせる様なものだと」
『だからこそ、お教え頂きたいのです』
頑なに態度を変えない“名も無き本”に対し、焔が黙ったまま顔を向ける。
だが、彼の瞳はボロ切れの様な細長い布に幾重にも覆われており、表情が眉毛の角度や口元からしか読み取れない。そんな彼を前にして、“名も無き本”は先に進めぬ事に失意を感じ始めた。
「お前はアレだよな、付喪神」
『洋風な風貌をしたワタクシに向かい、此処の世界観をガン無視したご指摘、ありがとうございます』
「ただでさえ名前を教える行為にはリスクがあるのに、付喪神になんか、余計に名前を教えられる訳がないだろうが」
『大丈夫でございますよ、此処は主人の世界とは違うルールに基づいて創られら新たな世界。今のワタクシには残念ながら、本来付喪神が持ち合わせている力や縛りは持っておりません。ただ、今後の主人の適性や職業、基本スキルを定め、手助けをし、荷物の運搬などの補助をするだけの存在なのです』
「…… まるで人間の作ったゲームみたいだな」
ボソッとこぼした焔の一言に『まさにソレです!』と、“名も無き本”が喰いついた。
『企画者が優秀なのか、我らがオウガノミコト様が素晴らしい才能の持ち主なのか、此処はまさにゲームとかいうモノと類似した世界。いや…… ゲーム世界と言っても過言では無いでしょう』
「言っているお前自身が、ゲームをよくわかってない様な言い方だな」
『し、仕方ないではありませんか…… ワタクシは本来古参の付喪神。こうして単独でお仕事を任される事すらも珍しいというのに、そのうえ人間共の新しい遊戯に触れる機会など、そうそうあるものではございませんので』
シュンッとした様な雰囲気を纏い、“名も無き本”が項垂れる。ただ角度が変化しているだけなのに、随分と感情豊かな奴だなと焔は思った。
「……焔、だ。当然本名では無いが、オウガにはそう呼ばれているのだから、コレでいいだろう?」
『も、もちろんでございます!ありがとうございます!』
一転して明るい雰囲気を“名も無き本”が纏う。
『我が主人、“焔”の名を基にして貴方様の基本スキルや職業を決定させて頂きます』と言って、パッと洋書が自らの体をぱらりと開いた。
『あー…… 主人は元となる性質上、勇者の適性はゼロですね』
「だろうな。というか、そもそもなんなんだ、“勇者”って。侍じゃないのか」
焔の疑問はガン無視し、“名も無き本”が言葉を続ける。
『初期の段階で就ける職業は…… アサシンがありますが、適性はこちらもかなり低いですね』
「男は黙って正面から堂々と行け」
『…… (納得)』
「他には、白魔導士に黒魔道士…… か、洋風な響きの職業ばかりだな」
焔が立ち上がり、“名も無き本”の中を覗き込んで書かれている文字を読む。
他にもそれなりに選択肢はあるみたいではあるものの、しっくりくるものはあまり無かった。
『はい。この世界観は西洋文化をベースに創られていますので。なのでワタクシもこの通り、普段の姿とは一転して、洋書風の仕様となった次第です』
ふーん、と言って焔がサラッと話を流す。
「ゼロ適正の職業のものであろうが、コレを使えば就職出来るのか?」
振り分け前の能力値を指差し、焔が訊く。この数値を知能や力などといったそれぞれの能力に割り振りする事で、この世界での得意不得意や職業選択の幅を、ある程度は自分で変更する事が出来そうだった。
『はい、出来はしますね。でも勇者適性値だけが三桁のマイナススタートなので、コレだけは全部の数値を振っても、一生選択は出来なさそうです』
「そこまで英雄要素が無いとか、むしろ清々しいな」
『そうですね。ワタクシは好きですよ、そういうお方も。ところで、何か適性の低い職業でやってみたいものでもあるのですか?』
「どれもやりたくは無い」
『キッパリ言い切りましたね。でもそれだと此処から何処へも、移動すら出来ませんよ?』
「だろうな、そうだろうと思ったよ。どれだけ周囲に気を向けても、途中までで遮断されているからな。どうせ現状では行動範囲が決まっているんだろ、まさにゲーム世界の様に」
『その通りでございます。主人は案外適応力がお高いのですね』
微妙に褒めていないなと思いながら、書かれいる職業名に焔が再度目を通す。
その中で一番本来の自分とは縁遠く、だけど興味をそこそこには持てる職業をなんとか絞る事が出来た。
「勇者以外ならば、就けるんだよな?」
『はい。能力値を割り振れば、大概の職は問題無いです。白魔導士は…… ギリギリ、ホントギリギリですけど!』
「そんな職は向いてない事くらい自分が一番わかっているし、そもそもなる気もない。アレはほら、集団を癒す職業なのだろう?一人で行動する俺が、何を守るってんだ」
『ワタクシですとか』
「自分の身くらい、自分で守れ」
『正論、ありがとうございます』
「——召喚士は、どうだ?」
『かしこまりました。召喚士をご希望ですね?では初期の職業は召喚士として設定させて頂きます。尚、職業の変更は今後の能力値やスキルの育て方次第で分岐していきますが、このままこの職業を極めるという手立てもございますのでご参考まで』と言い、頭を下げるみたいに“名も無き本”が動いた。
「御託はいいから、さっさとしろ」
『はい、只今。——我が主人、名を“焔”。職業を“召喚士”と定める』
“名も無き本”がそう言葉にすると、次のページが開かれ、職業欄に“召喚士”の文字が勝手に書かれていく。すると、この職業に就くために必要な数値が自動的に能力欄に割り振りされていった。
『他に上げておきたい能力はございますか?』
「…… 運とか?」
『申し訳ありません。もう既に、主人の運は上限最大まで達しております』
「ならいいか」
『他にもまだ割り振りしていない未使用の数値が大量にありますが、これらは如何なさいますか?』
「何を上げるのがいいのかよくわからないからな。まずはこのまま進んで、後で考える」
『承知致しました。では主人は、レベル1の召喚士として、このチュートリアル世界より解放させて頂きますね』
元の世界では、鬼の身にありながら神社の主神・オウガノミコトの手助けをしていた焔は、この世界で新たに“召喚士”の称号を得た。これでやっと、元の世界へ帰るためのスタート地点に立つ事が出来た様だ。
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